116.マリッジブルー?違います!禁断症状が少しばかり出ているだけの、変態悪女でございます!
さて、そんなこんなで5月は8日。
「各テーブルセットはこのような感じよ? お花は、薄いグリーンを基調に、爽やかコーディネートよっ」
嬉しそうに簡単に彩色された図案を見せて下さるのは、我らが王女殿下ことリーゼロッテ様。
「お皿は王宮ホール専用だね……ロティーが王家貴賓用のを出すと言って聞かなかったのだけれど」 にこやかに言いつつ、スッと手を取ってこられるのは、その従兄弟殿こと、無駄に色気の多いラズール青年。
「お姫様はあまり派手でない方が好きだろう?」
「ええ、ありがとうございます」
内心のビックリをなるべく押し隠し、品よくお返事する私ことエリザベート・クローディス。
背後から婚約者のシドさんの、イライラ視線を感じております。
(可愛いんだから、もうっ♡)
ただいま、なんと。
シドと共に、王宮はリーゼロッテ様のお部屋へお呼ばれしております。
久々に見る、イイところもイケナイところも丸出しに舞い踊る、美少年天使たちの天井画……ん?
隅の方のシドさん天使だけ、イケナイところにヒラヒラの白布が描き加えられておりますね!
さすが王女殿下! 気遣いの塊なのです!
……この布描いた画家、やはり後世は『フンドシ画家』とか呼ばれちゃうんでしょうかね? お気の毒……
と、それはさておき。
本題は 『女性向け娯楽誌出版を後押ししてね!』 だとは言い出せないこの雰囲気。
まさかこのロイヤルなお2人組が、自らリジーちゃんの結婚式コーディネートに乗り出されているとは。
今の今まで存じ上げませんでしたよっ……
両親もナターシャやファルカも……誰か、言っておいて下さればよろしいのにっ! とも申せません。
なにしろこれまで、枝毛の先ほども興味を持ってなかったリジーちゃんが、イケないのは明白ですから、ねっ……
「後ね、イロイロと考えてはいるのだけれど……それは本番のお楽しみ、よ?」
リーゼロッテ様がクスクスと楽しそうに忍び笑いなど漏らせば、ラズール青年も負けじとロイヤルスマイルを振りまきます。
「怪しいことは何にも計画してないから、安心して」
わざわざおっしゃるところが、怪しいですねぇ……っ!?
「それで、今日のご用とは、何かしら?」
優雅な仕草で紅茶を1口含み、絶妙な角度で小首をかしげるリーゼロッテ様。
はぁぅぅぅぅぅっ……眼福。
「まさか今更、結婚式のアレコレに興味を持ったワケではないだろうからね? きっと何か、特別な用事だったんだろう?」
このタイミングでなぜか、わざわざ海軍制服(しかも礼装)の首元ボタンを外し、鎖骨の一部を露出されるラズール青年。
これはこれで……がんぷ、
嘘ですシドさん。
そんな尖った眼差しをこちらに向けないで下さいっ
『もー怒りました。しばらく絶対に俺に触らないでください匂いを嗅ぐのも禁止です』の刑が長引くの……
リジーちゃんツラいっ! ツラいのですぅぅぅっ!
隙を見て、つついたり撫でたりしようとしても、スッと逃げられるし。
いつものシドさんの匂いはなんだか、シトラスミント系香水で爽やかに誤魔化されてるし。
トイレの後について入って、残り香を吸い込もうとしても、我が家特製ラベンダーミントの消臭剤で強烈に消されてるし!
そばにいるのに、こんなにも遠い、なんて……っ
リジーちゃん悲しいっ! えぇぇぇんっ(涙)
「リジーちゃんっ?」 リーゼロッテ様の慌てたような声。
あ、しまった。本当に泣いちゃった。
シドさん禁断症状ですねっ……
「どうしたんだい?」
「マリッジブルーでいらっしゃいます」
事情を問うラズール青年に、しれっと答えるシドさん。
な、なんて憎らしいことをっ。
「ええっ?」 ラズール青年、不思議そうに首をかしげられます。
「マリッジブルーなのに、どうして僕が『慰めて』オーラを感じないんだろうっ」
当然です!
