139.まだまだ続く、悪女の戦い! 極悪最凶の変態よりも、普通のお色気作家を目指します!?
「いいですか。取材というのは飽くまで取材でしょう。
作品にそのまま垂れ流すのは あ ま り に も 芸 が あ り ま せ ん よ ね」
6月は2日午後、カフェ "アクア・フローリス" の店内。
大きな花瓶にどっさりと活けられたた薔薇の陰で、愛しの旦那様ことシドさんにコンコンと説教されているのは、もちろん、私ことエリザベート・クローディスでございます。
目の前には、手つかずのケーキ。
紅茶も、どんどんと冷めていってしまってますねぇ……。
「……でも、あんなにビリビリにすることないと思います」 恨みを込めて、ボソッと呟いて差し上げましょうっ!
「一生懸命書いた原稿だったのに……」
肩をがっくりと落とし、ずぅぅぅぅん、と沈み込んでだって差し上げますとも!
あ、涙出た。
良いタイミングですこと。
「うっ……」
ポタッと手の甲を濡らす雫に、シドが息を呑みます。
ふっ。ザマを見なさいませ!
相手の弱味を握っているのは、旦那さまの方ばかりではないのですよ!
「わ、わたくし……シドさんが口でリボンをほどいてくださったのが嬉しくて……だから、クライマックスは絶対にそうしようとしか、思えなくなってしまって……」
ええ。
これなら、ユーベル先生を打倒できると、確信したのでございます。
「で、でも……俺だって……」
おおっ、珍しくしどろもどろですね、シドさん!?
恥ずかしい?
大丈夫です!
これ読んで、 「ほほう、シドさんったらそんなことを♡」 と思うのは王女殿下とヘルムフリート青年とユーベル先生だけ!
(ジグムントさんには 『妄想』 と主張しておきました)
あとの人にはわかりませんて。
そもそも、己の恥部を曝さずしてなされる創作など、魂籠ってないも甚だしいのです!
そんなんで、人を深く惹き付けるモノが書けるなど、天才以外はあり得ません!
「わたくし、普通のお色気作家ですし……」
「だから何なんですか」
よっし、釣れました!
ここは、ちょっとモジモジとしてみせたりして……(悪女はこんな技も使えるのです)
「シドさん以上の理想など、思い付かないのですわ……っ」
どうだっ!
お目めウルウル & ザ・誉め殺し!
ダブル技を受けてごらんになって!
「う……そんな手には、乗りませんから」
とか口ではおっしゃりながら、微妙に泳ぐ漆黒の瞳。
つまり、シドさん、タジタジですね!
よっし!
も う ひ と 押 し。
「ね……お願い……。わたくしには、シドさんしか、いないの」
「…………」
しばしの沈黙の末、ふぅぅぅぅっ、とタメイキをつくシド。
「わかりました」
「ほんと!?」 意外と早く堕ちましたね!
「シドさん大好き!」
ぱぁぁぁっ、と光が射し込むような笑顔を意識しつつ、ケーキを切り取りお口にあーん、としてあげます。
もぐもぐと噛み締めたケーキを喉へと落とし込み、紅茶をひとくち飲む、シドさん。
「ただし」
「何かしら?」
ちっ……まだ何かあるのでしょうか。
紅茶をもうひとくち飲んだシドは、厳かにこう、言い放ったのでした。
「本番書くのは、これきりにしてくださいね」
★★★★
「というわけで」
明けて6月は3日。
徹夜で書き上げた原稿を、"月刊ムーサ" 編集長ことジグムントさんの前に置きつつ、静かに告げるリジーちゃん。
「これが、わたくしの。最初で最後の、渾身の、本番でございますわ」
「……最初で最後……?」
ぴくっ、と震えるジグムントさん。
「とりあえず、読んでごらんになって」
「では……」
読み進めるうちに、次第にジグムントさんの鼻息が荒くなってきます。
うん。シドにビリビリ引き裂かれる前よりも、反応がイイですね!
「ちょっと、すみません! これ!」
おや。
まだ途中なのにトイレタイム。
駆けていくジグムントさんの背中を見送り、ページを確認します。
あ、これは最初の馬車の中ですね。
そうです。
イチから書き直すことで、現実のスゴくなさを徹底的に排除した結果、めくるめく愛欲の旅を表現することができたのです……!
ジグムントさんの反応からしても、どうやら、 大 成 功 のもよう。
(シドさん、破ってくださってありがとう)
心の底から、感謝の念を送ります。
鬼コーチは、シドだったのですねぇ……。
今後は感謝を込めて、もっともっと、大事にして差し上げましょう。うふ。
さて、そうして、その後。
「いやぁ、素晴らしいですよ」
いちいちの濡れ場でトイレに行きつつ完読して下さったジグムントさん。
「シー先生ならヤってくださると思っていました!」
若干、汗ばんだ手でニギニギとリジーちゃんの両手を握りつつ、「紛れもなく名作です!」 と激賞してくださいます。
「いえー、それほどでもありますわ」
嬉しくなっちゃいますねぇ!
ついついおカラダも、くねくねしちゃいますよ、もう……っ!
「ところで」 そんなリジーちゃんに、真面目な声音の質問が投げ掛けられました。
「本当に、本番モノはこれだけですか?」
「ええ。これっきりにいたしますわ」
「もったいないですよ……!」
おおっ!
ジグムントさんのお目めが、かつてないレベルで真剣ですよ?
なんと、有難いことでしょうか……っ!
けれども。
リジーちゃんには、シドさんの方が大事なのです。
シドさんが嫌がることは、1度だけしかしないと、決めているのです!
(1度は譲歩していただきますけどね!)
「いいのよ」 軽々と微笑んでみせて、差し上げましょう。
「わたくし元々、普通のお色気作家ですし」
それに。
「ねぇ、ジグムントさん。
至高のエロスとは……何かわかって?」
「う……」
詰まっておられますね。
「ねぇ……? お分かりにならないの?」
これでわからなければ、担当編集失格でしてよ!?
そんな意図を込め、似合わない眼鏡の奥のエメラルドグリーンの瞳を覗き込みます。
次いで、快活な口元、日焼けした首筋、シャツの上からでも分かる筋肉……と順に視線で撫でさすって差し上げて、と。
「さあ、そろそろ、わたくしの気持ち、お分かりになるかしら?」
さぁ、ファイナルアンサー!
バシッと答えてくださいませ!
「し、視姦……でしょうか」
なぜ今さら、頬を赤く染めて恥じらっておられるんでしょうか、ジグムントさんったら。
まぁ、よろしい。正解ですからね。
「そう。わたくしの戦いは、視姦モノでユーベル先生を打倒するまで、終わらないのですわ!」
ダンッ、と、靴を脱いだ片足を勢いよく椅子に上げてガーターベルトをちら見せさせ、高らかに宣言する、リジーちゃんなのでした。
読んで下さってありがとうございます!
感想・ブクマ・評価まことに感謝です m(__)m
ではー!
風邪と新型肺炎にお気をつけてくださいね。




