127.結婚後、無償の奉仕に勤しむ変態悪女! 嬉しいニュースに張り切っちゃいます!?
「1冊」と差し出される手に、銀貨と引き換えの "月刊ムーサ 5月号" を丁寧に載せ、笑顔で 「ありがとうございます」 とご挨拶する、私ことエリザベート・クローディス。
時は街のそこここでリラの花も香り始めた5月は16日、所は活版印刷所・バルシュミーデ兄弟社前、でございます。
現在、売り子のバイト中……なワケではなく。
"月刊ムーサ" 発売日(15日)をわざわざずらして、アナスタシア様の脚フェチ原稿を届けに行った、ところが。
なぜか本日もそこそこ忙しそうに売り出し中だったので、お手伝い、というワケですね。
「すみませんね」 後で "ヴェルベナエ・ドゥルシス" のチョコレートでも御馳走しますから、と申し訳なさそうなジグムント副所長さん。
「今月から刷数を増やして、2日間店頭販売にしたんですよ」
「いいえ」 言いかけてお客さんに気付き、対応するリジーちゃん。
前世でも今世でも、こういうバイトはしたことがなかっただけに。
「新鮮で楽しうございますわ。それに、売れ行きがよろしくて何より」
本音でこんな善女っぽいセリフが出てくるなんてっ。
アイデンティティーの在り処に悩んでしまいそうですが、楽しいんだから仕方がない! のです。
善悪の枠を超え、楽しみたいことを自由に楽しむ。
これぞ真の悪女でしてよ……ふっっ。
などと、内心で誰かに向かい、余裕の笑みなど浮かべてみせちゃったりも、してみましょうっ。
と。
「ムーサ、1冊」
今度はジグムントさんの方にお客さんです!
のんびり話はできるけれど、まとまった作業はできない。そんな間隔ですね。
ジグムントさんが対応している間、机に平積みされた本を整えます。
「そうそう、社長が女性向け "ムーサ" の検討に入ってますよ」
またお客さんの途切れた間に、さりげなく教えて下さるジグムントさん。
「まぁ! 嬉しいニュースですわ!」 思わず、両手でジグムントさんの手を握ってブンブン振り回しちゃいますよっ!
「ありがとうございます!」
「いえいえ。シー先生のお力ですよ」
「わたくしの?」
「王妃様から『楽しみにしておりますわ?』と言われたらしくて」 ジグムントさん、半分嬉しく半分苦笑、という微妙な表情です。
「かなわんな、としぶしぶでしたね。本を読むなど貴族のご婦人方だけなのに、と」
「あら! それなら」 えっへん、と胸を張るリジーちゃん。
「我が家の工場では、希望者に少しずつ、字を教えているところでしてよ」
新婚だからって、毎日イチャイチャしてるわけではないのですよ!
……少なくとも、日中は。
最近はほぼ毎日、 "休憩室deリジーちゃんCafe" で字の読み書きを教えているのです。
「きっと刊行の頃には、多くの女性従業員が読者になるに違いありませんわ」
そして……
イケメン変態鉱物学者の萌えや、小規模事業所にて繰り広げられるアブナイ兄弟愛について、皆でお茶を片手に語り合うのです!
そんな日もきっと、いつか来ることでしょう……っ!
そんなことを考えていると、売り子のお仕事もより、はかどるというもの。
満面の笑顔で元気よく 「ありがとうございます!」 とご挨拶です。
ふふ。今の人、真っ先にアナスタシア様のページを開けてましたよ?
テンション上がりますねぇっ!?
うふふふふ。
こうして、そこそこ忙しく働いているうちに日が中天を過ぎ、やっと客足が途絶えがちになった昼下がり。
「おおっ! またしてもアナスタシア様のおみあしが拝めるとはっ!」
おふぅっ、おおおぅっ、などと、アヤシイ声を上げつつ、立ったままでかじりつくように原稿を読んで下さるジグムントさん。
基本ホメリストの編集長さんとはいえ、この時ばかりは緊張しますねぇ……。
しかも、ガチでリジーちゃんがいちばん弱い部分(シドさん評)の描写でしたから……。
もしかして、それがジグムントさんにバレちゃったら恥ずかしすぎると、その点でもドキドキなのです……っ!
「い、いかがでして?」
読み終えて、ふぅぅぅっ、とひと息つくジグムントさんに恐る恐る確認すれば。
「ちょっと、これ持っててください!」 手渡される原稿の束。
「売り子も宜しくお願いしますぅぅぅぅっ!」
叫びつつ、屋内に駆け込む大きな背中……恒例、トイレタイムですね!
ということは、たぶんOK!
良かった、今回も無事に脱稿できそう、なのです……っ!
「いらっしゃいませ! 何冊になさいますか!?」
嬉しくなって、お客さんに元気の良すぎる挨拶をしてしまう、リジーちゃんなのでした。
読んで下さり、ありがとうございます!
感想やブクマ評価、まことに感謝です。
寒いですね。お風邪お気を付けて~!




