174. 甘々なハネムーンよりも大切な王女殿下の優先事項!?レベル高い悪女はおさすが、なのです!?
さて、かくして7月は15日の夕刻。
王女殿下ことリーゼロッテ様とラグの上でゴロゴロ転がり、ダラダラ…… もとい、アレコレとお喋りしておりました私ことエリザベートクローディス。
「殿下、お嬢様。そろそろ、お茶でもいかがでしょう?」 というベテラン侍女ことナターシャの声に気づいてみれば、いつの間にか、別荘に差す陽の光はもう、赤く染まっておりますねぇ……
「すっかり夢中になっちゃった。確かに有意義ね」
「お役に立ててようございましたわ」
うふふふー、と顔を見合わせて笑う王女殿下とリジーちゃんです。
「言われてみれば、喉渇いたわね」
「さようでございますわね…… ナターシャお願い」
「では」
ナターシャがパチン、と指を鳴らせば、あっという間に運び込まれたのは、大きなテーブル。
レースのテーブルクロスの上に、色とりどりのお菓子が載せられています。 …… 張り切りましたね、ナターシャさん。
「まぁ素敵」
「恐れ入ります」
曇りなく磨かれた銀のティーセットにテキパキとお茶を淹れ、恭しくお辞儀する姿勢も、ばっちりと美しいのです。
「お風呂の準備もじき整いますので、お入りになりたければ、いつでも仰せつけくださいませ」
「ヘルムフリート様とシドさんは?」
「おふたりでしたら、森の方に下見に行かれてますわ、きゃっ♡」
ふと思い出して尋ねると、やっと、いつものナターシャらしい雰囲気になりかけ…… 慌てて 「しばらくしたら戻られるかと」 と真面目な表情を取り繕っています。
「普段通りでいいのよ、ナターシャさん。わたくしたちの仲じゃない」
「…… かしこまりました、殿下」
「記録にはきちんと 『最高のマナーで下にも置かないもてなしを受けた』 としておくわ。だから、ね?」
「普段通りでいいんですって」
「では……」
すうっ、と深呼吸し、「きゃぁぁぁぁっ♡」 と黄色い声を上げ直す、ナターシャなのでした。
「殿方ふたりで、神聖な古代樹の下見ですのよ、妄想が捗りますわぁっ」
「確かに、シドとヘルムフリートは美味しいかもしれないわね」
「えっ…… リーゼロッテ様、それでよろしいのでしょうか?」
王女殿下のこなれ具合に、思わず聞き返します。
だって、今でこそ旦那様と編集長兄弟モデルにあれやこれやなお話を書いたりしてますが…… リジーちゃんの新婚時代を思い出せば、そういうのはちょっとイヤだったような、ですからね!
ところが。
「何言ってるの」
平然と断言される、リーゼロッテ様です。
「 "美しき鉱物学者と社長兄弟" にヘルムフリートが出ると思うと…… もうっ! これ以上なく! 楽しみで仕方ないわっ!」
「ええ……!?」
出すんですか、あの、男同士の妖しいアレコレしか書いてないお話にヘルムフリート青年を?
「産休に入ったとはいえ、作家たるもの常にアンテナは立てておくべき、なのでしょう? ねえ?」
「それは、そうではございますけれども」
「ね、彼の出演に関しては、あることないこと全て、わたくしが許可するわ! この滞在中は、なるべく、夫は夫同士で行動させましょう?」
「甘々新婚生活は……?」
「それもある程度はしますから、大丈夫よ。それより、取材を優先させてね。産休明け、楽しみにしてるから」
「きゃぁぁぁあっ♡ 友情♡ ですねぇっ♡」
ナターシャがまたしても黄色い声を上げ、こうして、王女殿下ご夫君の "鉱物学者" 出演が、なし崩しに内定したのでした。
☆★☆★☆
「はぁぁぁん…… やっぱり、蒸し風呂っていいわねぇ」
「甘々新婚生活は……」
「ヘルムフリートとは、また明日にでも入るわよ」
薔薇とジャスミンの香りの湯気に満ちた室内に、王女殿下と私ことリジーちゃんの声が、ぼわん、と反響します。
シドさんとヘルムフリート青年のナニナニだとか、 "美しき鉱物学者と社長兄弟" のドレソレなどの話題で盛り上がった、夕刻のお茶会の後。
旦那様方がちょうど帰ってこられたので、王女殿下に 『蒸し風呂での新婚さんなひととき』 をお勧めしたところ、「今日はリジーちゃんと入るっ」 とのお言葉をいただき、妻同士の健全な入浴と相成ったわけですが……
「もしかして、ヘルムフリート様に、何か怒っていらっしゃいます?」
「まっさかぁ! 今はリジーちゃんとお風呂入る方が大事なだけよ」
ヘルムフリートとお風呂なんて、いつでもできるもの、と笑うリーゼロッテ様。
湯浴み着を着ておられないので、大変にご立派なお胸が微かに揺れて、桃色の先端から汗がポトポトと落ちるのを、モワモワする湯気の中で視姦…… もとい、拝見し放題なのですが。
どうしても、なんだかヘルムフリート青年に申し訳ない気にぃぃぃっ!
「それに、考えてみて? 今、別室ではシドとヘルムフリートが、一緒に全裸で汗水垂らしてるのよ?」
「はぁう……っ!」
確かに、それは、衝撃です……っ!
「ドキドキしちゃいますね!」
「でしょ?」
嬉しそうに、ガシッとリジーちゃんに抱きつくリーゼロッテ様です。
「しっかりネタにしてちょうだいね! わたくしたちのことは気にしなくていいから! わたくしたちは、これが普通ですからね」
「そうなのですか?」
「ええ。5日間もあるんですもの。『甘々新婚生活』 だけじゃ、もったいないわ。
リジーちゃんと一緒にゆっくり過ごすのだって、予定のうちなんですからね!」
うーん…… なるほど?
リジーちゃんとシドさんは、なんだかんだでベタベタくっつくのが普通になっちゃってますが……
リーゼロッテ様とヘルムフリート青年の間にも、また、いい意味での程好い距離感、というのがある…… のでしょうかねえ?
若干気にかかるところですが、それはさておき。
リーゼロッテ様が、リジーちゃんのことをそこまで考えて下さっていたなんて、感動、なのです……っ!
「リーゼロッテ様……! 本当に、光栄ですわ」
「そうよ。だから、"鉱物学者と社長兄弟" は絶対復帰してね。待ってるから」
「ええ、もちろんですとも」
「ヘルムフリートも絶対に出してね!」
「当て馬的位置付けでなら、確約いたしましてよ」
「うん、よろしくっ!」
甘い香りの蒸気の中、固く握手しあう、王女殿下とリジーちゃんなのでした。
読んで下さり、有り難うございます!
2週間ぶりになりましたが、おかげさまでボチボチ復帰ー! 子供の運動会とか親子遠足とかに間に合って良かった……
朝晩寒くて調整難しい時期、皆さまもご自愛くださいー!
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