186. 夏のカレーは幸せの匂い!?お料理をひたすら頑張る、変態悪女でございます!
「前世では、確か昆布ダシにトマトピューレ、砂糖少々、ルゥ2種類、仕上げには 『魔法の粉』 を入れたんだけど……」
「ほぼ呪文に近いですね、お嬢様」
「否定はしないわね」
お庭の中の小さなお家の小さなキッチンにて、大鍋を前に腕組みをする私ことエリザベート・クローディス。と、一体何が出来上がるのかと心配そうな旦那さまことシドさん。
ただいま7月は26日、こちらの世界では初めてのカレー作りに挑戦! なのですが……
「前世で覚えた材料も手順も、あまり役に立たないわ……っ」
昆布ダシ、ありません。
トマトは昨日、ダフネス港東口市場で新鮮なのをゲット…… ジンナ帝国から防腐魔法をたっぷり掛けて輸入されたものです。たぶん、皮を剥いて適当にカットしお鍋にドボン、でいけるはず。
砂糖は蜂蜜で代替します。前世でもそんなの使ってたカレールゥブランドがあったから、イケるはず。
…… あ、リンゴも入れよっと。
そして、最後の 『魔法の粉』 。これ実はルーナ王国にもあるのですよね…… ただし、前世のとは全く別物ですけど。
前世の 『魔法の粉』 が 『カレー用ミックススパイス』 のようなものであるとすれば、今世のは 『魔法の力で料理がほんのちょっと美味しくなります。ただし掛けすぎ注意』 的なもの…… うーん、ある意味 『ダシ』 と言えないこともないかもしれません。
「今度は概ね分かる言葉なのに、なぜか呪文にしか聞こえませんね。一体なにを作ってるんですか」
「ふふふ……っ 内緒」
「そもそもお嬢様が料理って」
「あら、両親の結婚記念日の時も作ったでしょ? これでも前世では、けっこう上手だったのよ」
頭の中で手順を組み立てなおし、よぉし、とうなずくリジーちゃん。
「先にシチューのルゥっぽいものを作って、味付けもたぶんシチューで大丈夫。で、野菜が煮込めたらスパイスとルゥを一緒に投入してさらに煮て、仕上げに 『魔法の粉ひとふり』。
これで 完・璧 ね……っ」
「そのままシチューで良いのでは」
「ふっ…… ま、見ててくださいませ!」
タマネギは半分はみじん切り。そしておねだり。
「シ・ド・さ・ん♡」
「はい」
スッと肩を抱き寄せられ、目前に迫る形の良い唇…… って、なぜ今なんでしょうね?
「いえ、キスは今けっこうですから、タマネギを炒めてくださいませんこと?」
「…… やだ」
「もうっ…… では、キスもお願いします……っ あ、軽くでいいの。腰が抜けちゃうとダメだから…… ゃんっ」
後でゆっくりね、と多少ジタバタしつつ魔の手を振り切って、フライパンにバターを落とし、みじん切りタマネギを入れて旦那様に炒めていただきます。
「飴色になるまでしっかりお願いしますね。ひゃんっ」
…… なぜに、ここで耳を攻撃してくるのかしらっ、シドさんったら!
それはともかく、この後に小麦粉とバターを追加して練り練りすると、『シチューのルゥ』 っぽいもの完成ですね!
ふわりと広がるバターの匂い…… 幸せぇぇぇ……!
そして、シドがルゥを作っている間に、タマネギの残りの半分を串切り、ジャガイモと人参を星形に切って、と。
「えい、えい、えいっ! もうお肉も一緒に、えいっ!」
こちらも炒めてから投入したいところですが、場所がないので、そのままバターと一緒に沸騰したトマト入り鍋にドボンドボンと入れて、煮込んでしまいましょう。
「お嬢様、ちょっとそれは……」
「大丈夫! 料理は火が通れば美味しくなるのよ」
前世の丁寧さはどこに行ったリジーちゃん! と自分でもツッコミ入れたくなる言動ですが……
「何ができるかわからない、ってワクワクするわね?」
「しません」
「しますって。あんっ、だめっ!」
…… だから、ここでお耳を攻撃しないでほしいのですよっ、シドさんったら!
