チビ夫婦のお店
「レナちゃん! 今日は少し街を回ってみない?」
「え? えっと、申し訳ありません。仕事が残っておりますので、街に行く時間は取れないかと……」
「レナちゃんならそう言うと思った。お母さん!」
「はいよ。レナ、ニーナ達と一緒に街に行っといで!」
「ミランダ様!? で、ですが……」
「レナ、あんたこの街に来てから、まだ一度も街を回った事ないだろ?」
「それは……、はい……」
レナはキーリの背に乗せられて、この街へとやって来た。
だがその後街の危機を救った後も、宿の手伝いをするばかりで全くと言って良い程外出をしていなかった。
我儘を言っても良いような年齢の子供がである。
そもそも宿代はしっかり払っているので、本来はレナが宿の手伝いをする必要は無い。
それなのにレナがこの宿屋に日中も居るのは、カケル達が冒険者となった事で一緒に連れては行けないとなり、宿屋にお世話を頼んだからである。
その際にただお世話されるのが忍びないとの事で、レナ自身から手伝いを申し出ていたと言う経緯があった。
「じゃあ、遊んでおいで! こっちは大丈夫だから。ニーナ達も待ってるみたいだよ?」
「分かりました……。お言葉に甘えさせて頂きます……」
ミランダの言葉に申し訳無さそうに頷いたレナは、集まっていたニーナ達五人と合流し、久々に宿の外へと歩き出して行った。
外に出てみると今日は清々しい程の晴天で、時期的には秋の終盤くらいで人によっては晴れてはいるが少し肌寒いくらいだった。
「えと、ニーナ様。今日はどちらに向かうのですか?」
「様付け禁止! 宿屋じゃないんだから、敬語とかも無しだよ!!」
「あ、えと……、うん……。ニーナちゃん……」
「うん! それで良し!」
「ニーナちゃん押せ押せだね」
「当然! レナちゃん、ちっとも遊んでくれないんだもん。この仲良くなれる機会を逃す訳には行かないよ!!」
「それはボクも同感かも」
「ミリーも! ミリーもレナちゃんともっとなかよくなりたい!!」
「僕ももう少し仲良くしたいかなぁ」
「きゅい!」
やいのやいの言いながら、街を歩く一行。
そして彼等は、少し歩いた先にあった一軒の建物の前で止まった。
「おばさん居るー?」
「いらっしゃい。なんだい……、ニーナ嬢ちゃん達か……」
「ちょっとおばさん! なんだは無いんじゃない!?」
「なら聞くけど、嬢ちゃん達が一度でも買い物しに寄った事があったかい?」
「う……。それは無いけど……」
建物の中に入ったニーナの呼び掛けに返事をしたのは、レナよりも身長が低くかなり幼く見える女の子だった。
恐らく、身長は半ナレイ――百センチ程――も無いのではないだろうか?
彼女の髪はダークブラウンでややふんわりとしたミディアムショートヘアを首下辺りまで下ろし、頭の上には淡い水色を基調とした大きめのリボンが一つ付いていた。
着ている服は髪と同じく淡い水色で、フワフワしたエプロンドレスと言う幼さを全面に出した様な姿だった。
だが全体的に幼い割に言葉遣いが変で、挙句の果てにはニーナにおばさん呼ばわりされていた。
「お、何だ? 客が来たのか?」
「あ、おじさん、こんにちは!」
「こんにちは~!」
「こんにちは」
「え、えと……、こんにちは……」
「キュイ!」
次に建物の奥から出て来たのは、先ほどの彼女と同じくレナよりも身長が低い幼い男の子だった。
服装は紺を基調とした半袖半ズボン。髪はサラサラのライトブラウンのショートヘアで、言葉遣いとは裏腹に可愛らしい姿をしている。
だがこちらもニーナにおじさん呼ばわりされており、レナは何とか挨拶をしていたが違和感の強い呼び方に頭は混乱していた。
(なんで、彼女がおばさん? 後に来た子も、おじさんって歳じゃないよね?)
