閑話―ゴーイングマイウェイなトラブルメーカー
今回は例のあの女性の話しです。
メインと言う訳でもないので閑話扱いです。
あの罰掃除から幾日が経ち、カケル達もそこそこ街にも馴染んだ来たある日の事。
セレナが一人裏路地を歩いていると、武器を構えたガラの悪い男達に囲まれてしまった。
「へっへっへ、お前がセレナ・クレイストだな?」
「そうだけど、お姉ちゃんに何か用かしら?」
「ククク。情報通り、良い身体してるじゃねえか!」
そう言って男達は、セレナを舐め回す様な視線を向ける。
セレナはその視線を向けて来る男達に侮蔑の視線で見ながら、平坦な声音で再び尋ねる。
「ふーん、それで……?」
「痛い目に遭いたく無けりゃ、俺等の事を愉しませて貰おうか!」
そう言って男達は、ナイフを片手にセレナの方へと静かに躙り寄って来た。
それを見たセレナは溜息混じりに、思わず呟いた。
「はぁ……、私も舐められたものね……」
「なんだ、強がりか? お前がアイツらの中で一番弱い事は既に調べているんだぜ?」
「確かに私は、カケルちゃん達の中で最弱よ。でもね……、”――”」
セレナが何かを呟くと、セレナを中心に粉末状の何かが舞い始めた。
そしてそれを吸い込んでしまった男達は、直ぐにその粉の効果に晒される事となる。
「な、何だコレ!? か、身体が動かねえ!!」
「こっちもだ! どうなってやがる!?」
「兄貴! アッシの身体も動きません!?」
「フフフ、驚いた? 私、これでも貴方達よりも余程強いのよ?」
「てめぇの仕業か!?」
「――寄生の花粉。身体の自由を奪って、私の意のままに操るスキルよ」
確かにセレナはレナを除くメンバーに比べると、戦闘能力は著しく低い。
魔法適正は他のメンバーとは比べ物にならないし、身体能力はいつも模擬戦でボロ雑巾の様に転がされているカケルと比べてさえ雲泥の差であった。
だがその代わりに、彼女は特殊なスキルを何個も保持していた。
その内の一つが寄生の花粉である。
このスキルは生物の体内に入り込み制御を乗っ取る事で、相手の身体を自由に動かす事が可能になる凶悪なスキルだ。
その耐性が殆ど無い人間に対しては、非常に強い効果を発揮するスキルなのである。
「あらあら、力づくでお姉ちゃんを犯すんじゃなかったのかしら?」
「くそっ! 体が動けばお前如き!」
セレナは確かに戦闘能力が著しく低い為、狙われるのは当然の事かも知れない。
だからと言って、そこらの暴漢や冒険者程度に負ける程軟でも無いのである。
「卑怯だぞ! スキルを解除しやがれ!」
「馬鹿ねぇ。そう言われて解除すると思うの?」
セレナは勿論スキルの解除はせず、ゴロツキを操りながら衛兵の詰め所へと向かう。
その姿は、カケルの世界で言う所のハーメルンの笛吹き男だろうか?
