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祝勝会と花火大会

二章最後になります。

少し長めになっています。

 敵の掃討が終わり、死体の処理も終わった日の夜。


「本当に良くやってくれた! この街の皆を代表して感謝する!!」

「そんな! 頭を上げて下さいティザーク様!!」


 私は部屋に彼等を招いて、感謝の意を示していた。

 この街をほぼ無傷で救ってくれたのだから、感謝するのは当然だ。それが例え、助けてくれたのが魔物であっても……。


 最初は信じられなかったが、私の眼の前に居る彼――カケル――がこのグループのリーダー格らしい。

 ローグから話は聞いていたが、本当にリッチと話す時が来るとは思って無かったな。

 しかも――。


 ティザークは顔を上げると、部屋に居るこの街の救世主とも言えるメンバーを見渡す。


 リッチ、常闇ウサギ、プラントヴァンパイア、ヘルスロナート、ホーリードラゴン、フェンリル、そして何故か人間の少女……。

 絶対に揃う筈の無い伝説級の存在が、ここまで揃うと笑えて来る。

 彼等には最大級の感謝をしなければな。

 勿論、友好的になっておかないと街の存続すら危ういと言う問題もあるが……。


「お前達に一つ聞きたい」

「はい、何でしようか?」

「何か望みはあるか?」

「望み……」

「これだけの事を成してくれたんだ。出来る限りの事はするぞ?」


 私がそう言うと、カケルは皆に自分の目的を優先しても良いかと確認を取っていた。

 そして、問題が無い事が分かると此方に向き直り、ゆっくりと彼の望みを話し始めた。


「ティザーク様、今回の魔物の大群を退けた事による祝勝会の様な物は存在しますか?」

「あぁ、それは勿論やるつもりだが……」


 これだけの規模の戦闘だ。

 親類を亡くした者も居るだろう。それに、当分の間商人が寄り付かない可能性もある。


 勇敢に戦って死んだ者への追悼と、不便になるであろうこれからへの不満を溜めない為にも祝勝会は必須と言えるだろう。

 だが、それが何なんだろうか……?


「その祝勝会ですが、夜の出し物に僕を参加させて貰えませんか?」

「出し物?」

「はい、花火と言う火焔の花で夜空を彩りたいんです」

「ハナビ……」


 そう言えばローグからの報告の時に、あのガルクが宝石の様に綺麗だと褒めていたのがあったな。

 確かそれがハナビだったか……。


「僕の故郷では、非常に人気があった出し物です。この街に来た目的の一つでもあるですが、打ち上げの許可を頂けませんか?」


 彼の故郷と言うのは、生前のアンデッドになる前の事だろうか?

