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ゴブリン退治と薬草採取

グロ表現は殆ど無いですが、少し怖い病気の表現があります。

後、話が少し長めになります。

 北門から出て来たカケル達は、門の直ぐ側で移動先を決める事にする。


「ミミ、此処から一番近くてゴブリン退治と薬草採取が一緒に出来る場所って何処かある?」

「――そうですね。北東の森が良いのではないでしょうか?」

「北東の森だね。じゃあ、行ってみようか!」


 何時も通りにキーリに乗って移動して行く一行。

 そして辿り着いたのが目の前に広がってる森だ。


「なんか、不気味な森だね……」

「せやなぁ……」

「確かに少し暗い雰囲気があるな」

「そうですか? 森ですから、こんな物じゃないですかね?」


 カケルが不安気に呟くと、ツィードとキーリは同調してくれたが、ミミはあっけらかんと返した。

 だがカケルの言う通り、目の前に広がる森は不気味な様相を呈していた。

 鬱蒼と木々が生い茂り、人の手どころか獣も出入りしてないのではと思える程の光景だった。

 木々ですらその状態なのに、この森は更に木々すら覆い隠そうとする雑草がそこらかしこに生えている。

 イメージ的には幽霊屋敷へと続く道を囲っている森だろうか。


「こうしていても仕方無いし、入って行こうか……」

「死角が多いから、不意打ちに注意しなくてはな」

「ワイはサポートやから、あっちに行ってるわ」

「まぁ、このメンバーで早々問題は起きないでしょう」


 カケル達が森の中へと足を踏み入れる。

 約一名次元を渡る事で障害物を物ともしていないが、他のメンバーはそうはいかない。

 大きく育った草が足に絡みつき、その草の高い背丈が互いの姿を見えにくくする。

 それに加えて剪定(せんてい)されてない木々の枝葉は陽の光を覆い隠し、ジメッとした雰囲気を存分にカケル達へと与えていた。


 更にカケル達が歩く場所は、人の通る道どころか獣道も見当たらない。

 従って彼等は、まさしく道を切り開くを体現しながら進む羽目となるのだった。

 そうして、悪戦苦闘しながら進む事一刻程だろうか。

 不意に先程まで覆っていた草が無くなり、木々も少し少なめの広場の様な場所へと出た。


「此処は辺りが見やすいね」

「そうですね。戦うには丁度良い場所かも知れません」


 カケルがやっと視界が開けた事に対してホッとした言葉を零すが、ミミはそれとは違う感想を返した。


「戦う……?」

「はぁ……。主様、良い加減無闇に生への渇望を無効にするの止めた方が良いと思いますよ?」

「え? 無効にしてたつもりはないけど……」

「では、恐らく無意識でしようね。スキルを使用しようとしてみて下さい」


 カケルはミミの言葉に従って、生への渇望のスキルを有効にしようと念じた。

 すると――。


「これは、何かがこっちに向かってる?」

「はい、そうです。敵の数は分かりますか?」

「えと……。多分、右から五、左から五、後ろから十、前から二十かな?」

「はい、正解です。では、交戦と行きましょうか。取り敢えず、主様は右手の五匹を倒してみて下さい」

「分かった」


 ミミが更に左をツィード、後ろをキーリに割り当てた。


「特に問題も無いでしょうし、さっさと殺りますか」

「そうだな。手応えは無さそうだが……。まぁ、仕方あるまい……」

「ワイも五匹くらいなら楽勝やで」


 そして、全員が構えて少し経つとほぼ同時に四方向から魔物が襲い掛かって来た。


 襲って来た魔物だが、カケルには真っ黒な肌をしたゴブリンに見えた。

 シャンティナで見たゴブリンは薄緑だった筈なので、少し種類が違うのかも知れない。

 持っている武器が、剣や槍、棍棒と言った具合で少し違うが、基本的に装備の品質はそこまで変わらないように見受けられる。

 ただ、全ての武器の品質自体が前に見たゴブリンと比べると中々に高い気がする。

 勿論それに合わせた革鎧の品質もだ。


 左手側から来たゴブリンは、ツィードと対峙する事となった。


 ゴブリンはツィードに対して威嚇の声を上げながら襲い掛かる。

 だが、彼等の攻撃は全てツィードを素通りしてしまう。


「無駄や。無駄無駄。あんさん達の攻撃は、ワイには通用せえへんで」


 グギャー!!


