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混沌都市襲撃 ~応援~

過去最長かも知れません……。

戦闘シーンは続いているので、一応グロ注意ですけど、多分今回はそこまで酷くありません。

「はぁ……、はぁ……」

「マリクス! まだいけるか!?」

「ゲ、ゲヤルト、だ、誰に物を言っているのさ?」

「上等だ。また来るぞ!」


 北門は、マリクスの魔力が限界だった。

 彼は既に数十匹のスカイワイバーンを落としていた。それだけでも大金星である。

 だが、魔力の消費は如何ともし難く、マリクスの魔力は底を尽きようとしていた。


 もし彼が守る事を考えずに昔の様に魔術を使っていたなら、スカイワイバーンを殲滅は無理でも行動不能に出来ていたかも知れない。

 だが、彼は既に人を守ると言う事を知っていた。

 その事は、彼に昔とは違う選択をさせた。

 (すなわ)ち、殺す為の戦いから守る為の戦いへと……。


「はぁっ!」


 ゲヤルトが、落ちて来たスカイワイバーンにとどめを刺す。

 殺した敵の数は、恐らく五十を超えた。

 だが……。


「はぁ……、はぁ……、はぁ……」


 マリクスの呼吸が乱れている。

 マリクスは否定するだろうが、恐らく彼の支援が期待出来るのは後数体が良いところだろう。

 スカイワイバーンの撃ち落としに、下に居る冒険者達への支援。更には少しだが治癒魔術まで使っているのだから、その魔力の消費は著しい筈だ。


「マリクス! もう、此方への支援と治癒は打ち切れ! じゃないと、お前の方がへたっちまう!」

「な、何を言っているのさ……。ゲヤルト、わ、私はまだまだいけるぞ……?」


 マリクスが息絶え絶えに、強がりの様な言葉を言った。

 だが、ゲヤルトはそれに取り合わずに部下へと命令を下す。


「お前達! もうマリクスに頼るな! 此処から全て、俺達で倒し切るぞ!」

「「「はい、隊長!!」」」

「ま、待て、私はまだ……」

「お前は少し休んでおけ! まだ折り返しにも来ていないんだぞ?」

「そ、それは……」


 二人が押し問答をしていると、前に出ていたゲヤルトの部下の一人から声が上がった。


「た、隊長! 街の方から、何かが高速で此方へと飛んで来ます!!」

「何だと!?」


 ゲヤルトからでは城壁が邪魔で、何が来ているのか全く分からない。

 それは、城壁の上でへばっているマリクスも同じだった。

 そして、碌な対処が出来ないままソイツは現れた。


「ゲヤルト、久しぶりだな? それにお前は確か、宿屋の主人だったか?」

「キーリ!!」

「き、君は、この前の飲み会をしていたホーリードラゴン!?」


 彼女の名前は、キーリ・サーヴァイン。

 その種族はホーリードラゴンで伝説の聖獣だ。

 そして、数ヶ月前に街に訪れた変わり者でもあった。


「ああ、そうだ。だが、余り時間を無駄には出来ないな。皆は下がってくれ! あの魔物共は私が倒す」

「正気か? まだ二百強は居るんだぞ!?」

「高々偽竜(ぎりゅう)が二百だろう? 私の敵では無いさ」


 キーリはそう言うと、最前線へとフワリと着地した。

