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混沌都市襲撃 ~救援~

本格的に戦闘が始まります。

スプラッタな表現がありますので、お食事中の方は注意して下さい。

 この街の誰もが奮闘していた。

 既に相当の数の魔物を殺しており、それだけでも勲章物のレベルの働きである。


 だが、如何せん相手の数が多過ぎた。

 最初に見えていた敵の数でさえ非常に多かったのにも関わらず、時間の経過によって更に数が増えて来ているのだ。


「マズいのう……」

「ギ、ギルマス……。マズいのはずっとじゃねえか!」

「そうじゃのうて、これは単なるスタンピードじゃない可能性があるのじゃ」

「ス、スタンピードじゃない……っすか?」

「そうじゃ。幾ら何でも、魔物の追撃の仕方が不可解じゃよ」


 スタンピードが、何故発生するかは解明されていない。

 恐慌状態に陥った魔物の暴走とも、人間を間引く為の神の意志とも、はたまた人間を成長させる為の神の試練だとも言われている。


 だが、一つだけハッキリしているのは、一定数の魔物が纏まって動くと言う事だけだ。

 つまり、殆ど攻撃の波と言う物が存在しないのだ。

 だが、今回の敵は波状攻撃でもしてるかの様に、向かって来る敵の数に非常に大きなムラがあるのである。


「スタンピードじゃないなら、何だって言うんだよ!!」

「分からん……。テイマーの仕業だとしても、これ程の量を使役は出来んじゃろうしのう……」

「ちょっ! ギルマス! 攻撃の手を緩めないで欲しいっす! 今ギルマスに抜けられたら、本当に死んじゃうっす!!」

「おお、済まん済まん」


 どちらにしろ、今のローグ等には原因を究明するまでの余裕は無かった。


 そんな彼らの元に、さらなる知らせが舞い込んで来る。


「北西より高速で飛来する物体を確認! 新手の魔物の増援かと思われる。皆々注意されたし!!」

「ちょっ! マジっすか!?」

「これは本格的にマズいかのう……」

「おいおい、更に敵戦力増強かよ!!」


 物見櫓(ものみやぐら)からの知らせは、新手の魔物の増強かも知れないと言う内容だった。

 正直今の状態はギリギリで、既に死人も出始めている様な状況でありローグ達には全く余裕が無かった。

 その証拠に、先程の大きな波で数匹の魔物が中に入ってしまったのにも関わらず彼等は助けに行けなかったのである。


 だが、それを無視するかの様に飛来物が迫って来る。

 最初に目に入った時は、白い鳥の様に見えた。

 だが、段々と迫って来る頃にはそれがドラゴンである事が判明したのだ。


「お終いだ! 今の状態でドラゴンなんて倒せる訳ねぇよ!!」

「しかも、アレ竜じゃねえか!? 偽竜(ぎりゅう)でも無理なのに、竜とかあり得ねえだろ!!」


 周りの奴等が絶望に心を染めながら、口々に諦めの声を口にする。


「おい、ギルマス! あれってまさか……?」

「あぁ、そうじゃな。あの者じゃろうて」

「先輩? ギルマスも何を言ってるんすかっ!? 竜ですよ! 死んじゃいますよ!!」


 だがワグナーとローグには、その光景が絶望では無く希望の光に見えていた。

 そして、状況は一変する。


「はぁぁああ!!」


 鋭い掛け声と共に白いドラゴンは人の姿へと変わりながら剣を振るい、ローグ達を殺そうとしていた魔物をあっと言う間に一掃した。


「ワグナー、ローグ無事か!?」

「「キーリ!!」」「キーリさん!?」


 ローグ達を助けてくれたのは、数ヶ月前にこの街へとやって来たホーリードラゴンのキーリだった。


「良かった。どうにか間に合った様だな」

「キーリ、どうして此処に?」

「街が襲われてる事を知ってな。無視する事は出来なかったから、助けに来たんだ」


 そんな風にキーリがイケメンな事を言っている後ろから、ゾンビの様な足取りで近付いて来る者が居た。


「キーリ……。酷いじゃない! 僕等を落として行って……」

「あれくらいでヘタるカケルが悪い」

「そんな事言ったって……」

「主様、もう少し鍛えた方が良いのでは?」

「ミミの言う通りだ。お前は軟弱過ぎる」

「せやなぁ……。カケル坊、もう少し逞しくならんとアカンで?」

「カケルちゃん、ファイト~!」

「カケル様、ファイトです!」

「おい、キーリ……。ソイツ等は誰だ……?」


 キーリとカケル達が()り取りしていると、ワグナーが警戒心を(あらわ)にしながらキーリに問い掛けた。