 それに対して怒ったのか、単にむきになったのか攻撃が過激になって行く。


 だが、次元種の本領を発揮したツィードに対しては、どれだけ強力な攻撃だろうと単なる物理攻撃が効く訳が無い。


「もう少し考えて行動した方がええんちゃうか?」


 そう呆れながら、ツィードは魔法を発動する。

 その魔法は単なるファイアボール。

 しかも、圧縮等の工夫も無い火の玉だ。


 それを見たゴブリン達は、避ける必要も無いとばかりに笑いながら突っ込んで来る。

 確かに本来なら彼等にこの威力の魔法は通じない。

 だが――。


 グギャッ!?


 ファイアボールがその一体に当たると、苦しみの声を上げて崩れ落ちた。

 慌てて仲間の一体が駆け寄って抱き起こすが、その外皮に火傷の痕も煤の跡さえも無かった。


 その不可解な光景に、ゴブリンの一体がツィードを睨みつける。 


「何をしたって言いたそうやな? ワイが次元種だって事、本当の意味で分かっておらへんやろ」


 次元種とは対峙する事なかれ。

 次元種に対向するには、相手側の攻撃を防御若しくは回避出来る事と、次元を越えた攻撃手法が必要である。

 これは人種の一部では良く聞く知識で、次元種と相対して人が勝つ事は不可能だとされている理由だ。


 さてそんな次元種だが、一般的な知識を持つ者に何処が一番脅威だと聞けば、相手からの攻撃だけが一方的に此方に届く事だと答えるだろう。

 それは勿論正しいのだが、本当に危険な次元種と相対して生き延びた者はこう答えるだろう。

 一番脅威なのは、防御不可の体内への攻撃だと……。

 そう、何も態々相手の鎧や外皮の上から攻撃を加える必要は無く、相手の体内で次元の壁を越えさせれば防御手段を取りようの無い強力な攻撃となるのだ。


 この攻撃にも欠点があるのだが、このゴブリン達に対しては関係無い。

 それからゴブリン達は、ツィードの一方的な攻撃の前に為す術もなく程無くして全滅する事となるのだった……。



 後ろから来たゴブリン達と相対するのはキーリだ。

 此方は特に見るべき点がある物では無い。


「はっ!」


 グギャ!?


