123.披露宴でのアレコレに、驚き戸惑う変態悪女! 失敗した感も山盛り、だけれど負けません!?
かくして時は5月は11日の昼下がり。
「では、我らが美しい花嫁、それに花婿にご入場いただきましょう!」
王宮ホールに響いている、砂糖とクリームてんこ盛りのロイヤルボイスに、扉の手前で思いっきり引く私ことエリザベート・クローディス。
「どうして司会がラズール様なのかしら」
「王女殿下と相談して決められたそうですよ」 リジーちゃんのだんなさまことシドさんも、少し複雑な表情です。
「ラズール様はお1人での参加ですし、艦上で鍛えておられて声も大きいから適任ですし。お嬢様へのサプライズにもなるからと」
「王族って……どうしてこんなにぶっとんだ方々ばかりなの……っ」
ラズール青年、言わずと知れた王族・公爵家のご令息。
そんなお偉い方が司会だなんて……会場に集まる皆様に何か思いっきり誤解されそう!
リジーちゃんはいいけど。
もし 「クローディス家は王家と特に親しい」 みたいな噂が広まれば、父やシドが対応に困らないかしら……などと、珍しく心配してみたというのに。
「類友でしょう」 ケロリと言い切るシドさんです。
「それに、特に損になることもありませんからね。堂々としておられたら良いですよ」
「……そうね」
なんか置いてきぼりにされた感が……っ!
やっぱり 「結婚式なんて興味ないわ」 と放置していたのは……失敗、でしたね。今更ですけど。
ホール内には相変わらず、余裕綽々の甘々ロイヤルボイスが響いております。
「……おや。お2人は恥ずかしがっておられるようだ。では皆様で呼んで……」
いやぁぁぁぁっ!
コールの中での入場なんて、恥ずかしすぎるっっ!
「シド、行きましょう!」
慌ててシドの腕をとる、リジーちゃんなのでした。
さて、こうして足を踏み入れたホール内は。
並ぶ白いテーブルクロスの真ん中に、緑と白を基調にした薔薇の飾り。
時々アクセントに入れられているエニシダの黄色やローズマリーの薄い青も可愛らしいのです。
同じ花が、バルコニーや階段の手摺を彩っています。
爽やかでおしゃれ、さすが王女殿下コーディネート!
……と、そちらにばかり意識を集中したくなるほど、中央の席を占めるのは、ほぼ。
知 ら な い 人 ば か り 。
つまり、もしかしたら工場経営の勉強で名前は覚えたかもしれないけれど。
顔 は 見 た こ と な い 人 ば か り。
リジーちゃんの親戚やお友達は、割かし隅の方に固められています。
(ちなみにリーゼロッテ様はじめロイヤルファミリーの方々も、自ら 『今日はただの友人ですから』 と端っこの席をとられました。)
……まぁ、ね。この宴での主な目的は、工場の跡取りのお披露目、ですからね。
仕方がないんですけどね! ……ぐすん。
入場して最初のお仕事は、来賓への挨拶周り。
雪の結晶の形の砂糖菓子をたくさん入れたバスケットを持ってテーブルを回り、ひとりひとりに手渡す、ルーナ王国ならではの風習です。
バスケットを持つのはシドさん、手渡すのがリジーちゃん。
「こちらが契約農家の……」 と、テーブルを巡る間にシドが小声で教えてくれるのが助かります。
「シドさん皆様のお顔、ご存知なの?」
「席次で覚えましたから。顔は、商売に同席したことのある方しかわかりませんよ」
……帰りたい。
なんとなく、そう思いつつ、久方ぶりの笑顔仮面を顔に貼りつけます。
そう。
シドのためにも父のためにも、ここは頑張りどころ!
前世で笑顔仮面をばっちり習得しといて良かった、のです!
長い間無駄だと思ってきたけれど、それも今日この時のためだったのかもしれませんね!
けれども、テーブルを回っていくうちに。
「おめでとう!」 「きれいな花嫁さんから幸運を分けていただけて、嬉しいですよ」
半分以上タテマエかもしれないけれど、ほとんど顔も知らない花嫁をイイ笑顔で祝って下さる方々……
なんだか、有難いですねぇっ!
本当に、嬉しくなって、きちゃいますねぇっ!
「ありがとうございます!」
いつの間にか、仮面じゃない笑顔になっちゃってます。
そして、どうしてだか、戻せないぃぃぃっ!
どうしよう。
仮面笑顔には自信があるけど、地の笑顔にはそんなに自信、無いんですよねぇ……
歯見せすぎじゃないかとか、目細めすぎじゃないかとか、色々心配。
と、シドさんがまた、耳元に口を寄せてきました。
「今のお顔がいちばん、可愛いですよ」
「それは、見慣れているからでしょう!?」
小声でツッコミ入れながらも何だかほっとしつつ、次はやっと、工場の従業員皆様のお席。
ここは有志の方々ばかりなので、少し安心です。
"休憩室deリジーちゃんCafe" 常連のキエルちゃんも来てくれていますね!
「ありがとう。幸運をどうぞ!」
心を込めて雪の結晶のお菓子を差し出せば、キエルちゃんも嬉しそうです。
良かった!
前に何か隠れてコソコソやっている所に遭遇して、少し気になってたんですが……たぶん思い過ごしですね!
こんな素直な表情を見せてくれる子が、悪いことをするだなんて、きっとそんな確率低いはず!
そう思えることが嬉しくて、ますますニコニコしちゃうリジーちゃんに。
「私たちからも、お嬢様にプレゼントがあるんですよ!」
キエルちゃんは両手で、艶やかなリボンをかけた箱を差し出してくれたのでした。
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では、お風邪などにお気をつけて~m(_ _)m




