137.スランプの打破方法は、ベテラン侍女に聞きましょう!? スゴい効果に涙目の、変態悪女でございます! ★挿し絵付★
©️砂臥 環さま
かくして別荘にきて6日間が経った、5月は26日。
「……はぁー……」
机に向かいタメイキをつく、私ことエリザベート・クローディス。
この6日間というもの。
―――別荘番の母さんやナターシャ (2日目から合流しました) とお料理したり。
薪割やお掃除をお手伝いしてみたり。
合間にシドさんと長い散歩に出たものの、さすがに屋外は寒すぎて夏にまた再チャレンジを誓い合ったり。
またまた合間に寝室にふたりで閉じ籠って、眠くなるまでコミュニケーションに花咲かせたり。―――
と、普段の夏とはひと味もふた味も違う別荘ライフを送ってきたのですが、しかし……!
(どうやったら……アナスタシア様のとろとろハネムーンが書けるのか、まだまだわからないわ……っ!)
ふぅぅぅぅぅぅぅ。
タメイキ、出ちゃいますねぇ……っ!
なんというか、以前にシドも言っていましたが、すなわち。
(現実よりも、妄想の方が……)
いえね。
シドさんがスゴくない、とか、そんな話ではないのです。
でも……けれども……。
(サルウス・プロスペル・エッケバッハ先生の視姦作品とか、ユーベル先生の "ネーニア・リィラティヌス" の方が、なんだか……)
はぁうぅぅぅぅ……。
かのバイブルたちの数行を脳内再生させ、胸を抑えて熱い吐息を漏らし、身悶えするリジーちゃん。
そう。
現実よりも。
目の前の書きかけボツ原稿よりも。
(他人の書いた妄想の方が、萌え萌えできちゃうだなんて……っ!)
………………どうしよう。
現実を知れば知るほど、『打倒・ユーベル先生』 が遠い道のりに思えてきてしまうのです……っ!
(や、やはりこれは……ユーベル先生に手取り足取り教えを……)
請えるわけ、ありませんよねぇ……っ!
そもそもユーベル先生、人妻には手を出さない主義だし。
その前に、たとえ身を呈して取材しようと思っても、リジーちゃんの範疇はその辺の水溜りより狭小だし。
……どうしたものかしら。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ」
また、タメイキをついたとき。
「あらあら、リジー様」 不意に、背後から声をかけられてビクッとします。
「どうなさったんですの? せっかくのハネムーンですのに」
ナターシャですね!
「そうなのよ、そのハネムーンなのだけれど」 くしゃくしゃと丸めた原稿の上にさりげなく手を置いて隠します。
結婚すれば基本自由とはいえ、ナターシャには 『アブナイ穴棒アーン小説を書いている』 などとバレるわけには、参りません。
ここは、適当に誤魔化さなければ。
「やはり、朝も昼も夜も……となると、なんというか……これが、マンネリ、というものなのかしら……」
「まぁぁぁぁぁ」
目を丸くしつつ、口元にはしっかりと浮かぶ微笑。
『生温い視線』 の変形版と見られます。
ふっっ……!
その程度、秘密を守るためなら、ばっちこい、でございましてよ!
「あの、マンネリなどとシドさんにはおっしゃいませんようにね」
殿方は傷付きやすいですから、と、意外とマジメなナターシャのお返事。
「……そうね。でも……どうしたものかしら」
「な、なんなら……っ!」 意を決したように、拳を握りしめるナターシャ。
「マンネリ打破のために、わたくしの監視の中でしてみるのはいかがでしょう……っ?」
「……ナターシャ……?」
じっと見つめれば、ほんのりと頬など赤らめて目をそらされましたが……意外と、変態なのですねアナタ!?
「そうね……新婚には、ちょっとハードルが高すぎるかしら……」
想像すると身悶え……じゃなくて、アナスタシア様ですからね!
知らない内に覗かれることはあっても、「わたくしたちがするのを監視していて」 とは言いそうに、ありません。
(あ、でも……従者が覗いていることにフト気づいて、より羞恥が増すけれども言えずに……なんてのはありそう!)
おや。なにか、ピコーンと思いついちゃいましたね!
うん、これイイですね!
アナスタシア様の清楚さに視姦 (され)萌えをミックス!
……イケる! イケそう! イク! イキましょう……っ!!
「ナターシャ、ありがとう!」 思わず、ガッシィッ、と手を握りしめちゃいます。
やはり、経験者 (結婚20年) は違いますねぇっ……!
「もっと……! もっと、なにかない?」
急なリジーちゃんの態度の変化に、驚いたような嬉しそうな顔で 「さようでございますね」 と考え込む、ナターシャなのでした。
そして、数時間の後。
「イイですか、シドさん」 今、寝室の扉の外から聞こえるナターシャの声に、緊張して身を固めるリジーちゃん。
普段とは違うスタイルというのが、これほどのドキドキをもたらすものだとは、思いませんでしたねぇ……っ!
「この扉を開けたら、時間はフォルトゥナ祭に逆戻り。恋人どうしの気分で、お楽しみくださいませね」
そうです。
今、この寝室は、フォルトゥナ祭の仕様なのです。
あかあかと燃える暖炉。
壁にほのめく蝋燭の灯。
虹色の髪と翼を持つ、フォルトゥナの使者や雪の結晶のオーナメント。
そして……、そこに膝を崩してすわる (ナターシャの指導です)、リジーちゃん。
身につけているのは、薄手の靴下と、きらびやかな宝玉が細かく縫い付けられたガーターベルト。
だけ。
……というわけではありません!
ちゃんと、ほかにも、つけてます。
全身にまといつく、幅広のリボン。
―――「自分で巻くなら首まわりと、手首、足首程度しかできませんけど……」 せっかくだから気合いを入れてラッピングしましょうね! とナターシャが張り切ってくれた作品……ええ。
すでに、作品です。
首回り、手首、足首はゆるめに。
少しでも動けば、ハラリととれてしまいそうに。
でありながら、イケないところは、その周囲の肌の柔らかさが際立つようにキツめに。―――
隠れてますよ。
見えてませんよ。
けど、けど……っ。
どうしよう。
これで、シドさんから、「ここまで変態でしたとは」 とか冷たい眼差しをされたら、本気で泣いちゃうかもしんない、のです……。
(大丈夫ですよ! 絶対大喜びですって!)
ナターシャの言葉を反芻しつつ、涙をこらえてシドを待ちます。
「では、ごゆっくりー」 笑みを含んだナターシャの声と同時に扉が閉まる音がし、次にゆっくりとリジーちゃんを探しつつ室内へと進むシドの足音。
「……お嬢様?」
背後から、声と同時に息を呑む気配。
(最低の色欲魔とか思われていませんように!) 願いを込めて笑顔を作り、ゆっくりと振り向きます。
「フォルトゥナ祭おめでとう、シドさん……」
「アルデローサ様、なんですかソレは」
「えと……フォルトゥナの使者からの、お、お……贈り物……です、わ……」
あぁ……悪女らしく、しれっとスラスラ言うつもりが!
しどろもどろになっちゃいましたよ、恥ずかしいっ……!
顔が熱くなっちゃいますよ、お目めもウルウルしてきちゃいますよ、もうっ!
「…………!」
数瞬の沈黙を経て。
シドは、ガクっ、としゃがみ込み、「ナターシャめ」 と呟いたのでした。
読んでくださり、ありがとうございます!
2020/6/8 砂臥 環さまよりFAいただきました!
砂臥さま、どうもありがとうございます!
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