 いつも通り鎧袖一触だ。

 キーリか剣を振るう度に数匹のゴブリンが斬り伏せられ、スキルも使わずにたった三度の斬撃で全てが斬り伏せらる事となったのである……。



 前からの一番多い数の担当はミミである。


「食べれる訳でも無いですし、どうしましょうか」


 二十ものゴブリンからの攻撃を、身体の動きだけでアクロバットに避けるミミ。

 彼女にとってこの戦闘はお遊びだ。

 何故なら本来彼女は、ゴブリン達の攻撃を避ける必要すら無い。ゴブリン達の攻撃では、彼女の毛皮どころか眼球すら傷付く事は無いのだから。


 いつも通りに黒い手を出して倒しても良いが、それでは芸が無いなとミミは考える。

 本来であれば戦いに芸など必要は無く、効率の良い倒し方こそが史上の攻撃となる。だが、彼女は何に触発されたのか少し違う方法を取ってみようと思った。


「久々に闇魔法で倒してみましょうかね」


 目の前に居るゴブリン。単なるゴブリンと呼んでいるが、実際はデスゴブリンと呼ばれる非常に危険な魔物である。

 名前の由来は単に魔物として強いだけで無く、デスゴブリンが体内で飼っているウイルスが原因だった。


 そのウイルスに侵されると、発熱、嘔吐、意識混濁が見られ、最期には体中から血を吹き出して死んでしまう。

 このウイルスの怖い所は、殺傷力だけでなくその感染力にある。

 感染経路は主に空気感染の為防ぐ手段はかなり乏しく、一人が感染した場合村規模ならばほぼ確実に全員が感染し、村毎焼き払わなければならない程の感染力なのだ。


 そう、つまりこのデスゴブリンは地球で言うところの、エボラ出血熱の病原体保有の猿や蝙蝠に当たる様な種族なのである。


 さて、感染力も殺傷力も非常に高いこのウイルスだが、此処に居るメンバーには意味が無い。

 もしレナが居たら非常にマズかったのだが、此処に居る者達は病原体に怯える心配は無い。

 感染力のレベルで言えばセレナも掛かる可能性があるのだが、彼女に関しては掛かったとしても人間で言うところのキツい風邪レベルで済む。


 そう言う訳で、人間にとって余りにもデンジャラスな魔物なので、ギルドに出回る事はまず無い。

 と言うか、もし見掛けたらそれはその地区のギルドの滅亡を示しているのである。

 当たり前だが、そんな魔物の為食用には適さないし、態々確保しようなんて考える馬鹿はまず居ない。


「”絶望の悪夢ナイトメアオブディスペア”……」


 ミミが魔法を唱えると、ゴブリン達が一斉に眠りについた。

 苦悶の表情で、(うなさ)されながら……。


 そして、ミミは続けて魔法を使う。


「”夢は現に(ドリームカムトゥルー)”……」


 その魔法が掛けられると最初は表情だけが苦悶に満ちていたのだが、ゴブリン達の身体が不自然に震えだした。

 更に少し経つと彼等の呼吸が荒くなり、胸を掻き毟りながらその場で転げだした。

 そして最後には、段々と動きが鈍って行き息を引き取っていった……。


「ふむ。素材としての破損は無いですし、後は徹底的に隔離してギルドに提出しますか」


 そう呟いたミミは、ゴブリン達を丸洗いしながら徹底的な処理を施し始めた……。



 右手側の五体のゴブリンを任せられたカケルだが、思わぬ苦戦を強いられていた。


「このっ……!!」


 カケルがローカストソードを振るうも、一体が受け止め他の四体が別方向から攻撃して来る。

 それを何とか避けるものの、カケルは魔法を使う為の集中力が取れないでいた。

 何とか距離を取ろうとするものの、絶え間無く続く攻撃がそれを許してはくれないのだ。


 今回の場合の対処だが、例えゴブリン達から全ての攻撃を食らったとしてもカケルは無傷なので、ゴブリン達の攻撃を無視して魔法を使うのが一番の正解である。

 だが、戦闘経験の浅いカケルはその事を思い付かない。


「グギャ!!」

「くっ!」


 従って戦っている同士から見ればカケルが追い詰められていたが、実際はとんだ出来レースなのである。


 だからこそ、他のメンバーは戦いが終了して助けに入れる状態になっても、カケルの戦いを静観している状態であった。


「ねぇ、このゴブリン強いんだけど!? 皆も見てないで助けてよ!!」

「せやねぇ……。今助けるとカケル坊の成長の妨げになりそうやしワイはパスやな」

「私もパスだな。その程度の敵ならば、カケル一人で十分だ」

「そうですね。主様でしたら大丈夫でしょう」

「酷くない!?」


 そう言ってる間にも、ゴブリン達の攻撃は苛烈になっていく。

 それをカケルは、先程有効にしたスキルを何とか使いながらギリギリ避けて行く。


 未だに何とか避けられているのは、レナと会った後に追加されたミミ達との模擬戦の成果である。

 あのキーリとミミを相手に、ソード一本で立ち回りの訓練を課せられていたのだ。

 期間が短い為に五体のゴブリンに苦戦しているが、あの訓練に比べたらゴブリンとの戦闘は非常に緩い筈である。


 とは言え付け焼き刃の剣術と立ち回りではカケルの動きを学習しながら戦うゴブリン五体は厳しかったらしく、気付いた時にはカケルの脳天に剣が迫っており避けられない体勢になっていた。


「しまっ……!?」


 ボスッ!


