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飽くなき食欲 -後編-

「――って訳だ」

「マジか……」

「あぁ、大真面目だ。関わるとヤバそうなんだが、アイツのせいで客が減ってると思うと何とかしないとマズいんだがなぁ……。一応、今の所客に襲い掛かったりはしてないんだが……」


 店主の一人が、溜息を吐きながら現状を補足する。

 その犬の実際の影響だが、目に見えて客が減ってるのは確かだ。

 今にも襲い掛かられそうな状態で、呑気に食事を楽しむ者は多く無く、閑古鳥とは言わないもののかなり客入りが少なくなっているのは事実であった。


 だが、この街に明確な営業妨害の法は存在しない。

 いや、似たような法は存在するのだが穴が多いのだ。

 その為彼等は、直接被害を受けていない状態では警備隊に言う事も出来なかった。

 とは言え、警備隊を通じて文句を言えば、大抵の主人は従魔を躾け直してくれる。

 その例外も、居るには居るのだが……。


 まぁ、なにはともあれ、そろそろ主人にどうにかして貰わないとマズいだろう。

 店主の一人がそんな事を思っていた時である。

 一人のローブを深く被った魔術師の様な人物が、例のヤバそうな犬の元へと広場外から歩んで行くのを見たのは……。


「あぁ! コテツ! やっぱり此処に居た!」

「ワフ……?」


 声の感じからすると、その怪しい風貌に反してかなり若い男の様だ。

 もしかすると、成人の年齢にすらいってないのではないだろうか。


 例の犬をコテツと呼んだと言う事は、この人物は犬の飼い主か知り合いだろうか……?

 どちらにしても、少しは状況がマシになってくれる事を願いたいものだな……。


「もう駄目でしょ! ギルドにどうにかしてくれって苦情が来てたんだよ?」

「ワン……!?」

「なに、その心外だって顔は?」


 ローブの男が言った事は朗報だった。

 誰か気付いた奴が、ギルドに苦情を入れてくれたらしい。

 尤も、後数日続いたなら俺も苦情を入れるつもりだったが……。


 それよりも、コテツと呼ばれた例の犬の事だ。

 アイツあんなヤバそうな状態だったのに、自分で気付いて無かったのかよ……。


「あのねぇ、コテツは食べ物に執着してる時相当怖い表情してるんだからね? 食べ物を食べてる時とか、いつもは寄って来る子供達が近付いて来ない事に気付いて無かったの……?」

「――ワフッ……!?」

「はぁ……。気付いて無かったみたいだね……。子供達が食事中に近付いて来ないのは、コテツがあまりに怖いからだよ。その証拠に、レッシュやモモは食事中には撫でられたりしてるからね?」

「ワ、ワフ……」

「はぁ……、やっと分かったみたいだね……」


 ローブの男はそこまで言うと、目線を俺達露店の奴等の方へと向けて、少し此方に歩み寄って来た。

 ソイツは正面から見ても、顔の部分が全く見えなかった。

 角度的には明らかに見えそうなんだが、あのローブ一体どうなってるんだ……?


