異世界転生と、黒毛玉
やっと一章に入りました。
ここから、異世界転生物の冒険的要素も入ってきます。
後、序章は進みが遅かったので一章から文字数を増やします。
「う、うーん……。――えっと、今度は何処?」
「此処は、嘆きの洞窟ですよ主様」
翔の独り言に反応したのは、真っ黒な毛玉だった。
「毛玉?」
「毛玉じゃないです! 私は常闇ウサギのミミ! 主様を補佐するように神様に頼まれました」
ぷんすか言いながら、抗議した毛玉はウサギらしい。
艶やかな真っ黒の毛並みに真っ黒な瞳で、耳の裏側はややピンクっぽいが、それでも四捨五入すれば黒だった。
ウサギの体長は四十センチくらいだろうか? 体高は二十センチに届くかどうかと言った具合だ。
ウサギの種類は良く分からないが、可愛らしい顔付きをしている。
「ウサギが喋ってる!? しかも、補佐役ってウサギなの!? ってか主様? ――え、えと、ミミさん? 何で僕が主様なんですか? 後、その嘆きの洞窟と常闇ウサギって何ですか?」
「ミミで良いですよ主様。敬語も必要ありません。主様は主様だから主様です。それで質問された嘆きの洞窟と言うのは今の居る場所の名前で、数多くの魔物が生息している洞窟になります。また、常闇ウサギと言うのは私の種族名で、ウサギ系魔物の一種になります」
なぜ主様なのかと言う質問に、ミミは答えになっていないような返答をしつつ、嘆きの洞窟と常闇ウサギの事を簡単に教えてもらった。
ただミミの返答の中には、聞き捨てなら無い単語があった。
「ちょっと待って、魔物ってなに!?」
「魔物とは、動物を始めとする生物などに、魔素が浸透し身体が作り替えられた存在を指します。身体が作り替えられる前よりも、知能が上がり強靭な肉体を得ますが、全体的に狂暴になりやすい傾向にあります。そして――」
「そうじゃなくて!! 此処は地球の日本じゃないの?」
「此処は、主様が住んでいた世界からすると、異世界にあたります。神様が言っていたハンデの内の一つですよ」
――唖然とした。確かにハンデがあると聞いていたが、家庭や金銭、身体へのハンデだと思い込んでいた。
まさか、異世界に転生させられるとは……。そう言えば後世に伝えるって言ってたけど、こう言う事か。恐らくこの世界には花火が無いのであろう……。
まあ、冷静に考えれば喋るウサギが目の前に居る時点で、メルヘンマックスな童話のような世界か、ファンタジー主体の異世界くらいじゃないと説明が付かない事なんだけど……。
「――ハンデの内の一つって事は、まだあるんだよね?」
「はい、ございます。正解に言えば、ハンデの一部分が異世界に転生すると言う事でして、ハンデは大きく分ければ一つでございます」
「――それは?」
「異世界に異種族で転生。それがハンデとなります」
「異種族……?」
「まだ気付いておられなかったのですね。左手に水溜まりがあるので確認してみて下さいませ」
ミミは小さな手を左に向けて水溜りを指し示す。
翔は恐る恐る、水溜まりに顔を映すと、そこには真っ白な骸骨が居た。右手を挙げれば水溜りに映った骸骨の左手が挙がり、左手を挙げれば水溜まりに映った骸骨の右手が挙がる。
これが、僕の新しい身体……?
それを理解した瞬間、翔は思わず叫んでしまいそうになる。
「うっ、うわ――」
その瞬間、黒い毛玉の足が口の中に侵入して、声が出せなくなる。
因みに一瞬見えた足の裏の肉球は、ややピンク掛かった黒だった。
あれ? ウサギに肉球ってあったっけ? と、どうでも良い事が翔の脳裏に思い浮かぶ。
「主様、声を上げますと辺りの魔物が集まって参ります。声を上げるのは、お控え下さいませ」
翔はその意味を理解し、青くなりながらも頷く。
ミミは翔の答えを確認した後、口の中から飛び出でて翔に向かって説明を始める。
うーん、何か口の中が毛玉っぽい気がする……。
「では、ハンデについて納得して頂いたところでまず、主様自身のステータスを見てみましょうか。ステータスを見たい対象、今回はご自身に意識を向けて、”鑑定”と言ってください」
「えと、こうかな、”鑑定”!」
名前:カケル・ソラノ
種族:スケルトン
状態:正常
カルマ:+300
スキル:自動音声言語翻訳、鑑定、マナドレインLv1
魔法:火属性Lv2、風属性Lv2、土属性Lv2
称号:花火師の血を受け継ぎし者、神の寵愛を受けし者
説明:スケルトン種最弱で、人や動物の骨が魔素によって改変された魔物。暗いジメジメとした所を好み、墓地などに多く生息する。寿命は短いが、極稀に魔素を大量に得た者が上位存在に進化する事がある。また日光に弱く、太陽の下では動きが緩慢になる。
鑑定の結果に従って、翔の眼前に光りでゲーム画面のようなステータスが表示された。
「へぇ、何かゲームみたい。名前や種族、それに状態とカルマ……? 後、能力値とかは無いみたいだけど、僕ってどれくらい強いのかな?」
「状態は毒や病気などの状態異常の表示になります。またカルマはその者の存在の善悪を示す値で、結界や回復などの影響を受ける際に関わってきます。後主様は、身体能力で言えば人間の成人女性よりひ弱で、下手をすれば素手で倒されるくらいの強さになります」
「人に会ったら、すぐ殺されちゃいそうだね……。――気を取り直して、スキルと称号について教えて貰える?」
「畏まりました」
ミミの話しによるとスキルとは、その者が身に付けている特殊能力の事だと言う。
まず、自動音声言語翻訳。これはそのままで、音声による言語を自動的に翻訳してくれる物らしい。
ミミと話せているのはそのためか? とも思ったのだが、ミミはずっと僕に対して日本語で話してるらしい。
様々な言語を話せるのは、神様から補佐を任された身としては当然だとか何とか……。
いつもは違う言語を話しているとの事だが、それならいつもの言語で話しても、自動翻訳スキルが働いて問題無いのではと思う。
だがその事について尋ねると、はぐらかされてしまった。何でだろう……?
