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生きる事は遊ぶ事と見つけたり -前編-

問題児二匹目です。

 ウルフ三姉弟の次男のレッシュは、コテツよりも傍迷惑な存在だった。

 三男のコテツは見た目がヤバいだけで放っておけば特に問題の無い存在だったが、レッシュの引き起こす迷惑はコテツと種類が違う。

 誰これ構わずに後を付け回し、その人物の周りを遊んでくれとぐるぐる回るのである。


 相手が子供だったり、ご隠居だったりすると遊んでくれる事もあるのだが、大半の人物は仕事持ちの為レッシュに構ってる暇はない。

 なのに遊べと付いてくるレッシュは、非常に迷惑な存在だった。

 とは言え、犬のやる事だ。内心邪魔と思いつつも、大人達は笑顔でレッシュに断っていた。

 そして言葉が理解出来るレッシュは断られると、すぐに次の人へとターゲットが移る為大きな問題には発展していなかった。

 そう。確かに、大きな問題ではなかったのだが……。


「のう、レッシュ……。お前さん、夜な夜なおなごを付け回しとるそうじゃな?」

「ガウ……?」


 昼間だけで無く、日が落ちた時間帯でも付け回してるのが問題だった。

 ある夜に誰かに付けられてると感じた女性が、身の危険を感じて走り出すと同じ速度で誰かが走って来る音を聞いたそうだ。

 そして、巡回していた警備隊に助けを求め、警備隊が待ち構えているところにレッシュが来たと言う事である。

 因みにレッシュからすると、いきなり走り出したのは駆けっこで自分の相手をしてくれると言う理解だったりする……。


 まぁ、そんな事が一度だけなら笑い話で終わったのかも知れないが、その後も何度が繰り返されたのである。

 そうなると、流石に警備隊も何もしないという訳にはいかなく、レッシュの事を知っていた者がギルドに苦情を申し入れて来た訳である。


 尤も、レッシュは何故呼ばれたかよく分かってない状況だったが……。


「何故呼ばれたか分かっておらんようじゃな?」

「ガウ」


 その通りだと言いたげに、レッシュが顔を縦に振る。

 その仕草にローグは溜息を吐きながら、レッシュにも分かる様に説明を行う。

 なお、飼い主抜きなのは丁度飼い主が外に行っている事と、レッシュが言葉を理解出来てる事を知っているからである。


「――と言う訳じゃ」

「ガ、ガウ……」


 懇切丁寧にレッシュに状況を説明すると、レッシュはショックを受けて項垂れた。

 自分としては一緒に遊んだつもりなのに、実は怖がらせていただけなのだから、割とショックは大きかった。

 その姿は、凛々しい外見に反して少し弱々しく見える程であった。

 その姿が可哀想だからと言って、レッシュを放置して置く事は出来ないのだが……。


「お主に悪意が無いのは分かっておる。じゃがな、身体を動かしたいだけなら住民を追い回すのは止めるべきじゃ」

「く~ん……」

「――そんな声を出しても駄目じゃ」

「く~ん、く~ん……」

「……身体を動かしたいのなら、他にやり方が無い訳じゃないのう」

「ガフ……!?」

「凄い反応じゃの……。まぁ、良いわい。そのやり方とはの――」


 ローグの言うやり方とは、地下の訓練場を使った模擬戦である。

 元々レッシュの見た目はハスキー犬そのものだが、一応ウルフ系に属する魔物なのである。

 つまり、追い駆けっこをやるよりも、余程種族にあった遊びとも言えるのだ。

 尤も、遊びと言うには少々過激ではあるが……。


 ◇ ◇ ◇


「ガウ!」

「お? なんだレッシュか。お前も訓練しに来たのか?」


 その後一匹で訓練場に降りたレッシュは、顔馴染みとなっていた男の一人に声を掛けられた。

 レッシュが付き纏いを行った人物は男女問わず相当な数に登るのだが、この男はその中でも数少ない仕事持ちなのに遊んでくれた人物である。

 その上他の人よりも身体能力が高く、レッシュが少し力の枷を解き放てる遊び相手になっていたのである。

 その男の名はディク。カケルに魔の森で助けられた、中堅の冒険者の一人である。


 さて、そんな人物が訓練場に居るとなれば、レッシュの行動は火を見るよりも明らかだ。

 レッシュは彼に声を掛けられると、そのまま大喜びで彼の元へと駆けて行く。

 そして――。


「ワフッ!」

「ちょっ! 待て! 顔を舐めるな! べちよべちょになるだろ!?」


 喜びを抑え切れずに、飛び掛かってベロベロと顔を舐めていた。

