190. お久しぶりに印刷室での密談です! 変態悪女と編集長の目論見は…… 如何に!?
さてかくして、恥辱を糧に文筆に励んでいるうちにいつの間にやら夏はやや遠のき、時は早や8月の14日となりました。
「来月の "セレナ" から、キエリーラ・エル・カエーラ先生の "魔王子アムルガルト" 掲載開始ですよ」
「まぁ、楽しみ! …… けれど本当に、わたくしの推薦文でいいのかしら? 王女殿下からいただいた方が確実に売れますのに」
我らが編集長ことジグムントさんに、首を傾げてみせる、私ことリジーちゃんことエリザベート・クローディス。またの名をルーナ・シー。
――― ただいま、久方ぶりのバルシュミーデ兄弟社の印刷室にて、ジグムントさんと今後の打ち合わせ中でございます。
(ちなみに愛しの旦那様ことシドさんは、これまた珍しく工場の方へ。後で待ち合わせ♡ なのですよ。うふふふふ……)
予定では、来月の "セレナ9月号" を以て、ルーナ・シーの "美しき鉱物学者と社長兄弟" はいったん休載、平行してキエルちゃんことカエーラ先生の "魔王子アムルガルト" 御披露目…… は、いいのですが。
キエルちゃん自身が王女殿下の推薦文を固辞しているのが、どうにも納得いかないのですよね。
もったいない。
「実際に面白いのですし、わたくしから王女殿下にお願いすればきっと、お気軽に引き受けてくださいますのに」
「まぁ、カエーラ先生ご本人が 『そんな畏れ多いことやめてくださぃぃ! プレッシャーが重すぎますぅ』 と泣いておられたのでねぇ」
「…… 売れるためならその程度、耐えればいいのよ」
「社長と同じご意見ですね」
「ふっ…… 社長もたまには、良いことをおっしゃるわね? ジグムントさんが甘いのでなくて?」
「まぁ、シー先生の推薦文でも十分プッシュできますし、それに……」
似合わない眼鏡をグッと中指で押し、口調を改めるジグムントさん。
「デビューではシー先生の推薦文で 『人気作家自らが発掘した実力派』 を読者に印象づけ、中盤で王女殿下を絡めて何らかの特集を組んで人気拡大を図り、さらに後半ですっかり知名度が上がったところで 『実は作者は文字を習ったばかりの女工でした』 と暴露し、奇跡の成功者として文学史に名を残す…… という戦略も考えてますからね。まさに、大衆文芸隆盛の旗手として祭り上げるのに相応しい子です」
「じ、ジグムントさん……?」
何やら壮大なプランが繰り広げられていますが…… いつもの癒し系キャラが壊れてますよ、編集長っ!?
「社長と入れ替わってませんよね?」
「え? まさか」
「だってっ…… 今、ちょっと怖かったもの、ジグムントさんたら」
「……まぁ、潜在的にそれだけのスペックを持っていると、こちらでは考えているという話です。どれだけ伸びるかは彼女次第ですが…… 考えると、ワクワクしませんか?」
「それは、わかりますわ……!」
――― 貴族や知識人でなくても、楽しい物語が紡げる。
――― 高尚でも美しくもなくとも、人を惹き付ける物語が次々と生まれる。
――― 奴隷が書いた物語に、王族が夢中になることだってあるかもしれない。
ジグムントさんが夢みてるのは、そういう世界なのでしょう。
「革命、ですわね?」
「その通りです!お膳立てするのは、我々ですよ、シー先生」
「ふふふふ……」
ジグムントさん、本当に楽しそう。似合わないウィンクに、リジーちゃんも思わず、笑みがこぼれてしまいます。
「では、普通のお色気作家のわたくしは、未来の天才作家をキッチリ鍛えることにしますわ?」
「その意気です! 頼りにしてますよ? …… ところで、これですが」
またしても似合わないウィンクを放った後、ジグムントさんは手にした原稿用紙の束をばさり、と振りました。
…… あら、これは。
昨日、ハンスさんに届けてもらったばかりなのに、もう、読まれたのでしょうか。
(だとすれば、さすが、ルーナ王国イチの働き者さんです!)
