18.社交界デビューとかけて覗きと解きます。さぁ美青年下僕を悪と変態の世界に引き込みましょう!
かくして社交界なるものの取材、もといデビューが決まった、花も羞じらう16歳の私こと悪女と変態しばし返上中のエリザベート・クローディス伯爵令嬢。
10歳の時からしばしばお貴族様方の食卓からケーキをくすねて浅ましい庶民共に無料配布してきた甲斐がありましたね!
いえ残り物とはいえ泥棒ですから、どっちかというと身バレした後はアルクス監獄行き(そこで高笑いをしつつ書字魔法でお貴族様方を残り物ケーキ塗れにする予定)かと思っていたのですが。
なぜだか逆に褒められて、褒賞授与式とオマケの晩餐会に呼ばれることになったのです。
予定は未定とはまさにこのこと。
悪女としてはお尻のあたりがムズムズ落ち着きませんっ……!
でもこれも、妄想の被視姦ヒロイン・ポリー嬢のため。
悪い意味で身悶えしそうな流れも、ひたすらガマン、なのですよ!
拙著 "令嬢ポリーの華麗なる遍歴" が気になる方はぜひ、庶民のための文芸誌 ″月刊ムーサ″(第6号近日発売予定)をお買い求め下さいませね?
ふう、宣伝終了。
社交界デビューとかけて仕立屋が儲かる、と解く。
その心は『クチュールのドレス半ば必須』です。
もともと私を社交界に出す気など無かった両親も、いったんデビューが決まればそれなりに張り切っておられますね!
なんと。
有名ドレス店 ″イリセトウェヌス″ に依頼までしてくださるのだそう。
でもですね。
……その依頼、本当にいるの?……と、少しばかり疑問です。
授与式用のデイドレスと、晩餐会用のイブニングドレスの2着が必要な上に、たぶんその1回しか着ない……貸衣装で充分じゃ?
いやむしろ後で普段着にできるよう既製服にしといた方が、などと心の底から思ってしまう、前世が庶民のリジーちゃん。
なんたって、人間は脱いだ後が勝負ですしね!
ならばここは、可愛らしく遠慮してみせましょう!
自己主張をしつつ、両親の心を蕩かすチャンス。
無駄にはしませんことよっ!
「ねえお父様、わたくし、そのように贅沢なドレスでなくても。街にお父様と選びに行った方が楽しう存じますわ」
「リジーは相変わらず可愛いことを言ってくれるね」 デレデレと返事する父、ついに40歳。
去年よりわずかに苦みが強くなってきた美貌も、親バカで崩れておりますねぇっ!
「でもね、せっかく一生に1度のデビューなんだから、最高に似合うドレスにしよう、とお母様とも話し合ったんだよ。そうだねアメリア?」
「ええ」 母も色気がミックスされた天使様の容貌を、その微笑みで更に輝かせつつ、うなずきます。
「そうすれば、きっとリジーちゃんが1番きれいよ」
いやいや、と言いかけて、ピタッと止まるリジーちゃん。
だって、それすなわち。
視姦される確率3割増、ってことですよね!?
まぁ……『1番きれい』なる発言は割引いておくとしても。
確かに努力は重要かもしれませんっ!
「わかったわ」
コクンと頭を縦に振れば、母は良かったわ、とまたニッコリ。
眼福を超越して魂まで溶けそうですね!
でも辛うじて黒い心は保持します……ああ危なかった。
「だって今日の午後には採寸に来るんですもの。今更、断れないでしょう?」
「そうね、お母様」
その時にまた、ピコーン!とひらめいちゃったリジーちゃん。
さ・い・す・ん、ですよ?
下着姿で上から下まできっちり測られる……だけでなく、視姦だってされるはずっ! ……これは!
次回作の予定を変更しなければ!
そう、ポリー嬢は舞踏会でイケメンのエロ目線に晒される前に!
まずは、仕立屋から、商売装いつつ欲望に満ちた視線を存分に受けるのですっ……
「それ無理がないですか」
あっさりと現実を突き付けるのはお友達兼下僕の美青年シドさん。
現在、自室でお茶をしつつの構想相談中、でございます。
「女性の採寸は女性スタッフがするでしょう。女性どうし、というと性癖としては少数派で書くのにも問題が」
「そこを何とか。人手不足で男性スタッフしかいなかったとか」
「街中の有名店でそんなこと絶対にしませんよ」
「では場末の三流店では」
「それナイナイ。仮にも令嬢の社交界デビューで」
くぅっ確かに。さすがシドさん、鋭い指摘です!