「あれ?」

「主様、ゴブリン達の攻撃は主様に一切効かないですよ」

「せやな。ワイの糸で作ったローブ着てるんやし当然やな」

「ツィードの糸のローブ無しでも、お前なら殆どダメージは無かっただろうな」


 そもそもツィードの糸は殆ど物理無効のレベルなのだから、その糸で紡いだローブの効果は推して知るべしである。


 尤も、例えカケルが着ているのが単なる麻や絹の服だとしても、キーリが言う通り結果は対して変わらなかっただろう。


 まぁ、なにはともあれ反撃開始である。

 回避や防御を気にして戦うのと、相手の攻撃が当たるのを無視して動けるののどちらが有利かなど疑問の余地も無いだろう。


「主様、こっちで規定の数は確保したので、完全にマナドレインで吸いきっても構いませんよ」

「分かった」


 カケルはまず、相手の動きを止める事にした。

 バカスカ斬り付けられて来るので、魔法は非常に使いづらい。と言う事で、彼はローカストソードを用いてゴブリンの(けん)を斬る事にした。

 作戦は単純明快。相手の攻撃の際に、攻撃を避けずに相手の腱を斬るだけである。


「せいっ!」


 グギャッ!?


 一体のゴブリンが呆気無く大地に転ぶ。

 そこから先は作業である。

 ゴブリン達の行動が変わればまだ対応する必要があったかも知れないが、ゴブリン達の行動は殆ど変わらず五位一体から四位一体になっただけであった。

 四位一体が三位一体に、三位一体が二位一体に、そして残りたった一体に……。


「これで終わり!」


 グギャギャ!?


