144.いざ、ナンチャッテ降霊会!? 眠り込む旦那さまに思いの丈をぶつけちゃう、変態悪女でございます……!
さてこうして1月は26日の昼下がり。
大好きなはずの旦那さまの匂いにまでムッときてしまう、絶賛つわり中の、私ことエリザベート・クローディス。
ただいま、仲良しの工場従業員キエルちゃん改め、自称・人気霊媒師のキエリーラ・エル・カエーラさんと、ナンチャッテ降霊会を実施中、でございます。
薄闇に満たされた、寝室。
カーテンの隙間から漏れる弱々しい冬の日射しが、ベッドに寝転ぶ旦那さまことシドさんのおカラダをほのかに照らしております。
「……マツゲが震えていますわね?」
よもやウソ寝じゃないでしょうね、とツッコミを入れると、キエルちゃん改めキエリーラさんが、ビクン、と引きつりました。
「そっ、それは…… これぞ、催眠術が効いている証! さ、どうぞどうぞ!」
「…………」
「思いの丈を存分に、耳元で語ってください!」
「…………ムリだわ」
「ひぇっ!?」
「耳のニオイが……ムカムカする」
シドさんのまぶたが、強くピクッとします。
慌てるキエルちゃん。
「あの! ここから普通に喋っても、大丈夫ですから!」
なるほど、それは助かりますね。
けれども。
「今までむしろ……大好きだったはずの匂いなのに……これを機に、キライになっちゃったら……どうしようかしら……」
ぴくぴくっ! と動く、シドのまぶた。
「まぁ……今は、ダルいし眠いから、そんなこと、どーでもいーし……」
ふるふると、シドのマツゲが震えます。
「というかね。これだけツラいのに、どーして、おめでとー、とか言われてニコニコしなきゃいけないのかしら」
「…………」 ぴくぴくぴくっ!
「大体、周囲の人は喜ぶだけでいいけど、わたくしはこれから半年以上……あと9ヵ月ほど?……も責任もってコイツをお腹に入れとかなきゃいけませんのに……」
「…………」 ふるっ……と震える、漆黒のマツゲ。
これは、もしかして。
……シドさんは今、リジーちゃんにかかってるプレッシャーを体験中、ということなんでしょうか……っ!?
ならば。
イヤというほど、体験させて差し上げちゃいましょうっ!
「こんなに気持ち悪くてツラいのに、ちゃんと無事に産めるのかしら…… とか、イロイロ考えちゃって不安しかないのに……っ!
『素直に喜ばなきゃヒトじゃない』 『母性に欠けてるハハで赤ちゃん可哀想』 みたいな圧をなんとなく感じるから、一応喜んでみせますけど……!」
「…………」 ぴくっ!
おお、またシドさんのまぶたが動いています。
これは、もしかしなくも。
絶賛・体験中、というわけですね、そうですね!?
……ならば。
もっと、ガンガンと、味わってくださいませ……っ!
なにしろ、リジーちゃんは悪女なのですからね!
善女なら普通に心の底から喜べるのかもしれない事態も、悪女には負担なのですよ!
「シドさんまでが…… というかシドさんが一番、ホケホケと喜んでおられて、それはそれで、嫌がられるよりは良い、とは思うのですけれど。
でも、でも……っ!」
ここで、魂のシャウトです!
「愛しいはずの旦那さまが、ちっっともこっちの事情をわかってくださらないと思うと!
原因作るだけ作っといて、苦労はこっちに押し付けて、ひとり幸せイッパイ、って。
どういうコトなのですか……? などと思うと!」
「…………!」 ふるふるふるっ!
よしよし。
シドさんのマツゲも、イイ感じに、しっかり震えておりますね。
では。
魂のシャウト、 最 大 出 力 。
「かわいさ余って、憎さ、100倍……っ!」
「…………!」 ぴくぴくぴくぴくぴくっ!
激しく痙攣する、シドさんのまぶた。
よしよし。
存分に味わうがイイのです。
……この、周囲に人がいても、誰も理解してくれない孤独感を……っ!
「もー! 側にいてもわかってくださらないのなら、クサイだけ、なのですわ!!
どーしても、腹が立っちゃうのですわ!!
どっか行って、くださいませ! なのですわ……っ!!」
…………あ。なんだか、涙が出てきちゃいましたよ。
これぞ、マタニティブルーというヤツですね!
「でも、でも、せっかく喜んでくれてるのに!
