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13/201

13.目覚めた15歳の私は今日も至高の視姦(される側)ワールドを模索中。でもまずは、変態の前に悪女です!

「おーっほっほっほっほ! パンが無ければケーキをお食べ!」


 初恋に出会った夏から1年と少しが経ち、15歳の秋を迎えた私ことエリザベート・クローディス。

 今日も元気に庶民共に残り物をバラまいております。

 もはや飢饉関係なく、月1程度の恒例行事と化しているのですよ。さもしいこと。


 バルコニーの前にはリラの並木。

 秋の陽差しを集めてハート型の葉がすっかり黄色に染まっております。


 そして。

 美しい黄葉の下には、ケーキにありつくさほど飢えてない民衆のほか、叫ぶ私の方をチラ見し、鼻血吹いてぶっ倒れる者たちもいます。


 全くもう仕方のない。


 まぁ、当然かもしれませんけどね!

 なんたって!

 魅惑のガーターベルト、も ろ 見 せ ですからねっ♡


「アルデローサ様、特殊紙がもう1枚、インクもまだ残っておりますが」


 背後から丁寧に声を掛けてくれるのは、子供の頃から兄妹のように育ったお友達兼下僕のシド。

 美少年は儚く消え、今や素敵なバリトンボイスで書字魔法の詠唱を担当してくれている美青年19歳です。


 振り返らずに応える、リジーちゃん。


「だから何?」


「アルデローサ様に劣情を抱く愚か者共へ、ぜひ天誅のお言葉を」


「別に構わないわ。それだけわたくしのガーターベルトが美しいという……」 美しいということよ、と言い終わらないうちに。


「いやぁん!なにするのっ!?」 手摺に上げた足を、下からすくわれちゃいましたよっ……!?

 そのまま姫抱っこで強制回収です。


「もっとあのままで、いたかったのにぃぃぃ!」


 バタバタと手足を暴れさせているのもかまわず、間近からジトーッと目を合わせてくる、シドさん。


「とか言って、連中のエロ目線にちょっと萌えてましたね」


「もう少し見てくれてもいいのに。なぜ皆様、目を逸らすか鼻血吹いて倒れるかしか、しないのかしら」


 唇を尖らせて愚痴ると、シドががっくり肩を落としました。


「昔はあんなに可愛らしかったのに……」


 なんでこんな変態になったんだか、とブツブツぼやいています。

 こういう時は……聞こえないフリ、ですねっ。


 だって、悪いの、リジーちゃんじゃない、もーんっ!


「サルウス・プロスペル・エッケバッハ様が、視姦本をあの1作しか残さなかったせいよ! おかげで物足りなくて物足りなくて、身悶えしそうなの!」


 そう、私に視姦(される側)の素晴らしさを教え変態の道に導いたのは、サルウス・プロスペル・エッケバッハ先生。

 かの大先生は、本業の七面倒な哲学本は山ほど書いておられるのですが……なんと残念!

 小説は、あの1作だけだったのですっ……!


 もう数え切れないくらい読んでその都度萌えまくり、それだけでは飽き足らず豪華写本も3冊作成してみたリジーちゃん。

 そろそろもう少し、別の視姦作品も読んでみたくなってきたのです……!


 しかし、あの1冊ほどに好みに合うものにはまだ出会えていないのが、事実。


 というより、ほかのものなんてカス、なのですよっ!

 視姦する側が、すぐに赤面したりハアハア言ったりモッコリさせたりするなんて、単に下劣なだけですからね。

 そこはあくまで、陶器を鑑賞するような冷たい眼差しで、じっくりとお願いしたいものなのです……っ!


 ああ、サルウス・プロスペル・エッケバッハ様……!

 今生きておられたら、どこであろうと馳せ参じて後10冊は書いていただけるよう猛プッシュするのにっ!


 どうして、50年も前に亡くなってしまったのかしら。

 もう、悔しくて泣いちゃいそうですよっ……!


 涙目になった私を見て、盛大な溜め息をつくシド。


「だからって別に連中に無料大公開までしなくても、アルデローサ様がお書きになればいいじゃないですか。お手のものでしょう」


「サルウス・プロスペル・エッケバッハ様をバカにしないで! そんなに簡単にはあの域に到達できないのよ」


 いえね、確かにそう思って試してみましたけど、全然ダメでした。片鱗のへの字も掴めませんでしたよ!


 透徹したエロ目線を貫くのは、廚2の心で綴る詩の何百倍も難しいのです。


 私は両手を握りしめて青春の主張を致しました。


「でも負けない! 片鱗のへん、くらいまでには、いつかきっと達成してみせるわ!」


 ならガマンしますよ、とシド。でもまだやっぱりジト目続行中です。


「さっさと到達してあの変態行為をやめて下さらないと、ただの無能の変態と見做しますよアルデローサ様」


「実地での真面目な探究を変態だなんて……シドなら分かってくれると思ったのに」


「申し訳なく存じますが分かりかねますね」


 リジーちゃんの奥の手、瞳ウルウル攻撃はやっぱりシドには効きません……うーん。

 なんだか、本当に泣けてきちゃいましたよっ!

