17.泥棒をしているのに褒められそうで困ります!でも妄想のためには悪女も変態もしばし返上いたします。
「褒賞?わたくしが?」
母の言葉に、驚いて目を見張る私ことエリザベート・クローディス、16歳になったばかり。
先程ナターシャに呼ばれてシドと居間に来てみれば、母がいきなり言い出したのが、ルーナ王国毎年恒例『夏の褒賞&晩餐会』の話だったのです。
そういえば前世日本も同様の風習(年2回の褒章でしたかしら)がありましたっけ。
あっちの世界の祖父母も揃って、何やら貰っていましたね。
わざわざ旅費と時間使ってメダルと賞状貰いに行くって意味わかんない、とか思っていた記憶が、たった今フラッシュバックしてきちゃいましたよ!
まぁ……好きな人は好きなんでしょうねきっと。
それはさておき。
転生前も後も、謗られこそすれ褒められるようなことは一切していない自信なら、あります。
何しろ悪女ですからね!
母も困惑気味です。
相変わらずの美しさに、大人の色気がミックスされた天使様の容貌を曇らせて……はぁう。眼福。
「それがね、王女殿下から是非にとご推薦があったのですって」
ルーナ王国王女といえば確か御年24歳、輝くようなストロベリーブロンドと湖の青の瞳の正統派美人様です。
が、噂ではけっこうな強者。
婚約者だった隣国の王子に側室と子供ができて怒り心頭に発し、婚約破棄か側室の追放かを迫って婚約破棄を選ばせたのです!
この世界では結婚前に側室や子がいるのは割かしスタンダードなのに、やりますね!
その後、ジンナ帝国の皇室に迎えられる話もあったそうですが。
「やなこった」 と一蹴なさった、とか、「この娘送る方が国際関係悪くしそう」 と国王夫妻が危惧されて白紙になったとか……
世間ではまことしやかに囁かれておりますよ。
くぅぅ!痺れる悪女っぷり!
はっっっ、もしや……!
この度のご推薦は『悪女は悪女を知る』ということでしょうか。
いやぁぁん。リジーちゃんたら♡
しかし、と母の手前、可愛らしさを意識して小首をかしげます。
「わたくし、やはり思い当たりがございませんわ」
「リジーちゃんはほら、ずっと残り物のケーキを配ってきたでしょう? あれが民のために良いことをしている、となったそうなのだけれど」 タメイキまじりに母。
「ええええ!?」 リジーちゃんもびっくりです。
「あれはどちらかというと、泥棒ですよ!?」
「よねぇ。お母様も、そう思うわ。でもね、お父様がおっしゃるところによると、貴族の方々からも感謝されていたそうよ」
いやいやいや。
それって、ルーナ王国貴族の皆さんどれだけ寛大なんでしょうか。
「ほら、ケーキって見映えは良いから沢山揃えるけれど、食べる方はそんなに捗らなくて大量に余るでしょう? 使用人で分けきれない分を処分してもらって助かっている、ということらしいの」
使用人で分けて処分しきれないって、どんだけルーナ王国貴族の食卓にはケーキが溢れてるんでしょうかっ……?
自分で配っときながら言うのも何ですけど、謎ですね!
ちなみに、我がクローディス家の食卓は極めて普通ですよ!
伯爵家だけど末端も末端、しかも父がせっせと工場経営して何とか維持してる適当な金持ちですからね。
日頃は、旬のお安い食材を食べきれる分だけ、でございます。
シドが淹れてくれたカモミールとミントのお茶を1口飲んで、ほうっと吐息を漏らす母。
憂いに満ちたお顔もまた眼福ですね!
「どうしようかしら、リジーちゃん? ウチは社交界とはさほど縁が無いけれど……あなたが行きたいのなら受けても」
悩みつつも 「断るわよ」 と言わずに相談してくれる母、真の天使様ですね!
でも……そうですねぇ。
確かに、政治家や大企業家ならコネは財産、社交は大事なお仕事。
しかしソコソコで大満足している我が家では、父がちょくちょく経営者同士の集まりに顔を出す程度なのです。
どちらかといえばパーティーの類いはリジーちゃんも苦手だし、ここは母の希望を通しましょう。
「そうですね、お母様」
ところが!
ここで急に、ピカーン! と閃いちゃったのです!
(そんなものに出席する暇があるのなら、妄想を育んだ方が余程、有意義だわ) とは、確かに思うのですが。でも。
我が妄想のヒロイン、ポリーちゃんならば、きっと!
夕日の色の瞳をキラキラさせながら 「あたくし行きます!」 などと言い出すに違いないのです!
令嬢なのですから(ウチのような末端でなければ)社交界デビューは当たり前。
そうです!
次回 "ポリー嬢" の変態イケメンとの出会いシチュは、パーティーで間違いなし、なのですよ!
ポリーちゃん、待っていてっ!
そのうち、魅惑のドレス姿のあなたを上から下まで舐め回すように視姦して差し上げてよっ!
おーっほっほっほ(高笑)
シドが母に聞こえないように 「妄想に高笑いするようになったらお終いですね」 とか呟いています。
私の微妙な表情の変化を見抜くとは、さすがシドさん。
成長しても長年のお友達兼下僕ですね!
それはさておき、そうと決まれば。
早速、取材なのですよっ!
褒賞のオマケ的な晩餐会なら、割かし気軽に参加できそうですしね!
来るのはお貴族様ばかりではないはずですから。
にっこりと、なるべく天使に見えるよう、母に微笑みかけるリジーちゃん。
「褒賞がいただけたらもはや公認になりますわね? 晩餐会も行ってみたいですわ!」
母の美しい憂い顔にまたほんの少し、湿り気が加わりました……うーん素敵です。
「わかったわ。お父様にもお話して、お受けすることにしましょう。ドレスも新しく作りましょうね」
「ありがとう、お母様! 嬉しいわ! 大好き!」
正直言って、興味が湧くのはドレス剥いだ後の中身の方なのですが、ここはポリーちゃんのためにも頑張りましょう!
満面の笑みで礼を言えば、母からも優しい笑みが返ってきます。
「社交界デビューとなったらもうあなたも大人ね」
「はい、お母様!」
「だからね、脚をバルコニーの手摺に上げるのは、もう慎みなさいませね。立派な淑女として」
「ええっ……!」 一気に悲痛なモードへ陥っちゃう、リジーちゃんです。
母、ついに口にしちゃいましたね!
いえね、ドロワーズ時代は良かったんですが。
ガーターベルト時代に突入してから、しばしば、両親が何か言いたげな眼差しをこっちに向けてくるなぁ、とは……
思っていたんですよね。てへ(誤魔化し笑い)
優しい両親の忍耐を良いことに 「リジーお子様だから何のことだか分かんない!」 とばかりに毎回毎回披露していたガーターベルトですが……あぁそれももう終わりかぁ(泣)
今度はどうやって視姦されたら良いんでしょう?!
「ではお母様、見せ納めにあと1回披露したらやめますわね」
天使スマイルを作りつつこう宣言すると、母も負けず劣らずの笑顔を披露して下さいました。
「まだリジーちゃんはお子様なようね? 褒賞もデビューもまた来年にいたしましょうか」
「ハイ、モウヤメマス。ゴメンナサイ」
くぅぅぅ負けました!
しかしこれもポリーちゃんのため!
そう、だから負けてもいいんです!
な、な、な、泣かないもんねっ!
読んでいただきありがとうございます(^^)