 そこで人気だった物は非常に気になるな。

 しかし、領主としてはそれよりも――。


「そのハナビと言うのは、人間にとって危険だったり有害だったりはしないか?」

「打ち上げする場所に近付かれると危ないですが、特に有害と言う訳ではありません」

「そうか、火を使うと言ったな。それは、街の外でも問題無いのか?」

「はい、寧ろ街の中で打ち上げるのは危険なので、外での打ち上げにしたいと思います」


 ふむ。街の外であれば、ある程度の危険は問題無いだろう。

 後は――。


「ハナビをするに当たって、他に此方で用意する物はあるのか?」

「基本は花火の注意を伝えるくらいで問題ありません。後は、露店で食べ物でも売ってもらえたら嬉しいですね」

「食べ物?」

「はい、花火は夜空を見上げて楽しむ物なんですけど、それを見ながら食事をしたりとか。後は、花火を見ながらお酒を呑んだりする人も居ます」

「ふーむ、祭りの出し物の様な感じか?」

「あ、多分近いと思います。僕の所でもお祭りにかなり似ていたので」


 どうやら、夜まである祭りの様な物らしい。

 取り敢えず、酒と軽食は外で食べられる様に手配するか。


 私はカケルの出し物を受け入れる事にして返事をすると、手配の為に根回しの為に頭を悩ませ始めた……。


 ◇ ◇ ◇


 それから更に二日後……。


「諸君! 先日の復興作業ご苦労だった!! まだ、道の整備等は終わってないが、やっと最低限の処理が終わった。だから、ここらで祝勝会を開こうと思う!」


 ティザークの言葉に、広場に集まった住民が歓喜の声を上げる。


「さて、祝勝会の前に改めて彼等の事を紹介しておこう。知ってる人は知ってるだろうが、この街を救ってくれた恩人達だ!! まぁ、人種では無いがね……」


 街を救ってくれたと言う功績があるからだろう。

 住民達はそこまで大きな混乱も無く、彼等の事を見る事は出来た。

 だが、リッチであるカケルに対しては悲鳴こそ上げない物の恐怖の目が注がれ、常闇ウサギであるミミの事を説明されると一部の住民が悲鳴を上げていた。


「静かに! 今回、この街の功労者の一人であるカケル殿から是非ともやりたい出し物があるとの事だ」


 出し物? と言う声が、ヒソヒソと住民達から零れ出る。


「カケル殿、説明宜しく頼む」

「はい!」


 ティザークに呼ばれたカケルは、前へと進み出る。

 その姿に再び緊張感に包まれる中、カケルはゆっくりと話し始めた。


「えーと、初めましての皆さんも、数日ぶりの皆さんもこんにちは。僕はリッチのカケルと言います。僕が今回提供したいのは、花火と言う名前の見世物です」


 ハナビ? おい、聞いた事あるか?

 いや、知らねえな。

 命を奪う見世物じゃねえだろうな?


 カケルの言葉に反応して、そこかしらから疑問の声が上がる。

 そんな言葉を聞いていたカケルは、住民達をゆっくり見回しながら更に言葉を続ける。


「やっぱり皆さん知らないようですね。花火と言うのは、僕の故郷で人気だった、火を使って形作る花を夜空に浮かべる見世物です。非常に美しくて、老若男女問わず人気でした。もし僕の言っている事が怪しくて信じられないと言う方は、東門で一緒だったガルク達冒険者の方々に話を聞いて貰えれば、少しは信頼して貰えるのかなと思います」


 火で形作る花?

 全然分からねえ……。

 なんで、天元のガルクが出て来るんだ?

 いやいや、それよりもリッチの故郷って何処だよ!? 冥界か魔界か? それとも、墓の中とでも言うのか!?


