130.とっても難しい潤滑剤の自動生成! 今夜も気絶しちゃいそうな変態悪女、でございます!
何度も何度も、唇に軽く触れるだけの、唇。それと同時に、大きな手がウエストのくびれや背中をナデナデしてくれます。
「…………」 ああ気持ちいい。
安らぎますねぇ。
うっとりと半眼閉じて身を任せる私ことエリザベート・クローディス。
飼い猫になったような気分、でございます。
と、「…………」
今度は髪の毛に顔を埋め、とっても優しく熱い鼻息をかけてくださる、旦那さまのシドさん。
時はまだまだ5月は16日の夜、旦那さまのお膝の上で戯れ中……もとい。
真面目な、潤滑剤自動生成の実験中でございます。
なんと、シドさんによれば。
潤滑剤自動生成の鍵は、お色気だというではありませんか!
「えっ……つまり、"ネーニア・リィラテイヌス" の本番前のウッフンアッハンは、読者サービスのための無駄な過程などではないということ?」
「いえ、半分はサービスしていると思いますが」 重々しく事実を教えてくださる、シドさん。
「むしろ本番へ向けての重要な過程かと」
ええええ!?
そこまで……っ!?
「知らなかったわ、ごめんなさい」 リジーちゃん、心を込めて謝りましたとも。
「これまで、シドさんったらよっぽど、ウッフンアッハンがお好きなんだと思っていたわ」
毎晩よく飽きもせず、つつき回してくるなぁ、と思っていたのですが……
あれは、潤滑剤を生成するためだったのですね!
毎回その前に、リジーちゃん気絶しちゃいますけどね!
と、まぁ、そんなわけで。
現在のリジーちゃんとシドさんの課題は、こちらでございます。
すなわち。
いかにして、リジーちゃんが気絶する前に潤滑剤を豊富に自動生成し、本番に至れるか。
これ、ですね!
「気絶してしまっては元も子もありませんからね」
シドには気絶した奥さんを襲う趣味はないそうです……後で感想をきかせてくれるだけでも、"(仮題)カレィニン侯爵夫人のとろとろハネムーン" の参考になりそうなものにっ。
けれどもまぁ、嫌なものを無理にリクエストはできませんね。
仕方がない、のです……!
「……っ! ぁんんっ……!」
背中をナデナデしていた指先が、背中の窪みを柔らかく撫ではじめて、ついついロティーナちゃん降臨状態スタート、になるリジーちゃん。
ぎゅっと目を閉じてのけぞります。
それでも、シドの指の動きに、声が甘い艶を帯びちゃうので……と、ここで。
しきりとリジーちゃんをまさぐっていた手がピタ、と止まりました。
「背中はどうも、背骨の両脇ラインのようですね」
「……ええ、そうね」
ふむ、とうなずき、ベッド脇に立て掛けたクリップボードに線を書き込むシド。
覗き込めばそこには 『図解! ロティーナちゃん降臨箇所』 とでもいうべきリジーちゃんの絵姿。
さらっと描いた割にはなかなか特徴を掴んでいて上手です。
「あら、腰の下にほくろなんてあったかしら」
腰の下にあるほくろ、自分では気づきませんでしたねぇっ!
そして、そのほくろの周囲には。
「ぁんっ、そこ……っ!」 といわんばかりに線がぐるん、と描きこまれています。
ふっ、と笑うシド。
「ここの反応も、かわいいですよ」
ここですここ、と正確にそこをツンツンツンツンしてくださいます。
「んっ……らみぇっ」 止めるとさらに嬉しそうに弱点をつつくシドさん。
「……はぁんっ……」 まぁ、シドが喜んでるんだったら……
よ く あ り ま せ ん ね !
「まだ……っ」 ガクガクしそうになるのをガマンして、推定・腰の下のほくろのあたりをさすさすしている手を、押さえます。
そう、まだ。
課題は終わっていないのです!
潤滑剤を豊潤に自動生成し、そして本番っ!
これをしないことには、取材が、進まないのです……っ!
そう、遊んでいる場合ではないのですよシドさん!
真面目な探究が、まだ残っているのですから……っ!
ところが。
「んんっ……舐めちゃ、いや……気絶……あ。しちゃうっ……」
今度はシドさん、背中のくぼみをペロペロしちゃいだしましたよ?
なんっか、腹立ちますねぇ!
「……や、らめ……んっ……」
そうなのです。
リジーちゃんいつも、あまりにロティーナちゃん降臨が続くと、めちゃくちゃイライラしてきちゃうのですよ!
してるのは、大好きな旦那さまのシドさんなのに。
イヤなはずが、ないのに。
「けっこう保ってますよ」 背中の窪みに埋めていた顔を上げて、冷静にシドが言います。
「もし、これで気絶しなかったら、ここから探究が進むでしょう」
それはそうなんですけどね。
正 直 、 も う 無 理 か も …… っ !
とんでもなく黒い、ドロドロした何かが胸の奥に渦巻きます。
―――私に、さわらないで。―――
リジーちゃんの中にいる、小さな女の子が、怒り狂って叫び出すのです。
(ちがうのよ。この人は、ちがうの。大事な人なの)
一生懸命なだめても、なかなか聞いてくれません。
―――いや、いや、いや、いや!―――
だんだん大きくなってくる、声。
どうしてなんでしょうか。
シドは、前世で私に触ってきたク◯兄貴とは全く違うのに。
転生して、全く違う人生を送っているのに。
時は、もう経っているのに。
そんなこと、全部、分かりきっているのに。
どうして、 "前世で小さな女の子だった時の私" が、いまもまだ、こんなにも怒っているのでしょうか?
―――私に触る人なんか、殺してやる!―――
「だめぇぇぇぇっ!」
ひとこと叫んで、リジーちゃんの意識は闇に落ちたのでした。
……ああ、また。
今宵も本番、ならず……っ(涙)
読んでくださいまして、ありがとうございます!
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年末、色々とお忙しいことでしょうが、ご自愛くださいませねー!




