109.呼んでなかったあの人におねだりされる変態悪女!意外なお土産にウッカリほだされて、しまうのです!?
さてこうしてまた少々の時が経ち4月は19日。
「ラズール様、ようこそおいでくださいましたわ」
客間にて、珍しいお客様を迎えている私ことエリザベート・クローディス。
そして。
「なんでわざわざ家に呼ぶんですか」
ボソボソと耳打ちする婚約者のシドさん(リジーちゃんの看病ですっかり元気になりました)。
シドさんの声、少し大きい気がするのは、たぶんわざと、ですね!
ラズール青年に聞こえるように、ですよね。わかっておりますともええ。
「あんヤキモチさんなんだからっ♡」
同じくわざと聞こえるように、ウザい感じに耳打ちし返すリジーちゃん。
嫌がらせか、ですって?
と ん で も な い っ!
ご覧くださいませ、ラズール青年のこの嬉しそうなお顔!
いかにも『美味しいネタ拾えたな。もっとイチャコラしてくれてもOKだよ』的な何かを感じますよ。
そう、これはラズール青年向けのサービスなのです!
断じて、ただウザくイチャついているわけではないのですよっ!
「良い香りだね」ラベンダーとバラの蕾で甘めスッキリに仕上げた花のお茶を1口含んで微笑むラズール青年。
何も言わなければ、さすが王族公爵家、的なロイヤルオーラを醸し出せるお方です。
「これにジャスミンを加えたら、前にリジーが手首にほんの少しつけていた香水と同じになるね?
なかなかソソられたけれど、君本人の香りには負ける……かな」
はい、誤解しないで下さいませね?
これ、日常会話ですから。ラズール青年にとっては。
「あらーおほほほほ」適当な誤魔化し笑いなど披露しつつ、本題に入ります。
「それで『あし』のお話なんですけれど」
使用人及び両親対策でわざと『フェチ』を省くリジーちゃん。知能犯ぽいですね!
ところが。ラズール青年、「え、そっち」とガッカリされています。
「てっきり結婚式に呼んでくれるのかと思ったのに」
呼ばれたかったんですかラズール様っ!
「結婚式は主に親戚と父の仕事関係ばかりですの」
友人近所全部呼んで披露宴する家もありますが、我が家はあっさり地味婚です……心は。
実際には、父の仕事関係が膨れ上がってけっこうな人数のようですが。
父と母が何度も人数を確認してタメイキをつき、エデルベンノさんが宥め……そんな図式を婚約式前後で見たばかりだったり。
「…………」ラズール青年が不満顔を作ります。
社交辞令ですね。
さすが、メチャクチャに見えても実はロイヤルなお方です。
「だって王宮ホールを借りてロティーも呼ぶんだろう?」
「リーゼロッテ様とヘルムフリート様、それにダーナちゃんとヨハネスさん。それからジグムントさんとサラさんも呼んでおりますわ」
「そのメンツでどうして僕が呼ばれないんだろう」
社交辞令しつこいですね!どうしたんでしょうか。
「あらそのようなことをおっしゃっては、本気にしてしまいますわよ?」
扇で口元を隠して揶揄してみれば、おお?
なんかラズール青年が真剣な眼差し!
ついっと伸ばした両手でリジーちゃんの片手をとり、きゅっと包みこみます。
「本気……だよ?」
何度も申し上げますが、この方はこれで日常会話ですからね!
「あらおひとりでいらしても寂しいだけでしてよ?」
しかもアリメンティス公爵家がウチに息子の縁談持ち込んだのは、なぜだか知る人ぞ知るレベルの噂になっているのですよね。
そこに、ラズール青年だけポツンと呼ぶなんて(ご両親も揃えて呼ぶとますます)意味深すぎて怖いですから!
と、ラズール青年、しょぼんと目線を落としていかにもな『寂しんぼ』アピールですっ……ま、負けませんからねっ!?
「だって……僕もリジーの花嫁姿見たかったし……」
ずきゅぅぅぅぅぅんっ!
衝撃に、ウッカリよろめくリジーちゃん。
ま、ま、まだ負けませんともっ!
「あら残念でしたわね。おほほほほー」
嫌みたらしく笑ってだって、差し上げますよ!
「じゃあ……」目線を落とし、寂しんぼさん続行中のラズール青年です。
「お見舞いがてら『ムーサ』4月号持ってきたけど、ナシってことで」
「お呼びしますわ」
しまったウッカリ即返してしまいましたぁっ……!
「なぜ『ムーサ』に釣られるんですかお嬢様」
ガックリうなだれつつ、当然のツッコミを入れて下さるシドさんに「だって不可抗力でしょう?」と返しつつ、いそいそと雑誌を受けとるリジーちゃん。
そうそう、4月号買いに行った時にシドさんが倒れて、それどころではなくなったんでしたね!
こうして、ついウッカリ大衆向け文芸誌に引っ掛かれるのもシドが元気ならでは、です。
「シドさんのおかげよ」ニコニコして芸術三神の描かれた表紙をナデナデしつつ本音を漏らしてみましょうっ。
「ずっとお元気でいてくださいね」
「……それ、関係ありませんから」
おや。シドのツッコミに、ちょっとびっくりするリジーちゃんです。
シドさん意外と自己評価、低いではないですか!
これはイケませんね。
きちんと、教えて差し上げなければ!
きゅっとシドさんの片手を両手で包み、真剣な眼差しをしてみましょうっ
(ラズール青年直伝のワザ、さっそく使っちゃいますよ!)
「いいえ!何事も、シドさんがお元気であればこそ、楽しめるのですわ!」
「お嬢様……!」あ、この『感激しました』フリ、わざとですね。
付き合いが長くなってくると、こんなシチュでもけっこう冷静でいられるものです!
これ見よがしにきゅうっと抱きしめてくるシドさん。
ええ、ラズール青年に牽制かけておられるのですね、バカですね。
(本当にヤキモチさんなんだから、もうっ♡)などと、冷静なのにデレデレしちゃうリジーちゃんです。が。
「じゃあ招待状を貰って帰ってもいいかい?」
ロイヤルな笑みを含んだ滑らかヴォイスにハッとします。
図らずしてラズール青年に『美味しいネタその2』提供してしまったようですね!
……まぁ良しとしましょう。
もう1度扇で口元を隠し、コホンと咳払いしてお返事です。
「いいえ。後でこちらから伺いますわ」
ここで招待状をお渡ししたら、取りにこさせたみたいになって失礼この上ないですからね!
と、シドさんがまた、顔をしかめていますよ?
「やっぱり招待されるんですか」
「それはまぁ、ここまで言っていただいたら仕方ないわよ」
「俺はイヤです」
「大丈夫よ。きっと当日は、シドさん以外目に入らないと思うわ」
聞こえよがしにコソコソと、またしてもラズール青年に『美味しいネタその3』を提供した、その後。
「いや後で『やっぱダメ』とか言われてガッカリするのもイヤだからね。やはり今日、貰って帰るよ」
砂糖まみれクリームてんこ盛りなノーブルボイスはやっぱり少々の笑みを含んで、こう言って下さったのでした。
「心配しないで。リジーの披露宴を狩場にはしないから」
…………いや、まぁ。
彼にそのつもりが無くても、なんですけれど、ねえ?
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