 よく分かってない彼等に対して、更に説明を続ける。


「時間になったら音と光で合図するので、それまでは出店で食事したりお酒を呑んだりと楽しんで下さい。その後、少しでも花火を見てくれたら嬉しいです!」


 カケルはそう締め括り、ティザークへと主導権を戻した。


「さて、諸君。私もハナビと言う物は知らない。だから、未知の物に対する恐怖があるかも知れない。提供者がリッチだしな」


 その言葉にカケルが少し凹むが、リッチのこれだけ近くに居て逃げ出さないだけでも十分に異常なのである。

 それは間違い無くカケル達の功績だと言えよう。


「だが考えて欲しい! 此処は何処だ!?」


 その問い掛けに一度はシーンとした住民達から、ポツンと此処の都市の名前が飛び出す。


「――そう、此処は混沌都市シャンティナだ!! この都市に住む者として、未知の物と言うだけで気後れするなど情けなくはないか!?」


 その言葉の意味を理解した住民達が、真っ直ぐにティザークを見ながら黙り込む。


「私は情けない! 此処は全てを受け入れる混沌都市だ! たかだかリッチが見世物をするくらいで怯むなんて論外だ!!」


 獣人もエルフもドワーフも、魔物でさえも。

 どんな姿であれ、共存出来るなら受け入れる。


 どんな奇抜なファッションも、どんな意味不明の魔道具も、どんなに怪しい宗教団体も。

 それが誰かを傷付けない限り、全てを受け入れる。


 それこそが混沌都市の由来であり、この街の挟持なのだ。

 そして、全てを受け入れるからこそ最先端の技術が生まれ、王国全土に波及した例も少なく無い。


「私達は、リッチであるカケルに助けられた! ならば、彼の言うハナビくらい受け入れてみないか?」


 ティザークの問い掛けに、ポツリポツリと言葉が溢れる。


「そうだな……」「俺は何を弱気になっていたんだ!」

「そうだ! 俺達は混沌都市の住民だ!! リッチが何だ!! それくらい受け入れてやろうじゃねえか!!」

「ええ、私達は誇り高きシャンティナの住民よ!! 新しい見世物、大いに結構じゃない! シャンティナの血が騒ぐわ!!」


 それはこの街に住む彼等の、ぶっ飛んだ決意だった。


「そうだ! それでこそ、混沌都市シャンティナの住民だ!! 私達が人としてハナビを見る最初の者達になるんだ!! それは、最高にワクワクしないか?」

「「「ワクワクする!!」」」

「そうだろう? さあ、諸君。今日と言う日を大いに楽しもうじゃないか! そして、ハナビと言う未知の目撃者になろうじゃないか!!」

「「「おぉ!!!!」」」


 雄叫びが聞こえる中、ティザークは大声で宣言する。


「さあ、これより祝勝会を開始する!!」

「「「うおおおぉぉぉ!!!」」」


 扇動に等しい開会式を終えたティザークは、カケル達の元へと戻って来た。


「ティザーク様、あれは……」

「ん? あぁ、あれは私達の挟持を煽っただけだ。その期待に見合うだけの物を見せてくれるのだろう?」

「え、えと、はい……。頑張ります……」


 その重い期待にカケルは、力無く頷くしか無かった……。


 ◇ ◇ ◇


 さて、祝勝会と言っても基本夜まで呑んで食べて踊るだけである。

 今回はカケルの花火があるが、それ以外はそこまで変わらない。


「おう! お前も呑め呑め!!」

「ちっ! 俺に指図するな!!」


 こんな絡み酒なんかも良くある光景だ。


「遠慮するなって! ルガルド達のお陰で助かったんだから、今日は俺の奢りだぞ!」

「おぉ! 先輩太っ腹っす!!」

