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三匹の扱いとレナの護衛

これでアンデッドの話はおしまいです。

「次の人!」

「あ、はい。これでお願いします」


 シャンティナへと無事戻って来たカケル達は、門での検査を行列に並んで待っていた。

 そして、前の人達が終わり自分達の番が回って来る。


「あ、カケル君。無事に戻って来たんだね」

「はい、ワグナーさん大丈夫でしたよ! 後、依頼も無事完了したんですけど……」

「どうしたのかい……?」

「コテツ、レッシュ、モモおいで」

「ワン」「ガウ」「ニャー」


 カケルの声に促されて、カケルの前へと出て来る三匹。

 さっきまで、メンバーの後ろに居たので目立たなかったが、前面に出て来た為に門番もその存在をしっかり確認する事が出来た。


「犬と猫……? カケル君、確か今日は討伐依頼とかじゃなかったっけ?」

「ええと、はい……。討伐依頼でした……」

「じゃあその子達は? 討伐の合間に捕まえたりしたのかな? もしかして、ペットにしたいとか?」

「ああと……、ペットと言えばペットなんですけど、この子達僕が眷属にした子達で、こう見えても魔物ですよ」

「魔物……? この子達が……?」


 カケルの言葉に、マジマジと三匹を見詰めるワグナー。

 その視線が気になるのか三匹は体を(よじ)っていたが、逃げ出したり彼を攻撃する事はしなかった。


「はい。それで、多分従魔扱いで良いと思うんですけど、手続きってどうすれば良いですかね?」

「あ、あぁ……。済まないね。こんなに可愛らしい従魔は久々だったもので……」


 ワグナーはそう言うと、検問を相方に任せてカケル達について来てくれと続けた。

 場所を移動して、備え付けの建物の中に入る一行。

 ワグナーはその建物の一角の、ある部屋へと進んで行った。

 その部屋の中は複数の大きめな道具が置いてあり、色合いは違うが病院等にある検査室に雰囲気が似ていた。


「さて、ここだ」

「ここで、従魔登録をするんですか?」

「まずは、幾つか検査をして扱いを決めるところからだね」

「扱い……?」

「従魔なのかペットなのかの扱いだよ」


 彼が言う従魔とは、テイマーなどが率いる魔物の別称だ。

 ペットとして魔物を飼う事もあるが、その場合は従魔とは言わない。

 どちらの扱いに属するかは、その魔物の保有魔素量に依存し、ペットだとしても大量の魔素を保有する強力な魔物は従魔扱いとなり、逆に従魔だとしても魔素量が規定以下の弱い魔物の場合はペット扱いとなる。

