混沌都市襲撃 ~子供達の戦い~
今回は子供達が頑張るお話です。
戦闘シーンなので、グロ系に注意です。
「本当に来ちゃったよ……」
「来たわね化け物!」
「魔物の種類は違うけど、リベンジと行こうかな!」
「キュイ!」
ヴェッツェーニア達が見詰める先には、ゴブリン八体とオーク二体が南の方から駆けて来るのが見て取れた。
ローグ達が受け持つ南門を、数の力で突破した一団である。
「行くわよ! 私はオークを貰うわ!!」
「ボクもオークかな? オーガの代わりとは行かないけど、リベンジだよ!!」
「じゃあ、僕は残りのゴブリンかな?」
「キュイ!!」
「え? 何匹か寄越せって? じゃあ僕が五体で、うーちゃんが三匹……。え? 足りない? じゃあ――」
結局ニーナとヴェッツェーニアがオークを一体ずつ、ナックとうーちゃんはゴブリンを四体ずつ受け持つ事になった。
防衛戦において、築いたバリケードの前に出るのは悪手とされている。
何故なら、本来はバリケードに隠れつつ弓や魔術での遠距離攻撃や、近付いて来た所を槍に串刺しにするのが安全で効率が良いと言われているからだ。
だが、彼等は迷わずバリケードを乗り越えた。それは、先の手法だと武器が限られると言う事もあるが、何よりも彼等の戦闘の実践になり難いからであろう……。
「じゃあ行くわよ!」
ニーナはそう言うと、彼女の身長の二倍はあろうかと言う巨大な大剣を肩に担いだ。
そして何かを呟きながら、右側のオークへと振り下ろす。
ガキッ!
そんな音を出しながら、振り下ろした剣により広場の石畳が削れる。
だが、オークは慌てて行動した事で何とか避けたらしい。
「へぇ、避けるなんてやるじゃん! じゃあ、もっと遊ぼうよ!!」
ニーナはそう言うと、オークを追い詰めながら広場の南西側へと移動して行った。
「ニーナちゃんも張り切ってるね! ボクも負けられないや!」
ニーナが飛び出して行くのを横目に、ヴェッツェーニアは短剣を構える。
そして、駆け出しながらオークへと斬り付けた。
その攻撃により、浅いながらもオークは血を吹いた。
「やっぱり、オーガより断然柔らかいや」
その速度の攻撃に恐れを成したのか、オークは広場の南東側へと逃げて行く。
「逃さないよ!!」
ヴェッツェーニアはそう言って、オークの後を追って行く。
「ニーナもニアちゃんも張り切ってるなぁ」
「キュイ!」
「うん、僕らも頑張ろうか! 僕が右の四体で良い?」
「キュイ!」
「うん、じゃあ始めようか!」
先の二人が物理主体なら、彼等は魔術主体だ。
本来ならば物理主体の二人を前衛にして、ナック達二人を後衛にすれば中々バランスが取れたパーティーになるのだが、今回は彼等が全員個別に戦闘する事になっていた。
「まず、数を減らそうか」
ナックはそう呟くと、近付いてくるゴブリン達を尻目に呪文を唱え始める。
――空を司りし風よ。
――我が名はナック。
――眼前の敵を切り裂け!
「”ウィンドウカッター”!!」
ナックが唱えた長めの詠唱によって出来た風の刃が、ゴブリン一体の首を過たずに刎ねた。
一瞬で仲間を殺した人間を、先程までの嘲笑いとは違いやや恐怖した目で見るゴブリン達。
「どうしたの? 来ないなら僕からやるよ?」
その言葉に怒って冷静さを欠いたのか、ゴブリン達はナックへと突撃して行った。
広場の南東である左側へと進んでいたヴェッツェーニアは、オークを追い回しながら様々な攻撃を試していた。
彼女はオーガの一件以降、家族の反対に遭い街の外へ行く事を禁止されていた。
その為、腕が鈍らない様に練習や模擬戦はしてる物の、実戦は数ヶ月ぶりだったのである。
だからであろうか。彼女は、まるでブランクを埋める様な戦い方をしていた。
「まだまだ、試させて貰うよ? ”瞬間加速”!」
ヴェッツェーニアはスキルを使って加速すると、逃げ惑うオークの左腕を綺麗に斬り落とした。
グギャーッ!?
「うん、悪く無い手応えかな? じゃあ、もう一回! ”瞬間加速”!」
その攻撃により、今度はオーク右手が宙を舞う。
グギャーッ……!?