レナが混乱している最中も、会話は続く。
「それで、今日は何の用だい? 一人、知らない娘が居るようだけど」
「おばさんにレナちゃんを、紹介しておこうと思ってね!」
「へえ、その娘レナ嬢ちゃんって言うのかい?」
「そう。レナちゃん、このちっこいおばさんはダリアさんだよ。んで、あっちのちっこいおじさんがクレッグさん」
紹介された二人が、レナに向って挨拶をする。
その仕草を見ても、レナには子供が見栄を張って大人の様に振る舞っている風にしか見えなかった。
「は、はい、宜しくお願いします?」
「あぁ、宜しくね」
「うん、宜しく」
「あ、あの、不躾で申し訳無いのですが、お二人はお幾つ何ですか?」
レナが我慢出来ずに気になっていた事を聞くと、二人は顔を見合わせ声を上げてひとしきり笑った後に彼女の質問に答えた。
「そっか、アタシらの事を知らされてなかったんだね? アタシは今年で二百三歳さ」
「に、二百!?」
「ダリアは見た目より結構年食ってるからなぁ……。あ、俺は見た目通りの三十四歳だから安心してくれ」
見た目通りと言う言葉の意味が崩壊しそうである。
どちらも全く見た目通りではなく、レナの目から見るとダリアはミリエラと同程度か少し下。
クレッグも自分より少し下の、六歳くらいにしか見えなかった……。
「レナちゃん。おばさんはドワーフで、おじさんはハーフリングだよ」
そう、ダリアはボルマと同じドワーフなのだ。
更に言うとダリアとボルマは、同年代の幼馴染だったりする。
人間から見たら、祖父と孫娘にしか見えないだろうが……。
そんなダリアの種族であるドワーフは、人間に比べると非常に長命であり、歳を取る事による見た目の変化はかなり少ない。
彼等の身長はかなり低く鈍足なのだが、腕力に関しては人間と比べ物にならない程に高く、手先の器用さが非常に優れた種族である。
その特性を生かして、鍛冶職人や細工職人等を目指すドワーフは非常に多い。
そんな彼等の寿命は凡そ六百歳程で、ダリアは人間で言えば三十歳前半くらいだろうか。
一方のクレッグ種族であるハーフリングだが、寿命は人間とそこまで変わる訳では無い。
彼の言った通り、年齢は人間が考えるイメージで良いだろう。見た目は兎も角……。
ハーフリングの平均身長は、ドワーフと同じく成人男性の半分程度しかない。
そして腕力や脚力も別段優れている訳では無い。
その代わり彼等は頭の回転が速く体力も中々に高い為に、行商に向いている種族だと言われていた。
また身長は低いが老けない訳ではなく、一定年齢まで若い姿を保った後に一気に老けて行く種族である。
さて、そんなチビ代表種族が夫婦をやっている所を見ると、まるで年下の子供達がやっているごっこ遊びの様である。
だが、実際はレナ達よりも相当に歳上の人達と言う何とも面白い光景と言えるだろう。
「ドワーフ……、ハーフリング……。初めて見ました……」
「おや、そうなのかい?」
「ダリア、多分その娘はこの頃街にやって来たんじゃないか? シャンティナにならそこそこ居る訳だけど、他の街や村には僕等の同族は殆ど居ない訳だしな」
ドワーフやハーフリングも、小さいながらも既に独立した国を持っている。
大陸の大半の場所に居る人間がそこまで友好的では無い事もあり、外に出ようとする者自体が少なく特にドワーフは殆ど外に出ようとはしない事で有名だ。
そんな総数の少ない中でも、シャンティナにはそこそこの数のドワーフとハーフリングが暮らしている。
例えば王都へ行ったとしても、ハーフリングは一人も居ないしドワーフだって一人居るかどうかだ。
そんな他の場所よりも多種族が居るシャンティナで暮らしていると感覚が麻痺するが、産まれてから一度もドワーフやハーフリングを見た事が無いなどざらにあるのだ。
「そう言えばそうだったね。嬢ちゃん、ドワーフとハーフリングを初めて見た感想はどうだい?」
「え、えっと……。想像していたより、とても可愛らしかったです……」
その言葉にダリアは笑みを強くし、クレッグは微妙な表情を浮かべた。
因みにハーフリングが男女共に可愛らしいのは確かだが、ドワーフの場合は女性だから可愛らしいのであり、男性の場合は産まれて一年経たずに髭もじゃになるので可愛らしさとは無縁かも知れない……。
「そら良かった!」
「ダリア、その嬢ちゃんにうちの店を紹介してみたらどうだい? もしかしたら、ニーナ嬢ちゃんと違って気に入ってくれるかも知れないよ?」
「まぁ、そうだね。レナ嬢ちゃん、うちは見た通り金属細工を扱う店なんだけどね、時間があったら見ていってくれないかい?」
