167. お庭の中の小さなお家、に旦那さまとお引っ越しした変態悪女!日和ったわけではございません、のです!?
さて、かくして6月は14日。
「また、いらしてくださいませね? いつでも歓迎いたしましてよ」
「ええ。今度はぜひ、夫とふたりでお伺いさせていただきたいものでございますわ」
誠に有り難う存じます、と、公爵夫妻への御挨拶も滞りなく済ませ、数日前に無事、アリメンティス公爵家より帰還した私ことエリザベート・クローディス。と。
「……俺は御免被りたいですね」 と、未だにボソボソ抗議の声を上げる旦那さまこと、シドさん。
現在、ふたりの新居こと、お庭の離れで、くつろぎ中でございます。
白を基調にした、軽やかな雰囲気の調度。大きな窓から差し込む明るい日差しと、ハーブの香りを含んだ風。
……こじんまりとして、落ち着いていて、実に心地良いのです。
そんな所で、シドさんとふたりきり。
……といえば、当然、旦那さまはリジーちゃんのお膝を枕に、少々目立ってきたお腹をナデナデなど、なさっている訳ですが……
実は、驚くべきことに、それ以上には及んでおりません。
その、理由は。
「ユーベル先生の処に遊びに行ったかと思えば、今度はジグムントさんを呼びつけて。何を考えてらっしゃるんですか、あなたは」
はい。つまりは、いつジグムントさんが訪ねてくるか知れない状況。なのですね。
「……そんなに俺とふたりきりになるのがお嫌なんですか、アルデローサ様」
恨めしげな上目遣いで、ストレートに訴えてくるシドさん…… 可愛いすぎます……っ!
しかし、ここは心をオニにしなければ。
「ええ」
お膝の上でモゾモゾしている黒髪を梳いて差し上げつつ、澄まして答えるリジーちゃん。
「少なくとも、家賃と食費とメイドのお給料を何とかするまでは、イロイロお預け、なのですわっ」
「……貰えるモノは貰っておけば、いいじゃないですか。俺の給料から払ってもいいのに」
ふぅぅぅっ、とタメイキをつく旦那様。
「ですからシドさんには、ナターシャのお給料をお願いしたではないの。家賃と食費は、わたくしの原稿料及び……」
ぐっと拳を握りしめ、シドさんの頭ツボをグリグリしつつ、キッパリと宣言してみせましょうっ!
「 印 税 か ら !」
そうです。リジーちゃん気づいたのです。
なぜ、お話を書くことが 『趣味』 としか思ってもらえないか…… それは、リジーちゃんがこれまで、『小遣い稼ぎ』 しかしてこなかったから、ですね!
確かに昔は 『読んでもらえるだけでも夢みたい。印税制度無くてよかったぁ♡』 だなんて考えていたものでしたが。
――― よく考えたら、リジーちゃん、もう本2冊も出してますし。
("令嬢ポリーの華麗なる遍歴"、及び、その袋とじオマケが好評で出版する運びとなった "アナスタシア・カレィニンの美しき日々" です!)
――― さらには3冊目 "アナスタシア・カレィニンの優雅なるお遊戯" の刊行も、目前でございますし。
――― リジーちゃんとシドさんのアレコレを取材して書かれてるファンクラブ会誌とやらも、最近では、とっても売り上げ好調だそうではないですか。
……きっと、印刷所・バルシュミーデ兄弟社の儲けは、リジーちゃんのおかげでかなりスゴいはず……!
そうです。リジーちゃんが 『趣味』 ではなく 『普通のお色気作家』 と認められるためには……
バルシュミーデ兄弟社さんの儲けの一端を絞り取り、両親や夫に 『ふっ、養ってくださらなくても結構よ! わたくし、ペンと紙で稼げますもの! おーほっほっほっほっ!』 と言い切れるようになることが、必要なのです!
だからこそ、こちらに大人しくお引っ越しする条件を、『家賃と食費は支払います!』 ということにしたのですよ。
支払いのアテは、もちろん……
「……だから、その 『インゼイ』 って何ですか」
「ま、ジグムントさんがいらっしゃるまでお待ちになって?」
ボソボソとツッコミ入れるシドさんに、自信満々で返します。勝算は…… 当然、ありますとも。
何も 『著作権』 とかややこしいことを、主張する必要はないのです!
ただ必要なのは、ルーナ王国の出版文化興隆を促す、という大義名分。そして、決して引かない強気の態度と、産休に入るまでの3ヵ月分の原稿……!
「ふっ……! わたくしの悪女っぷり、しかと見せて差し上げるわ!」
シドさんに見栄を切った時、「こんにちはー! 素敵なお家ですねぇ」 と、己が運命を知らないジグムントさんが、ニコニコやってこられたのでした。
読んでくださり、ありがとうございます。
リジーちゃんいつの間にかファンクラブまで……! と作者もビックリしていますが、単行本もなんだかんだで3冊目とか、羨ましすぎますねww
しかし、はてさて、印税だけで家賃と食費が払えるようになるものか…… (発行数自体が少ないから!爆)
ではー、熱中症にお気をつけて、良いお盆を!
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