「あの、ご店主の皆さん! うちのコテツが迷惑を掛けて、申し訳ありませんでした!!」


 そう言いながら、男は深く頭を下げた。

 俺達にも真摯に向き合ってくれてるみたいで、どうやらあの犬の飼い主は悪く無い性格をしているらしい。

 その後少しの間頭を下げていたが、ローブの男が顔を上げると同時にあの犬が駆け寄って来た。


「ワフワフ……!」

「なにコテツ……。今僕は、君のせいで頭を下げる事になってるんだよ?」

「ワンワン! ワフ!!」


 あの犬、俺達の方と男の方を交互に見ながら男に対して吠えてやがる。

 それを見て、俺は若干嫌な予感がした……。


「だから、なんなの?」

「ワフ! ワフ!!」

「え? コテツ……? もしかして――」

「ワン!!」

「でも、……だよ?」

「ワフ!!」

「マジか……」


 ローブの男はそう呟いた後、俺達の方に向き直ると自分のローブを取り去った。

 そこから出て来たのは、輝く様な真っ白な肌だ。その肌は、デキモノや肌荒れとは全くの無縁なのだろうと瞬時に悟った。

 当たり前だろう。ローブの下から出て来たのは、真っ白な骸骨だったんだから……。


「ぎやぁぁぁ!! 骸骨!?」

「違う! アレはアンデッドだ!」

「なんで、アンデッドが此処に居るんだよ!!」

「助けて神様!!」

「お母さん、助けて……! 俺はまだ死にたく無い!!」


 阿鼻叫喚とはこの事だろう。

 まぁ、騒いでいるのは殆どが客の奴等だ。

 恐らく、つい最近街で起こった事を知らない奴等なんだろう。

 逆に店主達は、驚いてはいるものの苦笑を浮かべてる奴も居るくらいだった。


「おい! なんで、アンデッドがこんなとこに居るんだよ!!」

「なんだ。お前も知らなかったのか?」


 さっきまで話していた俺の隣の店主も、どうやら最近この街に来たらしいな。

 まぁ知らない奴等からすれば、アンデッドなんて生きとし生ける物の敵だし、一体見つかれば即捜索して全てを排除する必要がある程に危険な魔物だしな。


「知らないって何が……!!」

「あのアンデッドだが、この街を救った恩人で今は住人だぞ?」

「はぁ……!?」

「そうだな。あの小僧は、俺達の中じゃ結構評判が良いんだぜ?」


 俺達がそんな風に新人の店主に話をしてやっていると、例の骸骨の恩人が喋り始めた。


「えーと、驚かせてすいません。僕の事を知らないと言う方は初めまして。僕はリッチのカケルと言う者です。アンデッドではありますが、今は単なるこの子の飼い主だと思って下さい」


 リッチと言う言葉に種族だけを知ってるヤツは更に煩くなるが、俺達は既にカケル自身をある程度知っているから特には変わらない。

 尤も、やっぱ最初は驚くよなとは思うが……。

 隣の店主もリッチと呟いて、絶望した様な表情してるしな。


「えーと、それでなんですけどね……。迷惑を掛けておいてなんなんですが、このコテツに料理を今後売って貰えませんか?」

「「「は……?」」」


 客と隣の店主が口を揃えて、惚けた顔をしていた。

 まぁそれはともかく、その犬に料理を売れってのはどう言う事だ?

 骨の坊主が買いに来るってだけだろ?

 そう思ってると、俺の他にも疑問に思った奴が居たらしい。


「なぁ、骨の坊主。お前さんが買いに来るなら、その犬は関係なく無いか? 客がその後に自分で食べようと犬にやろうと、俺達にとっちゃ関係無いぞ?」

「すいません、言葉が足りませんでしたね。コテツにお金を持たせるので、僕とでは無くコテツに直接売って貰えませんか? お金はコテツ自身に稼がせるので」

「はぁっ……?」


 つまりなにか?

 その犬が直接買い物に来るのか?

 しかも、自分自身で稼いだお金を持って……?


 その疑問に、骨の坊主はしっかり答えてくれた。

 例のヤバい犬であるコテツには、毎日しっかりと骨の坊主が餌をやってるらしい。

 ただ、その量では足りなかったようで、毎日この場所へやって来ていたのだとか。

 それをギルドで聞いてここに来たと……。

 んで、ここからが本題だが、コテツを連れ戻しに来たらコテツに交渉されたらしい。

 犬が交渉って……。

 まぁ、その結果坊主はコテツ自身にお金を稼がせて、その稼ぎで料理を買わせる事にしたとか。

 その方法だが、収納ポーチを首に付けてコテツ自身がお金を渡して、それで買えるだけの量の料理を渡して欲しいのとの事。

 お釣り無しの交換って訳だな。


 まぁ、隣の店主はともかく俺達は別に客に区別はしねえな。

 人間だろうが犬だろうが、金を払ってくれるなら俺達の客だからな。

 要望を伝えた骸骨と犬の妙な組み合わせは、そのまま広場から去って行った……。


 ◇ ◇ ◇


 広場からギルドに戻ったカケルは、早速コテツだけで動けるように手続きを行う。

 コテツだけで動く事に最初は渋られたが、狩る対象と数を絞る事により了承された。

 その対象とは一日オークを一匹のみである。

 その理由としては、実は低レベルの冒険者にとって荷が重い事や、人気の食料になる為殆ど価値の変動が無い事、繁殖力の高さにより一日一匹狩っても寧ろ増えるくらいと言う事が挙げられる。

 一日一匹と言う制限があるのは、コテツの食欲と実力ではいくらオークと言えども狩り尽くされる危険がある為だった。


 まぁ、なにはともあれコテツは単独で外に出て、オークを一匹だけ狩る事を許可されたのだった。

 それを聞いたコテツは、毎日街の外へと出掛けるようになる。

 そして、街の外では度々空飛ぶ犬が目撃される事になったとかなんとか……。


三男はこれで終了です。

長男改め長女よりは内容は薄めですかね。

次は次男の予定です。

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