 空中を飛ぶ事が出来るキーリの出現に警戒しているのか、スカイワイバーン達は少し距離を取って様子を伺っている。


「様子を見る程度の知能はある様だな? まぁ、私には全く意味は無いがな」


 キーリはスカイワイバーン達へ話し掛けると、深く腰を落として剣へと手を掛けた。

 そして――。


「行くぞ? ”孤月の一閃”!」


 それは一瞬だった。

 彼女が剣を抜くと、スカイワイバーン達が墜落していく。

 全てのワイバーンが落ちると、彼女は剣を鞘へと仕舞った。


「終わったぞ。お前達大丈夫だったか?」

「今のは一体……」

「ん? 剣閃を飛ばしているだけだが?」


 当たり前だが、剣士と言うのは前衛だ。

 それはけして、遠距離からの攻撃が出来る様な存在では無い。


「は、ははは……。さ、流石はホーリードラゴンと言うところかな? 私の役目が無くなってしまったよ」

「それは済まないな。ところで、ホーリードラゴン呼ばわりは止めてくれないか? 私にはキーリ・サーヴァインと言う名前があるんだ。お前も、エルフ呼ばわりは嫌だろう?」

「これは失礼、サーヴァインさん。私はマリクスと言います。貴女の言うとおり、宿屋の主人のエルフですよ」

「宜しくな、マリクス。それと、キーリで良いぞ?」

「それはご勘弁を。貴女の様な美しい女性を呼び捨てしていては、妻に愛想を尽かされてしまいます」

「そう言う理由なら仕方無いな」

「ええ。納得して頂いて感謝します」


 マリクスとの会話が終わると、キーリの周りにはゲヤルトを始めとする兵士が集まって来た。

 全員が、前にキーリに伸された兵士達である。

 彼等は、口々にキーリへ感謝の言葉を述べていた。

 そんな会話をしていると、城壁からマリクスが降りてきた。


「サーヴァインさん、今回は何故此処に?」

「いやなに、私の仲間がこの街の方から嫌な感じがすると言ったのでな。詳しく聞いてみると、この街が襲われてると言うじゃないか。だから慌てて仲間達と一緒に此処に来たって訳だ」

「では、お仲間さん達も此方へ?」

「ああ、他の奴等は別の門へと向かっている筈だ」


 まあ、直ぐに終わるだろうがな……。

 最後にキーリはそう呟いて他の門へと目を向けた。

 ゲヤルト達も釣られてそちらを見ると、何やら黒い何かが蠢いていたり白い何かが門の辺りを覆っていたりと、何かしらの変化が見て取れたのだった――。


 ◇ ◇ ◇


「クソッ! 埒が明かねえ!!」


 ガルクは、現状に焦りを感じていた。

 このワームは対処さえ間違えなければ、攻撃自体は大したことが無いのだ。

 だが、その代わりにダメージが非常に与え辛い。

 恐らくマトモに倒せる程の攻撃が可能なのは、ガルク自身も入れて二三人しか居ないだろう。

 だが、そのレベルの攻撃を加えると隙が大きい為、ガルク達は中々敵を倒せずにいた。


「ガルクさん! 大変です!!」

「何だ!?」

「魔術師のヤツがぶっ倒れました! 恐らく魔力切れかと……」

「何だと!? クソ! こんな時に……」


 話に出てきた魔術師とは、敵のワームへの弱点属性を使える人物で、ガルク達程のダメージは与えられない物の、コンスタントにダメージを与えられる為に戦力の要に組み込まれていた冒険者であった。