「紛れもなく、最高傑作ですよ! シー先生!」
「そうかしら?」
そう。
ジグムントさんが持っておられるのは、リジーちゃんが 『親に見られて恥ずかしい』 パワーを余すことなく注ぎ込むつもりで書いた、お色気短編集なのです。
読み切り短編を、1日1~2話、計15話の執筆。
――― 正直なところ、しんどかったのです……。
その上、シドさんにも 『夜更かしダメです!』 って怒られましたし。それでもコッソリ起きて蝋燭の灯でカキカキしてたら、ねちっこいお仕置きをくらっちゃいましたし……
(そしてそのお仕置きでアイデアが湧いてまた書くので、時間がいくらあっても足りない循環が……っ)
これだけの苦労をしたのですから、ジグムントさんには、もっと鼻息荒く褒め称えていただきたいところっ……!
「視姦ばかりに (わざと) 偏ってみたので、お触り等は控えめなのですけれど…… そんなにイイかしら?」
「もちろんです! むしろソコがいいですとも! シー先生の本領発揮、ですね!」
「そうでしょうともっ! おーっほっほっほっほっ!」
さすがジグムントさん!
ホメのツボをよく、心得ておられます。
おかげで気持ち良く、高笑いを繰り出せるというもの。
「おーっほっほっほっほっ! …… して、出版はいつ頃になるのかしら?」
「そうですね……」
と、ここで急に口ごもる、ジグムントさんです。
「あら、不足があって?」
「いえ、素晴らしいのですが…… もし良ければ、今の 『入れ替わり』 ネタも加えませんか?」
「……ええ!?」
びっくりして、思わず聞き返しちゃいますよ、もうっ。
「ジグムントさんともあろう方が、なんって、ベタなことを!?」
「いえ、ベタといえばベタですが、やはり読者の方には根強い人気ですし、本編に書けない小ネタはスピンオフ短編にもってこいですからね」
「と、いいますと…… "美しき鉱物学者" の?」
「ええ。少し長くなっても良いので、本編を読んでない読者でも分かる読み切りの形でお願いしますよ。それを短編集に組み込みましょう。
なんなら月刊誌の別冊で 『入れ替わり特集』 なんて組んでみても良いかもしれません」
「なるほど。本編・短編集共に相乗効果の売上アップを狙うのね」
「その通りです!」
どうやらジグムントさん、『出版物報奨金制度』 を導入してから、より売上に敏感になった模様です…… なかなか良い傾向ですねぇ……っ!
ふっ、とほくそ笑んでみせる、リジーちゃん。
ついでに、指先でちょん、と、逞しいお肩などつついてみましょうっ。
「ジグムントさん。お主も、悪よのう……」
「いえいえ、シー先生こそ……」
「おーっほっほっほっほっ!」
「ふーっふっふっふっふ……!」
――― キエリーラ・エル・カエーラ先生デビュー作の初回で魔王子にアッサリ倒される悪役たちの真似をして遊ぶ、お色気作家と編集長……。
いつの間にやら現れた、愛しの旦那様ことシドさんのブリザード視線に気付くのは、もう少し、後のことでございます。
読んでくださり、ありがとうございます!
なんだか異常に暖かかったこの頃ですが、本日は例年通りっぽい寒さに逆戻り。
これこれ! この寒さこそ通常よー うう寒い……
『温暖な空気よ、気持ち悪いなんていってごめんなさい!』 と謝ってももう遅い! 昨晩の嵐で飛んでいったので、当分戻ってこれません(笑)
さて、この度、雨音AKIRAさまよりレビューいたただきました! 雨音AKIRAさま、どうもありがとうございます。
雨音AKIRAさまのマイページはこちら!
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美麗イラスト満載です。ぜひ、覗いてみてくださいね!
ではー! お風邪などにお気をつけて、温かくお過ごしくださいませ。
感想・ブクマ・応援☆、いつもめちゃくちゃ感謝しております!