尤も、連れている子役は可愛さの欠片も無かったが……。
「こんにちわー!」
「あれ? セレナちゃんじゃないか。詰め所に来るなんてどうしたんだ?」
「あら、ワグナーちゃん。今暇かしら?」
挨拶をしたセレナに答えたのは、門番としてキーリと交流があるワグナーだった。
どうやら今日は門の担当では無く、見回り担当になっていたらしい。
「まぁ、休憩時間ではあるな。それで、その後ろで喚いてる奴等は何なんなんだ?」
「裏道を歩いていたら、犯されそうになっちゃってね。だがら、連れて来たわ」
「犯されっ……!? それに連れて来たって……」
ワグナーの目からすると、彼等はロープで縛られている様子も無ければ誰かに押さえ付けられている様子もない。
それなのに逃げる様子は無く、自分達は無実だから開放しろと喚いていて、どんな状況なのかよく分からなかった。
「ああ、この状況? 私のスキルによって、操っている状況だわ。一応事実確認するのでしょう?」
「あ、あぁ……」
そして、聞き取り調査が終わるとワグナーが結論を出す。
「うん。セレナちゃんの言う通り、コイツ等は牢屋行きだな。おい! 連れて行け!」
「はっ!」
男達はまだ喚いていたが、ワグナーに言い渡された男と共に詰め所の奥へと連れて行かれた。
「それで?」
「それでって?」
「セレナちゃんが裏道を通った理由だよ! セレナちゃんも自分が裏道通れば、何かに巻き込まれるくらい分かっているでしょ!?」
セレナは絶世の美女であり、武器の一つも持って居らず、更には見た目からは全く強そうには見えない。
その為彼女を知らない者からすれば、裏道を通る姿はカモネギレベルの存在なのだ。
だからワグナーは裏道を歩くのは、不用心だと言っているのである。
「あら、自分の身くらい守れるわよ。それに、裏道にあるお店にも興味があったしね」
その回答に、ワグナーは頭を抱えた。
確かにセレナは見た目と違い、ゴロツキ程度から守ってもらう様な軟な女性ではない。
その事は、今日ゴロツキを怪我一つ無く捕まえて来た事からも明らかである。
だがワグナーは、別に態々トラブルを引き寄せようとしなくても良いのではないかと思ってしまうのだ。
裏通りではなく表通りなら、今の時間帯でトラブルに見舞われる可能性は殆ど無いのだから。
「せめて、ルガルドと一緒に行くとかは? アイツも確か宿屋に残ってるんだろ?」
「嫌よ。彼の仕事の邪魔しちゃ悪いじゃない! それにそんなに心配してくれるなら、ワグナーちゃん自身が付いて来てくれれば良いじゃない?」
「い、いや……、それは……」
「あら、駄目なのかしら?」
セレナの言葉に、ワグナーは渋い顔をして口籠った。
「今日だけなら……」
「ええ、それで構わないわ! じゃあ早速行きましょうか!」
そうしてセレナはワグナーを引き連れて、街の探索へと戻って行った。
そして、表通りを少し歩いた時だった。
セレナがワグナーの腕を引っ張り、露天の一角を指した。
「ワグナーちゃん! アレ見て! あのアクセサリー可愛くない!?」
「おや、綺麗な嬢ちゃんいらっしゃい!」
「ワグナーちゃん、ワグナーちゃん! 私綺麗だって!!」
「そうだな……」
「あんちゃんどうだい? 可愛い彼女にプレゼントでも」
「か、彼女!?」
「ワグナーちゃん、ワグナーちゃん! 私、このペンダントが良いわ!!」
「おい! セレナちゃん!? 自分のお金で買ってくれよ!!」
「まだお金持って無いもの。ワグナーちゃん、駄目かしら?」
セレナが上目遣いで、ワグナーの目を覗き込む。
その目は微妙に潤々していて、ワグナーの庇護欲を誘った。
「うっ……。し、仕方ねぇなぁ……」
「やったー! ワグナーちゃんありがとう!!」
「お、おう……」
ワグナーが支払いを終えると、セレナへとペンダントを手渡す。
が、セレナはそれを受け取らずに後ろを向いた。
「おい、セレナちゃん?」
「ワグナーちゃんが着けて!」
「はぁ……?」
「紳士のワグナーちゃんなら着けてくれるわよね?」
「だぁ、分かったよ!」
ワグナーはペンダントの金具を一旦外すと、セレナの首へと持って行く。
するとセレナから、仄かに爽やかな良い香りが漂って来た。
(お、落ち着け……。俺はペンダントを掛けるだけだ。何も悪い事はしていない……)
そうワグナーが落ち着こうとしているのに、セレナが追撃を掛けようとして来た。
「あ、ゴメンねワグナーちゃん。髪が邪魔でやりにくいわよね?」
そう言ってセレナは、手を使って髪をたくし上げた。
すると、ワグナーの目に艶やかなセレナのうなじが目に入って来る。
(お、落ち! 落ちっ……!!)