そして、血の雨が石畳を赤く濡らす。
「次は、これかな? ”気配遮断”! ”背景同化”! ”瞬間加速”!」
気配を薄くして背景と同化したヴェッツェーニアは、加速した足でオークの背後へと回り込む。
そして、背後から横っ腹に向かって短剣を振るう。
短剣はオークに切り傷を作り、僅かな血を飛び散らした。
それに対してオークが慌てて後ろを向くが、振り向きざまに更に斬り付けられてしまう。
「よし、そろそろ終わりにするよ! ”瞬間加速”!」
そして、彼女は高速でオークを斬り付けて行くのだった。
「よし、討伐完了! 皆は大丈夫かな? ボクが心配する程の事は無さそうだけど」
そんな風に他のメンバーを心配する彼女の横には、切り傷だらけで出血死した状態のオークが倒れて居たのだった……。
「久し振りの戦闘だね!」
ニーナは、巨大な大剣を担ぎながらそう呟く。
目指す対象は、目の前のオークである。
彼女が自分の身長よりも大きな大剣を扱えている理由として、彼女の身体能力が高い事もあるがそれよりも優れた魔術の才能にあった。
彼女は闇魔術に対しての才能が秀でており、特に重力を操る事に長けていたのである。
「”グラビティ”!」
彼女の振り下ろした大剣が、彼女の呪文と共に石畳に甚大なダメージを与える。
それを何とか避けたオークは、やや怯え気味であった。
「また外したわね……。”グラビティ”」
再び呪文を唱えた彼女は、身長よりも大きな大剣をまるで重さを感じさせない動作で再び肩へと担いだ。
そう、彼女の闘い方は剣に対して重力操作をする事による、大ダメージ型だったのである。
斬撃時と剣を担ぐ際に呪文を唱える必要があると言うハンデはあるものの、破壊力のある大剣を相当な速度で振り回せるのは非常に大きなメリットだった。
「”グラビティ”! はぁぁ!!!」
ニーナは一気にオークとの間合いを詰めると、大剣を使って横薙ぎを行う。
その横薙ぎの速さにオークは避け切れずに、腕を一本斬り飛ばされてしまった。
いや、斬り飛ばすは正しい表現では無いだろう。
正確には、千切れ飛ぶだろうか。
彼女が幼い時から手入れもせずに使っている大剣の切れ味はほぼ皆無で、相手を斬る武器と言うよりも相手を叩き潰す鈍器の様な性質になっていたのである。
「へぇ、胴体を狙ったつもりなのに避けるなんて中々やるわね」
グ、グォー……。
彼女の言葉に、オークが力無く声を上げる。
もし此処に、オークの表情を正しく見分けられる者が居たなら、彼の表情は恐怖で塗れていた事だろう。
「なに? 助かりたいとでも言うの?」
その言葉を理解したのか、オークの頭が上下に激しく振られる。
「ふーん。でも駄目よ! 攻めて来たのはそっちなんだから!! ”グラビティ”」
そうして彼女は剣を担いで腰を落とすと、スキルまでに昇華した自分の得意技を使う。
「”グラビティスラッシュ”!」
あっと言う間にオークの目の前へと移動したニーナは、振り上げた大剣を高速で振り下ろした。
その瞬間に彼女が見えたのは、諦めの表情をしたオークだった。
ドッガーン!!
先程の比ではない速度で振り下ろされた大剣は、石畳を削りきり更にはその下の地面にクレーターを残す。
そのクレーターは所々赤黒く染まり、飛び散った石畳の破片に紛れて肌色をした肉片が混じっていた……。
「久々だったけど、上手く出来たわね。兄さん達は特に問題無いとして、ヴォル兄様は大丈夫かしら?」
軽くオークを片付けた彼女は、少しだけ広場の中央に目を向けた後にヴォルデルクが居る建物へと目を移す。
共に戦っていた筈の仲間達よりも、ヴォルデルクを先に心配する辺りは彼女らしかった……。
「”アースウォール”!」
ナックは飛び込んで来たゴブリンを避けると共に、土壁を出して敵との距離を稼いだ。
「参ったなぁ……。僕、余り動くのは得意じゃないんだけど……」
そうボヤきつつも、ナックは新しい魔術の行使に入る。
――大地を司りし砂よ。
――空を司りし風よ。
――我が名はナック。
――敵の目を覆い隠せ!
「”サンドストーム”!」
細かい砂を含んだ竜巻が、三匹のゴブリンを襲う。
グギッ!?
どうやら砂が目に入って、目標を失ったらしい。
「よし、そろそろ行くよ!」
その隙に唱えるのは、彼の使う魔術の中でも最高レベルの威力を誇る魔術。
――全てを破壊せしめんとする大嵐よ。
――我の呼び掛けに応えよ。
――我が名はナック。
――障害の破壊を望む者なり。
――我が眼前に聳え立つ障害を打ち砕け!
「”エリアルテンペスト”!」
その言葉に反応して、三匹のゴブリンの周囲を風が逆巻き始める。
そして、局所的に嵐の様な状態がゴブリンを取り囲んだ。
大雨と強風が、ゴブリン達に襲い掛かる。
そして、巻き上げられて宙を舞った所を、嵐の中に有った石が打ち付ける。
風、水、土の三属性の攻撃でゴブリンがボコボコにされる。
そして魔術が止むと、空から血だらけで手足や首があらぬ方向を向いたゴブリンが三匹降ってきたのだった……。
「よし、討伐完了! うーちゃんは……、大丈夫そうだね……。ニアちゃんは大丈夫かな? オーガ程では無いけど、オークも結構強いのに……」
ナックは一度うーちゃんの方を見ながら苦笑いをすると、ヴェッツェーニアの向かった方向を見ながら少し心配そうな声を上げるのだった……。
「キュイ!」
ゴブリンが近付くのを見ながら、うーちゃんは思考する。
わたくしのリベンジが、ゴブリンになるなんて……。
ニアお姉様に捧げるのに、アレは無いのではないでしょうか?
