132.傷ついた心を癒す甘い魔力! やめられない変態悪女と、なんだかお久しぶりなあのお方、なのでございます!?
てろりと黒光りのする地肌に鼻を近づければ、芳しい香りが五感を高めます。
あまりの愛しさに、ペロリペロリとその輝かしい表皮を舐めあげれば、硬い舌触りが徐々に蕩けていくのです。
耐えきれずに、ぱくんっとその固まりを口いっぱいに頬張ってレロレロと転がし……トロリと溶け出る甘みを、ゴクンっと飲み下します。
「はぁうぅぅぅ……」 思わず漏れ出でる、香り高い吐息。
「す・て・き……っ……さ・い・こ・う……っ…………ん……」
口の中に残っていた後味を喉の奥へと送り込み、コーヒーをひとくち。
ふぅぅぅぅ。やっぱり。
チ ョ コ レ ー ト は 芸 術 で す ね っ !
ちょろり、と舌先で唇を舐めつつ、次の美女を品定めする、私ことエリザベート・クローディス。
時は5月は19日のオヤツ時、処はお馴染みのショコラティエ "ヴェルベナエ・ドゥルシス" 、リジーちゃんは旦那さまことシドさんと待ち合わせ中。
かつ、久々の自棄チョコ大人喰い中でございます。
(シドさん早くこないと奥さん太っちゃいますよ!)
なんとなれば。
先程、"アナスタシア様のとろとろハネムーン" の原稿を、事実上、突っ返されたから。
それは、こんな経緯でございました。
―――原稿を読んだ後の恒例・トイレタイムを済ませ。
我らが大衆文芸誌 "月刊ムーサ" の編集長にして、バルシュミーデ兄弟社の副社長・ジグムントさんは、似合わない眼鏡を中指でクイッと押し上げつつ。
こう、おっしゃったのです……!
『いや素晴らしい! 今まででも一番、興奮しましたよ! さすがシー先生です』
ここまでは良かったんですが。
『けれど、その……』 なにやらもごもごと口ごもっておられますので、『いかがなさいまして?』 と、ドキドキしつつ聞いてみましたところが。
『読者向けの前宣伝と比べると、その、品がよすぎると言いますか……』
『ええ!?』 リジーちゃん、めちゃくちゃ驚きましたとも!
『こんなに、総合格闘技しておりますのに……っ!?』
『確かに、そうなんですが……もう少し、単なるフェチとの違いを出したいところですね。
普段のアナスタシア様なら相手は宝石の精霊ですから、一方的でも構わない、と思うのですが……』
『つまり、相手が生身の人間だと物足りない、と……?』
『そう、それです!』 ほっとしたお顔で、さすがシー先生、とホメてくださるジグムントさん。
『互いの交流が感じられると、より読者の心を惹き付けるモノができると思いますよ』
『……確かに』
『シー先生ならきっと書けますよ!』
信頼しきった瞳で晴れ晴れとした笑みを浮かべつつ、原稿をそっと返す、ジグムントさんなのでした。―――
その後、7月号は原稿お休みにしてユーベル先生との座談会にしますから、という打ち合わせやら何やらを経て、ここ "ヴェルベナエ・ドゥルシス" にいるリジーちゃん。
美女たちを品定めする目も、つい、うつろに泳ぎがち、なのです。
―――なんだかもう、宿題を早く終わらせたい気分で、本番取材しないままに走ってみましたが……
や は り 、 だ め 。
ということ、ですもんね。―――
「ふぅぅぅぅぅ……」
ため息ついて、もう1つ、濃褐色の美女を棒でグイッと突き刺します。
―――せっかく、せっかく……っ
徹夜して妄想に身悶えしつつ、書いたのに……っ!
相互の交流だなんて、いかにも本番経験者でなければ分からないことを……っ!
(きっとサラさんと大いに進展したに違いありませんね、ジグムントさんたら!)―――
艶やかな果実に歯を立て、中から溢れ出す蜜をむさぼりつつ (どうやらブランデー入りだったようです) 、ガックリと肩を落としていると。
「あらぁ、リジーちゃん?」 凛とした中にも華やかさを持つ、よく通る声が頭上から降ってきました。
目を上げれば、そこには、色々な春の花がバランスよく配置された紫のお衣装は、懐かしの春の女神様……すなわち。
我らがコスプレ好きの王女殿下ですね!
今日はヘルムフリート青年はおられません。
「リーゼロッテ様!」 結婚式でお目にかかったばかりなのに、なんだかずいぶんとお会いしていなかったような……っ。
お久しぶりです、と淑女の礼をとれば、かたっくるしいわねぇ、と懐かしいケタケタ笑いが返ってきます。
「シドが見えないけど……迷子?」
「いえ、シドとは待ち合わせしておりますの」
「ではどうして、そんなにしょげておられるのかしら?」
リジーちゃんの差し出す茶色い令嬢のボンボンを、真珠のような前歯で豪快にかじり取るリーゼロッテ様。
うーん滑らかな口どけがたまらないわねぇ、などとコメントを下さりつつ、湖の色のお目めをじっと、こちらに注がれています。
しかし、リーゼロッテ様はまだ未婚の身。
「ありがとうございます。リーゼロッテ様が結婚なさったら、相談させていただきますわ」
「あら。ということは、あっちの方のお話ね!」
物分かり早っ……。
「ええ。そっちの方のお話ですわ」
「うまくいかないの?」
まさかの問いに、チョコレートを持ったまま、ずざざざざっ、と後退りしちゃいますよ!
「……どうしてそんなことまで……っ」
「あら、わたくしも、初めての時は全然うまくいかなかったもの!」
お、お、王女殿下!
まさかの告白ですよ……!?
ルーナ王国の貴族全般はあれだけ 『嫁入り前は云々』 だの 『大衆誌は下品』 だのと、よく分からない何かを大切にしているというのに。
どうして王室がこれだけ自由なんでしょうか……っ!?
「では、もうヘルムフリート様と……?」
「いいえ?」 あっけらかんと言う、青い艶やかなお髪がファサっと揺れます。
「ラズールよ!」
ええええっ!? なんですと!
……あの鬼スズメ、リーゼロッテ様にまで毒針を向けておられたのですね……っ。
「おのれっ、許せません……っ」
チョコレートを味などそっちのけでギュムギュムと噛みしめるリジーちゃんの目の前で、青いウィッグがまたふぁさっと揺れます。
「違うのよ。ほら、わたくしたち大昔に婚約してたでしょう? その時のことよ!」
「ますます許せません……っ!」
きっとリーゼロッテ様が美少年趣味の変態になったのは、ラズール青年のせいですね!
しかし王女殿下の方は、ケタケタと相変わらずの明るい笑い声を立てつつ、チョコレートをあぐっ、と口に放り込んでおられます。
「だから、きっと力になれるわ! なんでもきいて?」
「その前に、今度ラズール様をこらしめてもよろしいかしら」
尋ねれば王女殿下からは、肩をすくめた含み笑いが返ってきたのでした。
「やめてあげて? わたくしは大丈夫よ?
今こうしてリジーちゃんを助けてあげられそうで、嬉しいもの!」
読んでいただき、ありがとうございます!
ちょっと早いですが……
Merry /⌒〇
Christmas (二二ニ) コソーリ
(・ω・`)
_ ∧,,∧._田⊂ ヽ
| .(-ω-`) | .しーJ
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お風邪お気をつけて、よいクリスマスを!




