15.ついに作家への道が開けた私。ペンで変態趣味を広めていく所存です!そして待ち受けるまさかの羞恥プレイとは?!
「お疲れ様! シドのおかげで楽しいデッサン会だったわ」
来客を迎えるべく客間へ移動しながら、シドを労う私ことエリザベート・クローディス。
ご機嫌ナナメな下僕には、口先だけのリップサービスでもして差し上げなければ! なのです。
ほれほれ、腕組んでぶらさがってあげるから、機嫌をなおすのですよ、シドさんっ!
けれどもシドの方は、相変わらず、ぶすっとしております。
べ、別にっ……気になんかしませんけれども、ね!
涼しい顔でちょっと尋ねてみましょうか。
「モデルになったご感想はいかがでしたかしら?」
「別にどうも無かったんですが、途中からゾワゾワして居たたまれなくなりました」
おおぅ。やはりやってみるものです!
侍女多数とともに視姦しまくったのは、効果がありましたね!
嬉しくてニコニコですよっ、もうっ!
「それよ、それ! そのゾワゾワにまずは耐えるのよ!」
耐えている内に次第にゾワゾワが快感に変化してくるはずです!
「あとひと息よ、頑張りましょうね!」
「イヤです」
あれ? 前はあんなに前向きだったのに、なぜそんなにどきっぱりと断っているのでしょうかこの下僕は?
「シドったら。わたくし1人を、変態世界に彷徨わせるおつもり?」
瞳をウルウルさせて訴えてさしあげますとも!
……と、あからさまにぷいっと横を向くシドさん。
「俺が見詰められたいのは不特定多数ではないですから」
くそうっ。上手く行ったと思ったのも束の間、どうやら作戦は失敗のようですね。
でも負けません!
こうなったらいつか絶対に、シドと2人で変態趣味を楽しんでみせますよっ。
しかし次なる作戦を練る前に、客間にたどり着きました。
シドがささっと服を整えてくれます。
珍しくリジーちゃん宛ての今日の来客は、前のようにわけの分からないイケイケ逆ハーレムお姉様などではありません。
なんと!
印刷所の副所長さんなのです!
そう、ルーナ王国でもついに!
活版印刷が登場したのです!
来ましたよっ、知識と新たな娯楽が大衆のものになる時代がっ!
しかも書き手は圧倒的不足!
ええルーナ王国の識字率 (推測40%前後、都市部のみなら60%超) を鑑みても、不足ですよ!
つまりは、文章を書く能力とやる気さえあれば作家になれる可能性大、なのです!
というわけで。私程度の駄文でも、もしかしたら……なんてことも、チラッと夢想しちゃいますよね?
ません? ますって!
そこで。
『キミも市民のための文芸誌 ″ムーサ″ に書いてみないか?!』 という募集広告に応募してみたのが、1ヶ月ほど前。
例のサルウス・プロスペル・エッケバッハ様をリスペクトして書いてみた、視姦作品をね。
送ってみたのですよ! やーんリジーちゃん勇者! じゃなくて悪女っ!
……いえね、宝くじに当たればラッキー、程度の軽い気持ちだったのですがね。
ええ、本当に当たるとは。
4mm程度しか、思っていませんでしたよ!
しかも、わざわざ副所長さんが訪ねてくるなんて。
1mmも、考えていませんでしたとも!
……活版印刷所(元写本屋)、意外と暇なんでしょうかね……?
「いやあ印刷機を導入はしたものの、部数が少ない場合は手書きの方が効率が良いこともありまして!
しかもよく考えたら、写本の注文は聖書以外、1冊単位しかも1回こっきりが多いんですよね」
客間にて 「こんにちはー、はじめまして」 「あらようこそ」
などと挨拶など交わし、活版印刷について少々お話しなどしている時、副所長さんはこう説明してくれました。
なるほど。
写本を1冊だけ、といった仕事なら、確かに活字組んで刷るよりさっくり手書きした方が早そうですね!
もしかしたら、よく考えずに活版印刷を導入したのかしら?
しかし、副所長さんからいただいた、活版印刷で作った名刺。
こちらの世界ではなかなかオシャレに見えますよ!
こういうのを使うと、先端技術を敏感に取り入れている印象があって良いかもしれません。
後で父に教えて差し上げましょう!
それはさておき。
名刺によれば副所長さんは、活版印刷所・バルシュミーデ兄弟社のジグムント・バルシュミーデさん。
元写本屋というインテリな仕事にも関わらず、上腕二頭筋がムキムキなお兄さん、推定27歳です。
まぁ紙の束も金属活字の山もけっこう重いですからね。
筋肉必須ですよね!
