12.思春期を迎えた私には新たな出会いと別れがありました。でも悪女パワーで新しい扉を開きます!
さて色々とあったものの、いつの間にか無事に14歳の夏を迎えた、私ことエリザベート・クローディス。
思春期ですね!
ついでですがシドさんは、いつの間にか一足先に思春期を終えて18歳になったばかり……悔しいっ!
と、それはさておき。
思春期といえば人生の暗闇と例えられるほどに色々ある時代、ですよね!
リジーちゃんの前世は、思いっ切り闇に飲まれてリストカットや食べ吐きを後ろ暗く楽しんでおりました……
でも今世では! ひと味もふた味も違うのです!
スタンダードな青春とやらを、謳歌して差し上げましょうっ
スタンダードな青春と言えば、そう。
こ・い、でございます。
魚の方ではなく、ちょっと間違えると変になる、あの恋の方でございますよっ。
そして狙い通り!
運命の出会いは偶然に訪れたのでありました。
それは緑に囲まれた高原の別荘。
爽やかな夏の風に白いカーテンがゆらめく……図書室の、書架と書架の間のじんわりと湿っぽい薄暗がり(こういう場所が私は好きなのです)でのことでした。
そもそもルーナ王国にはまだ活版印刷というものがなく(革命は起こりそうなのに時代設定がおかしいって? そんなことはお釈迦様にでもお尋ねください)、書物はかなりな高級品。
ですが、富裕層の知識階級である父は物凄く本好きなので別荘にまで図書室があるのです。
とにかく、その図書室の片隅での出会いに、私の心はすっかり奪われてしまったのです。
それは1冊の本(本ですよ! 人のはずがないでしょう?)。
そして、そこに描かれていたのは、ひとりの少女。
子供から大人の女性へと成長途上に特有の、無邪気さとふっと見せる大人びた表情のギャップ、儚い色気、その伸びやかな美しさ……
といったものが余すところなく、端正な筆致で表現されていたのが、その本だったのです!
少女のちょっとした仕草の描写からも漂い出る独特の透明感あふれるエロティシズムには、女性好きなら虜になり、男性好きでも女性も良いなとちらっと思ってしまうことでしょうっ!
で、それをきっかけに。
百合の世界に足を踏み入れちゃったリジーちゃん……冗談です。
なんとですね。ある意味、それよりびっくりなできごと。
なんと、リジーちゃん、前世では幼い頃からイロイロな目に遭ってすっかり男性恐怖症になっていたのにですね、なんと。
『その作家の、ジロジロと少女を舐め回すように見詰めるスケベ視線』に萌萌してしまったのです!
まさか思春期に1冊の本で視姦(される側)に目覚めてしまうとはっ……
転生すると、色々なことがあるものですねぇ。ふふっ(照れ笑い)。
しかし、ここに力説させていただきましょう!
視姦とは、対象に宿る愛の神を余すことなく見抜き、対象をたとえようもなく美しくまた聖なる命宿るモノに仕立てるワザだということを!
そう、視姦こそは!
至高のエロスなので、ございます!
まぁ、それはさておき。
こうなると、作家様にどうしても会いたくなっちゃいますよね!
そんなわけで、早速。
その日の夕食で、父に尋ねてみましたよ!
(ちなみに夕食はお庭で炭火で焼くバーベキューです。
シドも嬉しそうにパクついてます。健康的な美青年、イイですねっ)
「ねぇお父様。サルウス・プロスペル・エッケバッハさんってどんな方? どこに住んでおられるの?」
リジーちゃんの皿に、せっせと肉と野菜を取り分けてくれつつ、父が聞き返してきました。
「サルウス・プロスペル・エッケバッハ? どこで知ったんだい?」
「図書室で見掛けましたわ! 素晴らしい書物の執筆者ですの」
いきなりですが、ルーナ王国ではまだ、小説家という職業は確立していません。
本の執筆は聖職者の仕事か、または知識階級や劇作家のお遊び的なものなのです。
それが主に写本で一部富裕層などに出回っているわけですね。
なので『作家』もまた、一般的には知られていない言葉です。
「ああ……あれか」
父が今度は母の皿に取り分けつつ、遠い目をします。
もしかして父も、思春期頃に夢中になったのかもしれませんね!
「そう、それです!」
なんだか「あれ」「それ」で通じ合うのって良いですよね!……と思ったら。
「あの書物を読んで間もない頃にお母様に出会って……まるで彼女が本から抜け出たみたいだって驚いたんだ」
いきなり45度ほど違う角度からノロケ出す父。
いえまぁ、よく考えたら御年38歳、若干くたびれた美貌を煙でちょっとしかめてるのがまたキュンとくるイケメンパパが 『作家のスケベ視線に萌』 なんて語ったら天地が10回半転くらいして元に戻らない程の驚きですが……。
でも負けません!
「で、そのサルウス・プロスペル・エッケバッハさんですけれど、どんなお方? 今どこで何をしておられるの?」
「うん、彼は偉大な学者だった。物事を透徹して見抜く目線を持つ稀有なる人物だったといわれている」
うんうん、なるほど。
まさしく、そんな感じですね!
お目めをキラキラさせて聞き入るリジーちゃん。
だって、初恋ですよ!
ぜひその方にお会いして、透徹した目線とやらで、ヌメヌメと余すところなく……見詰められて、みたいものですっ……!
しかしそんなリジーちゃんに、父は残酷な事実を告げたのでした。
「もう50年ほども前になるかな……既に亡くなって久しいはずだよ」
愕然として思わず、くわえた肉を噛まずに呑み込み喉につまらせ咳き込みます。
「幼児ですか」 すかさず、ツッコミ入れながら、力技で肉引っ張り出してくれるシドさん。
咳き込みつつ、何で苦しいのか分からないまま涙ぐむ、リジーちゃん。
ああ……初恋が……
始まる約50年前に終わってしまっていただなんてっ!
そんな昔じゃ、前世でもまだ生まれてないですよ、もうっ!
実はすれ違いどころじゃなかった運命の悪戯っ……でも負けません。
そう、私にはペンがあります。なにしろ3歳から廚2文章、もとい書字魔法の英才教育を受けてきたのですからね!
遠く及ばずながらも、いつかはペンの力できっとかの大作家様のスケベ視線の片鱗くらいは捕らえてみせましょう!
そして、老若男女を1人残らず、悶えさせるのです!
(もちろん一番悶えてるのは、リジーちゃんでしょうけどねっ)
―――リジーちゃんがその晩抱いた野望は、悪というより変態でした。
前世ならばきっと、この想いに蓋をし、見て見ぬフリをして終わったでしょうっ!
しかし今世では、ひとかわもふたかわも剥けちゃってる、リジーちゃんなのです!
他人に謗られることより、親を泣かすことより、心に添わぬ人生を送ることの方が。
よ ほ ど こ わ い
ですよね……っ!?
そう、心のままに生きるためなら。
悪女も変態もばっちこい!
なのですよっ!
おーっほっほっほっほ……!(高笑い) ―――