次に今使っている鑑定だ。これは物体や生物の情報を読み取るスキルで、僕だけしか持っていないらしい。
僕自身の能力が低いままだと、相手の情報が部分的にしか読み取れなかったりもするので、鵜呑みは駄目だと言われた。
最後にマナドレインだ。マナドレインは進化に必要なマナ――ここでは魔素の事――を、通常よりも効率よく吸収出来る能力らしい。
レベル一だと、相手の保持しているマナの凡そ十パーセントを取得することが出来る。
マナを吸収すれば能力は上がり、一定ラインを超えたマナ量に達すれば上位存在に進化するのだと言う。
では、魔法などに使用する魔素は? となるのだが、例を出して説明する。
例えば、魔素を建材だと仮定する。建材は建築した倉庫の中に、積み上がっている状態である。この積み上がっている状態の建材を、所謂魔力量と称する。これは魔法や魔術によって消費され、時間が経つと大気中から補充される存在だ。
一方で建材を囲っている倉庫が、魔物の肉体に当たる。じゃあ、この倉庫を大きくしようとなっても、中に入っている建材の種類や品質が倉庫を大きくするのに適さなければ、倉庫を大きくする事は出来ない訳だ。
じゃあ、マナドレインはどう言う物かと言うと、相手側――敵の魔物――の倉庫を無理やり解体し、自分の倉庫の拡張材料とする異端のスキルと言う訳だ。尤も全てを拡張材料にする事は出来ないし、解体出来る量も今は少ない訳だが……。
スキルの次は称号だ。これは、今までの行動や生まれつきの祝福などにより追加される物で、その人物を表す物が並ぶのだと言う。
物によっては保持しているだけで何かの効果がある称号もあるらしいので、気が向いたら積極的に追加されるように行動してみるのも良いかも知れない。
また称号の内容については、鑑定で出てきた称号を更に鑑定、要するに二重鑑定をすれば分かると言われた。
僕が持っているらしい称号は二つあるが、言われた通りに二重鑑定した内容の効果と説明はこんな感じだった。
花火師の血を受け継ぎし者:花火師の子孫に贈られる称号。花火に関する事にプラスボーナスが働く。
神の寵愛を受けし者:神様の寵愛を受けた者。寵愛度合いによって様々な能力が向上するが、神様の意向を無視した場合、強化はマイナス方向に働く。
「ちょっと待って! 神の寵愛って、これ呪いの類いじゃないの?」
「呪いとも取れますが、神様の意向に反さなければ問題ありません。何より主様の場合、花火師を心の底から諦めた時が、神様の意向に反する事になるので、まず問題が無いんじゃないですか?」
「ああ、神様の意向ってそう言う事か。なら問題無いのかな。じゃあ、次は魔法について教えてくれる?」
「畏まりました」
魔法、正確には魔法と魔術が存在すると言う。
魔法や魔術は魔素を利用した超常現象であり、魔力と最低限のイメージ、言葉のトリガーのみで発動可能なのが魔術、魔力と緻密なイメージ、精密な制御が必要なのが魔法だとの事。
また、新しく魔法を作り魔術として世界に登録する事も可能らしいが、魔力、イメージ、制御全てにおいて安定していないと登録は出来ないとの事。
ってか、世界に登録って何なんだと聞けば、新しく作られた魔法を魔術としてトリガーと一緒に神様に登録申請を行う事らしい。
申請が許可された場合、トリガーである魔術名を言う事で誰でも気軽に発動可能になる機能のようだ。また、申請登録者は生涯に渡り、登録した魔術が世界で使われる度に数パーセントの魔素が支払われ自動的に専用の魔力ボックスに貯蓄され、使いたいときに使えるようになるらしい。
なるほど、版権料って訳か。神様が作った魔術の基盤というヤツだろうか? どちらにしても現代システムっぽくて合理的な事である。
「魔力とイメージと制御で可能なら、魔法の欄の属性のレベルってどう関係するの?」
「それは発動に関する前提条件ですね。相性のレベルとでも言いましょうか」
使用に必要レベルに達しってないまま魔法や魔術を行使した場合、発動しなかったり魔力暴走を引き起こす場合があるようだ。属性レベルと言うのは相性とも言えるが、習熟度や操作精度とも取れるレベルらしい。
ただし、属性レベルが高くても魔術しか使えない場合もあるらしいので、相性のレベルと訳すのが一番良いのだろう。
「ああ、良い忘れていました。属性レベルですが――」