でも、そのおかげで。
――― いかにもインテリ系な細い銀縁眼鏡が似合っていません。ええ確実に。
銀の髪に綺麗なエメラルドの瞳でも、体育会系はごまかせてませんとも。
中指でクイッと縁を押して見せたってダメですよ。似合ってませんからヤメテ。 ―――
そんな日本中の乙女代表の内心ブーイングを押しやって、ジグムントさんは爽やかな笑顔を披露して下さっています。
©️砂臥 環さま
「活版印刷がもっと使えるんじゃないか、という話が所長とも出てですね、それでこの度の ″ムーサ″ 刊行という運びになったわけですよ!」
「ええ、わかりますわ」
「″ムーサ″ は普通の市民がエール片手に気軽に読めるような娯楽誌を目指していまして、さまざまなジャンルの作品を盛り込む予定です。健全な冒険譚もあれば、先生のようなエロいのも」
今なにか聞き捨てならぬ恥ずかしい単語を耳が拾いましたが、とりあえず後回しです。
それより気になるのが。
「エロいですか? 本当に?」
そう言って貰えるのは嬉しいのですが、悪女は己が分を知っているもの。
単なるおべんちゃらじゃないかと、どうしても疑ってしまうのですよ。
しかし。
「エロいですとも!」 力一杯うなずいてくださる、ジグムントさん。
「さらっと読めば普通に軽めのお色気ものなんですが、行間を読み込めば……
オヤオヤどれだけイヤらしいんだコレちょっと待て! と手に汗握り、冒険譚よりドキドキしました!
きっと作者は真性の変態に違いない、と確信しましたとも!」
やーん誉めすぎ! 照れちゃいますよ!?
嬉しくなって身をかすかにクネクネさせていると、シドが背後からボソッとツッコミ。
「誉めてませんって」
違うもんね、誉めてるもんね!
わかってないんですね、シドのくせに!
しかし、とジグムントさんはまじまじとこちらを見ました。
「まさかこんなに可愛らしいお嬢さんだったとは……大丈夫ですか?」
「細道に迷い込んでいる感はございますけど、まだギリ人道ですから心配ありませんわ」
悪女で変態ですが殺人まで体験する予定はありませんからね!
「頭の中身が大丈夫かと聞かれてるんでは」 またしても、シドのツッコミ。
もちろんですとも!
胸を張る、リジーちゃんです。
「お任せ下さいな! エロい方面の情報伝達回路は常に通常の3倍速で営業しておりますとも!」
「それは頼もしいですね!」
ジクムントさん、爽やかな笑顔です!
また眼鏡を中指でクイッとしておられます!
似合ってませんけどね。
その後、契約やらなんやらと若干の事務的説明をしてもらい、そゆことでんじゃま今後ヨロシク、的な挨拶を交わすと、ジグムントさんは原稿料を置いて帰っていきました。
「ほう……」
来客後も、ソファの上でまだ夢見心地のリジーちゃん。
両手で頬をはさむ乙女な仕草で溜め息なんてついてみてます。
だって私が如き駄文書きでも作家になれるなんて!
ルーナ王国最高ですね!
作家を目指すなら1度はおいで下さいませ♪ なのです!
そんな私の横でシドはてきぱきとお片付け。お茶のセットをお盆に戻しております。
「そろそろ部屋に戻りましょうね、先生」
ぴくり、と震えるリジーちゃんです。
「シドそれヤメテ」
「なにをですか、先生?」
不思議そうな表情で首をかしげるシドさん。
が! リジーちゃん騙されませんよ!
その漆黒の瞳は、明らかに面白がっていますねっ!?
「だからそれ」
「はっきり言って下さらないとわかりませんね、先生?」
「あなたがそんなにバカだとは知らなかったわ」
「いえけっこうバカですよ、先生」
言いつつ、素早く姫抱っこ強制回収スタイル。
「ほらほら、先生。もう出ないとナターシャがお掃除できませんからね、先生」
「ヤメテってば!」
バタバタと暴れるリジーちゃん。
耳元で『先生』だなんて、己が分を弁えている悪女としては居たたまれなさすぎて。
ゾワゾワしちゃいますよっ、もう!
シドはと見ると、そのきれいな顔にはもの凄くイイ笑みが、浮かんでます。
「大丈夫ですよ先生。耐えていれば次第に慣れて快感に変わるんでしょう? 先生?」
「……!」
「先生ほら壁の額が少し傾いてますよ。俺両手塞がってるんで、先生に申し訳ないですけど、先生が直していただけますか先生?」
―――こうして部屋に戻るまで、シドは私の耳元で『先生』連呼し続けたのでした―――
この仕打ちには、いつか必ずや変態世界へのご招待(お帰り口なし)で報いて差し上げますとも!
オボエテラッシャイマセ!
読んでいただきありがとうございます(^^)
※ 2020/5/10 砂臥 環さまよりFAいただきました!
どうもありがとうございます!




