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伯爵令嬢に転生して極悪最凶の変態を目指しましたが、結局は普通のお色気作家になりました。  作者: 砂礫零


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146/201

146.ワガママになるのは、妊婦のスタンダードです!?さぁ、張り切って、変態悪女しちゃいましょう!

 さて、かくして4月(アプリリス)は7日の昼下がり。


「……憐れなる下僕がこぼしし稀なる薬よ、再び銀のポットに元通り帰らんことを!」


 私ことエリザベート・クローディスの詠唱に従って、スルスルとポットに戻っていくローズヒップティー。


 そう、只今、割かし久々に書字魔法の使用中…… すなわち、覆水を盆に返しているところです。


 他愛ないように見えながら、その実。


(重力に逆らっておりますのよ!)


 妙な満足感があるのです……っ!



「普通に拭けばいいじゃないですか」


 ボソボソとツッコミを入れてこられるのは、愛しの旦那さまことシドさん。

『生涯に一度の失敗』 レベルの暗いお顔です。

(確かに、従者になって十数年で、初めての失敗ではありますけどね!)


「だってモッタイナイでしょう?」


「……まさか飲まれるおつもりですか!」


「心配なさらなくても、大丈夫よ」


 なにしろ、『元通りに』 と指示しましたのですから。

 ……衛生上なんの問題も無いはず、なのですよ。


 しかし。

「イケません」 首を横に振るシド、とっても真剣な口調です。


「万一、腹でも下して、ついでに赤ちゃん流れてしまったら……!」


「…………」 ふうううう。


 ついついタメイキ出ちゃいますよ、もうっ!


 そうなのです。

 これが、ルーナ王国人の常識。


 腹下しはもちろん、ムラムラ解消のためのイケないことやイイことも全て、『流産の可能性がある』 として、禁止されているのです。


「あうううう…… 満3ヵ月にして、すでにツラいわ……」


 書字魔法用、クローディスの家紋入り特殊紙にぽつり、と涙が落ちました。


「お茶イッパイさえ、自由にならないだなんて」


「淹れなおしますから」


「そんな問題では、ございませんのよ」


 ……問題は、妊娠中の身となったリジーちゃんには最早、何の自由も無い、ということなのです……っ!


「愛しの旦那さまにムラムラする権利はおろか、お(なか)を下す自由さえ奪われてしまうなんて……」


「大変、残念ですね」


 シドが手際良く、乾燥させたローズヒップと蜂蜜を新しいポットに入れ、お湯を注ぎます。


「腹下しがムラムラより重要事項だとは存じ上げませんでしたが」


「だってそちらの方がより、嫌われているでしょう?」


 嫌われ者を贔屓(ひいき)するのは悪女の常識。

 それに。

 ムラムラの方は、良い解決法を思い付いちゃいましたからねっ!




 つまり、すなわち、これぞ。


「こ れ ぞ …… !」 書字魔法の文言を書き付けた紙の束を、ぼふっ、とシドに渡します。


「快適妊娠生活のための素敵な戦略……っ!」


「ボツです」


「まだ全然見てないでしょうっ!」


「少なくとも1枚目はボツです」


「あら、赤ちゃんが一瞬で手のかからない時期まで成長して出てきたら、ラクでしょう?」


 いい案だと思ったんですけどねぇ?


 コテン、と首をかしげるリジーちゃんを無視して、次々と書字魔法用特殊紙にバツをしていくシドさん。


「少しは読んでから考えてくださいませんこと?」


「きちんと読んでます」


「なのに、全部バツですの? どうして?」


「ロクなのが無いからに決まっているでしょう」


 ええええ? そんなはず、無いのですけど、ねぇ?


『旦那さまがルーナ王国の常識も自制心も乗り越えて……♡』

 ですとか。

『夫婦間でにゃんにゃんする度に安産確率が上がる』

 など。


 良いアイデアが目白押し、なハズですのに……!




「せめて 『シドさんの自制心が限界にきて、ジグムントさんに言い寄る』 のは置いておいてくださいませね?」


 可愛らしく上目遣いでお願いです!


「浮気もジグムントさん相手なら許しますから♡」


「では、こちらの 『ジグムントさん兄弟がついに両想いに……!』 の方は遠慮なくバツということで」


「……おおぅ……」


 いきなりジグムントさん兄を排除にかかるとは。

 シドったら、はやソノ気満々ではないですか!


「いいわね!」


 早速、女性向け雑誌 "月刊セレナ" の新連載 "美しき鉱物博士と社長兄弟の交遊録" に取り入れちゃいましょう……っ!