 非常にマズい事態だった。まだ、全てのワームの一割も倒せて無い。

 今は引き付けの作戦が上手く行っておりどうにか捌けてはいるが、この先敵が減るスピードが落ちると先に冒険者達の体力の限界を迎えそうだった。


「仕方無い……。まだ温存しておきたかったが、此処で使うとするか……。”身体強化”!」


 ガルクは身体強化のスキルを使った後、近くに居たワームへと突撃して行った。

 先程の比ではない速度で迫ったガルクは、そのスピードを活かして斬撃を加えた。

 その攻撃によりワームの皮が破け、ワームの体液が漏れ出て来る。

 だが、与えた傷がまだ浅い。


 ワームは、痛みに驚いた様に身体を捻って暴れ出した。


「コイツに近付くなよ! 俺が相手をするからよ!」


 冒険者に注意を飛ばすと、ガルクは再び地面を蹴った。

 そして、先程の傷に剣を合わせる様に振り抜きながら、強力なスキルを使用する。


「死に晒せ! ”死絶一閃”!!」


 その攻撃は皮の下の内蔵を直撃し、更に裏側まで貫通した。

 その直後、ワームは動きを止めて大きな音を立てながら地面に横たわった。

 ガルクはワームを殺した代わりに、ワームの体液塗れになってしまった。

 幸いこの体液に毒性などは無いのだが、粘性が中々高く動きを阻害する働きがあるのが問題である。


「まだまだ! 次はお前だ!! ”死絶の一閃”!」


 次は最初の斬りつけをせずに、最初に死絶一閃を使った。

 先程よりも威力が阻害された影響か、攻撃は貫通せずガルクはワームの体内に残ってしまった。

 ワームが倒れると、ガルクは先程開けた傷から這い出してくる。


「ガ、ガルクさん大丈夫ですか!?」

「あ、ああ……」


 ガルクは粘性がある体液が顔に掛かったせいか、顔を拭いながらも少し苦しそうに返事をした。


 ガルクは、間違い無く強い。

 最強の冒険者の地位に居るのは伊達で無く、実力は他の冒険者達を遥かに凌駕している。


 だが彼はある条件下において、非常に弱くなる事がある。

 それは近接攻撃が出来ない場合だ。

 つまり彼の弱点は、遠距離攻撃が一つも無い事なのだ。


 そして今回は、その弱点が露呈した結果になる。

 いや、本来であれば上から斬りつけていくだけでも勝てるのだろうが、今回は時間制限付きの為この様な結果になっていた。


「クソ! 次だ次!!」


 先程と同じ様に穴を開けて殺して行くが、十匹を超えた辺りで彼の動きが怪しくなって来た。


「はぁ……、はぁ……」


 足取りが少し怪しく、かなりの疲労感に苛まれている様に見える。

 それも当然だ。体液で身体は重く、更に靴にも付いているせいで踏ん張りが効きにくい。

 こんな状態で負担が掛かるスキルを連発すれば、体力の限界なんて直ぐに来てしまう。


 それを十匹も連続で倒すだけでも、彼の体力の高さが分かると言う物だ。

 だが、それもこれまでである……。


「しまっ……!」


 敵の攻撃を避けようとしたガルクだが、靴に付いた体液で足を滑らしてしまいその場に尻餅を付いてしまった。

 そんなスキを逃す事無く、ワームがガルクへと迫る。


「クソがっ……!」


 剣を杖代わりに立ち上がろうとするが、先程までの無理が(たた)って上手く立てない様だった。


「ガルクさんっ!!!」


 誰が叫んだか、ガルクの名前を呼ぶ声が鳴り響く。

 グランドワームの攻撃を受ければガルクと言えども、その質量の前には押し潰されてしまうだろう。それが人間の限界であり、魔物との種として格の違いだ。


 誰もが駄目だと思った。

 だがその時、遥か彼方から何かが高速でガルクの元へと迫って来た。

 そして、その何かは速度を緩める事無くワームへと激突すると、ワームを空中へと弾き飛ばしたのだった。


「え……?」


 ガルクが唖然としていると、砂煙が風に飛ばされて晴れて来る。


「全く……。ワイは防御専門で、攻撃は得意や無いんやで? それはそうとあんちゃん、大丈夫やったか?」


 そこから現れたのは、奇っ怪な生き物だった。

 猫の様でもあり、蜘蛛の様でもある。


 ガルクは、そんな自分を助けてくれた者を見ながら疑問の声を上げる。


「猫か……? いや、それとも蜘蛛なのか……?」

「ブー! どっちもハズレやな。ワイは猫蜘蛛やで!!」

「喋った!」

「さっきから喋ってるやん! それより、あんちゃん大丈夫なんか?」

「あ、あぁ、そうだったな……。済まない、助かった」


 ガルクがお前は結局誰何だと聞こうとすると、その前に猫蜘蛛が走って来た方角から聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「ツィード……。置いてくなんて、酷いよ……」

