混沌都市襲撃 ~後味の悪い結末~
今回シャンティナを襲うと決まった時に、真っ先に出向くと声を上げたのはザッハだ。
シャンティナは人間の街でありながら、獣人の国とも友好関係を結んでいる。
街に住み着いている者さえ居ると言う話だ。
それが、彼には赦せなかった。
それなのに、その元凶を殺せる筈だったのに!
何故、アンデッドがソイツを庇う!?
何故、アンデッドがソイツを治療する!?
普通の魔物なら、まだあり得るだろう。
種類によってはペットとして売られている事もあるのだから、人に友好的で助けてくれる事もあるかも知れない。
だが、アンデッドだけは有り得ない。
生者を憎む筈のアンデッドだけは……。
それなのに――。
「何故? 人を助けるのに理由が要りますか?」
有り得ない……。
何故、人の様な真似事をする?
何故、善人の様な言葉を発する?
「何故だ! お前はアンデッドだろう!? それに、その男は獣人と友好関係を結んだ元凶だぞ!?」
「確かに僕はアンデッドですけど、自分では人間のつもりですよ。それに、貴方こそ何を言っているんですか? 獣人と友好関係? 寧ろ良い事だと思うんですけど……」
良い事……だと……?
「ふざけるな!! 獣人なんてのは存在しちゃいけないんだよ!! 全てを……、害獣は全て駆除する必要があるんだよ!!」
俺は、獣人への憎しみ込めながら叫んだ。
だが――。
「ふーん、なるほど。貴方は逃げたんですね?」
「な……に……?」
アンデッドの代わりに横に居た黒いウサギの魔物が、俺の言葉に対して予想外の言葉を返した。
「貴方は吸血鬼に襲われた時に、その実力を知りました。街で情報を集める内に、カミーユがただの吸血鬼で無いと知りました。そして、吸血鬼への恨みを獣人への恨みとしてすり替えたんですね?」
「ち、違う……!」
ザッハは何故それを黒ウサギが知っているのかと言う疑問を抱くが、それ以上に言われた言葉を必死に否定した。
自分でも何故、必死に否定したのか分からないままに……。
「いいえ、違いません。その証拠に獣人を幾ら殺しても、あの三人組を殺してさえも、貴方は満たされなかったのではありませんか?」
「そ、そんな筈は無い!」
本当にそうか?
何故、自分で復讐しようとせずに討伐依頼を出そうとした?
何故、あの三人組を殺して満たされる筈の飢えが満足しない?
「貴方のやっている事は、復讐ですらありません。ただの八つ当たりですよ」
「ち、違う! 俺は獣人に復讐を……!!」
「では、質問を変えましょう。何故未だに復讐相手が獣人なのですか? 三人組を殺した今、復讐する相手は吸血鬼の筈でしょう?」
「何故……?」
そうだ……。三人組を殺す前ならともかく、一番の復讐相手を獣人にしておく必要は無い筈だ……。
なのに何故……?
「貴方が、吸血鬼から逃げているからですよ」
「逃げて……?」
「吸血鬼が怖いのでしょう? 憎しみよりも、恐怖が先に来るのでしょう? そして、自分では倒す事の出来ない吸血鬼の代わりとして獣人を殺しているのでしょう?」
「そ、それは……」
黒ウサギの言葉に、咄嗟に反論出来なかった。
吸血鬼の代わりとして、獣人を殺してる?
俺は自分すらも騙していたのか……?
「――それとも、もしかして自分を殺す代わりに獣人を殺してるつもりですか?」
「……!?」
自分を殺す代わりに……?
