魔物襲撃の後片付け
ややグロ表現ありです。
片付けのシーンなんで、そこまでキツイ表現では無い筈……。
魔物の襲撃によりシャンティナの周囲は荒れ果て、馬車の往来すら困難な状態になっていた。
とは言え、あの量の魔物を相手に壁を壊されずに撃退出来たのは快挙であった。
だからと言って、被害が少ない訳では無い。
「だからって、私達を駆り出すか普通……?」
「キーリちゃん、文句言ってないで頑張ろうよ!」
「そう言うセレナは、何をしているんだ?」
「私? 私は応援よ!」
荒れた大地を元に戻す為、シャンティナの周囲には多くの人が作業していた。
そして手は多い方が良いと、此処の領主キーリ達まで駆り出していたのだ。
勿論、その中にはセレナも入って居たのだが……。
「フレー! フレー! 皆!! 頑張れ! 頑張れ! 皆!!」
「止めろ……。イライラして来る……」
前にカケルに対して応援をした時の衣装を着て、セレナはひたすらキーリを始めとする作業人を応援するだけだった。
「なぁ、キーリ。このムカつく女は誰だ?」
「あぁ、ザラン……。コイツは私の一応親友みたいな奴だ……」
「一応親友みたいな奴? それ、本当に親友なのか?」
「頭が痛いが一応な……」
「キーリちゃん酷くない? えーと、ザランちゃんだっけ?」
「は? ザランちゃん……?」
「私の名前はセレナ・クレイスト! ザランちゃんも気軽に、セレナお姉ちゃんって呼んでね!!」
そう元気良く自己紹介したセレナは、ザランに向かってウインクを飛ばす
その自己紹介を受けたザランは、少し躊躇う様にキーリに質問をした。
「なぁ、この姉ちゃん頭は大丈夫なのか?」
「恐らくな……」
「酷くない!?」
キーリとガルクの二人は溜息をつきつつも、その後は淡々と片付け作業をする事にした。
背後からのセレナの応援を聞きながら……。
◇ ◇ ◇
作業をしているのは、なにもキーリ達だけでは無い。
彼等は西門で作業していたが、他の門にも中間達が作業していた。
「うぅ……、僕は血が苦手なのに……」
「その見た目で言われてもな……」
「カケル様! ファイトです!!」
東門にはカケルとレナ、それにガルクが居た。
因みにレナはセレナとは違い、いつものワンピースに着替えて普通に作業していた。
本来は作業着には適さない服なのだが、無駄に高性能な為汚れを寄せ付けず破れる事も無い為、軽めの作業には十分な服となっている。
尤も今やっている作業を、軽めと言うには中々に厳しいと思うが……。
「ありがとうレナ……。でも、これは慣れないんだよ……」
「いや、まぁ……。カケルの出身を聞けば分かるんだけどよう……」
デコボコの道の整備もそうだが、戦死した人や殺した魔物の死体があちこちに転がっており、それらも片付けの対象になっていた。
そして今カケル達は、ワームの撤去と戦死者を運ぶ作業をしていた。
当たり前だが日本で見る様な綺麗な遺体ではなく、腕や足が千切れているのは当たり前。臓物がはみ出ている事もざらにあった。
そんな遺体やワームの死骸は、カケルには刺激が強かったようである。
「それよりも、嬢ちゃんは大丈夫なのか? 人の死体がゴロゴロしてるんだが……」
「あ、はい。ご心配有難う御座います! ですが、死体は見慣れているので」
レナがガルクに、良い笑顔を見せながら答えた。
言ってる内容さえ無視すれば可愛らしいの笑顔なのだが、その言ってる内容が悲惨極まりなかったが……。
「あぁ……、もしかして嬢ちゃんも魔物が化けてるのか?」
「いえ、私は単なる人間ですよ?」
「そうか……」
「ガルク、もう少し手を動かしてよ! 僕だってキツいけど、この街を守る為に戦ってくれた優しい人達なんでしょ? なら、しっかり供養してあげなきゃ!!」
ガルクは心の中で思う。
寧ろ反応が嬢ちゃんと、カケルで逆じゃないかと……。
◇ ◇ ◇
北門ではルガルドが、他の人と一緒に作業して居た。
人の姿だと面倒だからと言って、元の姿に戻りながら……。
「おい!」
「……何だ?」
「コイツは何処に置いておけば良い?」
ゲヤルトは目の前の巨体を見ながら、何でこんな事になっているのか考えていた。
確かワイバーンは大きくて運びにくい事や死者は出て無い事、後地面がそこまで荒れて無い事を言ったらこの男が来たんだ。
第一印象は無愛想で高慢だった為、本当にキーリの仲間なのか疑問に思った程だ。
だが、彼が今の姿になると疑問は解けた。
フェンリル……。
そこには、ホーリードラゴンと同じく聖獣と呼ばれる聖なる獣が居たのだ。
体長は二十ナレイはあるだろうか?