「そうよ! ツィードちゃん、女の子に優しく出来ないの!?」

「ツィード様、速すぎます……」

「何言うてんねん! カケルが、助けて言うたんやないか!」

「それは、そうだけどさぁ……」


 そこには、白いローブを纏った怪しげな人物と、非常に綺麗な若い女性、それに小さな女の子が居た。


「おい、カケルなのか……!?」

「あっ! ガルク、久し振り!」


 そう言って、カケルはフードを取り外す。

 その姿を捉えた冒険者から、悲鳴と驚きの声が上がる。

 だが、それには反応せずにガルクはカケルに話し掛け続ける。


「いや、お久しぶりってお前……」

「カケルちゃん、お知り合い?」

「うん。前に魔の森で出会った冒険者の人だよ」

「そう言えば何人か居たわね」

「ちょっと待て! もしかして、この奇っ怪な生物もカケルの知り合いか?」


 そう言って、ツィードを指すガルク。

 そんなガルクのあまりにもな言葉に、ツィードが抗議の声を上げる。


「奇っ怪は酷いんちゃうか?」

「うん、そうだよ。後、ツィードは不思議な生物に見えるかもだけど、地獄の猫蜘蛛(ヘルスロナート)って種族らしいよ」

地獄の猫蜘蛛(ヘルスロナート)?」

「うん。確か、神話の時代の生き残りだとか何とか」

「おい、おい……。マジかよ……」


 唖然としているガルクの後ろから、ツィードが声を掛ける。


「なぁ、あんちゃんガルク坊言うたか?」

「坊って……。俺の名前は、ガルク・ソルレイクだ」

「ツィード・ヘルナートや! 宜しゅうな!! それでガルク坊」

「結局、坊は固定なのな……」

「あんま話してると、あの魔物に襲われるで?」


 その言葉に反対側を向くと、飛ばされたワームも含めた数十体のワームが此方へと向かって居た。


「クソ! 俺とした事が!!」

「ガルク、ガルク!」

「何だカケル!? この忙しい時に!!」

「あの魔物達だけど、僕達に任せてくれない?」

「はぁ!? お前、正気か!?」

「勿論、正気だよ? そもそも、僕達はこの街を救う為に来たんだよ?」

「だが、カケル達だけに任せる訳には……」

「まあ、見ててって!」


 カケルはガルクを抑えると、ツィードの方向を向いた。


「ツィード、ガルク達全員守る事は出来る?」

「お安い御用や!」


 ツィードはそう言うと、目にも止まらぬ速さで上下左右に動き始めた。

 その動き自体も不思議なのだが、ガルクからするとそもそも宙に浮いて移動してるのも不思議だった。


「一体なにを……」


 最初は無意味に動いているようにしか見えなかったが、暫くするとカケル達を中心に半球状の蜘蛛の巣が張り巡らされて来た。

 そして、ワームが此方へと来る前に冒険者達を含めて、蜘蛛の巣がワームと皆を遮る様に全体を覆った。


「蜘蛛の巣か……? あ、おい、マズいぞっ……!」


 蜘蛛の巣目掛けて、ワームが突っ込んで来た。

 だが、蜘蛛の巣はワームに突破されるどころかワームを弾き飛ばしていた。


「嘘だろ……? 何だ、この蜘蛛の巣は……」

「流石ツィード! んじゃ、次は僕の番だね」


 カケルがそう言って魔法を行使しようとすると、後の二人が待ったを掛けた。


「カケルちゃん、ちょっと待って! レナちゃん、アレやるわよ!」

「アレですか? でも、私今はあの服着てませんよ?」

「大丈夫よ。私に任せて! ”クイックチェンジ”!」


 セレナが怪し気な動作をしながら、そう唱えるとセレナとレナの服装が一瞬で変化する。


「わぁ! セレナ姉様、凄いです!!」

「ふふん。そうでしよう!」


 因みに今のはセレナの力では無く、セレナに頼まれてミミが作った魔道具の仕業である。

 セレナは得意気に話しているが、実際はその発動ワードを唱えただけである。


「ちょっとセレ姉! 何で、チアガールの服なんて此処にあるのさ!?」


 そう、二人が纏っていた服装は、カケルの世界ではチアガールと呼ばれる応援団が着る服装だった。

 しかもご丁寧に二人共、ポンポンまで持っている。


「今からお姉ちゃんとレナちゃんで、カケルちゃんを応援するからよ?」

「いや、意味分からないし!」

「あのカケル様……、ご迷惑でしたか……?」

「あ、いや……」


 カケルがセレナに詰めていると、レナが不安そうに目を潤ませながら聞いてきた。


「い、いやぁ……。応援してもらって嬉しいなぁ……。アハハハハ……」


 その言葉に顔をパァッとさせて、レナがにっこり笑う。


「ありがとう御座います! しっかりと練習して来た甲斐がありました!!」

「そ、そっか……。それはありがとう……」


 今のカケルには頬の肉は無いが、あったら頬をピクピクさせていただろう。


 カケルはレナの横に居るセレナの手を引っ張って引き寄せると、レナから隠れる様に背中を向けて小さな声で話し始めた。


『ちょっと、セレ姉!? レナに何吹き込んだのさ!?』

『あら、心外ね。これはレナちゃんが望んだ事なのよ?』

『レナが?』


 レナがこうなった犯人はセレナしか居ないと思いながら、カケルが問い詰めるとセレナはあっけらかんと返答した――。


 ◇ ◇ ◇


 彼女曰く、レナは戦いの場でもカケルの役に立ちたいと願ったらしい。

 だけど、戦う力は無いからどうしたら良いのか?