 彼らの健を全て斬ったカケルは、ゴブリン達に止めを刺した後に、転がったゴブリン達に向けて手を(かざ)す。


「”マナドレイン”……」


 その言葉に反応して、ゴブリン達が光りながら干からびていく……。

 そして、最後まで吸い取るとゴブリン達は粉になって消えて行った。


 昔は最大限吸っても干からびさせるくらいだったが、能力が上がったからなのかある程度強力な魔物の場合粉になる事が多くなっていた。


「終わったようですね。では、帰りましょうか」

「ちょっと待って! ゴブリンはミミ達が倒した奴で良いと思うけど、もう一つの依頼の薬草は?」

「それでしたら、既に採取済みですよ」

「いつの間に……」


 どちらの依頼も完了してるなら、カケルに止める理由は無くそのままシャンティナへと戻る事となった。

 そして、森から出ようとした時にミミが待ったを掛ける。


「どうしたんだミミ?」

「このままシャンティナに戻ると、世界流行(パンデミック)的な事が起こる可能性があります」

「パンデミック!?」

「そらどう言う意味や?」

「シャンティナの人間達が、全て息絶える可能性があると言う事です」


 その言葉にカケルは、動揺を隠さずにミミへと質問をする。


「ちょ、ちょっと待って! 何か僕達が病気に掛かってるって事!?」

「はい。ただ私達では発症する事は無いので、病気に掛かってると表現するかは分かりませんが」

「ふむ。ミミはその病原体をシャンティナに帰る前に駆逐するべきだと言うのだな?」

「その通りです。キーリ様、私達を囲うように完全封鎖型のホーリーシールドを半球状に張れますか?」

「ああ、問題無い」


 キーリが魔法を使うと、半球状に半透明の白い膜がカケル達を囲んだ。


「ツィード様はあちらに居た為、病原体を保持していません。なので、そのままそちらに居てください」

「了解や」

「では、少し移動しましょう」


 シールドを張りつつ外へと移動する一行。

 森の外の荒野へと出て、森からしっかりと距離が離れた後ミミは次の指示を行う。


「では、お風呂を作りましょう」

「お風呂?」


 そう言ってミミは内部に風呂を作ったのだが、それは風呂と言うには過激な代物だった。

 何故なら、それは強力な酸の風呂だったからだ。

 どれ程に強力かと言うと、もし人間が浸かろうものなら数秒で溶けて無くなると言うレベルである。


「まずは、これに浸かって下さい。あぁ、服は脱ぐ必要は無いですよ」


 ミミも含めて湯船に浸かると、ジュウーと言う音と共に見るからに危なそうな煙が上がり始める。


「ちょっとミミ!! このお風呂って、本当にただのお風呂なの!?」

「いえ、この世界でも上位に属する強酸風呂です」

「ちょっと待って!! 強酸!? それって、僕達が溶けてるんじゃないの!?」


 カケルが焦るのも無理は無いだろう。

 それほどまでに多くの煙が、シールド内に充満し始めているのだから。


 更に言えばカケルは自分の事を、カルシウムの塊だと勘違いしてる節がある。

 カルシウムの塊にカケル程の耐久力がある訳が無いのだが、自分の耐久力を試した事が無いので分かっていないのだ。


「大丈夫ですよ。この煙は身体に付いたホコリ等の汚れが溶けていってるだけですから」

「なるほどな。これはこれで癖になるかも知れないな」

「せやねぇ……。カケル坊は焦り過ぎやないかいな? そもそも、ワイらに効く様な酸かどうかは見れば分かるやろ?」

「分かんないよ!!」


 人間には致命的な酸だとして、このメンバーにはかすり傷程度にもならないのである。

 なおキーリが着ている服は兎も角、カケルが着ているローブもしっかりと強酸に耐えていた。


「そろそろ良いでしょう。上がってください」


 全員が上がった後、ミミは続けて身体を乾かすと言った。 

 だが、乾かす為に出て来たのは――。


「ねぇ……、ミミ……コレ……」

「はい。これで乾燥させますよ」


 現れたのは巨大な炎だった。

 炎の色は赤では無く、白でも無く、その上の青い色をした高温の炎である。

 そんな炎を恐れることなく、潜る仲間達……。


「え? 本当に潜るの?」

「当たり前です。念には念を入れておかないとパンデミックが起きた際に後悔しますよ」

「えーと、これだけ厳重に処理する病原体ってなんなの?」

「エボラウイルスです」

「エボラウイルス……?」

「そうです。エボラ出血熱を引き起こすウイルスですね。まぁ、此方の世界では流血の呪いと言われてますが……」


 その言葉にカケルは絶句した。

 エボラ出血熱。そこまで病に詳しく無い人だったとしても、日本人なら殆どの人が名前くらいは聞いた事のある最悪の病気の一つだ。

 流血の呪いと言われるのも納得の病気であろう。


 取り敢えず、相当にヤバい病原体が身体に付いているのは理解出来た。

 この病気を広めるのは非常にマズい。

