混沌都市襲撃 ~魔物暴走の原因~
胸糞、流血表現ありです。
カケル達が応援に行ってから程無くして周囲の魔物が一掃されたのを契機に、シャンティナの周囲が薄く青白い膜に包まれた。
「あれは何だ?」
「ティザーク様、外は危険です!!」
「煩い。今は、館に閉じ籠もっている時では無い!」
キーリとその仲間が街を助けてくれたらしいとの情報が入ったティザークは、すぐに館の外へと飛び出していた。
その時に、街の上空に透き通った薄青色の膜が張るのが丁度見えたのだ。
「あなた、あれは一体……?」
「きれい……」
その後ろからは、ミリエラを抱えたシェーラも外へと出て来ていた。
「分からん…………。うん? あれは……?」
ティザークがふと周りを見渡すと、西側から何か黒い物が此方にやって来るのが見て取れた。
近付くにつれ、それが何だか分かるようになる。
「黒ウサギ……?」
「ウサギさん……?」
その黒ウサギはティザークの前まで来ると、流暢な人語でティザークへと話し掛けて来た。
「人間、貴方がこの街の領主であるティザーク・シェランド様ですか?」
「あ、あぁ……。君は一体……?」
「失礼しました。キーリ様の仲間であるカケル様に仕えている、常闇ウサギのミミと申します」
「キーリの……? と言う事は、まさか君達が助けてくれたのか……?」
「西門の援助をしたのは私ですね。他の門もキーリ様達が解決してると思います」
「そうか……」
部下からの報告で聞いてはいたが、実際に助かったと言われると安堵に包まれる。
だが肩の力を抜いた事で、もう一つの疑問が浮かんだ。
「いや待て、常闇ウサギ……? 何処かで聞いた事がある気が……?」
ティザークが頭を捻っていると、ミミの言葉に興味を持ったミリエラがワクワクした表情で彼女に話し掛けて来た。
「ウサギさん、ウサギさん。ウサギさんは、うーちゃんとちがっておなはしできるの?」
「うーちゃん? あぁ、キーリ様の話に出て来た火焔ウサギの事ですか。そうですね、火焔ウサギは火ウサギの中でも下位に属しますから。闇ウサギの上位に属する私と比べると、どうしても色々な点で違いは出て来ます」
「かえんウサギ? やみウサギ?」
「そうですね……、私の方がそのウサギよりも少し凄いと思って頂ければ良いと思います」
「そうなんだ。ウサギさんすごいんだね!!」
ミリエラはシェーラの腕の中から無邪気に話し掛けて居たが、ティザークとシェーラは気が気でなかった。
ミミの話した、闇ウサギの上位と言う言葉を聞いて思い出したからだ。
あの、月夜の悪魔の事を……。
「ミミ殿、まさか貴女は月夜の悪魔なのですか……?」
「その呼び名ですか……。言っておきますが、主様にその呼び名の意味を知らす事は許しませんよ?」
「それはどう言う……」
そんな話をしていると、ミミ以外のメンバーも門から帰還したらしい。
「あ、ミミ。もう戻って来てたんだね? もしかして、この都市を包んでるのもミミがやったの?」
「はい。魔物寄せの効果が、まだ続いてますからね。取り敢えず応急措置です」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 魔物寄せだと? 今回の事はスタンピードじゃ無かったのか!?」
「えーと、お兄さんはどちら様ですか?」
「主様、この街を領主であるティザーク・シェランド様ですよ」
「領主様!? 失礼しました。僕はカケル・ソラノです。えーと、後種族はリッチです」
カケルはそう言いながら、フードを外した。
「なっ!?」
「驚かせてごめんなさい。でも、黙っているのもマズいかなと思いまして……」
「ティザーク様」
「あ、あぁ……。済まない……。カケル殿だったな。済まんが、先の魔物の事について聞いても宜しいか?」
「えーと?」
「はぁ……。仕方ありませんね。軽くですが、説明します」
ミミが簡単な説明をしている時、カケルは非常に強い視線を感じていた。
「え、えーと、僕に何か用かな……?」
