1.性格悪いまま転生しました。今度こそは、心のままに悪女人生歩みます!
3作目です。
初めて書いた1作目某割かし長編で変態描写とオフザケ要素に目覚めてしまって生まれました。この2つが好物な方に楽しんでいただけると嬉しいです!もちろんそれ以外の方も。ちょっと覗いて下されば平身低頭して喜びます♡
©️秋の桜子 さま
えぃあぁ、えぃあぁ、えぃあぁぁ……
白一色で統一された産室に産声が響きます。私、名前はまだ無いが生まれた瞬間でございます。
もう一度言いますが、冒頭の擬声語は産声です。
断じて船を漕ぐ時の掛け声ではないのですよ。
「やぁ、なんて可愛い女の子なんだ! ふにゃふにゃで真っ赤なシワクチャ顔で、まるで猿のようだな」
あらお父様、本音がダダ漏れですね。
「美人になるお顔ですわ」
私を産んだ直後とあってまだグッタリされているもようの母の代わりに、若い女性が応えています……
ふむ。お腹の中に居た時から思っていたのですが、どうやらここは日本ではないようですね。
もし、日本の女性ならばきっと。
毎朝、満員電車で通勤し、昼はせっせと働き、夜遅くにヘトヘトになって帰宅……のはずてすが。
そのような慌ただしい生活ではないのを感じつつ、すくすく育ったのですよ、私。
すなわち。どうやら母は、金持ちの奥様といったところ、なのでしょう。
いぇーいっ! ラッキー!
金持ちだっ!
やっぱり転生前にお釈迦様に頼んだだけあるわぁ、と内心ニマニマです。
相変わらず 「えいあぁぁ」 と船漕ぐ掛け声的泣き声は上げておりますが。
「名前はどうしようかな」
父の声が響きます。
「女の子は2つ考えてあるんだ。エリザベートとナタリエだけど、どっちがいいかな」
なんとお父様。なかなかナイスチョイスではないですか!
これはもう、決まったも同然、ですねっ。
もちろん私は『エリザベート』推し。
『エリザベート』で泣き止んでは『ナタリエ』で再び泣き出す、そんな技をつかってみましょうっ
「エリザベート」 ぴたっ。
(ああ息が苦しいっ!)
「ナタリエ」 えぃあぁぁぁぁ!
(今のうちにたっぷり呼吸よっ)
「エリザベート」ぴたっ。
(ああもう窒息するっ!)
「ナタリエ」えぃぁぁぁあああ!
(ぜいぜい。もう死にそうよ早く決めてっ!)
「どうもこの子は『エリザベート』が好きらしいな」 と父。
「生まれたばかりなのにおかしいですわね」 と若い女性……察するに、侍女、でしょうかね……?
「…………」 母も我が子の名付けには参加したいらしく、グッタリしつつもしきりに頷いておられるような。
「じゃあエリザベートにしよう!」 と父。
「良い名前ですわね」 と(推定)侍女。
(うんうん!) と、これは母。
満場一致笑顔の決定ですね!
内心ニンマリしちゃいますよっ、もう!
なにしろ『エリザベート』といえばっ……
前世で600人の処女を殺してその血風呂で若さと美貌を保ったとされる、伝説の悪女の名、ですもの!
私の順風満帆な悪女人生のスタートとしては相応しい始まり。いぇーいっ!
と、こほん(咳払い)
どうしていきなり悪女になる気満々なのか、ですって?
それはもう。
私の性格が、もともと悪いからですよ!
転生したからといって、性格まではリセットされないのです……!
どれほど、性格が悪いか、といいますと。
前世では、実の母から幼少時より「性格が悪い」と言われ続けたほど、でございます。
極め付けは、8歳の時の「私が他人でもアンタと友達にはならないわ」
赤の他人が言うのとは、違いますからね!
とにかく私のことを目に入れても痛くないくらいに愛してくれていた前世の母が言うことですからね!
きっと、間違いなく、私の性格は悪いのですよっ、どうだっ!
もっとも、生前の私、対外的にはけっこう善人だったんですよ?
なにしろ、ずっと『当たり障りのない良い人』の仮面をかぶり続けていましたからね!
だって、実母折り紙付きの性格の悪さが他人にバレて嫌われるのがイヤだったんだもんっ!
けれども、それで。
最後に何が残ったかというと……
用事が無ければ葬式には来てくれるけど、私のために泣いたりしない『いちおう』の友人たち。
なにしろ私、『当たり障りのない良い人』仮面に合わせ、人付き合いもごく当たり障りないものしか、してきてませんでしたから!
あーあ今思い返しても、あの仮面は早々に破壊し尽くしときゃ良かった、ですよっ……
振り返れば、私の前世は、仮面かぶって取り繕うだけ。
それでいっぱいいっぱい、疲れ切ってしまった人生でしたからね。
まぁともかくも、そんなわけで。
今世こそは、私は私自身として心のままに生きようと、決めているのです!
嫌われるかもしれない。
憎まれるかもしれない。
けど、もう決めたもんねっ!
負けないんだからっ!
性格が悪いなら悪いままに!
開き直って、悪女として生を全うしてみせましょうっ!
たとえ、若くして大観衆から罵られつつ処刑されるエンドが待っていようとも。
ドンと受けて立ちますよっ!
太く短い人生、ばっちこいっ!
と、いきなり黒い瘴気を出しまくった前世紹介、誠にあいすみませ……ではなくて。
有難く拝聴なさい愚民ども。
(悪女っぽく決まりましたね!)
しかし、さて。
ここまで内心シャウトし続けるとさすがに疲れて参ります。
なにしろ私、生まれたばかりの赤子ですからね?
産道をキリキリ回転しながら通るのも一苦労、でしたからね?
何気に、もーやめてー死ぬーくらいの運動量でしたし、あふ……あら、ついつい、あくび、失礼をば。
そろそろ休ませていただきますね。
「うわぁ……何だかウトウトしてるよかわいいねぇ」と、今世の父。
「もう泣き止んで寝ちゃうなんて、ずいぶん気性の良い子ですね」と、(推定)侍女。
お2人の声、温い……なんだか早速ほだされそうですが。
でも負けませんっ!
気性が良い、ですって?
その発言、きっと後ほど、たっぷり後悔させてあげますわ!
眠りに落ちつつ内心ニヤリ、とするとおや。
表情筋が少し動いたようです。
「おおっ! 早速の新生児微笑だよ!」
「まぁ! 天使ですわねぇ、リジーちゃん」
「……かわいいわ」 おっと今世の母のか細い声まで!
うぅん……歓迎されてる感。
なんか、泣きそ……いえいえ、そんなことではいけませんね!
ほーっほっほっほっほ!
気合いを込めての脳内高笑いをかましてみましょうっ
皆様、お気の毒ですこと!
あなた方の天使ちゃんは既に地獄の底に堕天済みなのですよ誉良刺倶!
おーっほっほっほっほっほ……
現実では、未だかつて上げたことのない高笑い。
けれどそれは、生まれて初めて見た夢の中にまで、晴れ晴れと響いていたのでした。