それはさておき。
「さぁ、次はいよいよ……!」
スパイスを合わせますよ……っ
果たしてどうなるのか……
最高に、ドキドキワクワク、しちゃいますねぇっ♡
まずは。
「『クミン』 と 『ターメリック』 は多分、そこそこ多めで大丈夫。そして胡椒と唐辛子、これはほんの少しでOK」
おそらくルーナ王国の皆さんカレー初心者には、あまりに辛いものは受付けないでしょうからね。
「さて、ほかのスパイスよね、問題は…… 調子に乗って10種類も買っちゃったのに、配合がサッパリだわ!」
「俺にもさっぱりですが」
「大丈夫よ。シドさんには相談してませんもの」
「そうですか」
不機嫌そうなシドさんです。
ふっ…… 思い知ったわね。リジーちゃんはまだまだ、ミステリアスなのですよっ!
シドさんが知らない部分の1つや2つや4つ、あるのです……っ。
――― とか、言いたいところですが。
実際に目の前にあるのは、シドさんもリジーちゃんもよく知らないスパイスあれこれ。
辛うじてわかるのは前世でも馴染み深かった 『シナモン』 と 『ナツメグ』 ですが……
悩みまくった結果。
「全部、同じだけ少しずつ入れちゃいましょう!」
そうです。
前世の市販ルゥをもう一度思い出すならば確か、そのパッケージには 『スパイス30種類配合』 などと書かれており…… その心は。
「つまり適当でも、なんとかなるはずよ。ね? シドさん?」
「だから俺は分かりませんて」
とんでもなくカオスな料理を想像しているのでしょうか。声がほんの少し、引きつり気味ですねぇ……
さて、スパイスを合わせ終わったところで、鍋の中も良い感じに煮えております。
スパイスの調合などプロなら一瞬なのでしょうが、悩んだ分、時間がかかっちゃいましたね。
「ではそろそろ、そちらのルゥとスパイスを鍋に入れます。シドさん、スパイス味見しながら少しずつ」
「俺はむしろ入れたくないです……」
「むぅぅ。仕方ないわね、もうっ」
まだまだ引き気味のシドさんに代わり、焦げ付かないように鍋をかき混ぜながら、スパイスを半分ほど入れてみます。
おおおっ、匂いが……!
匂いが、カレーっぽいのです!
というか、いかにもカレーですよこれは! (大興奮)
リジーちゃん、どうやら成功しちゃいましたねっ (少なくとも匂いだけは)
「んー前世以来の、夏の匂いぃぃ♡」
「スゴい色になってますが、なんですかソレ」
「カレー…… 暑い日に食欲が出る薬膳です」
ほい、と、程よい頃合いで旦那さまのお口に味見用スプーンを差し込みます。
「………………。少し辛いけど、意外と美味いですね」
「でしょう? じゃあこれでOKね!」
仕上げに 『魔法の粉』 を振って、まぜまぜ。
さて、これにて。
ルーナ王国版・カレーの完成、なのです!
開け放した窓からは、明るい夏の空。
きっと今頃、お庭で待ってくれている両親やナターシャにファルカ、エデルベンノさんたちの鼻にもこのスパイシーな香りは届いている筈。
――― さぁ、カレーパーティー、始めますよーーーー!
読んでくださり、ありがとうございます。
さて、なにはともあれ年内更新…… 前話で宣言なんてするんじゃなかったと、後悔してももう遅い!
でもですね、この1週間でなんと、またしてもレビューをいただきまして!
こんな嬉しい出来事があったらば、宣言してなくても更新するしかありませんよね。
レビューをくださったのはマックロウXKさま!
どうもありがとうございます!!
★マックロウXKさまのマイページはこちら。
https://mypage.syosetu.com/1097250/
~・~・~
さて。
では、今年の更新はこれで最後です。
ずっと読んでくださってる方、この物語を見つけてくださった方に感謝です。
いつも感想くださっている方、素敵なレビューに素晴らしいFA、ブクマに応援☆くださった方、本当に本当に本当にありがとうございます。
全国的に大寒波で大変な年末ですが、温かくしてお風邪など召されませんよう。
そして来年が、穏やかな一年となりますようお祈り申し上げます。
でーーーはーーー!!!!
良いお年をーーーー!!!!