 最悪シャンティナから人が居なくなる可能性すらあるのだから……。


 その後、カケルも火の中へと飛び込んで行く。

 その姿は正しく火葬を彷彿(ほうふつ)とさせ、骨壷に入れれば立派な故人の出来上がりであろう。

 因みにカケルのローブは火に弱かった筈なのだが、魔法の火とは違うのかは分らないが結局燃える事は無かった。


 徹底的に熱処理を加えて滅菌を行うと、更に全身をクリーンで綺麗にした。

 その上で、シールド内にある一定未満の強さの生物を死滅させる魔法デスを使用する。

 そこまでの徹底的な処理の後に、鑑定を行い病原体が残っていない事を確認した。


 その後、シャンティナに戻って来たのだが……。


「すいません! ゴブリン退治と薬草の採取依頼の処理をお願いします」

「報告処理ですね。此方に提出をお願いします」

「はい。ミミ、こっちに出してくれる?」

「畏まりました」


 その言葉でミミが取り出したのは、良く分からない薬草と例の苦悶の表情を浮かべたゴブリンである。


「あ、あの……。これは……?」

「傷無しのデスゴブリン五体と、エティレイド草を二十本です」

「――だそうです」


 ミミの言葉に受付嬢が停止した。

 そして――。


「いやぁぁぁぁぁ!!!」


 正に絶叫と言える程の悲鳴が辺りに響き渡った。


「嫌なの! 私はまだ死にたく無いの……!!」


 瞳に涙を浮かべ、外面を気にする事無く泣き叫ぶ受付嬢。


「あ、あの……」

「うわーん!!」


 カケルが何とか話し掛けようとするが、彼女は聞く耳を持たなかった。

 カケルがどうしたら良いのか困っていると、泣き声が奥まで聞こえていたのかギルドマスターのローグが出て来た。


「これは、何の騒ぎじゃ?」

「あぁ、ローグさん……。すいません、僕達がゴブリン退治と薬草採取の成果を出したら受付の女性が泣き出しちゃいまして……」

「ゴブリンと薬草……?」


 カケルが指し示した物を確認すると、ローグまでもが固まってしまった。


「の、のう、カケル……。このゴブリンと薬草は何じゃ?」


 その質問に、ミミから聞いた答えを繰り返すカケル。

 それを聞いたローグは、一瞬全てを諦めた様な表情をしてから、怒号の様な声で指示をし始めた。


「今現在このギルド内に居る者を外に出してはならん!! また、ギルド内に新たに入る事も禁ずる!! これは最優先事項であり、すぐにギルド内に通達するのじゃ!!!」

「「「は、はいっ……!!」」」


 ローグの鬼気迫る様子に口を挟む事が出来ず、カケルはただ呆然としていた。


「さて、カケル。あちらで、説明して貰おうかのう?」

「は、はい……」


 一応聞く態度は取っているが、有無を言わす気が無い様子のローグにカケルは従うしかなかった……。


 ゴブリンと薬草を何かの皮で厳重に包んだ後、それを持ったままに個室に入る一行。


「それで? これは何じゃ……?」


 皮を広げて、カケルに尋ねるローグ。


「えと……、デスゴブリンとエティレイド草です……」

「エティレイド草はまだ良い。じゃが、デスゴブリンについてカケルは知っているのかのう?」


 やや威圧感が出た状態で、カケルに詰め寄るローグ。


「え、えと……。黒くて結構強いゴブリンですか……?」

「はぁ……」


 ローグがあからさまに溜息を付く。

 カケルは何故怒られているか分からないのだから、溜息くらい付きたくもなるだろう。


「主様、デスゴブリンはエボラウイルスの媒介生物です」

「え……?」

「デスゴブリンの名前の由来の大半は、流血の呪いを掛けるとされている魔物だからです」


 もし、カケルに肌があればミミの言葉で血の気が引いていただろう。

 当たり前である。危険な病原体の媒介生物を都市に持ち込むなど、バイオテロそのものなのだから……。


「ミミ殿、貴女はそれを知っていてコレを持ち込んだと言うのじゃな!!」


 ローグは自分よりも遥かに強いミミに対して、激怒と言うのも生易しい様な声音で問い詰める。


「大丈夫ですよ、ローグ様。そのゴブリン、細心の注意を払って時止めの結界で囲ってますので」

「時止めの結界……?」


 時止めの結界の最大の特徴は時間の流れを零にする事によって、囲った物が周りに影響を与える事が完全に防ぐ事が可能な点である。


 例えば、数万度の熱を持つ溶岩があったとする。

 それに対して時止めを用いると、人が触っても温度が伝わる時間が無いので火傷する事が無いのである。

 今回の場合時が止まっている為、感染と言う概念そのものが消えていると言う事だ。


「なるほど。取り敢えず、ミミ殿が考え無しにコレを持って来た訳では無い事は分かった……。だが、何故コレを持って来た?」

「あぁ、それは――」


 それに対してのミミの返答は酷かった。

 単にゴブリンと名が付く魔物の中で、シャンティナに一番近かったと言う事と、カケルの実践訓練相手に丁度良かったと言う理由だけだった……。