 そう、キーリ、セレナ、ミミの三人と集まった時に聞いたらしいのだ。

 そこで出た意見が、直接攻撃では無くサポートを行う立場だった。

 例えば、回復魔術を使うヒーラー。例えば、付与魔術を使うエンチャンター。例えば、バフ、デバフの支援魔術を使うバッファー等など。


 そんな話を聞いたレナは、その中に自分に出来る事があるのかと更に深みにハマっていった。

 悩んでいるのを見兼ねたのかは分からないが、そこにミミが余計な一言を言ったのだ。


「そう言えば、主様の世界にもバッファーに近い職業があるみたいですよ?」

「ミミ様、本当ですか!?」

「はい。応援団と言った職業で、主にスポーツの応援をする職業らしいです」

「すぽーつですか?」

「そうですね。この世界に合わせて言うなら、闘技場での死合と言ったところでしょうか?」

「へぇ、カケルの世界にも命を掛ける物があるのだな」

「カケルちゃんからそんな事聞いた事無いわね? 言いたく無かったのかしら?」


 ミミの説明は間違ってはいない。元々スポーツは、危険の伴う狩猟等から派生して生まれた物であるのだから。

 だが、この説明を聞いたレナからしたら、スポーツは非常に危険な物と理解しただろう。事実キーリは、既に勘違いしていたみたいだ。


「それは……。ミミ様、おうえんだんと言う職業の事を教えて下さい!」


 そこからは、トントン拍子だった。

 ミミが応援団に使う服装を幾つか挙げると、すかさずセレナがチアガールを指定する。

 そしてその決定に対してレナがその格好が恥ずかしいと言っていると、セレナが巧妙に丸め込んでいた。

 キーリはその隣で苦笑いを浮かべていたが、止める事は無かった。


 そんなこんなで衣装が決まると、セレナが主体となって衣装の材料集めに走る。

 いつもの万能ツィードの糸に、主に黄色く染め上げる為の花々。

 ポンポンは草原の部屋と言う樹海の部屋と似た部屋から、空中を漂うフワフワした綿帽子の様な植物を採取して加工した。

 そして最後に付与魔法でアレコレと付与して出来上がったのが、あのチアガールのコスチュームである。


 ◇ ◇ ◇


 そんな話を聞いた後、カケルはある行動と共に驚愕とも呆れとも取れる声を上げた。


「これ、マジですか……」

「マジよ」


 カケルが呟いたのは、コスチュームの解析を行ったからである。

 ミミ達が本気で掛けた付与魔法は、解析する事さえ出来ないらしいのだが、これは解析は可能になっていたらしい。

 が、問題はそこでは無い。

 解析内容がおかしかった。


種類:チアコスチューム

付与:全身防御、自動調整、自動修復、ミラージュ

品質:最高レベル

効果:何かを応援する為の衣装。

 肌が隠れていない手足等への攻撃も即座に守り、仮に破れたとしても即座に回復する。

 防御能力は中々に高く、単に斧を振り下ろされたり、火に炙られるくらいではびくともしない。

 また、着る者のサイズに自動調整され、服の下からの光は完全に反射される。


 まぁ、防御系統や自動修復とかは良いだろう。重要な事だし、二人に怪我とかしてもらったら困るから。

 ただ、最後のアレって……。

 いやまぁ、うん……。

 分からなくは無いけど、単純にスカートを止めれば良かったんじゃ……。

 それに確かあの衣装って……。


「おい、カケル! 美人の姉ちゃん達とイチャイチャしてるところ悪いが、アレはそのままで良いのかよ!?」

「聞いたカケルちゃん!? お姉ちゃん美人だって!!」

「も、もしかして、私も入っているのでしょうか……!?」

「あ、うん。そうだね……」


 二人とも見目麗しいのは間違い無い。

 セレナは絶世の美女だし、レナだってセレナには劣るものの今後が期待出来そうな美少女だ。


「だぁもう! 話は後回し! 僕は、アイツ等倒して来るよ!」


 そう言ってカケルは、ツィードの張った糸の結界とでも言うべき物の端まで移動する。

 そして、攻撃をしようとするのだが……。


「フレー、フレー、カ、ケ、ル!」

「フレー、フレー、カケル様!」


 お馴染みのフレーズが、カケルの耳に聞こえて来たのだ。

