128.編集長と味わうチョコレートは秘密の味!?変態悪女も張り切っちゃいます!
「あしっ」 いきなり力説されるのは、活版印刷所・バルシュミーデ兄弟社の副社長ことジグムントさん。
大衆向け文芸誌 "月刊ムーサ" の編集長もしておられます。
「太ももの滑らかな稜線と、ふっくら優しいふくらはぎ、それらをつなぐ白磁の膝と、深淵なる膝裏のくぼみ……っ!
なんとも言えぬまるみを帯びたくるぶしと踵、真珠のような足指、やわらかな足裏。
踏まれたところから草木が萌え出で花も開こうかというものですね!
女性のあしこそは、神の造りたもうた芸術に違いありませんね! シー先生!」
「あら、それをおっしゃるなら」 王女殿下っぽく小首をかしげ、チョコレートにピックをグサリと突き立てる、シー先生こと私ことエリザベート・クローディス。
時は5月は16日、所はショコラティエ "ヴェルベナエ・ドゥルシス" 外のイート・スペースでございます。
「髪も、お目めも、唇も、耳も。お胸もおヘソも二の腕も手も、お尻もお背中も、ではございませんこと?
それに女性だけではなく男性も」
「確かにそれはそうですが……っ」 なぜか悔しそうなジグムントさん。
「シー先生がイケないのですよ! こんなにアナスタシア様を魅惑的にするから!」
「うふふふふ」 やぁん。照れちゃいますねっ!
ジグムントさんたら、ほんと誉めリストさんなんだからっ。
でも、ここは悪女らしく、サラッと受け流してしまいましょうっ!
「あらだって、それがお仕事ですもの。細部に至るまで美しさを表現し、世の老若男女を誘惑し困惑させつつも魅了し、変態の道に引き込むのがわたくしの使命ですわ」
ついでに、しれっと大きく出てみましたよ!
本当に、こうありたいものですね!
まだまだ、書き足りないのです……っ!
ジグムントさんも感銘を受けてくださったもよう。
「シー先生!」 ぐぁっし、と握手しかけて、リジーちゃんがチョコレートを持っているのに気づかれ、ささ、と勧めてくださいます。
「どうぞ、召し上がってください! そして……」
「そして?」
遠慮なくチョコレートをかじりつつ、ジグムントさんを見ます。
はぅぅぅ。春のフレーバー "すみれ" 、詩情あふれる味わいに、童心に帰れちゃう気がしますね!
今なら何を言われても、ばっちこい……
「アナスタシア様の本番もよろしくお願いします!」
……ごくん。
し、しまったぁぁぁっ!
急なフリにびっくりして、せっかくのチョコレートを味わいきらずに飲み込んでしまいましたよっ!
舌の上でトロトロとろかしつつ、ゆっくり喉に送り込むのがリジーちゃん流・チョコレートのお作法なのにぃぃぃっ!
一方のジグムントさん、期待に満ちた澄んだお目めをこちらに向けて、ワクワクとした口調です。
「新婚5日目ですし、そろそろ取材も順調でしょう?
いえ、詳細はお尋ねしませんが」
「……それは有難う存じますわ」
「お聞きしなくても、原稿いただけば分かることですしね!」
清々しく言い切られても……うーん。そうだ!
扇をパチリと半開きにし、チョコレート2口目でモゴモゴのお口を隠します。
「あら、現実なんて大したことではなくてよ」
「そうなんですか」
「そうですとも」
いつだったか、シドさんも言ってましたしね!
それに実際、大したことありませんしね!
だってリジーちゃんまだ、本番ヤってないもん、ね……。
……………………
……………………
……………………はぁうううううう。
どぉしよう。
このままでは、ジグムントさんにも、シドさんにも申し訳が立ちませんね!
しかしここは!
「神が人間に与えたもうた想像力と創造力が、どれだけ実物を凌駕するか、わたくしのペンで示して差し上げるわ!」
「おおおっ! さすがです!」
パチパチと拍手するジグムントさん。
「おーっほっほっほっほっほ!」
高笑いもバッチリ、決まりましたねぇっ!
「期待してますよ!」
「ふっっ。任せてくださいませ!」
春のフレーバー "すみれ" 最後のひとくちを口に放り込み、今度こそ、がっちり握手を交わすリジーちゃんとジグムントさん、なのでした。
「と、このようなわけで」 その晩、だんな様ことシドさんの前で正座し、三つ指などついてみせるリジーちゃん。
(ちなみにルーナ王国に正座の風習ありません。)
「今夜こそは宜しくお願いしますわ」
いただいた原稿料全てはたいて買った、プレタポルテの薄いオーガンジーのネグリジェ(大事なところ以外は全て透けてます)1枚、といういでたちでございます。
これでドッキンばっきゅんできないはずが、ありませんよね!
さぁ、今夜こそは!
その気になっていただきますとも!
「……というか」 対するシドさんはあくまで冷静、でございます。
それ風邪ひきますよ、と肩掛けなど出してくれつつ、リジーちゃんのスケスケお胸に注目されているのに……
も、もしかして。
渓谷の深さが足りない、のでしょうか……っ!?
シドさんが重々しく宣いました。
「あなたが毎日、本番イク前に気絶するせいでしょう、アルデローサ様」
「そ、そこを何とか……っ!」
でないと、せっかくの新たな分野への挑戦が!
ユーベル先生の大っぴらにイヤらしい小説の二番煎じになって、しまいます……っ。
悪女のプライドにかけて、ダメ、絶対。
「あなたが慣れるしかないですよ、アルデローサ様」
「そんな悠長なことしていられないわ!」
いつになったら慣れるか、だなんて、分かったものじゃありませんからね!
「とは言われても」
「こうなったら、もう……!」 覚悟を決める、リジーちゃん。
「アチコチ触ったり舐めたりしなくていいから、いきなり本番でお願いします!」
そう、これなら!
気絶せずにイケるはず、ですよね!
しかし、シドさんは氷のような眼差しで 「却下です」 と言い放ったのでした。
読んでいただきありがとうございます!
他の作品を書いててご無沙汰しておりましたが、今日からまた、週2~3ペースで更新していきます。
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