 ただ、実際には毒の有無や危険度、何をさせる為の魔物かによっても変わる為、一概に魔素量のみで判断している訳でもないのだが……。


 因みにヴッツェーニアの妹のうーちゃんの扱いは特殊で、実力的には従魔に近いが管理上はペットに近い扱いをされていたりする。

 これは、領主であるティザークが娘の為に手を回した結果であり、職権乱用によって出来上がった例外と言えるだろう。


 さてそんな従魔とペットの扱いだが、一番の違いは街に入る際の税金の有無と、首輪や腕輪等の所有者元を示す情報端末の着用義務である。

 ペットの場合は税金は掛からず情報端末を付ける必要も無いのだが、従魔の場合は体の大きさや危険度に従った税金と、その身元と危険度を示す情報端末を着けられるのである。

 なお、ギルドカードを持っている場合は街に入る際の税金は免除されるのだが、従魔はギルドの方にも登録する必要がある為、結局そちらで纏めて税金が課せられていたりする。


「なるほど」

「取り敢えず、そっちの子から検査するから台の上に乗せてくれるかな?」

「あ、はい」


 最初に指名されたのはコテツだ。

 カケルはコテツを抱きかかえると、嫌そうな顔をしているコテツに暴れない様に言ってから、ワグナーが示した台の上へと乗せた。


「じゃあ検査するね」


 そう言ってワグナーが機器を操作すると、一瞬だけ強烈な光がコテツに照射され、次の瞬間には別の色合いの光が照射された。

 それを何色か繰り返した後に、その機器は停止した。


「これは……」

「何か変な結果が出たんですか……!?」

「あぁ、いや……。この見た目で、恐ろしい程に魔素量が多いなと……」

「あぁ……、なるほど……。そんな見た目ですしね」

「そうだね。取り敢えずこの子は従魔扱いする以外ないね」


 その後も、ワグナーは三匹に同じ検査を掛ける。

 だが、その結果は似たようなものだった。


「全員、魔素量が竜以上なんだが……」

「えと……?」

「まぁ、そうなるだろうな」

「たかだか竜じゃ、比較にならないと思うで?」

「その機器の検査はアバウトなようですね」


 この機器は魔素量を数値では無く、視覚的に表示する魔道具である。

 検出した魔素量を表示板部分の直角三角形に水を満たす様に光る事で示し、その斜辺には有名どころの魔物の絵と種族名が書いてあった。

 例えば一番下にはゴブリンが描かれ、一番上には竜が書かれてあった。


 この計測魔道具、実は最新鋭の測量機器で、他の都市ではお目に掛かれないくらい珍しい物である。

 魔物から漏れ出る魔素とその魔物の体積から総魔素量を計算し、それを視覚的に分かりやすい魔物と比べながら表示する事が出来る優れ物なのだ。

 ただ竜くらいの魔素量までしか測れないし、漏れ出る魔素量から計算する為、ミミ達の様に魔素を完全に隠蔽出来る魔物にとっては意味の無い計測方法である。

 だがそれでも有用な魔道具なのは確かで、これを導入してからペットと従魔の区別を間違える事が殆ど無くなったらしい。


 何故その判定を間違えるのが駄目かと言うと、税金に直接響く事と危険度の問題が上げられる。

 つまり、危険な魔物である従魔に対しては、ある程度の監視や対策が行われるのである。

 それをペットと判定されると、街の安全上非常にマズい訳である。


 なにはともあれ、三匹のウルフ達は竜以上の非常に危険な従魔だと認識された訳だ。

 なお、厄災級のリッチの二十五パーセントもの魔素が与えられた魔物が竜程度で収まるはずも無く、下手したら下位の龍を超える実力を得ていた。

 下位の龍がどれほどの力を持つかと言えば、先に王都に攻め込んだフラワードラゴン千匹以上に匹敵すると言えば分かるだろうか。

 少なくとも、一体が国に攻め込んだだけで数割の土地を失う程の強さがあるのだ。


 そんな事実にワグナーは考える事を放棄したらしい。

 取り敢えずさっさと従魔登録を完了して上に報告したら、今見た事は忘れて心の平穏を保つ事を優先したのだ。


「これで従魔登録は完了だね。この首輪はしっかり外から見える位置に嵌めてね」

「分かりました。コテツ、レッシュ、モモ、今からこれを嵌めるから、暴れたら駄目だよ?」

「ワウ……」「ガウ……」「ニャー……」

「そんな声出しても駄目! これは、僕の従魔だって証明だからね。君達が悪さをすれば僕の責任だし、君達がちょっかいを出された時にも重要になるみたいだよ?」


 従魔の所有者を証明すると言う事は、責任と権利が発生すると言う事だ。

 ペットは飽くまでも物として扱われるのに対して、従魔の場合は人に近い権利を有するのだ。

 勿論、権利が大きくなれば責任も大きくなる。

 例えば従魔を殺した場合、犯人には殺人罪相当の罪が課せられたり、従魔が人に危害を加えた場合は、飼い主より先に従魔自身が罰せられる。

 勿論飼い主も監督不行き届きとして罰せられるのだが、ペットの場合とは違い飼い主への罰は軽くなるのである。


 とまあ、三匹の事を説き伏せた後、全員に首輪を装着する事に成功するのだった。

 その後、カケル達は首輪の代金――ギルドカードにより入る税金は無料だが首輪は有料である――を払って門を潜るとギルドへの報告へと向かう。


「すいませーん、ギルド長居ますか?」

「あ、カケル君。もう依頼は終了したの?」