 それを聞いたカケルが思わず振り返りながら、二人に質問を投げ掛けた。


「え? 本当にやるの?」

「当たり前よ! 何の為に私とレナちゃんが、ここまで頑張って来たと思ってるのよ!!」

「カケル様、やはり迷惑でしょうか……」

「あ、いや! 嬉しい! 嬉しいから!!」


 カケルの疑問に再びレナが目を潤ませ始めたので、カケルは焦りながらしっかりと否定する。

 諦めたカケルは再び敵の方へと向かう。

 そして、それと同時にカケルへの応援も再スタートした。



「ガルクさん、あのスケルトンと知り合いですか?」

「あぁ、まぁ……」

「じゃあ、あの踊り娘の美女と美少女は?」

「いや、知らん……」


 この世界で、露出が高い格好をする女性はそこまで多くは無い。娼婦、踊り娘、冒険者。他にも細々とした職業はあるが、良くある職業は精々このくらいだ。


 そんな中で踊り娘とは、日本で言うアイドルと娼婦の間の様な存在だ。

 単に踊りや歌だけで稼ぐ者も居れば、ストリップショー等をして稼ぐ者も居る職業である。

 そんな踊り娘達の共通点は、奇抜で派手な露出度の高い服装を好むと言う事だ。


 そして、その知識を踏まえてセレナとレナを見ると、彼等からは踊り娘以外に見えないと言う訳である。


「フレ、フレ、カケル! 頑張れ、頑張れ、カケル!」

「フレ、フレ、カケル様! 頑張れ、頑張れ、カケル様!」


 カケルはその声援を受けて、内心悶ていた。

 この状況を楽しめる様な性格なら良かったのだろうが、カケルからしたら恥ずかしい事この上なかったのである。


「……ガルクさん、あのスケルトンやっちゃって良いですか?」

「待て待て! 気持ちは分からなくは無いが、今は止めろ!」

「でも、あんな美女に応援されてるなんて……」

「あのな? 美女は美女でも、恐らく彼女も魔物だぞ?」

「魔物だろうが何だろうが構わない! あんな美人に応援されるなら!!」

「えぇ……」


 冒険者達は冒険者達で、あんな骨野郎に美女が付いていて何で此方には居ないんだと妬んでいた。

 そんな彼等に、話し掛ける人物が居た。


「セレナちゃん、人気あるんやなぁ」

「セレナさんって言うのか、あの美人さんは!?」

「せやで。セレナ・クレイスト。それが、彼女の名前や」

「セレナ・クレイストさん……。可憐だ……」


 名前を聞いてきた一人がトリップしたので、ツィードは他の冒険者に尋ねる。


「やっぱ、セレナちゃん綺麗なんやろな?」

「当たり前だろ! あんな美人滅多に居ないぞ!?」

「せやなぁ……」


 冒険者に強く言われる物の、ツィードからしたら美の価値感が違う為、ピンとは来なかった。

 ただ、セレナが人間に好かれそうな容姿であるとは理解している為、彼は弱めに相槌を打っていた。


「そいたら、レナちゃんはどうなん?」

「レナってのは、隣のちっこいのか?」

「せや」

「いや、彼女はなぁ……」

「美人さんやろ?」

「まぁ美人っちゃ美人だが、幼過ぎだな……」

「だよなぁ……」

「いや、俺はあれくらいの方が……」

「おい、お前!?」

「まさか、どっかで手出したりしてねえだろうな!?」


 約一名危ない人物が居たようだが、他はレナの事は眼中にないようだ。

 ツィードからすると、背が小さいだけでそんなに変わるのか分からないと言った具合だった。

 まぁ自分の価値感では無く、記憶にある人間の価値感を再現して推し測っているので、どうしても差異が出てしまう訳だ。

 更に言うのであれば、彼が過去に接触した人間の殆どが子供だった事も影響していたりする。


 さて、そんな事をごちゃごちゃ後ろで言われていたカケルだが、セレナとレナの応援が気になり上手く魔法を使う準備が出来ていなかった。

 それでも漸く心を落ち着かせる事に成功し、魔法の使用を開始した。


 今回使用する魔法は火炎魔法の一種で、広範囲の殲滅魔法だ。

 ターゲットは、糸の結界の外に居るグランドワーム全て。

 カケルは、範囲を思い浮かべながら、意識を集中させる。


「煉獄の炎に焼かれて灰となれ――」


 カケルが呪文を唱え始めると、圧倒的な魔力がカケルより生み出され、周囲に渦巻き始めた。


「おい、おい! 何だこれは!?」