そんな事もありつつも、ワグナーは何とかセレナにペンダントを掛ける事に成功したのだった……。
「ほ、ほら、出来たぞ」
ワグナーが声を掛けると、セレナは髪を下ろして振り返り、ペンダントを手で持って確認する。
「うん、やっぱ可愛い! ワグナーちゃんありがとう!!」
「お、おう……」
セレナはワグナーに笑顔でお礼を言うと、ワグナーは彼女の笑顔にドギマギしていた。
その後もセレナは、ワグナーを振り回す。
「ワグナーちゃん! あの店行こう!」
「あ、あぁ……」
更に当たり前の様に、ワグナーに物を強請った。
「ワグナーちゃん! アレ! アレ欲しい!!」
「良い加減、勘弁しろよ……」
ワグナーが横に居るからか、殆どのゴロツキは近づいて来なかったが、それでも尚セレナが美味しい獲物に見えるのか何人かの馬鹿が絡んで来たりもした。
が、そんなゴロツキ程度にセレナがどうにかされる訳もなく、面倒になった彼女によって麻痺状態にされて道端に転がされてる姿は、いっその事哀れにすら見えて来るのだった……。
そして、裏路地から表路地までセレナが満足するまでワグナーが振り回され、日が少し暗くなって来たところで解散と言う事になった。
「ワグナーちゃん、今日のデート楽しかったわ!」
「おい待て! 今日のはデートじゃねえだろ!?」
その言葉にワグナーがやや焦った様に問い掛けるが、セレナはデートと言う言葉を崩す事は無かった……。
そして――。
「じゃあね! また機会があれば、お姉ちゃんとデートしようね!」
そんな事を言い放って、セレナは楽しそうに帰って行くのだった……。
「ったく……。嵐の様な奴だな……」
そう苦笑しながらワグナーは呟いた。
今日の出来事が、そこそこ楽しかったと思いながら。
だがそんなセレナとの遣り取りと呟きは、ワグナーが一番聞かれたく無い相手の耳に入ってしまったらしい……。
「ほう……? ワグナー。オレが家で待ってると言うのに、堂々と浮気するとは良い度胸だな?」
「メ、メルテ……!?」
ワグナーがギギギと言う擬音が聞こえる様な動作で振り返ったそこには、薄ら寒くなる様なプレッシャーを放つ長身の美女が居た。
彼女の名前はメルテ。ワグナーの妻であり、元凄腕の冒険者である。
彼女は明るいブラウンの髪をポニーテールに纏めて、背丈はワグナーと同等か少し高いくらいの高身長だ。
その全身は靭やかな筋肉が無駄無く付いているようで、動物で言えば豹の様な女性であった。
彼女の目はやや釣り目がちで、ブラウンの瞳がワグナーを見ながら激しく燃えているようだった。
彼女の服装はそこらに居る街娘と言った感じで、髪や目も何処にでも居るような見目の筈なのに周囲に強烈な存在感を与えていた。
また、彼女の両手には夕食の買い物の後なのか手提げ袋が握られており、袋の中からは野菜等が見えており買い物の帰りなのが分かる。
「ワグナー、今のは誰だ?」
「い、いや……、えと……」
セレナの事に尋ねられたワグナーが言葉を濁していると、メルテから出るプレッシャーが一段回上がる。
絶対に怒っているのに、静かに尋ねてくる事がより一層プレッシャーを引き立たせていた。
「もう一度聞く。今のは誰だ?」
「セ、セレナ・クレイストさんです……」
「氏名持ち? お前、まさか貴族様に手を出したのか!?」
「ち、違う! セレナちゃんは貴族じゃないし、彼女はそもそも人間じゃない!」
「ほう……、セレナちゃん、ね……?」
「あ、いや……」
「ワグナー、オレの事を放ったらかしにしておいて他の女と遊んでいた事については、帰ってからタップリと聞かせて貰おうか?」
「は、はい……」
メルテは片手の荷物をワグナーに持たせると、ワグナーの腕を取って家路を急ぐ。
その部分だけをピックアップすれば、非常に仲の良い夫婦だったが、漂う雰囲気は死刑囚と死刑執行人のソレであった……。
後日、ワグナーがこの一連の出来事を見聞きした冒険者と衛兵達に、妬みから絡まれる事が多くなるのはまた別の話――。
ワグナーがセレナに振り回されるだけの話しでしたね。
メルテが居るのにセレナに着いて行ったワグナーが全面的に悪そうですけど、お財布代わりにされたワグナーが色々と哀れになって来ますね……。
一応、メルテについてです。
・メルテ
ワグナーの妻、元凄腕冒険者。
ポニーテールの女豹の様な女性。




