120.ついに進退窮まる変態悪女!結婚式は笑顔と涙のバトルなのです!?
花嫁の控え室は、花婿とは別。
うーん初めて知りました、と神殿にて感心する私ことエリザベート・クローディス。
時は5月は11日。
リラ冷えで雪がハラハラ舞う中、父の御する馬車で神殿に到着した直後のこと、でございます。
「さぁいよいよお式!」 と入れまくった気合いを外すかのように 「さぁお支度ですよ!」 とナターシャにこちらに引っ張られたわけですね。
なるほどなるほど、なのです。
部屋に入り、大急ぎでお化粧やドレスを直してもらい、頭にヴェールをかぶって花を飾り、いざ出陣……っ!
「リジー……きれいだよ……世界一きれいな花嫁さんだ」
開口一番にホメちぎってくださるのは、控え室の外で待機していた父。
また新しいハンカチを手に持ち、グズグズと鼻をすすっております。
普段はユーモア溢れる菫色のお目々も、ウルウルと潤い続行中。
何泣いてるの、と思わないこともないのですが……なんだか、それ以上に。
嬉しいですねぇっ!
差し出された肘をとりつつ、リジーちゃんからもホメて差し上げましょう……っ!
「お父様は、世界一かっこいい花嫁のお父様ね!」
そうなのです。
涙でボトボトの情けないお顔なのに、イケメンに見えてしまうのです。
が、ここで父、なんとか、といった感じで口角を上げました。
「それはシドに言ってあげなさい」
な、なんて人格者であられるのでしょうかっ!
さすがお父様!
「ありがとう! 大好き!」
小さい頃から言い慣れた 『大好き』 を心を込めて、もう一度言って差し上げます……と。
「うううっ……」 片手で顔を覆い、肩を震わせる父。
「リジー……! ……リジー……!」
また泣かせちゃいましたね。
さて、それはさておかないけど、さておき。
こんな風に涙涙のエスコートをされつつ式場へと入れば、まず目に入るのが、正面の 『婚姻と貞操の女神』の像と、その前の神官さん。
そこから目を白大理石の床に向ければ、ステンドグラスから射し込む日が落とす、色とりどりの影。
小さい頃は、親戚の結婚式とかでこの式場を訪れると、この万華鏡のような影が次第に移ろうのを見るのが楽しみだったのです。
が!
まさか、花嫁の立場でこれを見る日が来ようとは……リジーちゃん、今の今まで思いませんでしたよ!
沈むような赤や青、きらめく緑、明るい日差しそのものの黄が、なんだか目に沁みます、ねぇ……。
さて、ここで、式場の斜め向かいの扉が重々しく、開きます。
現われたのは、淡く柔らかなグレーのドレスがその美しさをさらに引き立てている天使様、すなわち、言わずと知れた母。
その後ろに、シドが続きます。
式場の中央あたりでちょうどカップルが合流して、正面の女神像+神官さんの方に進み、神官代理で女神様の認可と祝福を受けて婚姻成立、といった流れですね!
式場中央で予定通りシドと並び、前を向いて神官さんに一礼。
普段はシンプルなスタイルの神官さんもこの時ばかりは、女神と同じく冠を被り孔雀の羽を持った……ぷぷぷっ(笑っちゃダメ!)……凛々しいスタイルなので……ぷぷぷぷ(だから笑わない!)
はい。
シドさんといよいよ結婚、が感慨深くて、抑えてもつい、ニヘニヘしちゃうリジーちゃんです(神官さんが面白いから、ではないので……ぷぷぷぷっ! 笑)。
「お嬢様」 シドも珍しいくらいイイ笑顔。
少し目が潤っている気がするのは……もしかして、感涙というものでしょうか!?
いやーん、と想像して萌え萌えするリジーちゃん。
実情は目に埃が入ったとかそんなのでしょうが、イイんですよ、別に!
だって、次にはどうせ、「盛りすぎ……」 とか言ってくるに違いな……
「キレイですよ。誰よりも、あなたが」
……ん? シドったら、今、何て言った!?
「あなたが、いちばんキレイです。お嬢様」
のおおおおぉぉぉぉ……っ!
シドさんが、また……っ!?
これは、引きますねぇっ……!
「大丈夫? へン」
恒例・頬ペタしようと伸ばした手……ああっ!
シドさんに、捕まえられてしまったぁ!
どうしようっ!
「ヘンなものは食べてませんし、お腹も痛くありませんし、コーヒーは一滴も飲んでません」
そんな丁寧に否定されちゃったら……!
どう反応していいか、わからないじゃないですかっ!
反則! シドさん反則なのです!
そのまま、シドの顔が近づいて、耳を呟くような声がくすぐります。
「初めて会った時からずっと、あなたしか見えなかった」
「…………!」
どどどど、どうしよう! シドさんがおかしいっ!
……そして、リジーちゃんの罪悪感をバシバシに刺激してきますよ!
あぅぅぅぅぅ……
12年超し、まじだったのかシドさん……ごめん、リジーちゃんの方がたった3ヵ月でごめん。
いやもうだって、誰かと結婚するとか、今年に入るまで考えたことなかったんだもん!
なんたって、悪女だし!
いつか、愛想尽かされてひとりになっても大丈夫、って、ずっと自分に言い聞かせて……
ううううっ……なんだか涙腺が。
な、泣かないもんね!
悪女はこんな試練くらい、軽やかにクリアするのです!
この戦、負けるものか……!
と、ひそかに拳を握りしめたところで。
「うぉっほん!」
神官さんの咳払いが現実に戻します。
あ、早く進まなきゃ。
いつまで待たせるんだ、って感じでしたね今。
慌てて足を前に踏み出そうとした、その瞬間。
シドがまた、素早く囁きました。
「俺のアルデローサ様」
泣きそうなこのタイミングで、耳に唇つけて息だけで言うとか反則ですよ?
シドさんったら……もうっ……!
力が抜けるじゃないですか……っ!
思わず、しゃがみかけたところで、身体がふわっと浮きました。
どうやら、すかさず抱き上げられたもよう。
やや下から見上げてくるキレイなお顔が 「え? まじにご本人?」 と疑いたくなるレベルで優しく微笑んでおります。
さらにさらに!
薄くて形の良い唇が 「キレイですよ」 と動きました。かゆい。
そして、そのままスムーズに、姫抱っこ強制回収スタイルへ移行です!
ああ、神官さんのジト目が気になるぅぅぅ!
「降ろして!」
控えめにバタバタするリジーちゃんのオデコに軽くキスをして、花婿さんは、本日2回目のイイ笑顔を披露されたのでした。
「やっぱり俺たちは、コレでしょう?」
©️秋の桜子さま
なぜいったん抱き上げたかったか?
それはそういうものだからです……!
抱き上げてじっくりキレイな花嫁さんをみたかったのです……!
いただいていたFAを再度載せたかった作者の気持ちも若干伝わったのかもしれませんが(笑)
いつも読んで下さっている方、新たにブクマや評価下さった方、本当にありがとうございます!
お風邪にお気をつけて~