「俺の名前を気安く呼ぶんじゃねえ! ぶっ殺すぞ!!」

「良いじゃねえか別によう? あ、後ハンクは自腹な」

「先輩、そりゃ無いっすよ……」


 やや、過剰な言葉が飛び交ってはいるが……。


「ワグナーの奴、今日は一段と酔っておるのう」

「仕方無いわよ、お祖父ちゃん。ワグナーさん、結構ギリギリで助けられたんでしょ?」

「一番危ない所を救ってくれたのは、キーリじゃがのぅ……」


 ルガルドに対してワグナーとハンクが絡んで行くのを横目に、エルティナとローグはゆっくりと酒を楽しんでいた。

 他にも彼等の周りには、南門を死守した冒険者が思い思いに酒を飲んでいた。


「よし、ルガルド!! 今日は朝まで飲むぞ!!」

「だから、名前を呼ぶな!!」

「俺も忘れないで欲しいっす!」


  そんなルガルドとハンクの叫びは、辺りの喧騒に掻き消されて行った……。



「おい、黒ウサちゃん! お前も呑むか?」

「人間、口を縫い付けられたいんですか?」

「済まん、済まん! ミミだったな」

「そうです。まあ、一応頂きますよ」


 木のジョッキに注がれたエールを、ミミは黒い手を出して一気飲みした。


「おお! 良い呑みっぷりだな!!」

「あの程度のお酒で、この私が酔っ払うとでも?」

「挑戦的じゃねえか! もしかして、普段も結構呑むのか?」

「いえ、余り好きな訳では無いので。ですが、お酒への耐性は結構ありますよ?」

「へぇ? じゃあ、飲み比べと行こうかミミ!」

「望むところです人間!」

「そういやまだ言ってなかったな。俺の名前はザランだ!」

「分かりました。では、飲み比べと行きましょうか。ザラン様?」

「何故だろう、様付けなのに全く敬われてる気がしねぇ……」


 ミミとザランが呑んだくれている一方、キーリはマリクスとゲヤルトと楽しそうに飲んでいた。


「いやぁ、キーリさん。貴女本当にお綺麗ですね。勿論、ミランダには負けますがね」

「それは褒められているのか?」

「マリクスの話は流して良い。ソイツは自分の妻以外には、目もくれない奴だからな」

「いやぁ、照れるじゃないか」

「褒めてないのだがな……」


 マリクスはゲヤルトの説明に、何故か照れていた。

 因みにその愛しのミランダは、宿屋で一人酒を運んでいる。

 本来はマリクスも手伝う予定だったのだが、ミランダ本人から立役者の一人が飲みに参加せずにどうすると言われて参加する事になっていたのである。


「いやぁ、妻は昔からとても綺麗でね。それでいて、心が湧き水の様に澄んでいるのさ。あんな美しい人は他には居ないよ!」

「そ、そうか……?」


 キーリは前来た時にミランダを見た事があったが、正直人間の感性からしてもそこまで綺麗と言う印象は無かった。

 昔は綺麗だったと言われるなら、まだ分かるのだが……。


「キーリ、深く考える必要は無い。コイツの妻に関する言動の八割は戯言(ざれごと)だ」


 酷い言われようだが、彼にとってはミランダが尤も綺麗と感じている為、事実戯言になる事は多い。

 少なくとも、キーリよりもミランダの方が綺麗だと言う者はこの街ではマリクスくらいのものだろう……。


「勿論キーリさんも綺麗だよ? ただミランダが綺麗過ぎるだけで、比べる相手が悪いだけなのさ」

「あ、あぁ……。そうなのか……」

「そうか、分かってくれるか! よし、そんなに気になるのであれば、ミランダの輝かしい過去を披露しようじゃないか!!」

「い、いや、私は別に……」