「がいこつさん、がいこつさん! がいこつさんは、どうしてうごけるの?」
「ミリーちゃん!?」
カケルの姿に驚く事なく、ミリエラがシェーラの抱っこされながら興味津々で尋ねてきた。
それに対してシェーラは、カケルの事を非常に警戒していた為に悲鳴の様な声を上げる。
「えーとね、どうして動けるかはお兄ちゃんにも分からないんだ。君もどうして自分が動けるかは分からないでしょ? それと一緒だよ」
「そっか~。ねぇ、ねぇ、がいこつさん」
「ガイコツじゃなくて、僕の名前はカケルだよ」
「カケルおにいちゃん?」
「そうだよ」
名前を教えて貰った事に、ミリエラは更に瞳を輝かせながら質問を続ける。
「ミリーはねミリーっていうの!! あのねあのね、カケルおにいちゃんは、なにがすき? ミリーはハチミツがすき!!」
「ハチミツかぁ……、アレは甘くて美味しいよね」
「うん! カケルおにいちゃんは!?」
「お兄ちゃんが好きなのは花火かな?」
「ハナビ?」
「そうだよ。夜空に凄く綺麗な花を咲かせる見世物なんだよ?」
「きれいなおはな……。みてみたい!!」
「ミリーちゃんのお父さんの許可が取れたら、見せてあげられると思うよ」
「ほんとう!?」
その遣り取りを見ながら、シェーラはカケルに言いようの無い気持ち悪さを感じていた。
目の前に居るのは、紛れも無いアンデッドだ。
なのに、人間の様に振る舞っているのが非常に気持ち悪い。
正直そんな存在と娘を喋らせたくは無かったのだが、このアンデッドを含めた者達に街を救われたのは事実らしい。
それなのに、ただ気持ち悪いからと会話を禁止するのは、この街の住民としてもシェランド家の妻としても憚られた。
だから、シェーラはせめてもの抵抗として、ミリエラの身体を出来るだけカケルから隠そうとする。
「すいません、やっぱり怖いですかね?」
「え……?」
「さっきからミリーちゃんを、出来るだけ僕の目に触れない様にしてますよね? それって、僕の姿が怖いからじゃないんですか?」
「あ、えと、それは……」
「あぁいや、責めようとかそう言うのじゃなくて、僕の姿ってやっぱり怖いんだろうなって……。ゴメンねミリーちゃん、お話はまた今度ね。えっとレナ、こっちに来てくれる?」
「何でしようか?」
「ミリーちゃんの、話し相手になってあげて。僕は少し離れているからさ……」
シェーラは、そう言って離れて行くアンデッドの姿に唖然とした。
その後ろ姿と言葉に、少なからず寂しさの感情が伺えてしまったからだ。
「どうして……」
「カケル様の事ですか?」
「ええ……。彼はアンデッドなのでしょう? なのに、何故……」
「カケル様は、とても優しい死神様ですよ? アンデッドなんかと、一緒にしないで下さい!」
「え?」
今度は、レナの剣幕にシェーラは驚く。
たが、その言葉の方が気になった。
優しい死神?
それは、どう言う意味なのかと……。
そして、それをレナに対して問い掛けると、非常に熱の籠もった回答が返ってきた。
それによると、レナが殺され掛けているところをあのアンデッドに救われたのだとか。
しかも、千切れた手足の治療までして貰って……。
正直全く理解出来なかったが、あのアンデッドがこの娘を助けたのだけは確からしい……。
その上、この街の危機まで救っているみたいだし、アレは本当にアンデッドなのだろうか?
だからと言って、死神なんて回答を信じるつもりも無いのだが……。
そんな事を考えていたら、ミリエラがレナの話に興味を持ってしまったらしい。
まぁ、今の所この娘に害は無いみたいだし、少しくらい好きにさせても良いのかなぁ?
「レナおねぇちゃん! カケルおにいちゃんすごいんだね!!」
「はい! ミリー様も、寝る前にカケル様に祈ると良いですよ!!」
「おいのり?」
「そうですよ。今日も一日平穏に過ごさせて頂きありがとう御座いますって、感謝の気持ちを捧げるの!!」
前言撤回よ!
この娘、本当にカケルってアンデッドを信仰してるわ!!
ミリエラがその信仰に染まる前に、引き剥がさないと!!