 ――― "月刊セレナ" 4月号では折しも、美貌の鉱物博士・ヴォルフが鉱山開発会社の副社長・オットーに淡い恋心を抱いたばかり、なのです。


 帰宅して 「そ、そんな! 一瞬だけど、石ころよりも彼の方が…… ごめんよ、僕の石ころたちぃぃっ! もう二度と浮気はしないから!」 と、物言わぬコレクションたちに謝り倒すシーンで終わり。 ―――


 …… あれ?

 兄社長 (名前はオド) を排除する展開、使えるかと思いましたが、ちょっと急すぎますね!


 では、取りあえずは ……


 メモメモ、なのです!


 と、そんなリジーちゃんの手を、ガッシと押さえてくる、シドさんのお手々。


「……で。それとムラムラ解決に何の関わりがあるんでしょうかね?」


 この、普段より一層ボソボソとした、低い声は。


 怒っておられますね!


 予 想 通 り …… っ !


 そんな時には、こう言って差し上げるのです。


「妊娠中の妻を放って、オトコに走る旦那様を妄想するだけで、ムラムラがイライラに変わると思うの……」


 いかがかしら、遠回しな愛情表現の威力はっ!?


 ふうー、と息を吐き、シドの淹れてくれたローズヒップティーをひとくち。


 あ、美味しい。


 シドがなおも、ボソボソと主張します。


「何のために、俺が従者に戻ったと思っておられるんですか」


「お腹の赤ちゃんのためよね」


「それが分かっておられるなら……」


 どうして、と言いたそうな形の良い薄い唇に、指を押し当てて黙らせます。


「わたくしのためじゃ、ないのよ」


 ふっ。悪女、決まりましたね!


 ――― そう、今。

 何がいちばんモヤモヤするかといえば、それは、周囲の人から急に 『お母さん』 扱いされることなのですよ! ―――



 もっとも、それが嬉しい人もいるでしょう。

 それに、状況的には、善女なら有難がらないといけないところ、でしょうね。


 愛しい旦那さまとの赤ちゃんがお腹の中にいて、ツワリにも慣れて、順風満帆。

 何の不満があるんだよコンチクショーという、恵まれない方々の声が聞こえてきそうです。


 もちろん、リジーちゃんだって、シドさんとの赤ちゃんはとても大切と、思っていますとも。


 けれど、でも…… シドさんだけには。


(わたくしのことを、一番に大事にしてほしいのにぃぃっ!)


 赤ちゃんのことはいいんですよ!

 だって、リジーちゃんが責任をもって大事にしますからね。

 ムラムラだって、イケないというならば、書字魔法を使ってでも消し去ってあげますとも……っ!



 けど、けど、けど。


 赤ちゃんのために早く寝なさいとか、コーヒーとチョコレートは禁止です、とか、事細かく旦那さまが管理してくるのは何かが違うぅぅぅっ!


 そんな、リジーちゃんの内心などキレイさっぱり無視して。


「赤ちゃんのためが、アルデローサ様のためでもあるでしょう?」


 とっても不思議そうなお顔で主張するシドさん。



 逆ですよ、逆っ!


(わたくしのためが赤ちゃんのため、と心得てほしいものですわ!)



 ――― でも、リジーちゃんにはわかっています。


 今のシドには、どう説明しても真顔でルーナ王国の常識(せいろん)を返され、「俺の子でもあるんですから」 と主張されるだけ、ということが。 ―――


 相手の反応が予測つけられるようになると、自己主張するのも面倒なのですよ、ねぇ。


 ……こうして夫婦は枯れていくのか、などとシミジミ感じ入りつつ。



「せめて、わたくしのために、"鉱物学者と社長兄弟" のネタくらいには、おなり」


 久々に威厳をただし、お嬢様らしく、ビシっと命令してみるリジーちゃん、なのでした。

読んで下さり、ありがとうございます。

感想・ブクマ・応援、大変感謝です。


コロナウィルス休校の影響で更新頻度が落ちております。しばらくは、週1、できれば2回のupを目指します。m(_ _)m


早く終息してほしいものですね。

お風邪・体調不良等もお気をつけてくださいませー。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 夫婦でにゃんにゃんすると、安産率が上がるネタはびっくりしました (*´▽`*)b gj ☆彡 [一言] >書字魔法の使用中…… すなわち、覆水を盆に返しているところです。 めちゃ笑いまし…
[一言] 久しぶりの書字魔法キタッ!! そして妊婦さんの心理が大変勉強になります! なるほど、言われてみればという感じですが、大半の男性は気付かないことですね。
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