俺は……。
ミミの言葉を聞いた大男は、思案に耽る様に黙り込んだ。
ミミが言った言葉は、正直さっぱり分からなかった。
だけど、彼には彼なりの復讐する理由があったらしい。
だからと言って、領主様を刺した行為が肯定される訳では無いと思うけど……。
「さて、次はお前ですね」
ミミはそう言うと、裸の少年を囲っていた結界に対して肉球での一撃を加える。
すると、一瞬だけ衝撃で地面が揺れた後にパリンと言う音と共に結界が砕け散った。
「さて人間、お前のスキルを暴走させたのは誰ですか?」
「わ、分か……ない……」
「そうですか……」
ミミは少年の目を覗き込むと、レナの時と同じ様にスキルを発動する。
「なるほど……。さて人間、最後に言い残したい事はありますか?」
「え? ミミ……!?」
「主様、黙って下さい! 人間、何かありますか?」
「――母……さ……んとエ……ミルに、ゴメン……って……」
「分かりました。最後は穏やかに逝きなさい」
そう言うとミミは、中央の水晶の様な物を拳で砕いた。
砕け散った水晶は空中の溶ける様に消えると、少年のお腹にある大きな穴が見えた。
そして、その穴から夥しい量の血が流血し始める。
「ありがとう…………」
そして少年は最後に穏やかな笑みを浮かべて、ミミ達にお礼を述べるとそれっきり沈黙してしまった……。
「どうして……? どうして、助けてあげなかったの……?」
「主様、私とて万能ではありません。肉体の損傷なら相当酷くても治せますが、魂の損傷は治すことが出来ません」
「魂の……損傷……?」
ミミが言うには、少年のスキルは強制的に暴走させられており、その暴走の原因はお腹に埋め込まれた水晶とその周囲の魔法陣だったらしい。
その二つに依って、彼のスキルは効果を飛躍的に上昇させると共に、無意識に発動し続けるものへと改変されたとの事。
「そこまでは分かったけど、それと魂の損傷と何の関係が……?」
「スキルとは、魂と切り離す事が出来ない存在です。そして、そのスキル自体に手を加える為には魂に干渉する必要があるのです」
「え……?」
「具体的に言えばあの魔法陣は、スキルの暴走をさせる為の燃料として、魂を削り取るものだったのですよ」
高度な魔法陣と、特殊な魔石である紅い水晶。そして、少年の魂を燃料に彼のスキルは暴走させられていたのだ。
そのミミの言葉は、魂と言う存在に疎いカケルでさえ非常にマズい事が理解出来た。
そして、その結果が目の前の息を引き取った少年なのだ……。
「そんなのって……」
「ワイ、こう言うのは嫌いや……」
「ええ、虫酸が走りますね」
「こんな事をする奴等に、この街は狙われてるのか……」
今回の騒動の元凶を取り除けたものの、カケル達の顔には達成感も笑顔も浮かんではいなかった……。
◇ ◇ ◇
ミミ達が大男と争ってる頃、領館の方でも動きがあった。
バリン!
シェーラ達一同が詰めている部屋の窓が割られ、外から侵入者が部屋へと入り込んで来たのだ。
侵入者の体格は華奢で、まだ幼い少年と言った風貌だった。
「やぁ! 皆さん、お揃いで」
「何者だ!?」
「あん? てめぇは侵入者か?」
闘えないシェーラ、ミリエラ、レナを庇う様にセレナが前に出ると、更に前へとルガルドとキーリが抜刀しつつ飛び出した。
そして、誰何するキーリに対して侵入者は余裕を崩す事無く話し掛ける。
「あれぇ? 領主居ないじゃん!」
だが、誰何された筈の侵入者は領主が居ない事に疑問の声を上げただけだった。
バンッ!
「奥様! 今の音は……何……ですか……?」
先程の音に驚いたのか、イルナが急いで部屋の中へと入って来た。
だが、彼女の声は侵入者の姿を目に入れると段々と小さくなって来る。
驚いたのは少年も同じ様で、イルナを見て目を見開いていた。
「あは、あはははは! まさか、こんな所に裏切り者のイルナ姉さんが居るとはね?」
「ま、まさか、レヴィン……なの…………? それに、私が裏切り者って一体……?」
「メイドちゃん、お知り合いかしら?」
「は、はい……」
「あぁ……、本当にイルナ姉さんだ。会いたかったよ!」
イルナの姿を認めた侵入者の少年――レヴィン――は、会いたかったと言う割に顔に憎悪を貼り付けてイルナへと笑い掛ける。
「レヴィンと言ったな? お前は何の目的で此処に来た?」
「イルナ姉さんとの再会を邪魔しないで欲しいんだけど? まぁ、今は機嫌が良いから許して上げるよ! 此処に来た目的だったね? シャンティナの領主、ティザーク・シェランドの抹殺かなぁ?」