そんな事をしていると、ミミからのティザークへの一通りの説明が終わったようだ。
「今から魔物寄せをしている場所へと向かいますが、ティザーク様も一緒に来て頂けますか?」
結局魔物寄せの場所へと向かうのは、ティザーク、ミミ、カケル、ツィードの四人となった。
シェーラ、ミリエラ、レナ、セレナ、キーリ、ルガルドはお留守番である。
元々留守番組はシェーラ、ミリエラ、レナ、セレナの四人の予定だったのだが、ミリエラが心細かったのかキーリを見詰めた為にキーリが落ちたのだ。
ルガルドはそのついでである。
そんな事がありながら、先頭のミミは迷わず進む。
進む方角はスラム街の方だ。
そして、スラム街に辿り着くと、ミミはある一軒の壊れ掛けた木製の小屋の前へと立った。
「ここなのか?」
「はい、間違いありません」
「汚い建物やなぁ……」
ミミがティザークに答えつつ扉を開ける。
そこに中は、ゴミが散乱しているだけの小汚い部屋にしか見えなかった。
「ミミ、何も無いよ?」
「そうだな。私にも見当たらない」
「いえ、これは単なるカモフラージュです」
ミミはそう言うと、散乱したゴミを一瞬で片付ける。
しかし、それでも其処は単なる物置小屋のようにしか見えなかった……。
「ミミ、何かあるの?」
「――ここですね」
ミミはカケルの言を無視して、ある一点へと向う。
そして、肉球を握り締めて地面へと叩き付けた。
衝撃音が辺りに響いたかと思うと、そこの地面が崩れ下へと続く階段が現れた。
「隠し階段か……」
「その通りです。では、行きますよ」
そこそこ長い階段を降りきったそこには石造りの小さな小部屋があり、非常に不可解な光景が広がっていた。
部屋の中は薄暗く光る魔法陣があり、その中央にはまだ成人には届かない様な年齢の少年が、裸で仰向けに寝かせられている。
それだけでも異様な光景なのだが、少年の四肢は杭で打ち付けられており、少年の腹に穴が開き紅い水晶の様な物が埋め込まれていたのだ。
水晶の様な物は人間の手の平くらいの大きさがあり、それを埋め込まれた箇所からは血がドクドクと溢れ出ており、この光景の異常さを再認識させるようだった。
「何だこれは……?」
「酷い……」
「ミミちゃん、この坊が元凶なんか?」
「そうです。この人間が、この街に魔物の大群を呼び寄せた元凶です。尤も、自分の意志では無さそうですがね」
その少年はカケル達が自分の事を見ているのを気付いたのか、枯れた様な小さな声で何かを言い始めた。
「た……す……て……」
「ミミ! この人、助けてって!!」
カケルが少年からの言葉聞いて、慌ててミミにその事を話した。
だが、ミミがそれに答える前に事態は急変する。
「そこまでだ! コイツの首を掻っ切るぞ!!」
「ぐっ……」
カケル達の後ろに居たティザークが、何者かに羽交い締めにされて首に短剣を当てられたのだ。
「先程から変な気配がすると思いましたが、お前が原因でしたか」
「何だ? 俺の事を分かっていたのかよ?」
魔法陣の光で照らされながら出て来たのは、まるで山賊の様な出で立ちの男だった。
筋肉が付き過ぎて太くなった腕と、ボロボロになった服。
その男の眼光は鋭く、顔や手には幾つもの傷跡があった。
「はい。情報を集める為には、泳がせる方が良いかと思いまして」
「はん! 余裕だな? コイツがどうなっても良いってか!?」
「そうですね。別にティザーク・シェランド様が殺されても、特に問題はありません」
「ミミっ!?」
そのミミの言葉に驚いたのはカケルだ。
「主様は黙っていて下さい! ただ、出来れば生きていた方が都合が良い事も確かです。さて、それを踏まえて何の用ですか人間?」
「ふんっ! その男を処分されちゃ困るんでね。ソイツから離れて貰おうか!!」
そう、顎で裸の少年をしゃくりながら、要求を伝えた。
その要求に従って、ミミがジリジリと少年から離れながら大男に質問をする。
「その人間は何なんですか? 非常に嫌な感じがするんですが」
「さぁな、俺も詳しく事は知らねえよ。魔物を引き寄せるスキルを、どうにかして暴走させたと聞いただけだ」
「存外素直に答えるのですね?」