「はっはっは、遠慮は要らないさ! 祝勝会はまだ始まったばかりだからね!!」


 そして、始まるマリクスによるミランダの自慢話。

 辟易(へきえき)してきたキーリは、小声でゲヤルトに助けを求めた。


『ゲヤルト、助けてくれ!』

『無理だな。こうなった奴は、喋り終わるまで止まらん』

『そう……なのか……』

「キーリさん、聞いているのかい!?」

「あ、あぁ……。大丈夫だ。しっかり聞いているぞ?」

「そうか、なら続けよう」


 こうして、キーリはカケルの花火が始まるまでの間、延々とマリクスの惚気話を聞く羽目になったのだった……。



「へいガルク坊、呑んでるかい? ワイは呑んでるでー!」

「おい姉ちゃん! この酔払い蜘蛛をどうにかしてくれ!」

「あらぁ? ガルクちゃんも楽しんだら良いじゃない! 今日はカケルちゃんの花火が見れるのよぅ? 楽しまなきゃ損じゃない!」

「いやハナビをしっかり見たいから、そこまで酔いたく無いんだが……」


 こちらの酔払いはツィードだった。

 彼はご機嫌になりながら、そこら中にアートとも言える模様の蜘蛛の糸を張り巡らしていた。

 但し、張る場所は此方では無く、次元の向こうなので見えるだけで触れはしない。


「わぁ! この糸、身体の中を通り抜けて行くよ!!」

「ふしぎ~」

「本当だね。どうなってるんだろう?」

「うーちゃんはどう思う?」

「きゅい?」


 その糸で遊んでいたのは子供達だ。

 レナ、ニーナ、ナック、ミリエラ、ヴェッツェーニア、うーちゃんの六人である。


「あ、あの私なんかが、皆様と一緒に居ても宜しいのでしょうか?」

「また、そんな事言って! レナは友達なんだから遠慮しないの!!」

「そうだよ! ミリーとも、おともだちだよ?」

「お友達……」

「勿論ボク達もだよね!! ナック?」

「え、あ、うん……。レナちゃんとはもう友達だよ?」


 レナは、いつの間にか同年代の子供達に囲われているこの状況に戸惑っていた。

 自分は元々穢れた奴隷であり、こんな純粋な子達に混ざって良い物なのかと。

 特にミリエラはあの領主様の一人娘であり、どう考えても自分と関わって良い人物では無いのでないかと。


 たが、彼等はそんなレナの気持をお構い無しに、彼女の懐へと入って来る。

 それは彼女にとって嬉しくもあり、自分との違いを見せつけられているようで悲しくもあった。


 そんな心の内を知ったかどうかは分からないが、レナの頭の上にうーちゃんが乗ってきた。

 そして、彼女の頭をてしてしと軽く叩く。


「きゅい!」

「ウサギさん……?」

「ほら、うーちゃんもこう言ってるじゃん! ボク達と対等な友達になろうよ! ね、レナ!」

「……分かりました」

「もう! 分かってないなぁ……。レナ、対等って事はその言葉使いも禁止!」

「で、ですが……」

「言い訳禁止! これは決定事項だよ!!」


 その後の強制的な圧力によって、レナは周りを取り囲む子達との会話で敬語が禁止され、呼び名も改められる事となった。


「じゃあ、改めて宜しくねレナ!」

「う、うん、宜しくね。ニアちゃん……」

「あぁ! ニアちゃん、ズルい!! ミリーも、ミリーも!!」

「勿論私もよね?」

「僕も良いかなぁ?」


 うーちゃんを入れた六人のやり取りを見ていたツィードは、鼻声になりながら更に面倒臭くガルクに絡んでいた。


「レナちゃん、えがっだなぁ……」

「そうねぇ、悔しいけど私達じゃあレナちゃんの対等な存在になれないものね……」

「だぁ! ツィード、嬉しいのは分かったから伸し掛かるな!!」


