145.王女殿下の結婚式で、思い起こすは新婚の夢!ひたすら悶える変態悪女、でございます!?
さてかくしてまたまた時が過ぎ、季節は遅めの春を迎えました。
まだ道や庭の片隅に雪がぽつぽつと残る、4月は7日、でございます。
「はぁうう……」 ベッドでゴロゴロ、枕を抱えつつ、イイため息を漏らす私ことエリザベート・クローディス、ただいま妊娠3ヵ月。
早めにやってきたニオイつわりはまだ続行中ですが、『なにもかもがクサイ』 この状況にもいつの間にか慣れてしまいました。
……人間とはまこと、オソロシイものでございます。
そして今、リジーちゃんの脳裏を占めているのは。
「……リーゼロッテ様…… おキレイでしたわ…… キラキラしておられたわ」
リーゼロッテ様とヘルムフリート青年の結婚式です!
3月は28日、王女殿下の誕生日に合わせて行われた式と披露宴。
クラウゼヴィッツ家に降嫁したとはいえ、王女としての任が解かれるわけではありませんので、リーゼロッテ様にとってはこれも公式行事なのかもしれません。
が、それでもそのお顔は幸福に輝いており、ヘルムフリート青年とも仲睦まじいご様子でした。
「これから夫婦間の軋轢に苦しむことになるとも知らない、あの眩い笑顔……貴重でしたわ……」
思い返しては、ふぉぉぉぉぉ、と萌え萌えしていると。
「何を勝手に新婚カップルを貶めているんですか」
ルーナ王国の妊婦さん定番、ローズヒップのお茶を持ってきてくれるのは、愛しの旦那様ことシドさん。
……現在、工場長補佐の仕事は最低限に切り詰め、リジーちゃんの下僕、もとい従者に戻っておられます。
跡継ぎさんがそんなことでいいのかが、ひたすら疑問なところですが、父ことクローディス工場長は了承しているもよう。
そして、「わざわざそんな」 と一旦は遠慮したリジーちゃんも。
「俺……必要ないんですか……?」 と、ひざまずいたシドさんからウルウルの黒いお目めで見上げてこられ……
負けちゃいましたよ、ええ。
そんなあざとい手段を教えたのは誰なのかしら、全くもう……っ!
と、それはさておき。
「あら。夫婦間のアレコレというのは、何かとあるものよ」
砂糖のどっさり入ったお茶をいただきつつ、世の道理というものを説いて差し上げます。
「むしろ 『あってほしい、でないと羨ましすぎる』 というように聞こえますがね」
……痛いところを突いてくる、旦那さまです。
「……だってっ……!」 我が身と比べたら……、つい……!
「もちろん、リーゼロッテ様には誰よりもお幸せになっていただきたいのよ!
でも、でも、あの方に、これから "アナスタシア様のとろとろハネムーン" 並みの生活が待ち受けてるのかと思うと……!」
ええ、そうですよ!
羨ましいのです!
羨ましすぎて、枕の端を噛んじゃう勢い、なのです……っ!
……リジーちゃんは、こんなに禁欲してるのにぃ……っ!
「誰も、あれほどヤりまくらないと思いますよ」
「え……?」
シドさん、あなたがそれ言うの? ……と、ついついジットリとした眼差しを送ってしまいますとも。
「……忘れたとおっしゃるのかしら。あの目眩く新婚の日々を……」
「うっ……いえ、忘れた、というか、事情が事情だけに……」
記憶の彼方に葬り去ったというか……、と動揺しておられる旦那さまには、ビシリと事実を突きつけて、差し上げますとも!
「ハネムーン行きの馬車で本気の3番勝負」
「う……さぁ……何のことですかね」
何を、しれっと。
「その後、お掃除中に1回、それから夜に暖炉の前で1回、ベッドの中で3時間」
「よく覚えておられますね……」
忘れいでか、でございますわよ、もう……っ!
「翌日はナターシャが来たから、お昼はお休みしたけど、その分挽回で朝までイチャイチャ。
ナターシャが気を使って果物とパンとワインを持ってきてくれて、それを口移しで食べさせあって、そのまま2回戦になだれ込み。
夜はさすがに疲れてお休みかな…… と思ったら、なんとなく触ってるうちに火がついてもう1番。
それから3日目はシドさんが結婚前に作ってた選べるプランその3 『森の神聖な大樹の下で初体験』 に挑戦しようとしたけれど、意外と寒すぎて失敗…… 不完全燃焼で、帰ってから暖炉を燃やしつつ3番勝負再び……」
「どこまで言う気ですか!」
「ぜ ん ぶ」
「…………!」 ひっ、と息を飲むシド。
さもありなん。
……おそらく今、リジーちゃんの目は据わってるでしょうからね!
「あ、アルデローサ様…… ご乱心ですか……?」
「えーえー。そうかもしれませんわね!」
さぁ、リジーちゃん!
今こそ、このモヤモヤを吐き出す時!
「妊娠わかる前の日までひたすらヤりまくってたのに! わかってから全然、ってどういうことですの……っ?」
「それは……赤ちゃんのために」 たじろぐシドさん。
「それに、妊娠中は身体がお母さんになるから、そういう欲は減退するんじゃ……」
ぴしり。
リジーちゃんの脳内で、維持していた最後の砦にヒビが入る音がいたします。
この……!
前世のみならず、ルーナ王国までをも蝕む母親幻想め……っ!
世の母親がみんな聖母なら、リジーちゃんの前世はあんなに苦労していませんとも!
「ええ。そういう方も、もちろんいらっしゃるのでしょうけどね」
言葉を切って、大きく深呼吸です。
すー、はー……
それはね。私だって、こんなことを言うのは恥ずかしいのですよ。
でも、負けません!
なんたって、悪女ですからね!
「つわりに慣れるに従って、実は、その……」
ついつい、口ごもってしまいます。
……言いにくい、ですねぇ……!
しっかりするんだリジーちゃん!
シドさんとは、何だってちゃんと話して解決すると決めたのですから。
……ここで頑張らないでいつ、頑張るというのでしょうか……っ?
い ま で し ょ !
さぁ、レッツ・トライ・アゲインっ!
「妊娠前より、3倍マシでムラムラしてるのですわ……!」
「え」
お茶のお代わりを注いでくれていた、シドの手が、ぴた、と停まりました。
…………あぁぁぁ……お茶が……
あ ふ れ ち ゃ う …… っ !
読んでくださりありがとうございます!
感想・ブクマ・応援ポイントいつも感謝ですー!
コロナウィルスで色々と大変な事態になっておりますが…… まずはかからないよう、お気をつけてくださいー。
体調悪い方、ご自愛くださいね!ではー。