 昔は何だって、一緒だったのに……


「どうして? あれだけ一緒に読んだし、写本も一緒に作ったわよね? どうしてあなたは視姦(される側)に目覚めないのかしら」


「……目覚めて一緒に萌萌してほしいんですか?」


「うんっ! してくれる?」


 何でも共通の趣味仲間がいるというのは、きっと楽しいことに違いありません!

 そういえば前世でもネ友と『見えにくく切りやすいリスカ位置』について論じあったことがあったんでした……あの時、適当に相手に合わせずもっと本音を出していたら。

 いい趣味友になれていたかもしれませんね。

 今更ながら反省です!


 と、それはさておき。

 リジーちゃんのキラキラ目線を受けて、シドは困ったように目を逸らせました。

 実はウルウルよりキラキラに弱い子なのですよね。


 私をそっとソファに置き、隣に座るシド。

 なんだか疲れが見えますねぇ……リジーちゃん太ったのかな。


「では、アルデローサ様が見てみて下さい」


 唐突な提案ですね!

 別に、びっくりではないですけどね!

 なにしろ少年の頃から、変わらぬ天然下僕体質のシドのことですから。


 実地でエロ目線に晒されることでなんとか開眼し、私の願いを叶えてくれようというつもりなんですね!

 いじらしいっ……


 しかし、その提案には。

 1つ、問題があるのですよ。


「その気持ちは嬉しいけど、わたくし如きの駄目線では無理じゃないかしら」


 悪女でも己が分は心得ておりましてよ!


 けれど、どうしたものか、と首を傾げて考えるうち、すぐに良い代替案が浮かんじゃいましたっ


 満面の笑みでシドに尋ねます。


「あっ、お父様とかどう?」


 イケメンパパ、苦み走った美貌がますます魅力的な39歳のすみれ色の瞳に見詰められれば、どんな固く分厚い氷もたちまちに溶けてしまうことでしょう!


 と思ったら、シドの顔面が今まさに永久凍土です。あらら。


「ダメ?」


「絶対ダメです」


「お父様はわたくしが頼めば何でもOKして下さると思うけど」


「俺をどういう世界に導きたいんですかあなたは」


「楽しい視姦(される側)ワールド?」


「ほかに何も目論んでないんでしょうね?」


「そんなわけないじゃないの!」


 いくら私が悪女でも、そんな言い方傷付きますよ?!……まぁ、それはともかく、お父様がダメなら。


「お母様ね!絶対大丈夫よ!」


 天使のような容貌の母ももう35歳ですが、近年ますますお美しいのです!

 若い頃のあどけなさに代わって大人の女性の色気のようなものが清純さの中にもふっと香るようになり、その一挙一動は眼福を超えて魂にまで響くレベル。


 そんな母の目線なら地球温暖化を軽く超え、永久凍土にも余すところなく草木を芽吹かせることでしょう!


 しかしぷいっと横を向いてしまうシドさん。


「旦那様に殺されるからやだ」


「あら! お父様は絶対そんなことなさらないわよ!」 父の名誉のために、声を張上げておきましょうっ!


「せいぜい心の中で深く傷付いて、やっぱりトウのたった40男より美青年の方がいいよな、なんて、いじけて日記にこっそり書かれる程度よ!」


 そうなのです!

 父は普段、愚痴も心配事も人にこぼさず、かつ周囲に当たったりなど絶対にしない、品行方正かつ冷静沈着かつ柔和温厚な人です。


 けれど日記を覗くとたまに。

「同じ人間?」 と疑うほどに、ゴチャゴチャと色んなことが書いてあったりするのですね。


 どうして、リジーちゃんが知っているのか、ですって?


 それはもちろん!

 父の書斎の管理が相変わらずザルだからです、よっ♪


 さて、それはさておき。

 そう言って励ましてあげたというのに!


 なんと、シドときたら、永久凍土続行中ですよ?

 その上、ジト目まで復活させちゃう始末。


「そこまで分かっていながら……オニですねアルデローサ様」


 何を今更。当然でしょうに!


「だってわたくし、変態の前に悪女ですもの!」


 胸を張って言い切る、リジーちゃんなのでした。

読んでいただきありがとうございます(^^)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『お姫様抱っこ』の威力よ……。 [一言] パンがないのでケーキを振る舞う悪女。サイコーです♡ ガーターベルトに何気にドキドキしてしまいました。
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