「あぁ、もう十分距離は稼いだからなっ!」
そう言った男の手から、青っぽい何かが少年目掛けて投げられた。
そして、それは少年の赤い水晶に当たると、彼の周りを青色何かで取り囲んだ。
「なるほど、結界ですか……」
「さてと、次はこの場所から離れて貰おうか?」
「いえ、お断りしましょう」
「は? おい、分かってんのか!? コイツの命がどうなっても――」
「ですから、別に構いませんと伝えましたよ? 私の目的は、その忌々しい人間の排除です。結界のせいで少し面倒になりましたが、この人間の状態は把握出来ましたからね。なら後はその目的を果たす為に、シェランド様の命を渡すくらいは許容範囲でしょう」
「なっ……、なっ……?」
大男が、ミミの言葉を受けて動揺していた。
それも仕方無いだろう。
この街を助けた魔物なのだからこの街にも好意的だろうと思い、街のトップを人質に取ったのにも関わらず、いとも容易く切り捨てたのだから。
そして、大男が動揺している内に事態は動く。
「はぁっ!」
少し気が緩んだ所を見計らってティザークが、大男に対して肘鉄を加えて突き飛ばした。
そして、その隙にミミ達の方向へと逃げようとしたのだが……。
「がっ……!?」
「逃さねえよ! お前は元々逃がすつもりもねえんだ!!」
ティザークの胸から、大男の持っていた剣が生えていた……。
そして、それが引き抜かれると共に、大量の血を流しながらティザークが前のめりに倒れて行く。
「領主様!?」
「坊!?」
「クハハハハ!! 人質の役割すら出来ないなら、お前なんかが生きていちゃいけないんだよ!!」
その光景を見て、急いで駆け寄るカケルとツィード。その際に、カケルは着ていたローブのフードが取れ頭が露になっていた
そして、それを見ながら大男が嗤っていた。その目に、抑えきれない憎悪を浮かべながら……。
「なるほど。ただの使い捨ての実行犯かと思いましたが、どうやら少し違ったみたいですね。ですが――」
ミミは大男との距離を瞬時に詰めると、パラライズと唱えて大男の自由を奪う。
「ガハッ! なんだコレは!? 身体が動かねえ!?」
そんなやり取りをしている間に、カケル達の方でもやり取りがあった。
「私は、もう……助からない……だろう……。カケル殿、シェーラと……ミリエラに愛してると伝えて……くれ……ないか? 私は、この街の……礎になった……と……」
「お断りします! 僕が、絶対に死なせません!!」
「せや、カケル坊の言う通りや! 大切な人を残して、諦める奴がおるか!!」
「だ、だが私の傷は……」
ティザークの言う通り彼の傷は心臓を貫いており、到底助かる様な状態ではなかった。
だが、それでもカケルは諦めない。
何故なら、この世界には魔法が存在するのだから……。
「黙っていて下さい!! 絶対に治します! ふぅ……、”カオスヒール”!!」
過去にも使った事がある白と黒の光は、ティザークの傷口へと覆い被さり効果を発揮する。
そして光が消えた後には、傷口もすっかりと姿を消していたのだった。
「治った……?」
「良かった……」
レナの時は夢中で成功させたそれは、使用難易度が非常に高くガルクを治療する際には物に出来でいなかった。
だがその後の訓練によりカケルは、その魔法を完全に自分の物にしたのだった。
今では肌の色も馴染む様に治療出来、視力等の複雑な体の部位の治療も出来る様になっていた。
「この治療はカケル殿が……?」
「はい。上手く行ったと思うのですが、何か変に感じる部分はありますか?」
ティザークは軽く立ち上がって、調子を確かめた後にカケルに向かって返答する。
「いや、問題無いようだ。カケル殿、助けて下さり感謝する」
「いえ、領主様が助かって良かったです」
そのやり取りを見ていた大男が叫ぶ。
「何故だ……? 何故アンデッドが、その男を助ける!?」
目をギラつかせながら口から唾を飛ばして叫ぶその様は、人間と言うよりも獣に近い物だった……。
ミリエラは好奇心旺盛です。
骸骨程度には怖がりません。
多分、同年代ではかなり肝が据わってるんじゃないでしょうか?
次は大男についての話を投稿する予定です。




