16.しがないお色気小説家になった私。しがなくても悩みは大作家と同じはず!負けずに大変態を目指します!
季節は巡り、16歳の初夏を迎えた私ことエリザベート・クローディス。
ちなみにシドはまだ19歳です。
誕生日はリジーちゃんの方が1足早いのですよ、ザマヲミナサイマセ!
それはさておき。
今日も今日とてバルコニーでお茶を楽しむ、リジーちゃんとシドさん。
「パンよこせ」 のシュプレヒコールも無い、穏やかなリラの並木道。
紫と白の花が盛りを迎え、優しい甘い香りに溢れています。
はぁ……落ち着きますねえ!
今年の小麦は豊作見込み、革命の心配も無く、執筆に集中できるというもの。
……の、はずなんですが。
「ネタ切れ、ですか」
シドがコテンと首を傾げました。
今日も美青年絶好調の彼は、お茶を飲みつつ……カップを置くとかそんなことはせずに、リジーちゃんからの悩み相談受付中、です。
カップを持った彼の大きめの手が小指立ててたら内心で大笑いしてやろうと注目しつつ(ちっ立ってなかった)うなずくリジーちゃん。
「ええ、まさかこのような、大作家の如き悩みを持てる日が来るとは、思わなかったわ!」
14歳の夏に視姦(される側)に目覚め、ペンの力で老若男女(特に下僕)を目眩く変態の世界へ誘うことを心に誓ってから早や2年近く。
今やリジーちゃんは、なんと!
今年1月に刊行された大衆向け文芸誌 ″月刊ムーサ″ にお色気小説を書くしがない作家なのです!
ふふふ。駄文書きでも作家を続けてられるなんてっ!
ルーナ王国って素晴らしい国ですね♪
これからも、発生するな! 印税制度!
シドがぼそっとつっこみます。
「いやむしろ大作家なら悩まないんじゃ」
「そんなことは有り得ないわ!」
自信満々に言い切って差し上げますとも!
何しろ、前世日本には対大作家用に 『ホテルにカンヅメ』 なる風習がありましたからね!
すなわち、大作家であれば、ネタに詰まることの1度や2度なければいけないはず!
「じゃあポリー嬢を視姦の世界から通常恋愛の世界に戻してあげればいいじゃないですか」
「ポリーちゃんを飾り窓に並ぶ職業みたいに言わないで下さるかしら」
「似たようなものでしょう。毎回ガン見されまくってるんだから」
「違う! 脱ぎもお触りも本番も基本的にはありません!」
シドが、がくぅっとうな垂れ 「昔はあんなに可愛かったのに」 と呟きました。
いいんですよ!
可愛かった昔もそれなりに良かったですが、心のままに変態してる今の方が、もっともっと楽しいですからね!
さて、ここでちょっと説明しますと。
ポリーちゃんは拙著 『令嬢ポリーの華麗なる遍歴』 のヒロインでございます。
華麗なる遍歴、といっても、毎回ジャンルの違う男に視姦されてるだけ、ですけどね!
よくこうも毎回変態男が現れるものだわ、と自画自賛しちゃいますよ。
ちなみに作者的に1番萌えたのは、先々月号、すなわち第4話の話。
死にかけの老人による、視姦シーンでした。
まさに人生終わりって時の枯れきった瞳に映る、命の輝きそのもののような美しい若い女性……手に届かないものに 「せめて1度でも触れたい」 という羨望と欲望を以て眺める、その眼差し。
萌えますよねぇっ!?
(あぁ、こんな風に見詰められてみたい!) と、身悶えしつつ書いたものです。
普段はお触りナシですが、この回では余りにも老人が気の毒なので少々、特別扱いしました。
その点で、どうやら読者にも好評だったもようです。
愚民共が視姦より接触に反応するのは嘆かわしい限りですが、そこは謙虚に受け止めておきましょう!
精進と鍛練あってこその、悪女なのです!
……と、コホン(咳払い)
さて、何だか脱線して語りすぎてしまいましたが、話題をネタ詰まりに戻しましょう。
リジーちゃんが悩んでいるのは、大筋設定の話では、ないのです。
「次回はイケメンなのにっ! 出会いが……なんだか出尽くした感があって!」
そう、毎回違う男を出す時の弊害。もう出会い方が、何書いても凡庸な気がして仕方ないのです!
今回5月号の分はリジーちゃん、もうヤケになって前世の知識をチョイ借用しちゃいましたよ!