「ティザーク様の抹殺!?」
「ママ、こわいよぅ……」
「そうそう。君の夫が邪魔なんだよねぇ?」
まるで明日の予定でも言う様な気軽さで、領主の抹殺なんて言葉を口にするレヴィン。
それに対して、シェーラは驚きの声を上げ、ミリエラは少し怯えながらシェーラに抱き着く。
「レヴィン……、どうして……?」
「そのままの意味なんだけどねぇ? まあ良いや。今日は領主も居ないみたいだし、僕は帰る事にするよ」
ショックを受けていたイルナに対して、軽くレヴィンが帰ると答えた。
そんなレヴィンに対して、キーリとルガルドが脅しを掛ける。
「そんな事を聞かされて、無事に帰すと思うのか?」
「その通りだなぁ? てめぇ、俺等の事舐めすぎじゃねぇか?」
「勿論帰るよ。じゃあね! イルナ姉さん! 次はしっかり殺してあげるよ」
彼は割って入った窓から外へと飛び出そうとするが、キーリの剣によって両足を切断されルガルドの拳が胴体にめり込んだ――。
かのように見えた……。
「何っ!?」
「手応えがねぇな……」
「あはははは! 魔物のお姉さんとお兄さんもまたね」
斬られた筈のレヴィンは脚だけで無く全身が霧の様に掻き消えて、何処からともなく聞こえて来る彼の声だけが部屋に鳴り響いたのだった……。
ルガルドとキーリはレヴィンが完全に居なくなった事を確認すると、剣を鞘へと収めて構えを解いた。
「ちっ! 逃したか……」
「済まん、逃したようだ……」
「いえ、守って下さりありがとう御座います!」
「おにいちゃん、キーリおねえちゃん、ありがとう!」
ルガルドとキーリは悔しそうな顔をしていたが、シェーラとミリエラは助かったお礼を言っていた。
「メイドちゃん、あの男の子は貴女の弟なのかしら?」
「はい……」
「それは聞かせて貰っても良いのかな?」
「私も知りたいわ」
「奥様……」
いつの間にかキーリと話していたシェーラが、セレナとイルナの話に参加してい。
「分かりました。少しだけ私の話を聞いてください」
イルナはキーリ達の為に軽い自己紹介をした後に、自分とレヴィンの関係を示す過去を語り出した――。
◇ ◇ ◇
私は元々、ある街の孤児院で育ちました。
赤ん坊の頃に捨てられたので、両親の顔も名前も知りません。
そんな私の家族が、預けられた孤児院に居た子供達とシスターだったんです。
その子供達の中でも、特に仲が良かった一人がレヴィンです。
彼は優しい性格で、こんな気持ち悪い模様がある私を姉みたいに慕ってくれました。
私もそんな彼の気持ちが嬉しくて、いつしか彼の事を弟の様に可愛がっていました。
でもある日の早朝、誰も起きてはいない様な時間にふっくらした母の様な存在のシスターが私を呼び出してこう言いました。
「イルナ、次の口減らしは貴女に決まったよ……。司祭様に言われる前に出て行って貰えないかい?」
「そう……ですか……」
この孤児院は経営が限界だったらしく、口減らしとして司祭様に何人かの子供達が連れて行かれた事がありました。
次は誰が消えて行くのかとビクビクしていましたが、遂にこの日が来てしまった様です……。
シスターは私の着替えやお金を入れたリュックを渡すと、すぐに出立しなさいと言いました。
いきなりでしたし、孤児院の皆にお別れの挨拶くらいしたかったのですが、シスターや孤児院の皆に迷惑を掛ける訳にもいきませんでした。
「分かりました……。長い間お世話になりました……。レヴィンや他の皆にも宜しく伝えて下さい……」
「守ってやれなくて済まないね……。イルナ達者でね」
最後にシスターとハグをした私は、孤児院を後にしました。
そのまま残っていても、迷惑を掛けてしまいますから……。
その後、私は早朝に出る乗合馬車に乗って隣町へと行きました。
その町で働き口を何とか見つけて働く事が出来ましたが、数ヶ月で模様の事がバレて首になりました。
噂が町に広まって働けなくなった私は、また次の町へと向かいました。
そこからは、シェーラ様が知っている通りです。
働いて、首になって、移動して……。
そんな生活を数年続けて、いよいよ後が無くなって来た所でティザーク様に拾われたんです……。
◇ ◇ ◇
「レヴィンとの記憶は、孤児院の時までです。確かにお別れを言えなかったのは残念でしたが、恨まれる理由までは分からないんです……」
「そう、でしたか……」
バタンッ!