ミミが付け加えた事によれば、属性レベルはその属性に関する物を生成する能力に直結するとの事。つまり、低レベルのうちは近場にある物を操る事は可能でも、何も無い場所から火や水などを生成して操る能力は低くなる。
全く生成出来ない訳ではないらしいが、生成効率や生成量が段違いに低くて使い物にならない事も多いようだ。
「って事は、僕が今使えるのは火、風、土の魔法や魔術って事だよね?」
「そうですね。レベル二なので、ファイアやウィンドウなどの魔術であればすぐに使えるようになると思いますよ」
今、僕が覚えているのは火、風、土の三つだ。恐らく、花火に関係のある属性を覚えているのだろう。土属性はよく分からないが……。
ミミの話しによると、火属性は炎を作り出して操るもので、強力なものになると辺り一面を焼け野原にするの事も可能なようだ。
風属性は風を作ったり操作するもので、辺りの大気を操作する事も可能で、音の遮断や燃焼の加速なども可能のようだ。
土属性は土を生み出したり操作するもので、レベルが上がれば鉱物なども生み出せるので錬金術の様な側面もある。
「なるほど、土属性はそう言う事か。この属性を使いこなせば、火薬や打ち上げ筒の生成に役立つ訳か……。ミミ、さっきの属性レベルの件だけど、高レベルの魔法や魔術って具体的にどんな違いが出てくるものなの?」
「そうですね――」
属性レベルが上がると言う事は基本的に、複雑化と大規模化、大威力化すると言う事らしい。例えば、拳大の炎を放つ攻撃をレベル二だとすれば、同じ威力でも半径数メートルを焼く魔法はレベル四以上になる。
一方で同じ拳大でも延焼力を上げたり、炎を用いた複雑なオブジェを形作ったりしても必要レベルは上昇する。
「なるほど、単に扱える技量上限と見た方が分かりやすそうだね」
「そうですね。その考えで問題無いかと思います。他に質問はございますか?」
「そう言えば、魔法と魔術の行使に必要なイージってどれくらい差があるの?」
先ほどは流してしまったが、必要最低限のイメージと緻密なイメージって言われても想像が付き辛いよ。
その質問に対してのミミの回答だが、属性レベルにもよるので一概には言えないようだが、低い属性レベルでの水の生成に例えて説明してくれた。
魔術での水生成はコップの水や滝や雨などを連想しながら、トリガーワードを唱えればすぐに水が生成される。
一方で魔法は、水素原子と酸素原子を2:1の割合で生成し酸化結合したものを生み出すイメージが必要になるらしい。
こちらの世界の知識の水準が分からないので聞いてみると、基本は中世ヨーロッパのフランスレベルで、魔法がある分魔法以外の分野は遅れているとの事。
「だとすると、こっちの世界の人達って水素とか酸素って分からないんじゃないの?」
「はい、なので人間達は基本的に魔術しか使えません。レベル五程度の属性レベルを持って初めて魔法の行使が可能になります」
知識が無い分属性レベルでゴリ押ししているらしい。恐らく水だけではなく、他の属性も似たように原理を厳密にイメージする必要があるのだろう。
そんなの、下手したら日本の現代人でも知識不足で行使出来ないのでは無いだろうか?
「うーん、魔法って万能って訳でも無いんだね」
「魔法は自由度が高い分、扱いが難しいですから。主様も最初は、魔術の行使から始めると良いと思いますよ」
「分かった。そうするよ」
「他に質問は御座いますか?」
「うーん、また分からなくなったらその都度聞くよ」
「畏まりました」
よし、魔法や魔術の知識をしっかり抑えて、早く火薬を生成しなくちゃ!!
異世界転生して初めての登場人物、常闇ウサギのミミが登場しました。
ミミは女の子で、最重要キャラクターの一人になります。
一人ととか言っていますが、獣人では無く見た目は完全にウサギです。
今後も仲間になってくれる話せる魔物達は姿形を無視して、一人と数えていくと思います。
後、肉球は付けたかったので付けました。
後半は、魔法と魔術の勉強会が中心でした。
同じファイアの魔法と魔術は、使われる方からすると大して違いはありません。
自由度が高く難しいのが魔法、自由度が低いが簡単に発動可能なのが魔術くらいの認識で問題ありません。
魔法と魔術は今後もちょくちょく使い分けて登場します。
また、翔の表記は翔自身の鑑定以降カケルに変わります。