でも負けませんっ。
なぜならリジーちゃん、またまたひらめいちゃいましたからねっ!?
「では採寸中の令嬢を欲望に負けて覗き見する従者で決まりね。ね、シド?」
「聞こえてません」
「じゃあ覗き見よろしく☆ 後でレポートにまとめて提出して下さいませね」
「あっ急に腹が……」
シードーさーんー?
わざとらしく腹を押さえて呻くシドをジト目で見遣り、机の鍵をあけて書字魔法用の家紋入り特殊紙を取り出します。
『クローディス家を守護する神と精霊よ、クローディスに血と名誉を連ねる我、エリザベートが願い申し上げる
5月は23日の
我が家にて行われるエリザベートのサイズ計測の儀式において、従者なるシド、かつての名をアーロンと申す者の心に邪念の起こらんことを。
彼の者は儀式を目にしたき欲望に打ち負かされ、密かにその場を覗くものなり。
我より出でたる紅玉の流れを以て、我が願いの疾く聞き入れられんことを』
血を混ぜたインクでさらさらーっと書き、読み上げようとしたところで。
「やめてください」
ああっ取り上げられてしまいました。そのままビリビリビリっと細かく破くシド。
「ああっ貴重な特殊紙がぁっ! せっかく廚2文章にめげず書いたのにっ!」
「なんですかその廚2とかいうのは」
確かに韻文としての出来はイマイチですが、と厳しいコメント。
「大体、覗きなんてしてるところがバレたら、ナターシャがきゃあきゃあ言って喜び、奥様が困ってお顔を曇らせ、旦那様は激烈に真剣に 『気持ちは分かるがそんなことをするのは良くないよ』 とかコンコンと諭そうとされるでしょうが」
「あらシド。あなたの主人は誰でしたかしら?」
問いつつ新しく書いた特殊紙を手渡します。
さきほどの詩をちょちょっと修正し、離れた場所からでも採寸シーンが頭に浮かぶように工夫してみました。
韻文でモノを言うのは才能だけじゃないんですよ、えっへん!
「さぁ、これを朗読するだけであなたは! どこにいても背徳感がより目に見えるものの美しさに磨きをかける覗きの世界へ!」
黙って再びビリビリっと破こうとするシドの手をすかさず押さえます。
「破いたらもう一生、一緒にお風呂入ってあげないからね!」
「もう既に7年入ってませんが」
ちっ。さすがに5歳の頃の技は通用しないか。
――― そういえば、シドが一緒に入ってくれなくなった時はショックだったなぁ……
ナターシャによると原因は、リジーちゃんが 「シド、ヘンなのついてる!きれいしようね!」 と新しい毛を思いっきり引っ張ったことらしいのですが。―――
覚えてないや、てへっ(ごまかし笑)
「とにかく、次回作はあなたの覗きレポートにかかっていると言っても過言ではないわ!」
「じゃあもう次回作はボロボロですね」
あくまでやる気が無いと言い張る気ですね! シドのくせに!
よし、ここはお目々キラキラ攻撃です。
「シド、お願い!」
「イヤです」
ぷいっと横を向きながらも困ったような顔をするシド。
よし、今度は引いてみましょう! 悪女的駆け引きですねっ。
「じゃあ仕方が無いわね」
溜め息まじりに、シドの手から特殊紙を回収します。
「ハンスさんに頼むことにするわ」
ハンスさんは我が家の使用人。
力仕事なら何でもこなしてくれる貴重な戦力なのですよ。
「…………!」
シドがぴくり、と動きました。
お? もしや、効果あり?
もうひと引き、ですねっ!
「無口なところが覗きにピッタリよね」
「……俺がやりますよ」
「え? よく聞こえなかったわ?」
「俺に! ぜひ俺にさせて下さい!」
ヤケのように私の手から特殊紙をひったくるシド。
ふっ、ザマヲミナサイマセ!
このわたくしに楯突こうとしても無駄なのよ。
「そう? やはりシドは頼りになるわね。ではよろしく」
にこやかにヨイショ&念押しをした時、ナターシャがやってきてドレス店スタッフの来訪を告げたのでした。
読んでいただきありがとうございます(^^)




