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伯爵令嬢に転生して極悪最凶の変態を目指しましたが、結局は普通のお色気作家になりました。  作者: 砂礫零


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107/201

107.言葉責め、やっぱり苦手な変態悪女!たったの一言で心は崩壊寸前、なのです!?

 さて、こうして4月(アプリリス)は15日の黄昏時。

 寝込んでおられる婚約者のシドさんの額に、オデコをコッツンコさせる私ことエリザベート・クローディス。


 襲っているのではなく、お熱を計っているのです。真剣です。念のため。


「どうしよう……」


 シドさんのお熱、けっこう高いのですよ!

 そりゃそうですよね!

 だって、そうでもなければ、シドさんが……あんな、あんなことを言うはずが……っ!


 と、そこは置いといて、まずは看病。

 ナターシャに持ってきてもらった水で布を濡らし、軽く絞って額に置きます。

 それ以上の手当ては、お医者様が来てからら、ですよね!


 熱は身体が戦っている証拠、下手に冷ますよりは上手にコントロールすることが大切なはず、なのです……気にはなるけど。


「ふぅ……っ」


 完全に眠ってしまったらしいシドさんのお顔を眺めつつ、タメイキなどついてみるリジーちゃん。


 熱くなってる頬を両手で押さえて冷まします。

 ナニを乙女な仕草っ、と自分にツッコミ入れても、耳の奥でシドさんの呟きリフレインが止まりません。


 ……あ、い、し、て、ま、す……


 なんということでしょうかっ!

 こんなチャラいひとことで、史上最高に心が崩壊してるだなんてっ!


 ええ、もうグズグズでございます。

 悪女なのに情けないこと。


(だって……! 言われたこと無かったもん!)


 過去を順々に振り返っても、いっかいも、言われておりませんよ!


 プ ロ ポ ー ズ の 時 で さ え っ !


 な か っ た も ん ね !


 シドさんが普段そんな発言する人じゃないと知っていても、大事な時くらいは言ってくれても……


 と、ここまでウダウダ考えておきながら、急にハッ、と気付くリジーちゃん。


(そういえば、あの頃はっ……)




 その時。

 部屋の扉がトントン、とノックされ、ナターシャが入ってきました。


「お医者さまがお見えです」


「どうぞ」


 ナターシャの後に続いて入ってきたのは……

 大きなカラス!

 ……のようなかっこうをした、お医者さまです。


 鳥の頭のような被り物に黒のコート。

 コスプレじゃなく、本気です。

 伝染病予防のための防護服、退魔の付与効果があるとされています。


 わかっていますけど、笑えますね!

 実際には、笑いませんけどね!


「……どうでしょうか?」


 脈をとったり、瞼をひっくり返したりと一通りの診察を終えたお医者さまに恐々、尋ねます。


 と。

 かぽっ。

 まずは、鳥頭の防護服を脱いで 「ふぅぅぅっ」 と息を吐きつつ、首をコキコキと曲げるお医者さま。


 その仕草、ほっとしたような表情に少し安心します。

 どちらをとっても、どうやら伝染病ではなさそうですね!


「ちょっとした風邪ですよ。普通ならかからないようなものなんですが、過労と重なったんでしょう」


 分かりやすい説明に、だけどもコテン、と首を傾げるリジーちゃん。


「そういえば、10日ほど前から寝不足と申しておりましたわ」


 うん、ずっと、体調悪そうでしたね。ここのところ。

 ……どうして、もっと気遣ってあげられなかったんだろう。


 それってないよね。

 ずっと一緒にいたのに。

 婚約者なのに。

 ちょっと振り返ってみたら、なんだかリジーちゃんの言動、残念すぎるような気さえ、しちゃうのですっ!


 こんなおバカな悪女、ひとりで変態しながら生きていった方がいいのかもしれません……


 ずぅぅぅぅん、と掛け値なしに落ち込んじゃいますよ、もうっ……


「わたくしがもっと早くに、気づいていなくてはいけなかったんですわ」


「というほど重病ではないですよ。2、3日寝ていれば治るでしょう」


 慰めるように、お医者さまが言ってくださいます。


「そうですわね。ありがとうございます」


 大人な挨拶をするリジーちゃん。

 徹底的に落ち込めるのも、シドさんが元気ならでは。

 今はしっかりしなければ、なのです!


「薬も要らないでしょう。しっかり休ませて、栄養とらせてあげて下さい」


 そう言うと、お医者さまは帰っていかれました。


 入れ替わるように父がほんの少し苦味走ったイケメン顔を覗かせます。


「少し休んで、食事にするかい?」


「いいわ、ここにいる」 首を横に振ってお返事です。


「シドさんを放って食事なんかできないもの」


「そうか。なら後で何か運ばせよう」 心配そうにしつつも、うなずく父。


「ちゃんと食べるんだよ。リジーまで倒れたら話にならない」


 わかったわ、と答えると、父は少しほっとしたように 「じゃあまた様子を見にくるよ」 と去っていきました。




 ふぅぅぅぅぅ。


 やっと静かになった自室で、リジーちゃん、なんとなくタメイキ1つ。

 シドの額の上の、濡らした布を取り替えます。


 ついでに髪など拭いてあげながら再び考えるのは、プロポーズしてもらった頃のこと。


(そう、確かあの頃は……)


 ―――まだ、怖いと思っていたんでしたっけ。それにカユイとも。


 だから 『愛ってナニソレ美味しいの?』 みたいなフリをして、できるだけ触れないように、していたのです。―――


 なんだかなぁ、とまたちょっと反省するリジーちゃん。


 ――― シドさんはちゃんと、伝えてくれていたのに。

 口に出してはっきりとは言われなくても、シドの気持ちが分かったから安心できていたのに。―――


 いつの間にかそれが当然になって、してもらうばかり、甘えるばかり、になっていたのでしょうか?


(もっとこの人を幸せにしたい、と思ったはずなのに……)


 思っただけで、どうすればそうできるか、とかは全っ然考えてませんでした、ねぇっ。


 あーあ。ほんとにもう、しょんぼり、ですよっ!


 なんだか自分の頭を殴ってやりたい。

 タライに顔を突っ込んで息ができなくなるまで息止めていたい。

 ロウソクの燃えかすで腕に 『タダのバカ』 とかヤキ入れたい。


 し ま せ ん け ど ね !


 だってリジーちゃんは、前世と比べれば、ひとかわもふたかわもむけちゃってるのです!


 過去を悔いて自分を罰するよりは、次に向けて前進するのですよ!

 頑張るんだもんねっ!


 まずはそう。

 ちゃんと、伝えられるようになりましょう。


 眠っているシドの耳に、ゆっくりと唇を寄せます。

 それを言うのは、まだ相当カユいけれど、もう怖くはありません。


 間違えても、また2人でやり直せばいい。

 シドなら、取り返しがつかなくなる前に、止めてくれる。気づかせてくれる。


「愛してるわ」


 小さく小さく呟けば、カユイというよりなんだか悲しくなってきます。 


(ああ、だから)


 シドはいつも口に出さないんですね。

 どんな言葉でも、心の方が余ってしまうから。


「シドさん、愛してる」 少しだけ大きな声でもう1度。


「一緒に、幸せになりましょうね」


 そう言うと、熱で苦しそうだったシドのお顔が、ほんの少しだけ和らいだように見えたのでした。

読んでいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] >『タダのバカ』 とかヤキ入れたい。 Σ( ̄□ ̄|||)ww やっぱり勇気を出して言うべきなのかもしれませんね (*´▽`*)
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