 当たり前だが、レッシュは全力で飛び付いたりはしていない。そんな事をすれば、男の上半身が消える事になるからだ。


「よお、ディク大人気だな」

「お前、見てないで助けろよ!!」

「やだよ。助けに入ったら俺も舐められるじゃねえか……」


 彼にはもう一人連れが居たが、レッシュから助け出す事はしなかった。

 レッシュのそれは害意がある訳でも無いし、寧ろ親愛の表現の一つだ。

 その上、助け出せば自分の顔が悲惨な事になるのは分かっているのだ。

 それを分かった上で助け出す程、男の連れは優しくは無かった。


「ガウ!」

「良い加減にしろよう……!!」


 それからそこそこの間、男はなめ続けられレッシュが離れた時には顔が涎まみれになっていた。


「よう、水も滴る良い男じゃねえか」

「黙れ! これは涎だよ! ベトベトして気持ち悪いんだよ!!」

「キューン……」

「ほら、お前が意地悪な事言うから、犬っころがシュンとしちゃったじゃねえか!」

「あぁ、すまんレッシュ! そう言うつもりはなかったんだ」


 この男、実は顔に似合わずかなりの動物好きで、レッシュにもかなり甘かったりする。

 今も、駄目だと言ってそのままにしておけば良いものの、気落ちしてるレッシュに言い訳をしていた。


 そんなこんなで無駄に時間が潰れ、元々の目的に戻るのに三分の一刻程も消費する事となったのだった……。


「気を取り直して、レッシュ。お前、俺と模擬戦してみるか?」

「ガウ!」

「おう、乗り気だな。だが、模擬戦とは言え戦いなら手加減はしないが大丈夫か?」

「ガウ! ガウ!!」

「よおし、それならやるか!」

「ディク、ルールはどうするんだ?」

「そうだな……」


 連れに聞かれた男は、少しの間考える。

 彼は、レッシュが非常に高い能力を持っている事を知っている。

 もし、死闘をする事があれば自分は瞬殺されるだろう事も。

 これは、レッシュ遊んでる時に自分が遊び疲れて、自分が回復するまでの間の一人遊びを見ている為である。

 レッシュは、自分と遊んでる時とは段違いのスピードで動き回っていたのだから、自覚しない訳が無いのだ。


 さて、それを踏まえてどうするべきか……。

 どう設定しても、レッシュが手加減してくれるのは目に見えてる。

 なら、最初からハンデを貰うのもありだろう。

 ならば――。


「よし、決まった」

「ガウ!」

「漸くか……。立ったまま寝てるかと思ったぜ……」


 連れが戯言(ざれごと)を言っているが無視である。

 俺はレッシュに決めたルールを説明する。

 俺の方は全てアリで、レッシュは無手に魔術無し、スキル無しの体術のみ。

 更に、俺はレッシュが攻撃を受け止め切れず何処に攻撃が掠っても勝ちで、レッシュは俺の額に肉球をタッチする以外勝ちは無し。

 勿論、両者重症になる様な事はしない事だった。


「おいおい、それは流石にお前に有利過ぎねえか?」

「ガウ!」

「レッシュも、問題無いと言ってるみたいだぞ? 俺とレッシュにはそれだけ実力差があると俺は考えてるからな」

「マジか……。その犬っころそんなに強いのか……?」

「そういや、お前レッシュに会うの初めてだったか……?」

「その犬っころが、娼婦のケツ追っ掛けてるのは見た事あるがそれだけだな」

「レッシュ……」

「ガウ……?」


 ディクは何かを言いたげにレッシュを見るが、レッシュは分からず首を傾げるだけだった。

 なお、当たり前だがレッシュは相手が娼婦だとは理解していない。

 正しく無差別なのだが、ディクとしては少しくらい相手を選べと言いたかった。


 まぁ、それはさておき、ディクの連れはレッシュの実力を把握してなかった。

 なおディクからすると、レッシュと遊んでいれば実力はすぐ把握出来ると思っているが、遊び相手が休んでいる側でレッシュだけが一人遊びすると言う状況自体が既に珍しかったりする。

 何故なら、そこまで限界まで遊んでくれる人物が少なく、更には相手が疲れたら他の人にレッシュのターゲットが移る事が殆どだからだ。


「まぁ良い……。さて、レッシュ。さっき言った条件で問題無いな?」

「ガウ!!」

「よし! なら、早速始めるか!」


 一生を遊びに捧げた者の戦いが、今始まろうとしていた……。


夜に付け回された女性は怖かったでしょうね。

犬だからまだしも、やってる事は完全にストーカーみたいなもんです。


後、中々長くなったので、後編に続きます。

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