149.長年の秘密がついに暴かれる!?ウッカリしまった変態悪女、なのです!?
さて、こうして無事、産休中の代行作家ことキエルちゃん、ペンネームはキエリーラ・エル・カエーラちゃんをゲットした、私ことエリザベート・クローディス、またの名をルーナ・シー。
本日5月は12日は早速、活版印刷所・バルシュミーデ兄弟社に産休中の代打原稿を持ち込みする予定なのです!
ルーナ・シーが産休に入るのは9月から、すなわち "月刊セレナ" の10月号から。
まだまだ、と油断していると案外すぐ、といったスケジュールですから、まずは早めにジグムントさんからの承認を貰っておくのが良いでしょう。
勝負服は、いつぞや王女殿下からいただいた、お出掛け用・コバルトブルーのシルクワンピース。
やや膨らんできたお腹でもギリギリ着られる、妊婦に優しいデザインです。
さぁ、お洒落も気合いもバッチリで、いざ参らん!
と、玄関のドアを、愛しの旦那さまことシドさんに開けてもらったところで。
「リジー、ちょっと」 父に呼び止められてしまいました。
父はいつも通り、出勤前のキリッと爽やかなイケオジさまスタイル。なのですが…… なぜか。
珍しく、目の下にクマさんが居座っておられるのですよねぇ……
――― 朝食時から気になっていて、チラッとそちらを見る度、けっこうな確率で目が合い、その度に生まれた時から培ってきた天使スマイルで心をとろかす、つもりが。
なぜか、なんともいえない感じでサッ、と目をそらされてしまう…… という、微妙なことになっていたのです。 ―――
この感じは、つまり、すなわち。
(何か言われる前にさっさと外出してしまった方がいいパターン、ですわね!)
ピーン、ときて、支度をなるべく急いだのに、結局つかまってしまうなんて…… リジーちゃんったら、悪女スキルが錆び付いてきてしまってるんでしょうかっ!?
父の表情…… 心の痛みを押し隠して、なるべく穏やかさを装っている感じ、ですね……?
「話があるんだが」
キタ、キました!
警戒態勢を押し隠して、なるべくリラックスした表情を装うリジーちゃん。
「あら、お父様。どうされまして?」
完璧に涼やかに返しつつ、ジリジリとドアの方へずれていきます。
ここで、逃げ切ってしまえば、ひとまずは大丈夫!
扉はすでに開いて……
って。
パタン。
何、ソツなく素早く閉めてるんですか、シドさん?
「ここでのお話もなんですから、どこか場所を移されては」
余計なこと言わないでください、もうっ……!
いつの間に父に飼い慣らされたんでしょうかね!?
恨みがましい目で睨んでさしあげちゃいますよ……っ?
「シドさん……わたくしとお父様と、どっちが好きなの?」
「両方です」
「…………っ!?」
ち、父と同列に並べられてしまいました……っ!
……ま、まさかシドが、妊娠中の奥さんとデキないからって父に走るなんて……
「そ、それで」 ドキドキしちゃいますね、これは!
まさかの 『義理の父とのあやしい関係』 !
……どうあっても、取材せねば……っ!
「お父様とはどこまで……っ!?」
「飲みながら悩み相談しあう程度ですが」
「……!?」
いつの間に、そこまで進展したのでしょうかっ!?
シド、おそろしい子……!
ともかくも、心のメモにはしっかり書き込みましたわよ!
――― 産休明けの "美しき鉱物学者と社長兄弟" のお話は、父親世代まで巻き込んでの4つ巴、5つ巴の愛憎劇になるのです!
腕が鳴りますねぇ、ふっふっふっふっ ―――
と、それはさておき、そんなわけで。
「それで、お父様。どうされまして?」
恒例、父の書斎でシドと並んで座りつつ、にこやかに話を切り出すリジーちゃん。
ここ最近は、残り物ケーキ配布でのガーターベルト見せも控えてますし (なんだか旦那さまに見ていただく以上に萌えなくなってしまったので) 全く思い当たりが……
「大衆向け雑誌に書いてるって、いつからだい?」
ぎょっっ……!
キター! キてしまいました!
父、もはや穏やか仮面も剥がれ、まことに沈鬱な表情です!
深いタメイキが、1回、2回……
うぅ…… 胸が痛みます、ねぇ……。
しかぁし!
リジーちゃんとて、ダテに悪女張ってたわけでは、ありません。
しれっと答えて差し上げましょう。
「あら? なんのことをおっしゃってるか、わかりませんわ……?」
「昨日、たまたま聞いてしまったんだが……」 深ぁいタメイキ、3回目です!
「『実は "月刊セレナ" の "美しきナントヤラ" は、わたくしが書いているのよ』 だって?」
ギクッ。
ま、まさかあの時、父が休憩室の外にいたのですか?
そして、キエルちゃんとの会話を聞いていた……?
ええええーっ!
そんな、大きい声で話したつもりなかったし、休憩室の扉には 『お掃除中』 のフダも掛けておきましたのに……っ!
なんて、なんて…… ウッカリさんなんでしょうか、リジーちゃんったら……!
「シドさん……」 思わずジットリと睨んじゃいますよ、もう……っ。
「(推定) 昨日の夜、お父様に相談された時、どうしてバックレてくださらなかったのかしら?」
そう、父がお説教くださるほど確信を持っているとするならば、それにはシドさんからの情報提供が不可欠なはず。
そしてそれは、昨日の夜、義理の親子差し向かいで飲みながら行われたに違いありません。
……ふっ。名探偵リジーちゃんの推理、いかがかしら?
妻を放っといて男同士でつるんだりなさった罰。
存分に慌てふためくがイイのです……!
ところが。
旦那さまの表情、全く変わりません。
愛想のない無表情。「俺が正しい」 とでも言いたげ、です。
……罪悪感なく、全てを父にバラしたとでも、いうのでしょうか?
疑問の答えは、落ち着いて放たれた、次の台詞にありました。
「あまり夜更かしすると、体調が整いませんから…… もう、お嬢様は、身ひとつではないわけですし」
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また、それ……っ!?
読んでくださり、ありがとうございます。
感想・ブクマ・応援まことに感謝です……!
コロナウイルスがなかなか収まりそうにありませんね。皆様無事に新年度を迎えられますように。




