143.従業員女子と工場長補佐のアヤシイ関係!?……にもかまっていられない、変態悪女でございます!
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今回はキエルちゃん目線です。
時は少し遡り、1月26日の朝。
いつも通り、休憩室の掃除と読み書きの自習をしようと早めに出勤したキエルは……
(た、た、尊い……!)
大変に珍しく貴重なものを見てしまった。
すなわち。
脚を組んで腰掛け、頤に手など当てつつ物思いにふける、麗しの工場長補佐様。
ルーナ王国には珍しい、漆黒の髪と瞳。
印象に残りにくい彫りの浅い顔立ちは、最初のうちはいまいちピン、とこなかった。
けれども、一部の同僚が騒ぎ立ててるのを 『そんなものか』 と眺めているうち、なんだか美人に思えてきた…… その顔が、今。
深い憂いを帯びて、沈んでいる。
一部同僚が見たら涎を垂らかすこと間違いなし、だろう。
――― ちなみに彼女らは当初、しきりに彼にちょっかいを出しては、蔑みきったブリザード目線を浴びて心折られていた。
合わせ、お嬢様へのあからさまな犬っぷりに、ドン引く者多数……
今では、数名の特殊嗜好者を除き、彼にコナをかける者はいない。 ―――
どうしようかな、とキエルは迷った。
常日頃は仕事とお嬢様一辺倒の真面目人間による、かなりな希少シーンではある。
しかし、邪魔なことには変わりない。
時間が無限にあるなら、そっとしておいてあげるのだが、残念なことに、始業の鐘はそのうち鳴ってしまう……!
うん、と決意するキエル。
…… ここは、無神経に徹しよう。 ……
「おはようございます!」 わざとらしくも明るい挨拶を心がけて、パタパタと休憩室の掃除を始めるキエル。
「どうされたんですか?」
お嬢様以外はクズだとでも思っているに違いない、補佐のブリザード目線を覚悟しつつ、手を休めぬまま尋ねると。
「…… ああ、キエルさん」 予想外にも、名前を覚えられていた。
そして。
(も、もしかして私のこと……っ!?) などと思う暇もなく、被せられる深いタメイキ。
「…… お嬢様から、心底要らないモノを見る目で、見られてしまいました ……」
ボソボソと訴えられた内容に、キエルは思わず、こうツッコんでいたのだった。
「いやそれ、補佐様がいつも、あの子たちにされてるのと同じですからね?」
★★★★
そして、昼過ぎ。
補佐様の手伝い、という名目で工場を後にし、初めてクローディス家の屋敷を訪れた、キエルこと、にわか霊媒師のキエリーラ・エル・カエーラ。
「いいですか」 お嬢様の寝室の前で、コソコソと補佐に念を押す。
「絶対に、ちゃんと寝たフリしてくださいね?
もしバレたら、全部、補佐様が仕組んだことにさせていただきますよ?」
「わかっています」
同じくコソコソと囁き返されるという、同僚の特殊嗜好者たちから見れば非常に羨ましい状況であるにも関わらず。
キエルの懸念はこっちである。
「リジー様に 『騙したわね』 とか、思われたくないですからね?」
が。
返されたのは、ふっ、という優位に立つ者の笑み。
「お嬢様は、そんなこと思われませんよ」
「……ケムシ見るみたいな目で嫌悪されたくせに……」
「そこまでではなかったです」
「……良かったですね」
ここで帰ってやろうか、と思う一瞬であった。
――― そう。
『霊媒』 のフリをして、妊婦に心の裡を洗いざらい吐かす。
それが、キエルの祖母直伝の、妊娠イライラ解決法なのだ。 ―――
ただし、それが真の解決につながるか否かは、聞く側の度量にかかっているのが、この作戦の問題点である。
「たとえ聞き捨てならないことを言われたとしても、身籠った女の人あるある、と思ってくださいね!」
「……嬉しいことのはずなのに、どうしてそんなにイライラするんでしょうかね」
「それが分からないってのが、まず終わってませんか?」
……リジー様ったら、本当にこんな男でいいのかしら。……
と、少なからず思ってしまうキエルであった。
が、ともかくも。
「……試してみようかしら」
普段のイキイキとしたお嬢様とは程遠い口調に密かに胸を痛めつつ、キエルは 『霊媒術』 を始める。
(どうして 『催眠香の効果で』 とか言っちゃったんだろう、私ったら!)
どう見ても、あらゆるニオイにムッときているらしいお嬢様の前で香を焚くなんて……
「今回は 『催眠香』 は使いません」
できるわけが、ない。
「このキエリーラ・エル・カエーラの催眠術で、見事、補佐様の魂を奥様の体内に導いてみせます……!」
「…………ええ、お願い」
ツッコミ所の多すぎるヤケクソの言い訳であるにも関わらず、すんなり通してしまうお嬢様。
……痛ましすぎる。
「では」
ベッドに横たわった補佐の顔の上で、適当に手を動かすキエル。
「あなたはだんだん眠くなる~、眠くなるったら眠くなる~、眠くなったら魂が、ふわりとカラダから離れますぅぅぅ……」
呪文っぽい物言いを繰り返しつつ (打ち合わせと違っても対応できるはずですよね?) と念じていると。
「ふわぁぁぁ……」
わざとらしく、あくびを連発した挙げ句、キュッと目をつぶりスースーと寝息などたててみせる、補佐。
彼のそんな顔をガン見したことがバレれれば、同僚の特殊嗜好者たちからは確実にシメられそうな気がするが。
とりあえずの彼女の懸念といえば、すなわち。
(……演技、ヘタすぎないですか……っ!?)
そう。
工場長からの信任も厚い、優秀な補佐様のまぶたは、どう見ても。
ピクピクと、激しく震えていたのである……。
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