 受付には丁度エルティナが座っていたので、カケルは彼女に声を掛ける。

 その際に恐怖と好奇の視線が注がれるのは毎度の事である。


「あ、はい。それでその報告と、この子達の事を説明する必要があるかなと」

「この子達……? わぁ! 可愛い!!」


 エルティナがカウンターから覗き込むと、そこにはお座りした犬と猫が居た。

 可愛い子達ではあったが、その首にある物を見て疑問を浮かべた。


「あれ? もしかして、この子達従魔なの?」

「はい、依頼の途中で仲間になったんです。こう見えて、この子達結構強いんですよ」

「へえー、こんなに可愛いのに君達凄いね!」

「ワン!」「ガウ!」「ニャー!」


 返事をする三匹は少し得意気だ。

 エルティナはその姿に頬を緩めると、ローグを呼ぶから少し待っていてくれと言った。

 その少し後、ローグの準備が出来たので三番の部屋に行ってと言われる。

 カケル達は、それに従って三番部屋へと移動した。


 コンコン……。


「入れ」

「失礼します」


 部屋に入り扉を閉めると、まずは座れと言われたのでカケル達は大人しくソファーへと座る。

 一応ツィードも人化して座っているが、三匹はソファーの前にお座りである。


 それを見たローグはやや眉を(ひそ)めるが、先に依頼の結果を聞く事にしたらしい。

 ローグは眉を顰めたままに、カケルに討伐依頼の結果を聞くのだった。


「えーと、それがですね……」

「まさか、失敗したのか……!?」

「いえ、被害についてはもう起こらないかと思います」

「なら、なんじゃ……?」

「そのアンデッドなんですけどね……」

「うむ」

「この子達なんですよ」


 その事を聞いたローグの動きが一瞬停止した。

 そして、何事も無かったかの様にカケルに聞き返したのだった。 


「――すまんのう……。この頃歳のせいか、耳が少し遠くなったみたいでのう。もう一度聞かせてくれるかのう?」

「え? はい。ですから、退治を依頼されたアンデッドはこの子達です」

「すまんのう……。聞き取れなかったから、もう一度言って貰えんかのう……?」

「ですから、この子達がアンデッドですって!」

「すまんのう……。もう一度――」

「ですから――」


 何回かのやり取りを経た後、ミミが低めの声音でローグに対して苦言を呈する。


「ローグ様、いい加減にしませんか? 聞こえない振りしてますけど、しっかり聞こえてますよね?」

「じゃがのう……。カケルが、この犬達がアンデッドだと言うもんじゃからのう……」

「ローグ様が聞こえた内容で合っていますよ。この方達は、元はアンデッドのスケルトンウルフですよ」

「のう……、元アンデッドとはどう言う意味じゃ?」


 そこからは再びカケルが引き継いで、三匹の詳しい状況を説明する。

 元はスケルトンウルフで、名付けをしたらそれぞれ、柴犬ウルフ、ハスキー犬ウルフ、三毛猫ウルフになった事。

 そして、名付けと同時に眷属となり、保護者として村への被害の埋め合わせとして、お金と収納ポーチ、後は肉を渡した事などなど。


「シバイヌウルフとハスキーケンウルフにミケネコウルフ? どれも聞いた事が無いのじゃが……」

「あ、はい。ユニーク個体で同じ種族は他に居ないらしいですよ?」

「そうか……。後、ウルフの前のシバイヌやハスキーケン、ミケネコにはどう言う意味があるんじゃ?」

「え? 犬と猫の種類ですけど、ここら辺には柴犬とかは居ないんですか?」


 ローグの発言にカケルは驚いた。

 マグロもやシナモン等も存在する世界なのに、柴犬や三毛猫とかは居ないのかと。

 だが、冷静に考えてみるとマグロもシナモンも犬や猫と同じグループであり、その中の種類ではないのではと気付く。


 例えばキハダマグロやスリランカシナモンと言った種類が、この世界のアレと同等だとはとても思えないだろう。

 岩で覆われたマグロや、臭い息を吐きそうなシナモン等がそれ等と同じだと言うなら、元のキハダマグロやスリランカシナモンに失礼ではなかろうか。


 なので犬や猫と言った単語はあるにせよ、その種類である部分は別の種類が鎮座している可能性が高い。

 そうカケルが考えていると、ローグからその答えが(もたら)される。


「何を言っておるんじゃ? 犬は犬、猫は猫じゃろ」

「え……?」


 その答えにカケルは驚いたが、別に犬や猫の下に種類が無い訳ではない。

 鹿の種類の一つでリャンと言う種類があるが、此方は大衆に認識されており鹿の中のリャンだと言う知識として存在する。

 だが犬や猫はほぼ食用には適さず、ペットは飼ってる人自体が珍しい為、認識が殆ど広がらないのである。


 だが、それを踏まえても柴犬やハスキー犬はこの世界に存在しない。

 やや姿が似ているものもあるが、別の名前が付いていたりする。

 そこに関しては、カケルの翻訳スキルが判定の問題もある。

 なお、一般の人が認識する犬と猫の種類の違いは、人間で言うところの髪や肌の色の違いで個人差程度に思っていたりする。


 そんな事を知らないカケルは、この辺では見ないのかなと思いながらローグに説明を行う。


「え、え―とですね……。三毛猫とかは個体差とかから付けられた名称の一つですね。柴犬やハスキー犬は知りませんが、三毛猫は確か三色の体毛がある事から名付けられた筈です」