「パンをくわえて道でぶつかる」という実は昔から有り得なかったんじゃないか、ってシチュエーションです。
なんとこれが意外にも、ルーナ王国の読者には好評でした。
「新しい!」 「ドジな一面がかわいい!」 「お忍び中のポリーちゃんに俺が会いたい!ハァハァ」など……わからないものですわね。
ちなみに、その回でポリーちゃんが出会った相手は、犬とその飼い主。
尻尾フリフリする犬の純粋無垢な眼差しに晒されつつ、ベタベタと顔や手や首や耳を舐められてくすぐったがるポリーちゃん。
そんなヒロインを、温かな眼差しの裏に欲望を隠して見詰める穏やか系眼鏡男子っ……!
二重の視姦ですね! 挑戦してみちゃいましたよ、うふ(満足)。
気になる方は
『令嬢ポリーの華麗なる遍歴』 第5話をぜひお読み下さ、もとい読ませて差し上げても良くってよ!
と、コホン(咳払い)。
またしても語りすぎ失礼しました。
さらに第6話 (もうじき刊行分) も、こんな感じで何とか誤魔化し……そして次回作、第7話。
もういよいよネタ切れネタ詰まり、というワケです (タメイキ)
「悩みは大作家級だけど……たった6話でネタに詰まるっていうのが経験の無さだわ」
「いえアルデローサ様はそれで良いです。経験豊富でネタに尽きない方がガッカリ感半端ないんで」
とシドが慰めてくれますが、そんな慰め何の役にも立ちゃしねーんだよ、ですよ。はぁぁぁ (タメイキ)
こんなことなら前世で、トイレ連れ込みおじさんやら電車内痴漢男とやらの出会いまで詳細に覚えておけば良かったっ!
黒歴史だと記憶から全力で抹消してしまった、己が愚かさが恨めしいです。
どんな黒歴史とて活用次第では輝くはずなのに!
と、シドさん。カップを置き、真剣に腕組みなどしてくださってますよ?
珍しいっ!
「第1話の出会いシチュを使い回せばいいですよ」
「ありがとう。お気持ちだけいただくわ」
せっかくの助け船ですが、底が穴だらけですね。
「ダメ……ですか?」
「ダメね」
そんな上目遣いウルウルでじっと見られても。
て、そんなリジーちゃんの奥の手をいつの間にマスターしたのかしらシドったら。はぁぁぁ (タメイキ)
と、やおら、シドの両手がこちらに伸びてきました。
そのまま、ほっぺをむにゅーっと両側からつままれます。
「ちょっちょねにぃ? (ちょっとなによ)」
「あんまりタメイキついてると薄幸な善女の顔になっちゃいますよ」
むむむ。確かにそれはイヤですね! さすがシド。
しかし、それとほっぺむにゅーは別の話です。
「はねしねせいぃ (離しなさいよ)」
「イヤですね、先生」
根性悪そうなのにまだキレイに見える微笑みと突如飛び出す羞恥ワードにウットリ……じゃないわ!
『先生』 はヤメテって言ってるのにぃぃ!
シドは黒い笑顔のまま続けます。
「これからリラの並木を眺めつつ紅茶を1口飲んでから俺の方を見て 『美味しい』 と言って下さるなら離しますよ」
ああ、なるほど。シドさん通常営業の 『リジーちゃんと下僕』 ごっこがしたいのですね!
本当にもう相変わらずの天然下僕体質ですこと。
仕方ないです。ここは折れて差し上げましょう!
と、コックリ頷きかけた時。
バルコニーの戸が開いてナターシャが顔を出しました。
こちらを見て 「きゃあっ」 と黄色い声を上げる35歳、容貌も反応も可愛らしい既婚女性です。
「失礼しましたっお取り込み中」
「「違ぁうっ」」
ハモるシドとリジーちゃん。
「いいえ!」 キッパリと言い切るナターシャさん。
「今確かにシドさんは 『もうこのまま勢いでチューして先約とってやろうか』 的な顔をしていましたとも!」
「どんな顔ですかそれは」
「こ、こんな感じ?」
ナターシャ、貴重な顔真似シーンですっ……!
おお、黒い表情、けっこう似てますね!
パチパチと手を叩くリジーちゃん。
対するシドさん、ガックリ肩を落としておりますね。
そして、ナターシャは黒い表情のまま、こう告げたのでした。
「お母様がお呼びです」
読んでいただき有難うございます(^^)