「ガ、ガルクさん!? あのスケルトン何者なんですか!?」

「俺が聞きてえよ! 後、スケルトンじゃなくてリッチな」

「「「リッチ……!?」」」

「ガルク坊の言う通りやで。カケル坊の今の種族はリッチやな」


 それらの言葉に、冒険者達ら喧々囂々(けんけんごうごう)となってしまう。


「レナちゃん! ラストスパートよ!!」

「はい! フレー、フレー、カケル様!!」


 そして、カケルの渾身の魔法が発動する。


「眼前の敵を残らず駆逐しろ! ”ヘルフレア”!!」


 渦巻いていた魔力は、一気にグランドワームの周囲に集中し、次の瞬間天を焦がす様な炎が出現した。

 その炎は瞬く間に辺りを包むと、離れていても見上げなければ高さが分からない程の巨大さになった。


「――マジかよ……」

「何だよ、コレ……」

「嘘……だろ……?」


 そして、永遠にも感じられる時間が経過すると炎が鎮火した。

 そこに現れたのは、周囲の草木もワームも土さえも全てが焼き尽くされた後の、ガラス化した地面だけだった……。


「え? 何コレ……? 前の時と威力が違い過ぎるんだけど……」

「カケル様! 流石です!!」

「カケルちゃん、凄かったわねぇ。お姉ちゃんは、カケルちゃんが立派に成長してくれて嬉しいわ!」


 それを見ていた冒険者達は、その光景に恐怖した。

 漸く本当の意味で気付いたのだ。カケルと呼ばれる存在が、自分の手に負える様な存在では無い事に……。


「俺達、ここで死ぬのかな……?」

「なんでやねん! 今助かったばっかりやんか!!」

「だって俺、さっきムカつくとか言っちゃったし……」

「そんな事言うなら、俺だって……」


 俺も俺もと冒険者達は、先程言っていた事を後悔していた。

 そんな悲観した雰囲気の中で、ガルクが発言する。


「多分、大丈夫だと思うぞ?」

「何でだよ!? あんな奴に喧嘩吹っ掛ける真似したんだぞ!?」

「理由はカケルだからだな。ミミなら、ヤバかったかも知れないが……」

「ガルク坊の言う通りやで? カケル坊は優しいから、心配あらへんやろう!」


 そんな風に信頼と恐怖を集めていたカケルは、現在混乱の真っ最中だった。


「いやいや! 凄いとじゃなくて、威力おかしくない!? 前に試してみた時の十倍くらいの威力が出た気がするんだけど!?」

「え? おかしくないわよね? レナちゃんと私が、応援と言う名のバフを掛けてたじゃない!」

「いやいやいやいや!」


 気力は確かに、重要なファクターだ。

 場合によっては、気力の充実によって実力以上を発揮する事もあるだろう。

 それが、応援によって起こる事もあるかも知れない。

 だがそれは、けして十倍なんてバカげた数字では無い筈なのだ。


「なんやカケル坊、知らんかったのか? レナちゃんの応援は、カケル坊専用のバフ効果があるらしいで」


 ツィードの言葉に、カケルは慌ててレナを鑑定してみた。


名前:レナ

種族:人間

状態:正常

カルマ:+98

スキル:死神の応援(チアオブリーパー)

魔法:

称号:死神の巫女、絶望から這い上がる者


死神の応援(チアオブリーパー):死神の称号を持つ者限定で、対象一人の能力を全体的に非常に高いレベルで上昇させる。能力の上昇は死神への信仰心と、死神側の称号の度合いに依存する。


死神の巫女:死神を最も信仰し、最も敬愛する者に与えられる称号。死神からの天啓を受ける事が可能となる。


絶望から這い上がる者:絶望から這い上がった者に与えられる称号。苦しい状況でも絶望せずに、希望を持ち続ける強い心を育む。


 本当に応援スキルがあった……。

 でも死神限定? ま、まさか……!?


 慌てて自分への鑑定を行うと――。


名前:カケル・ソラノ

…………

称号:……、死神見習い予定(仮)


死神見習い予定(仮):死神見習いになる予定かも知れない者に付く称号。相手の命を刈り取る際に、少しだけ相手の痛みが緩和されるようになる。


 ははは……。

 死神見習い予定(仮)って何だよ……。

 多分レナが錯乱した時の対応で取れたんだろうけど、これ確実に死神になるつもりがない称号だよね?