「えーと……」
レナがニーナの方を向くと、ニーナは顔を縦に振った。
「はい、見させて下さい!」
「どうぞ、ゆっくりしていってね!」
「気に入った物があれば、ニーナ嬢ちゃんのお友達と言う事で少し安くしておくよ」
そんなこんなで、改めてダリア達のお店をそれぞれ見て回る事となった。
店の中は吹き抜け程とは言えないが妙に天井が高く、レナ達の身長からすると非常に開放感がある空間だった。
店舗内には幾つもの棚が設置されており、棚の中には窓から入った日の光を反射している多くの金属細工が展示してある。
金属細工の色は様々だ。
金、銀、銅を始めとする金属の有名な色から、赤や青、緑と言った余り知られてない色合いもある。
金属らしくそれ等の色には光沢がある物が殆どだが、艶消し処理がされているのかはたまたそう言う金属なのかそこまで光沢が無い金属細工もあった。
レナはその中でも、一番目立つ位置にあった花の金属細工に目を向けた。
その金属細工は白桃色を基本として、花弁の中央に行く程に桃色が強くなっていた。
花の細工は細かく花弁一つ一つまでくっきりとしており、まるで本物の花を金属に変化させたようであった。
「綺麗……」
「おや、それが気に入ったのかい? 嬉しいね」
「もしかしてこれは、ダリアさんが作った作品なんですか?」
「そうさ。これはアタシが作った作品の中で、特に思い入れがある一つさね。なんたって、この花の名前はダリアって言うんだからね」
「ダリア……」
――ダリア。
キク科の花の一種で、牡丹の様な花だ。
存在感があり華麗な大輪の花は、女性に人気で過去にはこの花を巡り争い事が起きた事すらある。
ダリアの花言葉は華麗、感謝、乙女の真心等の綺麗な物と、裏切り、移り気、気まぐれ等の良くない意味を併せ持っており、魔性の女性を連想させるかも知れない。
これ等は全て地球での話ではあるが、この世界での扱いも非常に似ていた。
「自分の名前の由来になった花だからね。気合を入れて作るのさ。少しナルシストっぽいかね?」
「いえ、素敵だと思います」
レナはダリアの説明を受けながら、他の金属細工にも目を向けた。
そのどれもが非常に丁寧な仕上がりで、試しに聞いてみた値段が安過ぎて採算が取れていない様に思える程だった。
ギィ……。
そんな事を話していると、扉から他の誰かが入って来たようだ。
レナが、最初にその入って来た人物を見て抱いた感想は巨人だった。
先程までダリア達を見ていた影響かも知れないとも思ったが、彼は殊更大きく見えた。
レナはそう考えたが、錯覚では無く事実である。
何故ならレナの目の前に居る彼の身長は、凡そ一ナレイ半――三メートル程――もあったからである。
彼は妙に高い天井ギリギリまである長身から、レナの方を見下ろしていた。
髪の色はグレイブラウンで、かなり短く刈り上げられてある。
顔の彫りが深く、見たところ年齢は三十代後半くらいだろうか?
服装は農作業に適しそうな長袖長ズボンで、巨大な鍬を肩に担いでいた。
「あ、エディオじゃん!」
「エディオ君こんにちは」
「こんにちはー!」
「エディオ君、お邪魔してるよ」
「キュイ!」
「ニーナちゃん、それに皆も。今日はオラの家に遊びに来ただか?」
扉の音に気付いた皆がその巨人の彼に話し掛けると、彼は重低音だが嬉しそうな声で応えた。
「今日はレナちゃんの街案内だね」
「レナちゃんだか……?」
「ほら、この娘だよ」
ニーナがレナを指し示すと、エディオの目線がレナに合った。
上から見下ろされた状態は少し恐怖を感じたが、それを抑えてレナは挨拶する事にする。
「え、えっと……。どうも、レナです……」
「オラはエディオって言うだ。宜しくだ」
「レナちゃん、レナちゃん! コイツ見た目はこんなんだけど、歳はニアちゃんと同い年だから気軽に話し掛けて大丈夫だよ!」
レナはニーナの言葉を聞いて、かなり驚いていた。
ヴェッツェーニアと同い年と言う事はレナの二つ歳上である。
二つ違いで身長が二倍以上である。
更に言えばエディオの見た目が、中々に老けていたのも驚く要因になっていた。
レナは同い年だと説明された、ヴェッツェーニアとエディオを見比べる。
片や自分の身長と同じ位の可愛らしい女の子。片や自分の身長の二倍近くの老け顔の男性。
二人は余りにも違い過ぎて、全く同い年とは思えなかった。
「エディオお帰り」
「エディオ帰ったか」
「ただいま、母ちゃん、父ちゃん」
さらなる衝撃がレナを襲う。
母ちゃん? 父ちゃん?