「無事か!?」
「アナタ? どうされたのですか?」
ドアを蹴破る勢いで入って来たティザークは、全員が怪我をして無い事を知ると深く安堵の溜息を付いた。
「良かった……。無事だったのだな……。ミミ殿から、此方も襲われていると聞き急いで戻って来たのだ」
「はぁ……。だから問題無いと言いましたよね?」
「だ、だが、万が一があったら……」
「キーリ様達が居るのに、万が一なんて起こる訳無いじゃないですか……」
後ろから現れたミミは、心配で走って駆け付けたティザークの事を呆れた目で見ていた。
「え、えと……。領主様も戻られましたし、情報の擦り合せしても良いですか?」
「情報の擦り合せは主様達に任せます。私は少し出て来ますね」
「え? ミミ何処行くの?」
「お花摘みです……」
ミミを呼び止めたカケルに、彼女から冷ややかな視線と共にそう返答された。
「あ、えと、ごめん……!」
「はい。では、失礼します」
ミミが出て行った後に、カケル達は情報の擦り合せを始める。
因みにミミは、擦り合せの途中ですぐに帰って来た。
カケルとティザークが中心に情報を擦り合せると、この街の陥っている状況が少しずつ見えて来た。
魔物を誘き寄せる為に、非常に高度な魔方陣によってスキルを狂わされた少年。
ティザークの胸を剣で突き刺した、獣人への恨みがある大男。
そして、それらを結ぶらしいレヴィンと言う少年。
「まだ、気になった事がありますよね? 門の外での戦闘中に変な視線を感じませんでしたか?」
「あぁ、あの鬱陶しい視線だな?」
「私も、不躾な視線は感じたな」
「え? 視線!?」
「確かにあったなぁ。ワイもあんまり良い気はせんかったで」
「えぇ? あれ、お姉ちゃんの事を見に来てたんじゃなかったの!?」
一部変な感想はあった物の、大半のメンバーはそれを感じ取ってたらしい。
因みに、キーリは剣閃で、ミミは黒い腕で、ルガルドは魔物を投げてそれぞれ警告を与えていたらしい。
カケルの所は、偶然大火が不審者の横を通り抜けたとか何とか……。
「もう一つの、空中に浮かんでいた変な気配は分かりましたか?」
「「「空中……?」」」
どうやらそちらに関してはミミ以外感じ取れなかったらしいが、ミミに依ると空中から何らかの方法を用いてミミの事を監視していた何者かの存在があったらしい。
「シェランド伯爵。どうやら、この街は敵対する組織がある様ですね?」
「まさか、これも帝国の仕業なのか……?」
単に帝国と呼ばれるその国は、南東に存在する大国で名をケラキア帝国と言う。
ケラキア帝国は属国であるヴィルトヘルト王国を使って、毎年の様に此方に小競り合いを仕掛けて来るらしい。
しかもヴィルトヘルトには昔相当に強い敵が居たらしく、防衛の要であった都市を奪われた状態なのだと言う。
そして現在、そのヴィルトヘルトと一番近い都市がこのシャンティナなのだそうだ。
「数ヶ月前に作物を壊滅させたスライムが現れた時期に、帝国の兵士を見たと言う情報もある」
情報を総合すれば帝国が非常に怪しい。
ただ、作物を壊滅させておきながらにしては攻める時期が少し早いのではと言った不可解な点もあるらしい。
尤もそれはキーリの活躍により緩和したからの可能性も高いが、それでも冬を過ぎてからの襲撃にした方が効率は良かった筈だとの事。
「ミミのスキルでは、相手組織の事は分からなかったの?」
「申し訳ありません。私も読み取ってみようと試みたのですが、あの大男の方は敵の所属してる組織に直接接触すらしていませんでした。少年の方も魂が損傷していたせいか、情報が所々欠けておりまして敵対組織の判明には至りませんでした」
「そっか……」
誰かから溜息が漏れる。
これだけ盛大に狙われたのに、敵対組織の断定すら出来なかったのだから仕方無いだろう。
因みに先程の視線と空からの監視の方だが、空からの監視は元を辿る前に何かに邪魔されて辿り着けず、門の近くの視線の方は魔法でマークしていたのに全てロスト。つまり、絶命していたらしい。
こうして一抹の不安を抱えつつも、シャンティナの襲撃に於いては無事解決する事が出来たのだった――。
とりあえず、これで混沌都市襲撃に決着がつきました。
後数話で、この章も終わる筈です。




