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10.才能と美少年ボイスを酷使しなんとか革命回避中の私。でも美少年がまさかの思春期暴走でびっくり仰天です!

「パ・ン・よ・こ・せ!」

「明日食べるパンがないぞ!」

「今日食べるパンもないぞ!」


 突然のシュプレヒコール、ごめん遊ばせ。

 これは、私ことエリザベート・クローディスの邸宅前で時たま開かれる、飢えた庶民共のデモなのでございます。


 けれど、今日食べるパンが無い……云々はウソでしょう。

 それでこんなに元気良くシャウトできるわけありませんからねっ


 そんなわけで、こんにちは。

 ここルーナ王国に転生して早や10年、のリジーちゃんです。

 革命が起こりそうな気配にも負けず相変わらずまだ首と胴はくっついておりますよ!


 というのも去年は小麦は割かし豊作だったので、今年が不作でも、まだ余裕がありますからね!


 え?

 余裕があるのに、なぜ庶民がデモしているかって?

 それは、一昨年の出来事で味をしめたからですわ。

 まったく浅ましいこと。


「パ・ン・が・な・い・ぞ!」


 コールに応じてバルコニーの手摺に飛び乗るリジーちゃん。


「おーっほっほっほっほ!」 高笑いも勇ましく、庶民どもに手を振ります。

 なるべく、凛と通る声を意識してみましょうっ!


「パンが無いならケーキをお食べ!」


 はぁ……カ・イ・カ・ン!


 でもふと下を見れば、なんと。

 リジーちゃんのドロワーズちら見えに、鼻血吹いてぶっ倒れた怪しからん男共が数名いますね!

 10歳の少女に劣情を抱くなど有り得ませんよ?


 今後ルーナ王国の幼い少女たちのためにも、後できっちり書字魔法でお仕置きして差し上げましょうっ!

 鼻血出すぎて貧血の刑、なのです!


 私の背後ではシドが無表情で詩を読み上げています。


『……7月(ユリウス)は10の日、ルーナ王国の富める者たちの昼餐のうち幸いの宿りし物を我が家の前に集いし民に与えん。

 (しろがね)の皿の上には天上の雪より白く滑らかなるクリームに宝玉の如き果物で彩られし甘きもの、心躍る芳しき香りのほろ苦く甘きもの、晴れたる空を漂う雲のように軽く心地良く甘きもの……』


 はい、今、「書字魔法ってなんだっけ」と思われた方。これです。

 すなわち。

 クローディス伯爵家の家紋入り特殊紙に術者の血を混ぜたインクで書き付けた詩を読み上げれば、あら不思議。

 その通りのことが起こってしまう(こともある)というもの。

 なんだか手続きが面倒な上、実効性に疑問あり! な、余り使いたくない感じの魔法ですが……


 ことシドさんが上手なせいか、この『ケーキをお食べ』魔法は、できちゃうんですよねぇっ


 さぁ、家の前にセッティングされたテーブルを、ご覧下さいませね?


 シドの詠唱を終わると同時に……なんとなんと!

 お皿の上にワンサカと現れたのは。

 ケーキ、チョコレート、マカロンに珍しい南国の果物、といったスイーツてんこ盛りっ♡


 どこぞの金持ち共の昼餐の残り物、ですね。


「おおおっ!」

 歓声を上げる庶民共。

 残す方も残す方なら群がる方も群がる方だわ。

 ふっ……まったく、あさましいこと。


 でも、ふうぅぅぅぅ。

 これでまた革命まで少々遠のきましたね!

