バイオテロ未遂の罰
「はぁ……。これ、体は疲れないけど心に来るね……」
「何故、私がこんな事を……」
「なぁ、これに何の意味があるんだ?」
「ワイもこんな扱いは初めてや……」
レナ達が街を回っていた頃カケル達はと言うと、例のゴブリン事件の罰を受けていた。
マイナス加点スタートだけでは騒がした罪は消えず、街への奉仕活動がもれなく付いてきたのである。
その街への奉仕活動とは、要はゴミ拾いの事であった。
地球の様にプラスチックゴミが溢れてる訳ではないが、割れた陶器や壊れた木のグラス、木で出来た串などがそこらかしこに落ちていた。
そんなゴミを暫くの間拾い続けてると、カケル達の横から話し掛ける声があった。
「あれ、カケル様? 冒険者活動をしに出掛けたのでは?」
「あぁレナ……。まぁ、言いたい事は分かるけどこれも冒険者活動なんだよ」
カケルが罰だけどと最後に小声で付け加えるが、その言葉がレナに聞こえる事は無かった。
「では、自ら清掃活動を? 流石カケル様です! 実力を誇る事なく謙虚で有り続けるのですね!」
レナが盛大な勘違いをしていたが、実際の所は絶大な力に物を言わせてデスゴブリンを狩り、そんな危険物を持って来た為の罰掃除と言う悪ガキの様な有様であった……。
「ははは……。そうだったら良かったのにね……」
「カケル様……?」
「僕の方は気にしなくても良いよ。レナは皆と街探索とかかな?」
「はい! 皆さんに街案内をして貰ってまして――」
「レナちゃん、皆さんじゃなくてお友達だよ?」
「う……。お、お友達に街案内をして貰ってます……」
レナはそう言い直すと、恥ずかしそうに顔を伏せた。
それを見たニーナは、満足気な表情を浮かべる。
カケルもレナが彼等と仲良くやれている様で、内心安堵していた。
それからレナは、カケルに回って来た街の事を聞かせてくれた。
それによると中々に移動範囲が広く、既にカケルよりもこの街に詳しくなっていそうであった。
因みにカケルも冒険者をする前に一度街を回ろうかと思ったのだが、少し歩くだけで恐怖と好奇の視線に晒され続けたので早々に取り止めた経緯があったりする。
レナが回ったこの街の構造についてだが、まず誰もが知る様に四方に門があり、周囲は強固な城壁に囲まれている。
街は南北に細長い歪な楕円の形をしており、南半円部分の五割以上が全て農業地帯になっている。
その農業地帯に直接繋がる南門は常時は封鎖され、農業地帯には農民達以外殆ど近付けない様にされている。
因みに魔物の襲撃時にワグナー達が南門に居たのは、完全に迎撃の為と言う訳ではなく南門の点検日だった事に起因する。
大半の人々が出入りするのは、農業地帯とは真逆の北門である。
北に向かえばガライアム王国の他の村や街が点在する為、物見遊山をする者や商人等が頻繁に出入りしている。
尤も、今は魔物襲撃の影響でかなり人数が少なくなっているのだが……。
大半の人が北門を使う一方、冒険者がよく使うのは西門だ。
此方にあるのは平原と魔の森くらいだが、この平原が冒険者達にとっての狩場になる事が多いのである。
一応他に幾つかの村もあるにはあるのだが、そこまで大きな物は無く商人等の出入りも少ない。
その反対側の東門は、一応常に開かれていはいるのだが鬼門と言われている。
と言うのも、此方の方向には長年睨み合っている帝国が存在するからだ。
その為使用する人は少なく、入る際のチェックも厳しい。
だが、冒険者や行商は帝国でも活動しているのでゼロと言う訳では無い。
さて、ここまでを纏めると北と西に建物が集中してそうだが、言う程そちらに集中している訳でも無い。
何故なら、魔物が襲って来るのも北と西が多いからだ。
その為確かにその方角への偏りはあるのだが、どちらかと言うと中央に集中する傾向がある。
北と西にある物として有名な建物は、この街の暴力装置の役割を持つ総合ギルドと兵舎がある。
やや西側寄りには総合ギルドが、北門近くには兵舎が建っている。
また、領主の舘も北西方向に存在する。
カケル達が泊まっている太陽と月の宿は、西寄りに建てられており冒険者の利用が非常に多い。
それが理由で泊まったと思われそうだが、実際はカケル達を受け入れてくれる宿屋が此処くらいしか無かったと言う悲しい現実があった……。
カケル達が寄った事のある建物の場所も把握しておこう。
まずは、ヴェッツェーニアの実家のルト商店。
此方は、中央の一等地に程近い少し北よりに存在する。
この店の主な客層は一般の住民の為、この辺りにあると言うだけで集客力は高い。