こんなこと言って、サイテー女とか思われて、嫌われて、浮気とかされたく、ないのです……っ!!」
だからひとりで、引きこもるのが一番マシ、という消去法的な考え方…… ああ、うっとうしい……っ!
こんな私は、リジーちゃんじゃないのです!
ただの前世を引きずる、イヤなバカ女なのです……っ!
ううう。
こんな風にはもう2度とならないと、この世に生まれ出でた時に決めて、これまで悪女張ってきたはずなのに……っ!
もうっ!
何もかもがイヤなのですぅ……っ!
うううう。
……あれ?
なんだか、本気で泣けてきちゃいましたね!
……泣く? 泣いちゃう?
いつ泣く?
い ま で し ょ ……!
「ふぇぇぇぇんっ! ええええーん!!」
相変わらず、見る人の心臓をズキュンと貫く悪女泣きはマスターできないリジーちゃん。
…… でもまぁ、キエルちゃんの前なら、いいですよね。 ……
と思ったら、あれ?
キエルちゃん、いつの間にか、居ませんねぇ?
「ぅわぁぁぁぁんっ!」
もう帰っちゃったのかしら。
……などと気にしつつも、お子さま泣きを続けます。
と、しばらくして。
「ん……?」
なんだか、頬に湿ったものが!
しまった。
涙で目は見えなくなってますが、これは、もう。
ニオイで、わかっちゃいますね……!
ついウッカリ、シドの接近を許してしまった、ことが……!
(ううっ……シドさんにムカムカしたくないのに……っ!)
クサい。
そして、この、頬をなぞる唇の感触から、わかっちゃいますね!
ついウッカリ、懐かしの秘技・涙ススリをされていることが……!
シドさんたら。
リジーちゃんはこんなに変わっちゃったのに、相変わらず変態さんなんだから、もう……っ!
(うう……。口を開くと、スゴいこと言っちゃいそう……)
どう、対処したものでしょうか。
困っちゃいますねぇ……っ!?
と、次の瞬間。
肩周りと後頭部にぎゅうっ、と掛かる、シドさんのお腕。
すなわち。
大平原のようなお胸に、リジーちゃん、顔を押し付けられております。
……クサい。
体臭を誤魔化そうとしてか、珍しくシトラス系の香水などつけてるので、ニオイ刺激が倍増…… なのですっ!
けど。
……なんだか、落ち着く、ような……?
少なくとも、先ほどまで感じていた強烈な孤独感が、和らいでおります。クサいけど。
「わかりました」 頭上から降ってくる、シドさんの声。
「俺は俺で、好きなようにさせていただきますよ」
首筋に、キスの雨。
「やぁん……っ! もう……っ!」
いったい、この態度の、どこが、わかってる、と、いうのでしょうか?
「ガマンはしないことに、しました」
「あっ……あんっ」
お耳の上部が、甘噛みされております。
チョロチョロと舌で外縁を濡らしながらの。
「いやぁん……っ! おしりはやめて……っ!」
イケナイところに攻撃、でございます。
ほんっとうにもう!
最低ですね、シドさん……っ!?
「……ぁんっ、もうっ! やめてくださいませっ!」
この世のどこに、敏感な妊婦さんにセクハラする旦那さまがいるというのでしょうか……っ!?
もう、改めてイライラ、しちゃいますよ!
「うっとうしいです……!」
あ、言っちゃった。
しまった、と見上げると。
シドさんの黒いお目めが、微笑んでおりました。
「ほら、そういう風に、ちゃんと言ってくだされば、いいんですよ」
「……言わなくても、察してくださいませ……っ!」
「残念ながら、それは無理です」 再び、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる、シドさん。
「生態が違いますので」
「……なんって、言い様なのかしら……!」
「でも、努力はします。一緒に」
……ああ、まぁ。
それが、精一杯でしょうね。
なんたって、生態が違うんですもんね! (怒)
「……どう、努力してくださるのかしら?」
「たとえば」 ぎゅうぎゅうとリジーちゃんを抱っこしたまま。
「アルデローサ様が引きこもる時は、俺も一緒に引きこもりますので!」
朗らかに宣言する、シドさんなのでした。
……………………
……………………
……………………
………… はっきり言って。
バ カ で す ね …… ?
読んでくださり、ありがとうございます!
感想・ブクマ・評価、大変感謝しております m(_ _)m
なんかトイレットペーパーまでがついでに姿を消してることに、本日ようやっと気づいた作者……トイレの回数を減らそうと決意中ですorz
皆さんもお尻にはご注意くださいー!
そしてもちろん、風邪やら何やらお気を付けて。
では~!