 ガルクは絡み上戸の上に泣き上戸になって来たツィードに、思いっ切り伸し掛かられていた。

 見た目的には、捕食寸前と言った感じである。


 まぁ、何はともあれ皆楽しそうである。

 さて、そんな中一人だけ街の外へと出ていた者が居る。

 そう、カケルだ。


「うーん、一人だとちょっと寂しいかも……」


 カケルの目の前には、先程から設置していた幾つもの筒が並んでいた。

 打ち上げ花火の為の打ち上げ筒だ。


 そして他の筒も全て設置されて暗くなり始める頃、一つの影が此方へとやって来た。


「あ、ミミ! 飲み会は楽しめた?」

「いえ、そこまでは……」

「へぇ? って事は、そこそこ楽しめたんだ?」

「――まぁ、少しだけですが」


 本来は弟子であるレナに手伝って貰うのが筋だが、彼女にはまだ危険な事はさせていなかった。

 カケルとしては、出来るだけ安全性を高めた上で手伝って欲しいのだ。

 その理由として、自分が死んだ時の事が浮かんでいるのは間違い無いだろう。


 そう言う訳で、今回もサポートはミミにお願いしてあるのである。


「そっか~」

「そんな事よりも、そろそろ開始しませんか?」

「そうだね。そろそろ始めようか」


 そう言って、開始の合図の花火を間隔を開けて打ち上げる。


「よし! 第二回花火大会の始まりだよ!!」


 こうして花火大会としては二回目の、人種に見せるのは初めての花火が始まったのだった……。


 ◇ ◇ ◇


 ドンッと言う大きな音が、間隔を開けて聞こえてくる。

 そんな音に誘われて、何人もの人々が街路へと出て来た。


「ミミがそろそろハナビが始まるとか言って出て行ったが、これがその言っていたハナビなのか……?」


 ザランが見上げる夜空には、瞬間的に大きな花が咲く。

 そして、すぐに消えたかと思うと次の花がすぐ横に咲き誇る。


 ザランは、その光景に圧倒された。

 鮮やかに夜空を彩るそれは、一瞬だけ見る事が出来る宝石の如き輝きに見えた……。

 いや、例えるのはどうでも良いとザランは思う。

 ただ今は、これを静かに眺めていたいからと……。



 打ち上がる花火は、その数を次第に増してゆく。

 最初は一輪毎の花が離れ離れに咲いていると言った具合だったが、今は花の群生を見ている様だった。


「ちっ!」

「おい、ルガルド。何で、こんな綺麗なもん見てるのに舌打ちしてるんだ?」


 それを見ていたルガルドは、何故かやや苛つきながら舌打ちをしていた。

 それに対してワグナーが疑問を呈している。

 どうやら、酔いは少しは醒めたらしい。


「何でもねえよ! カケルの野郎に苛ついてるだけだ!」

「よく分からねえ奴だな」

「先輩もルガルドさんも、空を見てないと勿体無いっすよ?」


 そんな三人の隣では、ローグとエルティナがゆったりと空を見上げていた。


「お祖父ちゃん、これ凄いわね……」

「そうじゃのう。これをアンデッドが作ったなんて信じられんわい……」


 特にエルティナは、夜空をうっとりと眺めていた。

 彼女は、こんな綺麗な花を見た事が無かった。

 花自体は受付嬢として幾つも見た事があるのだが、どれも枯れかけだったり萎れていたりしてそもそも綺麗とは言い難かったのである。


 だが、一方で夜空に咲くこの花はどうだ?

 赤、青、黄……。光で形作られた様々な色合いや大きさの花が、自分を楽しませてくれる。

 暗闇を一瞬だけ染上げるだけの存在なのに、何故こんなに目が離せないんだろう?