そう言えば、さっきオラの家って言っていた筈……。
それらから導かれる答えは――。
「お、親子!?」
「やっぱ驚くよね~。私も最初は驚いたもん」
「エディオくんおおきいよね」
「あの身長は羨ましい……。ボクも、もう少し大きくなりないな」
「ニナちゃんは、そのままで良いと思うよ! エディオみたいに大きくなったら、素早さが失われるからさ!」
「うーん……、それはそうかも……」
「キュイ、キュイ!」
余計な茶々が入ったが、レナが驚く程に三人の家族は似てなかった。
一番似てないのは、身長であろう。
こんな小さな二人から、どうしてこんな巨人が産まれるのだろうか。
それを考えていたレナは、ある事を思い付いてエディオへと顔を向けた。
「あ、レナちゃん。先に言っておくけど、エディオはおばさんとおじさんの養子でも連れ子とかでもないよ?」
レナが聞こうとしていた事は、ナックに答えられてしまった。
その回答通りに養子等でないなら、つまり彼は実子であると言う事だ。
「エディオは大きいからねぇ。出産前は、お腹の大きさから三つ子とかだと思っていたよ」
「俺は五つ子だと思っていたぜ?」
それ程までに、お腹が大きくなっていたのだと言う。
ダリア達の身長からすると、言う程大きくない可能性もあるが……。
「あ、あの……。そんな大きさのエディオさんって、一体何の種族になるんですか?」
順当に言えば、ハーフドワーフかハーフハーフリングとかであろうか。
ハーフリングの方は、ハーフが重複して言い難いが……。
だが、ハーフだろうが何だろうが彼の姿は変に感じるのである。
「オラは巨人族だ」
エディオの口から出て来たのは、まさかの本当の巨人だった。
ダリアの血筋に巨人族の血が混じっているらしく、彼は先祖返りで大きくなったと言う事だった。
巨人族は巨大な身体と強靭な肉体が特徴の種族で、身長は二ナレイ半――五メートルくらい――から五ナレイ程――十メートルくらい――に成長する。
ドワーフと同じく俊敏さは皆無だが、身体自体が大きいので速度としては人間よりも速く動ける場合も多い。
腕力等は他種族の追従を許さない程で、拳の一撃で岩を砕くのは当たり前とまで言われている。
また、体力や耐久力も桁外れであり、前衛として戦う戦士に向いた種族である。
身長が高く力と体力も高い為土木作業等にも向いているが、そこに宛行うには勿体無い程の身体スペックをしている。
「ジャイアント……」
「エディオ、今日の作業は終わったの?」
「残念だけど、まだ休憩時間になっただけだ」
「ざんねん」
「仕方無いね」
「また、今度遊ぼうね!」
「キュイ!」
彼はこう見えて十歳なので、ニーナ達と一緒に遊ぶ事もある。
ただ、彼の場合は家での仕事を任せられているので、他のメンバーと違って滅多に遊びには参加出来なかった。
「レナちゃん、あんまり邪魔しても悪いからそろそろ次に行こうか」
「う、うん……」
「オラも作業に戻るだ。皆、また遊びに来てくれだ」
「おや、お帰りかい? 今度は何か買ってくれると嬉しいね」
「またのご来店を待ってるよ」
「うん、エディオも頑張ってね~。おばさん、おじさんバイバイ」
「じゃあまたね、エディオ。おばさんとおじさんもまた来るね」
「またねー」
「それじゃあね~」
「エディオさん、ダリアさん、クレッグさん、お邪魔しました」
「キューイ!」
そこそこ滞在したと言う事でお暇する事にして、レナ達は次の場所へと向かう事にしたのだった――。
新しいキャラの登場です。
多分モブ担当で、登場回数はそこまで多くならないと思います。
以下、登場人物まとめ。
・ダリア
ドワーフのおばさん。見た目は子供、年齢は二百三歳。
・クレッグ
ハーフリングのおばさん。見た目は子供、年齢は三十四歳。
・エディオ
隔世遺伝のジャイアントの子供。見た目はおっさん、年齢は十歳。