チビ夫婦がやっている金属細工の店は、南東方向の人が少なめのエリアにある。
この辺りは土地が非常に安く、農地にも近い為農民が多く暮らしている場所である。
チビ夫婦の息子はこの農地を仕事場にしており、家としての所属は商人よりも農民よりである。
キーリが剣の依頼をした、ボルマが居るのも此方の方角だ。
猫の獣人姉弟が商っている露店の場所は、東北東の露店が立ち並ぶ一角だ。
この辺りは土地が中央付近よりも安い為、家や店も数が多く混沌都市の通称が色濃く出ている地区である。
変な物を売っている店や、怪し気な宗教団体。何を研究しているか検討もつかない様な異色の研究所施設に、路上演奏をしている若者と娼館の客引きのお姉さん等など。
混沌の坩堝と化したこの地区は、混沌都市に昔から住んでる住民ですら怪しんで避ける始末だ。
だが、技術の最先端が生まれるのもこの地区からで、流行の最先端を走る地区でもあった。
なお、この混沌地区は非常に怪し気な雰囲気ではあるのだが、治安に関してはそこまで悪くなく、幼い子が一人歩きしても犯罪に巻き込まれる率は非常に低い。
寧ろこの空気に誘われて強い冒険者等が屯している為、犯罪が起きても鬱憤の発散に利用される始末で態々犯罪を起こす物好きはかなり少ないと言える。
「へぇ、色々の場所があって面白そうだね!」
「はい! 今度、カケル様も一緒に行きましょうよ!」
「う、うん……、機会があればね……?」
「はい、約束ですよ!」
レナはそう言うが、カケルが出歩くには少々周囲の目が気になる。
勿論フードを被って歩いても良いのだが、それはそれでかなり怪しい姿になるのである。
ただ、東北東の混沌地区であれば十分紛れる為、カケルがフードを被って行っても問題無いだろう。
「レナちゃん、そろそろ次行くよ!」
「あ、はい。カケル様、それでは失礼しますね」
「うん、楽しんで来てねー!」
レナ達が見えなくなった後、ツィードが口を開く。
「レナ嬢ちゃん、もう友達と馴染んだみたいやな」
「そうだな。私達の前に居る時よりも身体の力が抜けてる気がするし、悪く無い変化だろうな」
レナは最年少と言う事もあって、保護したあの日から皆に可愛がられていた。
遠慮する傾向が強かったのも、その対応に拍車を掛けただろう。
ただその対応も、彼女に対しては困惑と緊張を強いる物となってしまっていた……。
「まぁ、僕達の前で緊張するのは仕方無いのかなぁ……? 僕達の事、まだ神様扱いしてるし……」
「それは、主様が死神なんて嘘をつくからですよ?」
「それはそうだけど……。あの時は、ああ言うしか無かったんだよう……」
レナは、カケルが死神だと言う嘘を完全に信じ込んでいた。
彼女自身が言った言葉から作られた嘘の為に、信じられやすい基盤があったのかも知れない。
そしてカケルがその嘘を吐いた時には、彼女の心を安定させるのに必要な嘘だったのだろう。
だが、その後に嘘を訂正しなかった事もまた事実ではあるのだ。
「じゃあ、訂正する気はあるんですね?」
「そ、それは……」
レナがカケル達に向ける視線は、以前よりも信仰的な物が増えてきており、段々と言いづらくなって来ていたのも確かだ。
それと、もしそれが未だに心の支えになっていた場合、前の様な発作が起きるかも知れないと言うのも中々言えずにいる理由である。
「はぁ……。まぁ、私は別に構いませんけどね」
カケル以外の神様扱いは、実は全くのデタラメと言う訳でもない。
キーリとルガルドはそもそも神様扱いされる聖獣で、ミミは神の使徒である。
セレナは神様の友人で、ツィードは神獣と呼ばれる種族だ。
更に強力な力を持つ存在が神様扱いされ易いこの世界では、ある意味全員が神様扱いでも絶対に違うとは言い難いのである。
「まぁ、私は今更だな。神として扱われるのは、今回が初めてじゃない」
「まぁ、カケル坊の言いたい時に言えばええんちゃう?」
「うん……、ごめんね……。いつかはしっかり言うからさ……」
「では、この話題はここまでですね。早くしないと、今日中に終わりませんよこれ」
「そうだね。ゴミ拾いに戻ろっか」
「せやな、さっさと終わらせるで!」
「あぁ、早めに終わらせよう」
レナの話を終わらせたカケル達はゴミ拾いを続行し、件の魔物達がゴミ拾いしている姿が珍しいのか、延々と住民達の晒し者になるのだった――。
混沌都市の街紹介的な話は一応これで終わりです。
時間があれば簡単な地図とか作ってみたいですね。
あ、後ストックがほぼ底を突きました。
もしかすると、次の投稿が一週間ほど時間を空けるかも知れません。




