168. 今こそ悪女の真価が試される時!?編集長をいざ攻め落としましょう、なのです!
「いらっしゃいませ♡ 靴はお脱ぎくださいね♡ こちらが室内履です♡」
「お嬢様がわざわざ、すみませんねぇ……」
ニコニコと玄関のドアを開けて、編集長ことジグムントさんを招き入れば、物凄く恐縮されてしまいました。
ふふふ。計算通り、なのです。
ちなみに室内は前世日本式に靴を脱いで上がることにしております。
素足にフローリング…… はぁぁぁ、最高!
と内心で自画自賛する私ことエリザベート・クローディス伯爵令嬢、ペンネームはルーナ・シー。と。
「お茶をどうぞ。茶葉以外は使用してませんので、安心してお飲みください」
テキパキとお茶をジグムントさんに出して下さる、愛しの旦那さまことシドさん。
「カモミールですね! 良い香りです」
ふふふふ。そうして目を細めていられるのも今のうち。
気分を落ち着け穏やかにする香りで弛緩して、リジーちゃんの言うことにホイホイOKしてしまうがいいのですよ、ジグムントさん……っ!
と、そんなことを企む6月は14日の午後。
「はい、これ "ムーサ" 6月号です」
「発行日前日にわざわざ、ごめんなさいね?」
「いえいえ。最近は "セレナ" の発行もあるでしょう? 実は今日が一番余裕なのです」
「なら良かったわ。そうそう、もうひとり雇われたのですって?」
「ええ。サラの親戚の子ですが、よく働いてくれますよ。助かっています」
ふふふふ。絶好調なのですね、ジグムントさん。良いことです。
そして、勝負はここから始まるのです……!
扇で口元を隠し、コホン、と咳払いなどしてみせます。
「けど……不用意に雇われては、失礼ですけど経営などは……? バルシュミーデ兄弟社に何かあっては、困ってしまいますわ」
「いえ "ムーサ" の売上は好調ですし、"セレナ" も軌道に乗ってますからね!
一昨年暮の童話集は増刷しましたし、それにユーベル先生の "ネーニア・リィラティヌス" 第1巻と、シー先生の本2冊もそれぞれに!」
「……後は、作家ファンクラブの会誌でしたかしら?」
「ええー。あれは、さすが社長というべきか、良いアイデアでしたよ! 相乗効果で他の本の売上も上がりましたからね」
なるほどなるほど、なのです。
「ふふ。ようございましたこと」 「ええー、おかげさまで」 などと和やかなやり取りをいたしまして、さて。
作戦開始。
磨きに磨いた悪女ぶり、披露して差し上げてよ? ……なのです!
「その…… 今日来ていただいたのは、折り入ってご相談がありますのよ」
扇で口元を隠し、目を伏せるリジーちゃん。
悲劇のヒロインっぽい憐れみを、そこはかとなく出すのがポイントです。
「どうされました……?」
心配そうなお顔をされるジグムントさん。良い人ですねぇ……。
そして。
良い人は悪女の餌食になる運命なのですよ…… ふっふっふっふっ。
「わたくし、産休を期に作家をやめようかと思いますの……」
「………………!」
ジグムントさんの丸くなった目がこちらに注がれました。そのお口は、ぽかん、と緩んでおります。
「えええええっ!」
数瞬の後に上がる、悲鳴のような叫び。
「どど、どうしてですかぁっ……!」
「それは」 コホン、とまたしても咳払いするリジーちゃん。
――― まずは、以前にシドさんが言ってたアレから、ですわね。
「生まれてくる子の教育のためですわ…… 母がアブナイお色気小説など書いていては、子供に悪影響があるやもしれませんもの」
「そんなこと、あるはずないじゃないですか!」
ジグムントさんの叫びに、横でシドさんの眉がピクッと動きました。
(ふっ、ザマヲミナサイマセ!)
「わたくしも家のため、家族のために、従業員教育に身を入れた方が良いかもしれませんし……」
「そんなの、人を雇えばいいんじゃないでしょうか!?」
再び、ぴくぴくっと微かに動く、シドさんの形の良い眉。
ジグムントさんが 「失礼、つい叫んでしまいました」 と詫び、お茶をひとくち含んで、ふうっ、とタメイキをつきます。
「いいですか、シー先生。先生の物語は、先生にしか書けないんですよ?」
「まぁ…… 恐れ入りますわ」
そうなのです! その通りです!
もっとウチの旦那さまにもよく言い聞かせてやってくださいませ!
……との、内心の快哉を押し殺し、悩ましげにそっと、タメイキをつくリジーちゃん。
真の悪女とは、悪女に見えぬものですからね!
「けれど…… 実は両親にもバレてしまいまして…… 続けるのであれば、一切本家に立ち入りなど許さぬと」
「な、なんと…… そんな……」
絶句する、ジグムントさん。
「それで、こちらに移られたんですね……! 出産前最後の 『ふたりきりの甘々新婚生活』 とか思って、誠にすみませんでした……!」
「……いいのよ…… ファンクラブ会誌にはそう書いてくださっても…… けれど…… わたくしこれから、
どうしたら……」
「もちろん、書きつづけてください! 応援しますよ!」
リジーちゃんの手を両手で握りしめて、ジグムントさんが激励してくださいます。
……計画通り……っ!
シドさんの視線が突き刺すように鋭くなっていますが、知らないもーん、なのです!
そして、扇で口元を隠したまま、品よくうつむき、決めの一言を発する、リジーちゃんなのでした。
「……けど、生活費が……」
読んで下さり、ありがとうございます!
今、子どもが積み木で作ったゲームをしてるんですが、謎ルールな上に何回やってもダメ出しされて凹みかけつつ更新です。
保育士さんの偉大さを感じる……(早く幼稚園始まれww)
ではでは、感想・ブクマ・応援☆いつも大変感謝しております!
熱中症にお気をつけてーー!




