161. 公爵家には危険がいっぱい!? 油断は禁物、なはずの、変態悪女でございます!
こうして、まだまだ6月は10日。
アリメンティス家の温室にて、じっと見つめあう、わたくしことエリザベート・クローディスと、公爵家の不肖の息子ことラズール青年ことナンパが得意なエロ小説家・ユーベル先生。
「……まぁ、そういうわけで、滞在中はうっかり食事に催淫剤など盛られぬよう、手の者に監視させるが」
リジーちゃんの爆弾発言 『アナタ実は、王女様LOVEなんでしょ』 を、「まさか」 の一言でスルーし、それ以上に危険なネタをぶっ込まれるという、鮮やかなお手並みでいらっしゃいます。
「手の者が両親に抱き込まれていた場合は、諦めてくれたまえ」
「まあ、面白い」
「いや……あの人たちは本気でやりかねないよ?」
「あら、たとえ一服盛られてその気になったとしても…… お願いするのは視姦まで、ですからね?」
「……ふーん……」
ラズール青年の緊張気味だった表情が、ふっと緩みました。
――― いくら否定なさっても、これでは王女殿下LOVEはモロバレですわね、うふふふふ。
なにしろ、ユーベル先生の著作といえば…… うっふふふふふ……♡
まぁ、言いたくないことにツッコミ入れるのは、弱味を握りたい時にでもして。
ここは、王女殿下の件は、さておいといてあげましょうかしら。
「視姦はいいんだ?」
「ええ。寒気のする甘台詞など吐かずに、じーっと観察されるのであれば」
「それは無理」
「だったら、視姦もダメですわ」
視姦の時は罵詈雑言は元より、誉め言葉も甘台詞も一切禁止すべき。と、リジーちゃんはこう思うのです。
「正しい視姦道には言葉など不要ですのよ?」
見ている途中に言葉責めなどされては、視線に集中できませんからね。
しかし、ユーベル先生のくせに、 「えっ、それはないよ!」 と、全然分かっておられない、ラズール青年。
「言うのが楽しいのに!」
「 論 外 で す 」
ピシャリ、と申し上げれば、ガラステーブルに手をつき、わかりやすく項垂れてみせてくださいますが…… だから、って。
そんなことされても、リジーちゃんは絶対、『んもう、寂しんぼちゃんなんだから♡』 だなんて、絆されませんことよ?
「ま、ともかくも、両親と、出される食事には気をつけたまえ。
なんなら、ツワリを理由に食べなくても良い。安全な食事を別に、届けさせるようにしよう。
……手の者が両親に抱き込まれていた場合は、諦めてもらわないと、だが……」
「だったら、普通にいただきますわ」
ニッコリと余裕の笑顔を向けて差し上げれば、ラズール青年が眉をひそめます。
「知らないよ? もし君がムラムラきて僕を襲っても、断らないからね?」
「まあ、光栄ですこと!」
おーっほっほっほ、と、調子良く高笑いして差し上げますとも。
何しろ、ムラムラの我慢だなんて……
ツワリに慣れたばかりの頃に、毎日毎日まいにち、訓練しましたからね! ……シドさんめ。
「じゃ、ま、歓迎するよ」
ラズール青年が、すっと肩をすくめます。……こんな処にワザワザ来るなんて、という内心がダダ漏れていますわね。
「好きなだけ、いたらいいさ」
「……それなら……」
思わず出てしまう、深いタメイキ。
「当分、帰りません、かも……」
「……いったい、どうしたんだい?」
オッドアイに、ちらりと心配そうな色が刷かれました。
――― ラズール青年、あまり他人を懐に入れないタイプと思ってましたけど…… いったん仲良くなると、意外と親切なんですよ、ねえ……。
だからって、別にどうってことは、ございませんけどもね!
「話なら、聞くよ?」
リジーちゃんの片手がつっととられ、大きな両手でナチュラルに包まれます。
……なんだかイヤらしい気がするのは、たぶん、気のせい。ご本人としては単なるサービス精神の表れで、他意はないはず、ですからね!
「ありがとうございます」
さりげなく手を抜き取りつつ、ひとまずはお礼申し上げて……
「だからね、わたくし最近思うのですけれども、世の中には家庭を持つのに向かない人間というのが、やはり、いると思うのですよね……」
滔々と話し始める、リジーちゃん。
――― ユーベル先生なら、大して前置きせずにこういうことを申し上げても、わかってくださるはず。
そんな確信が、実は前から、なんとなく、あったのです。
「それで?」
「言うなれば、わたくしもそっち側ではなかったのかと……今になって、思うのですけれど……」
――― そして、いったん語り出すと、どうにも止まらないのです……!
どうやら思った以上に、イロイロと溜め込んでしまっていたのですねえ……
もしかしなくても悪女失格、な気がするリジーちゃん、なのでした。
読んでくださり、ありがとうございます!
全然本編と関係ありませんが、紫陽花の美しい季節ですね。
……ということとも関係ありませんが、実は今週、ひたすらカキカキさせていただいております。(正直、こちらの更新が今週中にできるとは思いませんでした……爆)
で、何を書いていたかといいますなら、こちら!
『部屋と宇宙ノミと私~Simple is Best!?~』
https://ncode.syosetu.com/n2908gi/
ただいま童話ジャンルを席巻しておられる、しいたけ先生とのコラボ作品です!
こちらとは色の全く違う、痛快SFラブコメディー。
覗いてみてやってくだされば、嬉しいです!
でーはー!




