162. 公爵家の温室で続くアヤしいお喋り!? 悩みの解決まだまだな、変態悪女でございます!
ひたすらお喋り回なので、興味ない方はとばしてください。
さて、かくして時はまだまだ6月は10日、場所は国内有数の名公爵家宅のご立派な温室。
その中程に設置されたテーブルに座るのは、私ことエリザベート・クローディス。
そして。
「……で、ですね。もうなんだかとにかく、ひとりになって落ち着いて考えてみとうございましたの。
ついでに、鉱物学者と社長兄の麗しのキスシーンも仕上げたくて。
ちなみに、鉱物学者が男性なのは、美貌で才知あふれるモテモテのご婦人など出して、一部の女性読者から反感を買わないためでも、ありますのよ」
ひとしきり、リジーちゃんがモヤモヤを吐き出すお相手は……
当の公爵家令息・ラズール海軍中佐様こと、人気エロ小説家のユーベル先生。
「ふむ、つまりは、こういうことかな」
これ見よがしに長い脚を組み換え、まとめに入っておられます。
「1、まず身体の変調
2、それに伴う気分の変調
3、周囲から求められている役割の変化
4、こうありたい己と周囲から求められる役割との齟齬
5、親になることへの恐怖
6、ウッカリ覗かれたらと思うとなかなか書けない男同士のキスシーン
これらの課題が一辺にきて、対処しきれなくなった、とこういうことだね?」
「はい、まあ、違うとは申せませんわね」
悪女としては 『恐怖』 だの 『対処できてない』 だのとは、言われたくないところなのですが……
まぁ、実際にそうなんだから、仕方ありませんわね!
おーっほっほっほっほっほっほ!
と、開きなおれる程度には、心が軽くなっております。
嫌な顔ひとつなく、フムフムとお話聞いてもらえるのって、本当にありがたいことだったのですね……!
――― 確か以前、妊娠したばかりの時に催眠術とやらで、同じように旦那様に愚痴を言えるだけ言ったことはございましたが……
あの後、目を覚ましたシドさんの 「これからは、思っていることは何でも、きちんと話してください」 ほどアテにならないものはありませんでした。
だって、話しても通じるとは限らないんですもの。
相手が相手なだけに、つい通じることを期待してしまっては…… ガッカリ、を何度繰り返したことかしら。
それに比べたらユーベル先生は。
「端から全くアテにならない方でいてくださって、感謝いたしますわ」
「壁に話すよりはマシだったろう?」
「ええ、大いに」
うなずいて、ジャスミンティーをじっくり味わうリジーちゃんです。
一方で、ユーベル先生は、といえば。
ポケットから懐中時計を取り出して、なにやらご覧になっています。
「……お急ぎですの?」
「いや、お客様をもてなすための休暇だよ? 急ぐわけないでしょ。それより……」
ふいに顔をあげて、今度はこちらを観察してこられる、きれいなオッドアイ。
「……僕のことが良い男に見えてきたりとか、急に動悸・息切れ・眩暈がするとか、熱が出てきたとか……
そんな症状は、ないかい?」
……ああ、なるほど。
御両親肝煎りの、アブナイ薬物混入を警戒しておられるのですね。
そして、やたらと顔を近寄せて、囁くように話されるのは、監視対策、といったところでしょうか。
ならば。
「ございません」
リジーちゃんも、ユーベル先生にヒソヒソと耳打ちです!
「それより、解決策などありましたら、教えていただけませんこと?」
「ないよ?」 心得て、耳打ちを返すユーベル先生。
――― 監視には、かなりの仲良しさん、との誤解を、きっと与えていることでしょうっ!
これで、食事に薬物など混入されたりは、しないはず、なのです……!
それはさておき。
そんなにあっさり 『ないよ』 はないでしょう!? ……と、ユーベル先生を凝視すれば。
「だって僕は、結婚に関しては願望すらないからね?」
「以前にプロポーズくださいましたわよね?」
「あれは…… 申し訳なかったと、思っているよ」
「そう思ってらっしゃるなら!
わかる範囲でけっこうですから、ヒントなりともくださいませ! その豊富な失敗経験から」
「……君、僕のことを何だと思ってるんだい?」
「多少打ってもビクともしないエロの大家」
「……まぁ、いい」
おや、耳打ちが解除されましたね。
監視が行ったのでしょうか。
ついでに、先ほどよりも少々リラックスされているもようのユーベル先生。
椅子の背もたれに背を預けて、お茶を口に運び、しばらく何か考えておられましたが……
「まず、身体と気分の変調だが……僕の経験では」
「ええ」
「女性と寝ればほぼ治る。女性って偉大だね」
「……とっても大雑把な解決策ですこと」
「ああ、女性なら相性の良い男性かな? 君なら、シドさんでいいじゃない」
簡単でしょ、と微笑まれましても。
そこには、実は重大な問題があるのです。
「今は…… 色んな意味で一緒に寝ていないのです」
再び、ヒソヒソとユーベル先生に耳打ちする、リジーちゃん。
「今月に入って、お腹が少し目立つようになって参りましたの。そしたら、シドさんが怖がっちゃって……」
「へえ、意外。彼は、何でもソツなくこなすタイプと思ってたのに」
「だから、『怖い』 とは絶対おっしゃらず、偉そうなお顔で 『もしウッカリ蹴ったりして、万一、何かあっては危険でしょう』 などと申されますのよ。
そのくせ、中途半端に触ってくるのですわ」
……ええ、スキンシップは無いよりは、マシですとも。
けれども、ですね。
こうして改めて、考え直すと……
なんか、腹が立ってきちゃうんですよねぇ!
「精一杯ムラムラさせときながら、寝る時は別々ってどういうことかしらね?」
「そうだな……」
長い脚を組み替え、首をかしげるユーベル先生。
「僕も妊婦とは大して経験が無いから何とも言えないが…… 素人には難しいとは思うよ?」
「と、おっしゃいますと?」
「やはり、障りないようにしなきゃいけないだろう? 腹が固くなってきたら休憩入れるし、体位も限定されてくるし……
正直、あの時は、気を遣いすぎて……どうやって遂行できたのか、ほぼ記憶に残っていない」
「ユーベル先生が?」
ひとまずリジーちゃんを納得させるために、大袈裟におっしゃっているのかしら……、と、そのお顔を凝視すれば。
「そう、この僕が、だ」
うなずく表情が、真剣そのものの、ユーベル先生、なのでした。




