101.もしかしたら死にかけたかもしれません!?実は過労気味でした、変態悪女でございます!
ふと気がつくと、そこは一面のお花畑。
スノードロップに似ていますが、なんのお花かしら?
見たことありませんねぇ……
すぐ近くに小川が流れています。
フワフワと楽しい気持ちになりつつ、お花をブチブチと摘んでいきます。
切るものがあればラクなのに、と思った途端に、手には花鋏がっ!
スゴいですね! リジーちゃんついに、書字じゃなくても魔法が使えるようになっちゃった!?
変態悪女もここに極まっちゃいましたね!
さて、小川の向こうもお花畑かな?
何が咲いているのか、レッツ・ゴー……
「アルデローサ様」 後ろから急に裾を引っ張られました。
振り返れば、シドが首を横に振っています。
なんだか必死なお顔。
「行ってはいけません!」
……ん?
このシチュエーションはもしや?
「どうして、わたくし死にかけなのかしら?」
ふぅぅぅぅ、とすんごいため息をつくシドさん。
夢の中のはずなのに、リアリティーありますね!
「連日徹夜で無理するからですよ。過労です」
……って、まじか。
リジーちゃん、ヤりすぎですね!
「あら。それなら、人工呼吸して下さったら、生き返るかも!」
ワクワクと目を閉じてスタンバイOK!
となったところで、ペチンと額を叩かれてしまいました。
夢なのに痛ひ。
「いや、まだ生きてますから、大丈夫ですよ」
「人工呼吸……」
涙目のリジーちゃん。
と、シドさんのお胸が顔に?
んでもって、お手々が背中に……
ぎゅうっとされて、おりますねっ!
はぁうっ……
これはこれで幸せ♡ 夢だけど。
んー♡ ずっとこのままでイイかも?
でもなんでかしら。
この匂いは、お胸というよりは髪のような…………
………………
………………
……………ぱっちり。
今度こそ本当に、目が覚めました。
おはようございます。
4月は……3日くらい?
生死の境から無事に舞い戻った私ことエリザベート・クローディス、享年いや違った、まだまだ生きてる16歳でございます。
そのまま目だけをクリクリと動かせば、側には乱れたキューティクル・黒髪。
シドさんですね!
徹夜で看病してて寝落ち、ってところでしょうか。
……はぁぅっ!
今、ズキュンとキちゃったリジーちゃん。
な に そ の シ チ ュ 超 萌 え る っ …… !
けれどもしかし!
ここはこう……なんというか。
萌えるのではなくて。
「ああっわたくしのためにそのような……次はわたくしが看病して差し上げる番っ」 というノリで、イキたいものですね!
そしてメロドラマ的に婚約者としてポイントupを狙うのです!
完璧ですね!
シドを起こさないようにそろそろと身を起こしたところで、ナターシャがやってきました。
「まぁ、リジー様! 気付かれたんですね、本当に良かった!」
そのままバタバタと両親を呼んできそうな気配。
「ちょっとお待ち」
「なんでしょう?」
「今は何日かしら?」
「4月の5日でございます」 ナターシャの言にびっくり。
もう3日も寝ていたことになってしまいますよ……?
……どうやったら、そんなに寝られるんでしょうか。リジーちゃんっ!
「わたくし、こうしてはいられないわっ」
がばっと立ち上がろうとして、お約束。
ふらあっと、目眩に襲われ突っ伏します。
「ダメですっ!」 ナターシャが慌てて身体を支え、ベッドに戻してくれました。
「まだ寝ていらっしゃらないと。何しろ高熱がずっと下がらなかったんですから!」
「ええ? ただの過労じゃないの?」
「過労をバカにしてはいけませんっ!」
うーん確かに。
工場経営の本にもありましたね!
『従業員の休養および福利厚生にはじゅうぶんに注意を払うべし』
ばっちり覚えてますよっ!
なにしろこの脇に、注意書きを加えといてあげましたからね!
『※福利厚生と銘打って社内研修や花見に駆り出しては、いけない』
あ、ルーナ王国には花見の習慣なかったっけ。てへ。
「でも、もう大丈夫よナターシャ」 フラフラしつつも気を付けて立ち上がります。
「わたくし、まだまだお勉強しなくてはっ……時間はいくらあっても足りないわ……!」
感動的に決まりました!
「お嬢様……!」
ナターシャも瞳を潤ませています。
よっしチョロいですねっ!
早速、活動開始です……!
ええ、本当に忙しいのですよ!
お勉強のほか、アナスタシア様の原稿と結婚式の準備もありますからね!
特に原稿執筆。これ最重要。
もちろん、家の者には言えませんけれど。
さて、と。
まずはシドさんをリジーちゃんのベッドに引きずり込み……
と、ここで。
「ダメだよ寝ていなくては」 この穏やかな声は、父ですね!
渋みチョイ増しのイケメンパパ41歳様が、瞳を潤ませて近づいてきます。
「本当に危なかったんだよ、リジー。薬が効いて熱が下がらなければ、どうなっていたことか」
頭をナデナデ、コツンとオデコを合わせて下さるのが、なんだか懐かしい感じですね!
至近距離からのガン見にも耐えうる美貌もよろしい。
が!
リジーちゃんが気になったのは……
「薬? どなたかが飲ませて下さったんですの?」
「ああ、それなら……」 なんだか複雑そうな表情ですねお父様!
これは……ワクワク。
「シドが」
ぉぉぉぉうっ! 来ました!
病気シチュ最大の萌え!
すなわち。
く ち う つ し ♡
ですわねっ? ねっ?
令嬢らしく、ぽっと頬を赤らめて口元を押さえるリジーちゃん。
その手の下で唇がニンマリと歪んでしまっております。
「ど、どなたか目撃者が……?」
捕まえて詳しく状況をきかねばっ。
「いや……その時はまだ、伝染病の疑いがあって……お父様たちはシドに追い払われたんだよ……それはもう、スゴい剣幕と……黒すぎる脅しで……」 ふぅぅぅぅ、と深いため息。
「お父様もリジーについていてあげたかった……! お母様なんて、心配のあまり寝込んでしまわれたし」
「お母様が!? わたくし、すぐにでもお見舞いしなければっ」
「大丈夫だよ、リジーが回復したと聞いたら、きっと元気になられるさ」
父の説明によれば、母は私の部屋の前を飲まず食わずで一睡もせず彷徨い、オソロシイ状態になってしまっていたのだそう。
「書字魔法で無理やり眠らせて……効かなければ一服盛ろうとかそんな話も出たな」
「効いて良かったですわね」
「全くだ。たぶんお母様も、限界だったんだろう」 父、またしても深いため息でございます。
「それで、リジー」
「なんですの?」
「シドとも話し合ったんだが、その……」 口ごもっておられますね。
言いにくそうです!
「やはり、工場はシドに継いでもらおうと思うんだ」
「あの? わたくしは?」
「その、リジーはちょっと……向いていないんじゃないかと」
の、のぉぉぉぉぉぉっ!
父からの宣告に、がぁぁぁん! とショックを受けてよろめく、リジーちゃんなのでした。
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