 いやまぁ、マイナス効果は無いみたいだけどさぁ……。


 カケルが唖然としていると、レナが此方を伺う様に質問して来た。


「あの、何か問題ありましたでしょうか? もしかして、バフの効果にご不満がお有りでしょうか!?」

「いや、寧ろ優秀過ぎると言うかなんと言うか……」

「……?」


 カケルの言葉に、レナは首を傾げる。


「あぁいや、何でもない。十分な効果だったよ。ありがとう」

「っ! はいっ!!」


 レナはカケルの気持ちとは裏腹に、眩しい程の笑顔を浮かべた。


「もうカケルちゃん、そんなにレナちゃんとイチャイチャしちゃってぇ……。お姉ちゃん妬けちゃうわ」

「は……?」

「もしかして、レナちゃんみたいな年下が好みなのかしら? 酷いわ! お姉ちゃんの事は遊びだったのね!!」

「いやいや! それを言うなら、僕は寧ろセレ姉の方が……、って何言わせるのさ!?」

「あら、お姉ちゃんの方がなぁに?」

「あ、いや、その……」


 セレナの追求に、カケルがしどろもどろになって行く。


「ほら、お姉ちゃんに言ってご覧なさい? カケルちゃんの素直な気持ちを」

「そ、それは、その……」

「そ、れ、は?」

「だぁ! もう! セレ姉覚悟!!」


 先程までと合わせての恥ずかしさが限界を超えたのか、カケルの手に魔力が集まり始める。


「あれ? カケルちゃん、その手の魔力は何かな……?」

「――”ファイアボール”!」

「きゃっ! 何するのよ!!」


 その手にあった魔力が、火の塊となって放たれた。

 セレナは、それを回避するのだが……。


「それで終わりだと思う?」

「あ、あれ……? カケルちゃん、お姉ちゃんを苛めるのは良くないと思うなぁ……?」

「問答無用!!」


 そのやり取りを見ていたツィードは、二人の近くに居たレナを素早く回収しガルク達と合流した。


「おいおい蜘蛛さんよう。カケル達は放っておいて良いのかよ!」

「まぁ、たまにある事さかい大丈夫やろ」

「ツィード様、私が何かしたのでしょうか……?」

「レナちゃんは悪く無いで? 悪いのは、何かにつけてカケル坊を揶揄(からか)うセレナちゃんやからなぁ……」


 そう言ってツィードがカケル達の方を見ると、何回か当たったのか服に少し煤が付いたセレナとファイアボールを乱舞しているカケルが居た。


「まぁ、気が済むまでやらせたらええねん」

「ちょっと、ツィードちゃん聞こえたわよ!! 見捨てるなんて酷く無いかしら!?」

「セレナちゃんの自業自得や。大丈夫やて。カケル坊もしっかり加減してるようやし、何よりその服ならダメージ負う事はあらへんやろ」

「そんなぁ……」


 ツィードの自業自得発言に、セレナが悲痛な顔をする。

 だが、彼女の相手はツィードでは無くカケルである。


「セ、レ、姉……?」

「カ、カケルちゃん、落ち着いて。これは悪気は無くて、ただお姉ちゃんが楽しみたかっただけなの!」

「セレ姉……」

「カケルちゃん、お姉ちゃんの気持ち分かってくれた?」

「良く分かったよ。お仕置きが足り無いって事がね!!」

「ひゃあぁぁ!!」


 そして、追いかけっこは再開される。


「正直に言えば、許される訳じゃないって事の見本みたいなやり取りやなぁ……。レナちゃん、セレナちゃんみたいになっちゃアカンで?」

「え? え?」


 そんな彼等のやり取りを見ていた冒険者達は、先程の羨ましそうな顔とは打って変わって、カケルに憐れみの視線を送っていた――。


さて、今回は完全なネタ回でした。

いや、ゲヤルトとかガルクは真面目に戦っているんですけど、カケルとセレナ、レナがその真面目な雰囲気をぶち壊してますね。


セレナ達の使っているチアコスチュームですけど、実は相当に強い防具だったりします。

それこそ、鉄で作った全身鎧なんかよりも余程防御性能が上になります。

まぁ、戦闘で使われる事は無さそうですけど……。

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