「近かったから……」

「はい。珍しいゴブリンですし、此方で買い取って頂けますか?」


 確かに毒は薬になる事もある。

 単に強力な毒なら、武器に使用したり裏社会で取引される事もあるかも知れない。

 例えば、トリカブトを使った弓矢等が良く知られている。

 トリカブトの弓矢は日本ではアイヌ民族が使ったと言われており、世界的に見てもそこそこの使用例が存在する。


 トリカブトならば使われるとしても、この感染力と死亡率のレベルを持つウイルスでは対応するワクチンでも無ければ怖くて使えた物ではないだろう。

 もしかしたら、自爆テロ的な使われ方はあるかも知れないが……。

 因みに地球の場合なら、ワクチン開発の為にB(バイオ)S(セーフティー)L-4(レベル四)の研究所で取り扱う事がある。


「こんな危険な物、買い取れる訳が無いじゃろうが!!」

「そうですか、残念です……」

「すいません、すいません! 知らなくて、すいません……!!」


 ミミは少し残念そうにしていたが、カケルは徹頭徹尾低姿勢で謝り続けていた。


「はぁ……。もう一度確認するが、本当に危険は無いんじゃな?」

「それは問題ありません」

「お主らが、既に呪いに掛かっている可能性は?」

「徹底的に除去しましたから、それも問題ありません」

「ほう……。この呪いを解呪出来るとな? それは、どんな方法なのか教えて貰っても良いじゃろうか?」

「良いですよ。まずは、――」


 ローグはもし感染者が居たらの対処法として知りたかったのだろうが、残念ながらミミがやった手法は人間に耐えられる物ではない。

 最初の酸の部分で、溶けて消えてしまうだろうから……。


「なるほど……。無理じゃな……」

「後は魔術による治療ですね」

「治療は効かないと言われておるが?」

「実際は呪いではないですからね。解呪系の魔術は一切効かないでしょう」

「そうじゃったのか……」


 流血の呪いは、昔から呪いだと信じられて来た。

 刺し傷があるのならともかく、穴が無い筈の肌から流血するのだから呪いだと思われても仕方無いだろう。

 一人くらい鑑定系のスキルで確かめる事は無かったのではと言われそうなのだが、死ぬと分かっていて鑑定系のスキルを使う事が無かったのである。


 その後もローグは対処法の事を詳しくミミに問い詰め、話はエティレイド草の事へと移ってきた。


 エティレイド草――。

 自生場所は判明しておらず、大量に採取される事はまず無い。

 かなり強力な解毒薬の材料になる事で有名で、エティレイド草を庭に植えておくだけで病魔が逃げて行くと言う逸話もある。

 大きな貴族の屋敷であれば是非とも庭に植えておきたい一品で、いざという時には薬として処方する事により家族の命を守るのである。


 だが需要と供給が釣り合っておらず、常に高騰している一品であった。

 更に根子ごと抜かないと庭に植えれないにも関わらず、適当に採取して来る者が多い為、根子付きのエティレイド草は相当に価値が高かった。


 さてそんな根子付きのエティレイド草が、此処には五十本も存在していた。

 普段は多くても数本しか納められない事が多いので、この数は非常に多いと言えるだろう。


「これも中々に話題になりそうな物じゃなぁ……」

「えーと、取り敢えずゴブリン退治と薬草採取の依頼は完了と言う事で良いですかね?」

「正直、その依頼とは全く主旨が違うんじゃが、そっちも完了にして良いじゃろうて」


 仕方無いと言った具合にカケル達の依頼を完了にし、エティレイドに関しては差分の料金を払うと言う運びになった。

 デスゴブリンの事も再度ギルド内に通知され緊急事態宣言は解除されたのだが、デスゴブリン自体は素材として扱われる事なく細心の注意を払いながら完全に燃やし尽くされる事となった。

 そして貢献度の加点だが、危険な魔物を持ち込んだと言う事で依頼を両方完了しながらも全員がマイナス加点される事となるのだった――。


エボラ出血熱はその性質上、インフルエンザなんかよりもパンデミックになり難い病気です。

潜伏期間の短さと、死亡率の高さが媒介した人間の移動を阻むからです。

早い話がすぐに発症して死亡するので、移動距離が短くウイルスを撒き散らす時間が少ないと言う訳です。怖い話ですが……。


また、このウイルスは作中と違い空気感染しないと言う事も大きいかと思います。

感染経路は血液、吐瀉物、排泄物などからの感染のみになります。


当たり前ですが、現実のエボラは作中のような危険な消毒をする必要はありません。

消毒耐性は高く無いので、次亜塩素酸ナトリウムやアルコールでの消毒で死滅してくれます。

但し、致死性が高いので厳重な消毒が必要になります……。

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