 心のままに悪逆の限りを尽くさず死ぬなんてことは、今世のリジーちゃんには有り得ないのです。


「大成功よ!ご苦労様、シド!」


 手摺から飛び降り、シドの手を握って満面の笑みでねぎらうと、彼は無表情のままチェックを入れてきました。


「『甘き』が連続するのが技巧的にイマイチですね」


「甘い物は甘いんだからしょうがないじゃない!」


 気になる部分を指摘されて私はぷぅっと頬を膨らませました。


「下手に『口でとろける花蜜のごとき』とか書いてベラドンナの毒でも混じったらどうするのよ!」


「それはどこぞの貴族が毒殺されかけているということと同義だと思うのですが」


 ペシャン、と両手で私の頰を挟んで潰しながらシドさん。

 ここに来てようやく楽しげな光が彼の漆黒の瞳に差してきます。

 お約束のやりとりを楽しむ、これも幼馴染みならですねっ……


「大体甘い物ばかりってどうなんですか」


「ホラ今は夏場だから、いちばん傷みにくいものをってなるとどうしても」


「冬でも甘い物限定でしたが?」


「そっそれは……シドの声に甘い物がよく似合うから!」


 いえ本音は『パンが無ければケーキをお食べ』が言いたいだけ。

 でも、こう言っておけばシドは喜ぶんですよ!

 天然下僕体質、なんだかんだで持続中です。


 しかし今日のシドは少々違いました。


「俺、今声変わり中なんですけど」


 そうですね、何しろシド少年は今月の25日には14歳。

 リジーちゃんより一足先に絶賛思春期真っ只中です。くそうっ。


「そうね……あの柔らかな天使の光が降り注ぐような少年ボイスがもう聞けないかと思うと寂しいわ!

 ああでももしかしたら書字魔法で再生できるかも? 試してみる?」


「……どう甘い物が似合うか説明していただけますか、アルデローサ様?」


 あううぅぅシドったら、ほんとどうしたんでしょう?

 何となく瞳にS入っているのは気のせい?

 まさか本日限りで天然下僕体質返上?


 しかも何気に、いつの間にやら私を壁際に追いやって片手で通せんぼなんかしちゃってますけど……もしや。

 壁ドンなんて生意気な技覚えかけてるんじゃないでしょうね?

 シドのくせに!


 もうここはリジーちゃんの奥の手、瞳ウルウルで反撃しちゃいますよ!


「やだぁシドこわいぃ……こわいよぉぉ……」


「急に普通の10歳に戻っても騙されませんよ」


「まぁ随分はっきりと、私が10歳の皮を被ったオバサンだとおっしゃいますこと!」


「違うと言い張るその皮を1度ひんむいて正体を見たいものですね」


 キレイな顔だとSっ気な微笑みですら眼福……ぢゃなくて!

 いや本当に何か悪いもんでも食べたんじゃないのこの子?


「シド、大丈夫?お腹痛いの?胃薬もらおうか?」


 ペタペタと彼の頬に手を当てながら尋ねると、シドさん急にガクっとうなだれてしまいました。

 別に変なこととか言ってないのに私。


「いえ、大丈夫です。何でも無いです、失礼しましたアルデローサ様」


 頬に当てられた私の手を引っぺがし、そのまま手の甲に口づけ……ん?

 これは、天然下僕体質続行宣言と考えて良いのでしょうか?


「リジー様、お客様ですよ!」


 バルコニーを覗いたナターシャが、次の瞬間きゃあっと甲高い声を上げました。


「シドさん、まだ結婚の申し込みはあと5年程待っていただかないと!

 早々に予約取りたい気持も分かりますけど!」


「「違ぁうっ!」」


 私の声とシドのちょっとかすれた声は、見事にハモったのでした。


 ……あ、この後。

 ドロワーズちら見えde鼻血男共、ちゃんと貧血の刑に処しましたよ。


 シドったら先程の失態挽回?

 かすれ声ですが随分と熱心に書字魔法の詩を読んでくれたのでした。

お読みいただき、ありがとうございます(^^)

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― 新着の感想 ―
[良い点] どこが悪女じゃーっ! 腹減ってる子達に、美味しいものを食わせる聖女やないかいっ! むほっ! シド君は天然下僕体質に見えて、実はS? 礼儀正しいSな美少年とか、大好物です!
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