もう少し良い獲物が良かったなと思いながらチラリと左側を見ると、お姉様が華麗にオークを斬り刻んでいるのが見えました。
流石お姉様ですね! オーク程度なら全く問題無い様ですわね!
わたくしも頑張らないと!
うーちゃんが再び正面を見据えると、ゴブリンに対して魔法を使う。
「キュイ!」
その声と共に現れた肉球大の火の玉は、高速で一匹のゴブリンの頭を撃ち抜いた。
グガッ!?
残りのゴブリンが驚いているのを尻目に、うーちゃんはこの頃の訓練の成果を実感していた。
上手く行きましたわね。
わたくしの魔法の弱点は、使える種類の少なさと単純さでした。
考え無しに本能で使っているだけでしたから、当たり前だったのでしょう。
「キュイ!」
彼女が再び鳴くと、背丈は低いがゴブリンでは乗り越えられない程の、火の壁がゴブリン達を取り囲んだ。
グガ?
フフフ。わたくしの魔法は如何ですか?
中々有用な物でしょう?
お母様やお兄様のアドバイスは、非常に柔軟ですわよね。
あのアドバイスが無かったら、先程の様に魔法を圧縮するなんて考えは出なかったですし、火の壁を使った搦め手を交えるなんて考えもありませんでしたわ。
うーちゃんがそんな事を考えていたら、ゴブリンの一匹が覚悟を決めたのか火の壁を火傷覚悟で飛び出してきた。
あらあら。中々に逞しい獲物だこと。
ですが、覚悟を決めて来たところ悪いのですけれど、わたくしには勝てなくてよ?
「キューイ!」
彼女が声を上げると、先程の火の玉と同じ大きさ程度の火の玉が出現する。
先程と違うのは、ゴブリンへと向かうスピードが非常に遅い事だ。
グゲゲゲゲ!
肌が焼け焦げたゴブリンが、嘲笑の声を上げながら彼女の方へと向かって来る。
そして余りにも遅い火の玉を避けると、そのまま彼女の元へと襲い掛かって来た。
だが、避けられても彼女は動じない。
殘念でしたわね。
それは、特殊な魔法でしてよ?
ゴブリンの背後の火の玉は、石畳に接触したかと思うと轟音と共に爆発した。
その爆風を間近で受けたゴブリンは、あっという間に爆散し肉片と化した。
彼女の使ったのは、所謂爆炎魔法と言う種類の魔法である。
人が使う魔術の中では鉱山の穴掘りによく使われる物で、殺傷能力が高い事と当たった場所の周囲への影響も広いのが特徴である。
それを彼女は圧縮を行う事で、威力を上げつつ影響範囲を限定する事に成功していた。
だが、中心以外の爆風は殺傷能力こそ無いものの威力は寧ろ上がっており、その風に煽られた彼女はコロコロと石畳の上を中々の勢いで転がっていた。
「キュ、キュイ……」
し、失敗しました……。
まさか、あそこまで爆風が強いとは思いませんでしたわ……。
殺傷能力だけチェックしていたのが仇になりましたわね。
うーちゃんは火の壁の向こうで、先の爆発を見ていたゴブリンに目をやる。
そこには、怯えた表情互いに抱きしめ合っている二匹のゴブリンが居た。
全く、貴方達から仕掛けて来ておいて、何を怯えた様な姿を見せているのかしらね?
勿論、見逃したりしないわよ?
彼女は火の壁の方向へと、少しずつ歩み行く。
そして、――。
「キュイッ!!」
彼女は、ある程度の距離を詰めると声を上げた。
その声に従って現れたのは、火の壁で囲まれた円柱状の領域を覆うドーム状の屋根の様な物だった。
それを一言で表すなら蓋だろうか?
さぁ、灰も残さぬ程に燃えなさい!
灼熱の焔窯!!
そして彼女の意志に従って、窯の中の温度が一気に上昇する。
グギャー!!
劈く様な悲鳴が辺りに鳴り響いたと思うと、すぐにその声は聴こえなくなっていった。
そして、窯が取り除かれるとそこには、高温に晒されて色が変わった石畳と何かがこびり付いた跡が残るのみだった……。
ふぅ、お仕事完了ですわ!
後で、お姉様に褒めて貰おうかしら?
うーちゃんがそんな事を考えていると、他の三人も戦闘を終えて集まって来るところであった――。
うーちゃんのヴェッツェーニアの呼び方を変更しました。
呼び捨てだと、話し方との食い違いが酷かったので……。
さて、この子達ですけど非常に戦闘能力が高いです。
ヴェッツェーニアは当然の事として、レベルアップしたうーちゃんも強いですし、ニーナとナックの兄妹は二人よりも強いと言う……。
年齢の事さえ除けば、冒険者としても十分に通用する実力を持っています。