悪女がそんなにやすやすと『慰めて』などと言うものですかっ
いくらツラくても、代替品に頼ったりはしないのです!
本物ナマモノ以外は認めなくってよ!
……との、内心シャウトをニッコリと押し殺し、本題に入ります。
都合の悪い部分は省いて、諸々を説明。
「というわけで、リーゼロッテ様、ラズール様にはぜひ、女性向け娯楽誌の発刊を後押ししていただきたいのですわ」
「あら、素敵ね!」 パッと顔を輝かせるリーゼロッテ様。
予想通りっ!
「もしそうなれば第1号には、わたくしも寄稿させていただくわ!」
「「「えええっ!?」」」
シドさん、ラズール青年、それにリジーちゃんの声が重なりました。
びっくりしちゃいますねぇ!
「あら、ただの挨拶文よ」 王女殿下、機嫌よく紅茶に口をつけ、ふふっ、と含み笑いです。
「けれど、きっと、わたくしが書くだけでも、売れ行きが違うでしょう?」
「売れ行きを気にするなら、先に女性用の学校を作った方が良いのではないかな?」 顎に手を当てて小首をかしげつつ、王女殿下に流し目など送っているラズール青年。
(ヘルムフリート様! 軍の用事、とかで不在にしてる場合じゃないですよっ!)
ついつい、その場にいない王女殿下の婚約者様に念を送ってしまうリジーちゃんです。
が、リーゼロッテ様ご本人は涼しいお顔。
やはり、慣れておられるのかしら。
「それが、なかなか進まないのよね」 ふぅぅぅ、と重いタメイキ。
「今は試験的に、わたくしや家庭教師の先生方が臨時教室を開いている段階でしょう?」
ああ、そういえばそんなお知らせを見たことがありますよ!
リジーちゃん行ってませんけどね。えへ。
「前もって、市民の皆さんに告知もしているのだけれども……あまり集まらないのよねぇ……」
まぁね。ルーナ王国には公式の学校というものはなく、それぞれの自助組織、または家庭で、というスタイルなのですよ。
しかし、農家や貧しい家庭、女性はそこからこぼれがち。
誰も 『字が読める必要などない』 と思っているのですね!
王女殿下はじめ、見識の高い王家の皆様は、この状況をなんとかしたいようですが、試みは上手くいっていない、というところなのです。
「だからこそ、先に! 女性向け娯楽誌が必要なのですわ!」 力説するリジーちゃん。
「女性の皆さんが自ら、『読めるようになりたい』 と思って下されば! やがては悪しき慣習は打ち破られるはず!」
「そうねぇ……確かに、そうした面での誘引も必要なのだけれど」 リーゼロッテ様の湖の色の瞳が、とても真剣です!
こんな真剣な瞳は "王様パン" でどのベーグルを買うか悩んでおられた時以来、かもしれません……っ!
「問題は、先立つモノよねぇ……王家も、損失の出そうな話には乗れないのが現状なのよね」
ん?
つまりこれは……王家のバックアップ期待しないで、ってことですかね?
ショックです……っ!
「がぁぁぁぁんっ!」 思わず口に出してよろめく、リジーちゃん。
シドさんが、サッと……身を翻したおかげで。
ドサッと椅子から、落っこちちゃいましたよ、もうっ!
……まだ怒ってるんですか、シドさん!?
それってちょっと、イジワルすぎない?
シドまで、だなんて……
二重のショックですっ!
泣いちゃうもんね!
もう泣いちゃうもんね!
本気の大泣きだもんねっ!
「ふぅぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「ちょっと、リジーちゃんっ!?」
「何してるんだい、君?」
「別に……内輪の話です」
リーゼロッテ様の心配そうな呼び掛けと、ラズール青年の咎めるような声。
それに、シドさんのボソボソとした発言を、どこか遠くに聞きつつ。
天井を舞い踊る、フンドシ付きシド少年天使を眺めつつ。
「ふみゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
さめざめと涙を流す、リジーちゃんなのでした。
読んでいただきありがとうございます!
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風邪が流行ってるようです。
温かくしてお過ごしくださいませ~




