181. 夫婦には、何度でもチャンスが訪れる!?王女殿下をひたすら励ます、変態悪女でございます!
「ごめんね、リジーちゃん……」
石造りの蒸し風呂にこだまする、王女ことリーゼロッテ様のお声。
「いいえ!」
キッパリと首を横に振るのは、私ことエリザベート・クローディス。
7月は16日のお昼前、急遽用意してもらった蒸し風呂で王女殿下と入浴中、でございます。
夏とはいえ、高原でお水ポタポタは結構、寒いですからね。
お風邪など召されては大変。
お風呂で、しっかり温まっていただきますとも!
(王女殿下のご希望で、リジーちゃんもご一緒しています)
「ヘルムフリート様と、幼き日を思い出して無邪気に川で水遊び…… これは実に良き兆候、でございますわ」
そう。
王女殿下は川にわざと落ちられた後、つい魔が差して、助けようとしてくれたヘルムフリート青年にお水を掛けちゃったそうなのです。
…… その後はお二人で、子供の頃のように無邪気に水を掛け合ってお楽しみになられたのだとか。
「神聖な大樹のウロで焚き火されなかったのは惜しいですけど……」
なにしろ、ご夫婦揃ってビチャビチャ…… もとい、水遊びを堪能された後なのですから、普通に考えれば……
焚き火で服を乾かしつつ、ダイレクトに素肌と素肌を寄せて温めるしか、ないはずではありませんか……っ。
「ごめんね。 『まずは戻りましょう』 ということに、なってしまったのよ」
「リーゼロッテ様が謝られること、ございませんわ。それにやはり、一歩前進、と存じますもの」
と、この時。
「失礼します」
扉の外から、ナターシャの声がしました。
「お嬢様。シドさんが、ご用があると」
「シドさんが? こんな時に何かしら?」
「さあ? ヘルムフリート様から伝えていただいたので、ちょっと……」
「シドさんったら……!」
侯爵かつ王女殿下のご夫君を使いっ走りにするとは。……なんて、恐ろしい人!
「ヘルムフリート様がおっしゃるには、お嬢様の代わりに王女殿下と蒸し風呂にお入りください、と言われたとか……」
「…………!」 シドさんったら、なんてことを……!
「ど、ど、どうしようリジーちゃん!」
「落ち着いてくださいませ!」
突然のことに少女のごとくマゴマゴされている、王女殿下を励まします。
「手袋着用とはいえ、既に寝所を共にされている仲でしょう? お風呂など、どうってことないのですわ」
…… 落ち着いて考えてみれば、シドさんグッジョブ、と言えないこともないアドバイスです。
何しろ、童心に帰ってキャッキャウフフと水遊びをされた直後の、おふたりですから…… 心を解放して裸の付き合いをなさるなら、今! に違いありませんねっ。
「ほら、リーゼロッテ様。湯気もこんなにモヤモヤしてますから、裸でもほとんど見えませんし……
川遊びの続きだと、お考えになって」
「そ、そうね。そうよね」
実は、モヤモヤしてる方が色気はより増し増し…… とリジーちゃんは思っているのですけどね。申しませんとも、ええ。
「後で蜜雪も運ばせますね」
冷たく甘い雪を、指ですくってアレコレ…… とか、口移しで云々…… なども、言うとより緊張されてしまいそうなので、黙っておきましょうか。
「安心して、堂々とお楽しみくださいませ!」
ニッコリ保証してみる、リジーちゃんなのでした。
◆♡◆♡◆♡
さて、かくして。
「うまく行ってるかしら、王女殿下とヘルムフリート様」
「さあ? 覗きに行かないでくださいね」
お庭に出してもらったテーブルに、ふんわりテーブルクロスを掛けつつ、旦那様ことシドさんとおしゃべりする、リジーちゃん。
テーブルクロスが風で飛ばないよう、上に野の花を活けた花瓶を置いていきます。
白に紫に黄色。小さめな花は、いかにも高原らしいですね!
本日のお昼は、王室の護衛騎士の皆さんや使用人も混じっての、気軽なガーデンパーティーなのです。
『お偉い方とのパーティーなんて、ちっとも気軽じゃありません! …… と申し上げたいところですが、王女殿下ですしねえ』 などと、ナターシャやファルカ、別荘の母さん も楽しみにしてくれているようで…… 計画して本当に良かった!
のですが、それはさておき。
「でも、気になるぅ……」
王女殿下とヘルムフリート青年。
まさか、この期に及んで何も起こらないはずはない、とは思うのですが…… ヘルムフリート青年の鉄壁要塞ぶりもまた、保証付きですから、ねぇ。
「せめて、外から声だけでも……っ!」
「ダメです。それに、結果はすぐに分かりますよ。
上手く行ったのなら、こちらには来られないでしょうから」
「あら、じゃあ、お二人の分のランチセットを別に作ってもらわなくちゃ」
「もう、ナターシャとファルカには、言っておきましたよ」
「さすが、シドさん」
有能です。
「けど、王女殿下が別となると、使用人の皆さん、ガッカリしちゃうかしら」
「また、機会がありますよ。あと3日もあるんですから。今日は、使用人と騎士の皆さんだけでくつろいでもらえばいいでしょう」
「…… だけ?」
なんとなく引っ掛かりますねぇ…… と、聞き返せば。
「俺たちの分も、別にしてもらうように、お願いしました」
リジーちゃんの背後にぴっとり貼りつき、「最近、ふたりきりで食事とかしてませんでしたよね? 俺はそろそろ限界です」 などと囁いてこられるシドさん…… ふむう。甘え甘えモードですね。
「………… 鬱陶しい………… 」
「え」
「う・そ♡」
振り返り、軽くキスして差し上げます。
「シドさん、大好き」
「…………」
きゅっと抱きしめられて、そのまま目を閉じます。
落ち着く、シドさんの匂い。当たり前のように毎日ベタベタイチャイチャしてますが、何も言われなくても、大切にしてもらってるのがわかる瞬間は、何度重ねても、幸せで幸せで……
――― ナターシャの言うとおり、本当に将来、こういうのを鬱陶しいとか思う日が、来るのでしょうか。
それは悲しいことなのか、それとも、また別な幸せの形なのか…… 考えてみても、さっぱり分かりません。
ともかくも、それはまだ、今日じゃなくて…… だから。
それまでは、精一杯、大切にすることにしましょう。
「部屋に行きますか?」
「それもいいけど…… 森の奥に、焚き火セットが、まだ残ってるのよね?」
「では、そちらで」
――― 結局、その日のお昼は、森の奥で焚き火をしつつ、ふたりきりでアレコレと、になり。
そして、王女殿下ご夫妻の昼食は、ずいぶんと遅い時間に下がったのでした。
読んで下さり、ありがとうございます!
リジーちゃんは忘れてますが、妊娠初期あたりには、シドさんのこと 「鬱陶しい」 とか散々言ってましたよね…… すっかり仲直りできて良かったです。ははは。(笑って誤魔化すスタイルw)
いや実は、夫婦喧嘩は犬も喰わない、ってコレだよなー…… って、めっちゃ思ってます。つまりは治まる時には治まるから放っとけ、ってことなのに…… あんなに話数割いちゃって(爆) 直しませんが反省はしてます!今後気をつけます!
ではー、感想・ブクマ・応援☆、いつもとっても感謝しております!m(_ _)m
暑いと思ったら一転して寒い、変な気候ですね。お風邪など召されませんようにご自愛くださいませ。