 エルティナはそう考えながらも、ただ静かに夜空を見上げていた。


 ローグは隣にいる孫娘が嬉しそうに花火を見ている姿を目に収め、すぐ後に夜空を見上げて先程自分が発した言葉について考えていた。


 このハナビは、アンデッドが作ったらしい。

 そのアンデッドの正体は、かの悪名高きリッチだ。

 しかもネームドの存在であり、この街を救った恩人の一人でもある。

 そして、今度はこのハナビと来たもんだ。


 全く……。ガルクの奴の報告を聞いた時は何の冗談だと思ったが、これを見ているとどうでも良くなって来るのう。

 本当はこれじゃ駄目なんじゃが……。


 まぁ、今日くらいはただ楽しむとするかのう。


 ローグはそう自分を納得させ、再び夜空へと目を向けるのだった……。



「相変わらず、カケルのハナビは綺麗だな……」

「へぇ? あのガイコツはカケルって言うのかい?」

「なんだ、開催の時の話を聞いてなかったのか? アイツの名前はカケル・ソラノ。種族はリッチだ」

「そうだな……。アイツはリッチだ……」

「わーお! 伝説級の魔物じゃないか!?」


 キーリが説明した種族に、ゲヤルトは静かに頷きマリクスは声を上げて驚いていた。


「お前ら、カケルの種族なんてどうでも良いから、夜空のハナビを見ておけ!」

「いや、どうでも良いって……」

「あぁ、流石にリッチの事をどうでも良いってのはどうなんだ……?」


 そうボヤきつつも、二人は夜空へと目を向ける。

 何故なら二人も難しい事を考えるよりも、この光景を見ていたかったからだ。


 夜空に咲く花々は、次第に形を変えていく。

 花々から、生物を模した物へと……。

 それは蝶々や蜻蛉(とんぼ)、はたまた猫やウサギ……。

 最後には、ドラゴンなんて物も表現し始めていた。

 しかも、ご丁寧に背景までもがセットで描かれて……。


「全く、こんな綺麗な物見せられたらリッチかどうかなんて、どうでも良くなっちゃうじゃないか……」

「あぁ……。次のハナビが見たくなる……」


 それは彼等の心にも強く刻まれた光景だった……。



「コイツがカケルが作ったハナビか……」

「うわぁ……、キレイ……」

「流石です。師匠……」

「凄いね。こんな光景ボク見た事無いや……」

「凄い……。こんな綺麗な物があるなんて……」

「カケル坊、相変わらずええもん作るやん!」

「これが、レナちゃんが言っていたハナビ……?」

「カケルちゃん最高! もっと、お姉ちゃんを楽しませて〜!」


 ガルクやレナ達も、その光景に目を奪われていた。

 特に夢中になったのは、子供達である。

 今まで見たこともないような、音と光を使った見世物。

 大迫力のそれはナックの様な男の子にワクワクとさせる気持を疼かせ、それでいて繊細な表現は女の子達の心にもしっかりと突き刺さった。


 菊や牡丹と言ったスタンダードな表現や、向日葵(ひまわり)秋桜(コスモス)など少し変わった花々。

 花だけでなく、ウサギやドラゴンなどの生物まで。

 それは贅沢に夜空をキャンバスに見立てた数々の絵画のようでもあり、夜空に宝石を散りばめたようでもあった。


 そして、花火はフィナーレを迎える。


「ミミ、そろそろフィナーレ行くよ?」

「はい、いつでも大丈夫ですよ」


 そのカケル達の言葉と共に打ち上がるのは、百もの大量の打ち上げ花火。

 その打ち上げられた花火の名前は錦冠菊(にしきかむろぎく)


 打ち上げられた錦冠菊は夜空を一瞬で金色に染上げると、静かにゆっくりと余韻を残しながら消えて行った……。



「あれがハナビか……」

「綺麗でしたね、あなた……」


 ティザークとシェーラは、領主の館から花火を見上げていた。

 飲み会に参加しても良かったのだが、他の者が緊張する為に今回は二人で静かに晩酌をする事にしていたのだ。


「あぁ、本当に綺麗だった……。今回は特別にタダと言っていたが、確かにあれならばかなりの金額を覚悟する必要がありそうだな」

「でも、また頼みたいのでしょう?」

「あぁ、あれを見る為なら多少の出費は覚悟するさ」


 どうやら、カケルの打ち上げ花火はティザークにも気に入って貰えたらしい。


 そうこうしている内に、カケル達が戻って来て祝勝会も閉会する事になった。


「皆の者、ハナビと言う未知の物はどうだったかな? 私は非常に感動したぞ!」


 その呼び掛けに、民衆から同意の言葉が上がる。

 ポツポツと出て来るだけでは無く、かなり広範囲から出て来る事が花火の人気を物語っていた。


「どうやら、皆も同じ気持ちのようだな。ならば宣言しよう! 定期的にカケル殿にハナビを頼む事を!!」

「「「うおおおおぉぉぉ!!!」」」

「へ?」


 ティザークが花火の定期開催宣言をすると、周囲に歓声が鳴り響く。

 それを知らなかったカケルは、惚けたような声を上げていた。


「これにて、祝勝会は一先ず終了だ。だが、飲み足りない奴は朝まで飲み倒しても構わんぞ?」


 そう言って、ティザークはニヒルな笑みを民衆に向けた。

 その言葉の後の、正式な終了宣言を最後に民衆は再び宿屋や酒場に戻って行った。


 果たして花火が本当に恒例行事になるか、はたまた廃れるか。それはカケルの腕次第になるであろう。

 だがどちらにしても、カケルはこれからシャンティナと長い付き合いになりそうであった。


 何はともあれ、この祝勝会が終わった事により長かった襲撃事件も一区切りが付く事になるのだった――。


これにて二章完結です!

次の三章も考えてはいるのですが、どこかでストックが切れるかも知れません……。

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