「ふむ……。確かにこの猫は三色の毛を持っておるのう」


 ローグが顎に手を当てながら見詰める先には、三毛猫のモモが居た。

 その視線にモモは居心地が悪そうだったが、村でカケルに言われた事が響いているのか暴れたりはしなかった。

 因みにモモの体毛は白、茶、黒の一般的な三毛猫である。


「あぁ……、でも一応皆ウルフみたいですよ」

「ウルフのう……?」


 見た目は完全にウルフを捨てているので、ローグも疑問が尽きないのであろう。

 まぁ、カケル自身も何故ウルフなのかよく分かってないレベルなので、質問されたとしても答える事は出来ないだろうが……。


「それでなんですが、この子達を引き取ったので、アンデッドの被害は解決したと思います。村の人達にも確認貰いましたし、依頼内容は確か退治で良かったですよね?」

「まぁ……、そうじゃのう……」


 ローグとしては予想外の展開である。

 そもそも、アンデッドと聞いて思い付いたのは、人型のアンデッドなのである。

 その理由としては、獣や魔物よりも人種の方がアンデッドになりやすいからである。

 原因としては怨念や無念等の感情が、人種の方が圧倒的に多いからだと言われているが、本当のところは定かでは無い。


「まぁ、依頼人が良いと言っている以上、儂がとやかく言う事でも無いのう。依頼人のサインは貰って来ておるのじゃな?」

「はい、これがそうです」

「――うむ。ならば、カケル達への依頼はこれで完了じゃ。後でエルティナにでも処理を依頼しておけば良い」


 その後カケル達は受付に戻り、依頼の達成処理を行った。

 そして、そのまま宿屋へと戻る事にした。勿論、モモ達を引き連れて……。


「レナ、ただいま~!」

「今戻ったで~」

「帰りました」

「レナ、今戻った」

「あ、皆様お帰りなさい!」


 宿屋の廊下まで行くと、丁度掃除中だったのかレナに会った。

 挨拶まではいつも通りだったが、やはり彼女も気になるのか視線はカケルの後ろへと向けられている。


「それでカケル様。その後ろの子達は一体……?」

「あぁ、うん。僕の眷属になった子達だよ。皆おいで!」

「ワン」「ガウガウ」「ニャウン!」


 モモ達はカケルの前へと出ると、お座りの体勢になってレナへと視線を向けた。


「わぁー、可愛いですね!」

「僕の左から、コテツ、レッシュ、モモだよ。レナも仲良くしてあげてね」

「はい!」

「コテツ、レッシュ、モモ。こっちの子はレナ、僕達の仲間の一人だよ。僕やミミ達と違って戦闘力は無いから、もし危ない事があったら守ってあげてね?」

「ワウン!」「ガウン!」「ニャウ!」


 三匹はカケルの依頼に、胸を張って返事をした。


「頼もしい護衛ですね。コテツちゃん、レッシュちゃん、モモちゃん、改めて宜しくお願いしますね?」

「ワン!」「ガウ!」「ニャー!」


 そのやり取りだけ見れば、微笑ましいものだった。三匹が竜を凌ぐ様な生物兵器と言う事を無視すればだが……。


 その後、人当たりの良いレナと人懐っこい三匹はすぐに仲良くなり、三匹を撫でたり代わりに舐められたりと、じゃれ合うまでになっていた。

 その光景はほんわかするものだったが、カケルは内心少し焦っていた。

 何せ三匹の力の一端は既に見ており、間違ってその力が振るわれただけでもレナは挽き肉状態になるのだから……。


 そんなカケルの心配を余所(よそ)に、レナと三匹は長時間じゃれ合い続けるのであった――。


この後は数話程度ウルフ達の話を入れた後に、ストーリー部分に戻る予定です。

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