白銀に輝く毛並みと鋭い牙に獰猛な瞳、そしてあのワイバーンを口に咥えているのを見ると、下手をすればそのまま丸飲み出来そうだなと場違いな感想が出て来る。
「おい! 聞いているのか!?」
「あ、あぁ……、済まない……。あっちの門の、すぐ横に置いて貰えるか?」
「分かった」
そう言ってワイバーンを置くと、彼は再びワイバーンの方へと向かって行った。
「いやぁ、驚きだね! ホーリードラゴンだけでも凄いのに、フェンリルまで見れるなんて俺等は運が良い!!」
「マリクス……。そうだな、運が良いのは確かだろうな……」
俺等は助けられた。
あのホーリードラゴン――キーリ・サーヴァイン――によって。
そして今もフェンリルに手伝って貰うと言う、彼等を崇めてる人からすれば非常に幸運な状況に居るのだろう……。
「おい、てめぇ等も動けよ!!」
「ゲヤルト、フェンリル様のお言葉だ。俺等も働こうか」
「そうだな……」
願わくばこの出会いが、この街を良い方向へと導きますように。
そう考えながら、ゲヤルトは運ばれて来たワイバーンの解体に入るのだった……。
◇ ◇ ◇
南門ではワグナーが頭を抱えていた。
どうして、こうなったと……。
「人間、私は常闇ウサギのミミです」
「常闇ウサギ? 何処かで聞いた事があるような……」
そう言ったミミの見た目は、ヴェッツェーニアが連れているウサギの色違いだった。
だが、ワグナーは何かが引っ掛かっていた。
「まさか……。お主、月夜の悪魔か……?」
「へぇ……?」
そうか! 何か聞いた事あると思ったら、常闇ウサギ、別名月夜の悪魔だ!!
って! 何でそんな大物が此処に居るんだよ!!
「人間、お前は私を知ってるようですね?」
「当たり前じゃ! これでもこの街のギルドの長じゃからな。流石に、月夜の悪魔を知らんとかあり得んのじゃよ!!」
あぁ、その通りだ。
ギルドに属していて月夜の悪魔を知らないのは、モグリでしか無いだろうな。
何故なら……。
「人間……、それを皆様に言う事は赦しません」
「「「っ……!」」」
ミミがそう言った瞬間、辺りに濃厚な死の気配が満ちる。
少しでも機嫌を損なえば、即座に死ぬだろうと言う気配が……。
「実は私、まだその事を皆様に伝えて無いのですよ。ですから、分かりますよね?」
慌てて皆で一斉に頷くと、漏れ出る死の気配が霧散した。
怖かった……。ただただ、目の前のウサギが怖かった……。
コイツはキーリとは違い、俺達人間の命など簡単に切り捨てるのだろう……。
「納得して貰えて良かったです。無駄な血を流すのは私の本位では無いので」
「――の、のう、一つ聞いても良いか?」
ローグが、恐る恐るミミへと声を掛ける。
「何でしようか?」
「月夜の悪魔の事は分かった。じゃが、いつかバレてしまうのではないのかのう?」
それは確かに。
正直、月夜の悪魔の事は有名過ぎるのだ。
それを、いつまでも隠し続けるのは不可能だろう……。
「ええ、分かってますよ。ですから、時期を見て私から話すつもりです」
「そうか……」
「――他には特に無いようですね。では、清掃を開始しましょう」
こうして俺は、寿命が縮まる思いをしながら南門の片付けに入ったのだった……。
◇ ◇ ◇
「はぁ……。もう疲れたよ……」
「ニーナ、無駄口叩いてないで手を動かそうよ。ニーナが壊した場所、結構あるんだよ?」
「そう言う兄さんだって壊してたじゃん!」
「少なくとも、ニーナよりは壊してないよ?」
ニーナがナックに食って掛かっているが、ニーナは石畳を大剣でガンガン壊していたのに対して、ナックは魔術で少し削ったりしただけである。
これで同じと言うには少々無理があるだろう。
「うーちゃん、何か楽しいね!」
「キュイ!」
ヴェッツェーニアとうーちゃんの方は、言い争いも無く非常に平和に作業している。
さてさて、そんな彼等が何をしているかと言えば、石畳の修復ではなく石畳の清掃である。
先の戦いでは、彼等は非常に活躍した。
だが、血や肉片を飛び散らせた戦いだったので、中々に汚れが酷かったのである。
その為彼等は、石畳をデッキブラシの様な物とバケツに汲んだ水を使って掃除をしている所だった。
「だいたいさぁ……。何で私達が掃除までしないといけない訳? あの時頑張ったんだから、大人に任せて私達は休ませて貰っても良いと思わない?」
「それは一理あるかもね。でも、皆は普段の仕事もあるからね。正直暇なのが僕達くらいなんだよね」
別にニーナ達だけが駆り出されてる訳では無い。
街のいたるところで子供達は、掃除やら大人達の手伝いをしており、休んでいる子供はまず居なかった。
その中で、自分達が汚した場所を綺麗にするのはいっそ順当とも言えよう。
「でもさぁ……」
「もうあんまり言うと、ヴォル兄に言いつけるよ?」
「それは駄目!」
「なら、手早く片付けてヴォル兄と合流しようよ。ヴォル兄も掃除が出来る、家庭的な女の子の方が好みだと思うけどな?」
「うぅ……。頑張る……」
ニーナはナックにヴォルデルクの名前を出されて丸め込まれていたが、大剣で石畳を壊した人物がその片付けをしたとして、果たしてそれが家庭的なのかどうかは非常に疑問であった――。
◇ ◇ ◇
その後も皆で片付けに邁進する事になるが、あまりに多い数の魔物はカケル達の助けを借りても解体等が追いつかず、結局全てが完了したのは数日が経った後の事だった。
多分、次で二章最後です。




