172. 準備は万端!?王女殿下をお迎えする変態悪女!甘々新婚生活のスタート、なのです♡
さて、慌ただしく王女殿下ご夫妻のお迎え準備をしている間にも日は過ぎ、時は7月の15日。
「急がなきゃ!」
王女殿下ご夫妻、間も無くご到着、との先触れに、急いで別荘の前まで駆けて行こうとする、私ことエリザベート・クローディス……
の、首根っこを引っ掴まえた挙げ句に、姫抱っこで強制回収してタメイキを吐く、旦那さまことシドさん。
「走るのは禁止。何度も言わせないでください」
「だって、リーゼロッテ様が!」
「走らなくても、じゅうぶん間に合うでしょう。それにこれから5日間も滞在されるのに」
「1分1秒でも惜しいから、シドさんが走ってくださる?」
「……かしこまりました」
と言いつつ、憎たらしいほどゆっくりと歩いて別荘の門へと向かってくださいます。
「もう! 急いでくださいな?」
「かしこまりました」
口ではそう答えるくせに、歩調が、さらにゆっくりになっています。
…… シドさんったらもう、リジーちゃん以上の悪女なんだから、もうっ。
門に着く頃に、ちょうど馬車がやってきました。
「あら、リジーちゃん! ちょっと見ない間に、また大きくなったのではなくて?」
ようこそ、と御挨拶する暇もなく、馬車から降りた王女殿下から早速お声がかかります。
「ふふ。これから、どんどん大きくなっていくそうですわ」
「そうよねー。もう10月には、生まれるんですものね」
ちょっと撫でさせて、と言われ、光栄です、と返せば、リーゼロッテ様の手の温もりが用心深くお腹に近づきます。
「はーい、伯母チャンでちゅよ。元気に出てきてくだちゃいねー、待ってまちゅよ」
「どなたがいつ、お嬢様の姉上になられたんですか」
まさかのカタコトでお腹の中の赤ちゃんを激励してくださるのにシドがぼそぼそとツッコミを入れ、 「そんなのシドを美少年ハーレムに加え損ねてからに決まってるじゃない!」 と、王女殿下が恐れ多くもお答えくださったりしているうちに。
「お待たせ致しました」
馬に乗った、王女殿下のご夫君こと元美少年ハーレム構成員ことヘルムフリート青年が現れました。
ヒラリと、前世のマンガのように馬の背から降り、改めてリジーちゃんの手を取って御挨拶。
ジロリとシドさんに睨まれても、なお継続する涼やかさ、ソツの無さはおさすが、なのです……!
「まさか護衛隊の後ろの方に、いらっしゃいましたの?」
「もちろんです。王女殿下をお守りするのは私の務めですから」
「まぁ。素晴らしくていらっしゃいますこと」
ええ。もちろん内心では 「ええええっ!」 と叫んでおりますけれどもね。
――― 真面目にも程がありますよ、ヘルムフリート青年!
てっきり、王女殿下と一緒に馬車でイチャイチャされた挙げ句の非常な脱力感に襲われて、中でヘタっておられるとばかり、思っておりましたのに……!
「帰りは協力してね?」
コソコソと耳打ちをされるリーゼロッテ様に、「もちろんでございますわ」 と耳打ちを返して、早速、本館へとご案内いたします。
まずは、ラトス国の王太子夫妻を迎えた時と同じフォルトゥナ祭の飾りつけを施した前庭へ。
もともと冷涼な気候のルーナ王国の中でもさらに涼しい高原で、短い夏を迎えているお庭は、今まさに花盛りです。
「あら、かわいい」
季節に合わない雪の結晶や赤い実、虹の翼を持つ幸運の女神のオーナメントが緑の梢を彩るのを、目を輝かせてご覧になるリーゼロッテ様。
「幸運の女神様が百合の間に立っているだなんて、不思議な感じね」
「街で見掛けたら 『待ちきれずに出しちゃったのかしら』 と思いそうですわね」
クスクス笑い、お喋りも弾みながらゆっくり散策する道は、旦那さまとふたりの時とはまた違った楽しさがありますねぇっ……。
さて、ようやっとエントランスに到着です。
シドさんが自らドアを開けてくださいますと、そこには。
「「「「ようこそ、いらっしゃいませ」」」」
両脇から一斉に下げられた、頭・頭・頭……
別荘番のご夫婦 (通称 『母さん』 と 『父さん』 ) 、ナターシャとファルカ、それにハンスさんとゲルハルトさん、です。
王女殿下の公式視察ということで、実家から、信用のおける人が多めに派遣されているのですよね。
おかげで、この別荘にしては珍しい賑やかさになっております。
「あらっ、お久しぶりですこと、皆様! …… 本宅の方にお泊まりさせていただいてから、かれこれ2年ぶりかしら?」
と、とっても気さくな、王女殿下。
いつもリジーちゃんにはお世話になってますのよ、ファルカさんのお菓子また楽しみにしてますわ、あら相変わらず素敵な筋肉ですこと、滞在中に1度は馭者をしていただきたいものですわ……
驚異の記憶力と社交性で、侍女と使用人の皆様のハートを早速、ガッチリ掴んでおられます。
さすがは、悪女の中の悪女。
実に痺れる振る舞いでいらっしゃいますねぇ……っ!
さて、そして。
本番は、いよいよこれから……!
「ラトス国の方をお迎えした時は、客室にご案内の後、殿方どうし、婦人どうしでお茶会になりましたのですわ。
同じ流れでよろしいでしょうか?」
確認するリジーちゃんに、リーゼロッテ様が微笑まれます。
「あら、新妻だけのお茶会? 楽しそうね?」
「ええ。実に有意義でございましたわ」
「では、そうしましょう!」
王女殿下の宣言に、シドさんのお顔が一瞬、物凄く嫌そうに歪んだのですが……
リジーちゃん、知ぃらない、っと。
読んでくださり、ありがとうございます!
今回は、ふっと気づくと民衆反乱と小麦価格の安定に関する、全く変態悪女っぽくないマジメな会話を王女殿下とリジーちゃんが1500文字くらい続けてて…… 削除しました(爆)
のでここでサラッと書くならば。
ルーナ王国では数年前から余剰小麦の買取り備蓄制度を始めて小麦価格の安定を図り、革命回避しております。
ついでに、イケオジなクローディス伯爵ことユリアンさんに憧れた貴族令嬢たちが 『あんなパパがいい!』 と言い出した結果、食生活の見直しとダイエットと余剰ケーキ配布とハーブ石鹸の使用が進み……
つまりは、革命は多分ラストまでありません、って話でした(笑)
ではーー! 季節の変わり目、体調崩されませんようお気をつけて。
感想・ブクマ・評価☆大変感謝でございます!!
m(_ _)mぺこぺこ