 因みに今のカケルは白いローブで顔や体を覆っており、骨の身体がワグナー達には見えていないだろう。

 その為魔物かどうかは分からない一方で、見た目は怪しい事この上なかった。


「ん? ああ、私の仲間達だ」

「魔物……なのか……?」

「そうだな。ミミとツィードは分かりやすいから良いとして、レナを除く全員が魔物だぞ?」


 その答えに不安を覚えたのか、ワグナーが少し緊張しながら質問を行う。


「危険は無いのか……?」

「おい、人間! 調子乗ってっとぶっ殺すぞ!!」

「ひっ……」


 ワグナーの物言いに苛立ったルガルドが、ワグナーを脅していた。


「ルガルドちゃん、もう少し穏やかに行きましょうよう」

「ふんっ!」


 ルガルドはセレナの静止に対しても、ただ鼻を鳴らすだけだった。


「あ、あの、すいません……。ガルクと言う方はどちらに居ますか?」

「ん、何じゃ? お主、ガルクを知っておるのか?」


 一方でカケルは、ローグにガルクの居場所を聞いていた。


「はい、前に森でお会いしまして……」

「森で……? ふむ……。儂はローグ・ブナンと言うんじゃが、お主の名前を聞かせてはくれんかのう?」

「あ、はい。すいません名乗りが遅れて。僕の名前はカケル・ソラノと言います」


 カケルの名前を聞いたローグは少し冷や汗を垂らしながら、カケルに聞くべき質問を問い掛ける。


「――もしかしてなんじゃが、お主ガルクとは魔の森で会ったのかの? その時、ガルクを助けて剣に付与魔法を掛けた覚えはあるかの?」

「あ、はい。それ僕だと思います」

「――と言う事は、お主の種族はリッチ……と言う事かの……?」

「あ、そうです。僕、この頃はリッチをやらせてもらってます」


 カケルはそう言いながら、フードを外した。

 すると、フードの下からはローグが予想した通りの、真っ白な骨のボディーがお目見えする。


「リ、リッチ……!?」「おい、俺等此処で死ぬのか!?」「死にたくねえよ!」「まだ、彼女にプロポーズもしてねえんだぞ!?」


 その姿に恐怖を抱いた面々が、辺りに喚き散らす。

 それを見ていたカケルは、ある程度覚悟していた事をとは言えその反応にショックを受けていた。


「静まれいっ!! 済まんのう、ソラノ殿」

「あ、いえ……。僕がアンデッドなのがいけないんですし、気にしないでください……」


 そのやや(うれ)いを帯びた言葉を聞いたローグは、カケルの目を覗き込む。

 眼球がある訳ではないが、カケルはローグと目が合った気がした。


「ふむ……。面白いのう……。ガルクが言っていた事は本当じゃったか……」

「えっと……?」

「気にしなくても良いわい。儂の独り言じゃ」

「はぁ……」


 カケルにはローグの言っている事が分からなかったが、彼が独り言と言うのであればそうなのだろう。

 そんな風に二人が話していると、キーリの方も話が終わったのかローグに話し掛けて来た。


「ローグ、私達は他の門への応援に行こうと思うが構わないな?」

「それは、儂等としては助かるんじゃが……。キーリ達は、それで良いのかのう?」

「あぁ、問題無い。ミミ、指揮はお前の方が得意だろ? 頼めるか?」

「仕方ありませんね……。ルガルド様はこのまま南門を死守して下さい」

「ちっ! 仕方ねえな!!」

「キーリ様は北門をお願いします」

「ああ、任せろ!」

「西門は私が行くので、主様達は東門をお願いします」

「分かったよ」「分かったで~」「カケル様に付いて行きます!」「カケルちゃん、お姉ちゃんを頼っても良いのよ?」

「では、行きましょう!」


 ミミが締めの言葉を言うと直ぐにキーリは飛び上がって、北門へと羽ばたいて行った。

 ミミは軽く跳躍すると、城壁へと飛び乗りそのまま西へ。

 それ以外の面々は、ツィードに騎乗して東門へと凄い速さで駆け抜けていった。

 そして、その場に残ったのはルガルドとワグナー達のみになる。


「あー、あの……。ルガルドさん……?」

「あん!?」

「え、えーと……、手伝ってくれるのですよね……?」


 先程キーリが片付けたにも関わらず、地平線の方から大量のオークとゴブリンが近付いて来ていた。

 下手したら、先程までに殺した魔物の合計数よりも多いかも知れない。

 あの数に襲われたら、今の疲弊しているワグナー達では対処出来ないであろう。


「手伝ってくれるかだぁ!? テメエの身さえ守れねえクソ虫共が、よりによってこの俺様を単なる援護と考えるとは良い度胸だなぁ!?」


 ちょっとー! キーリさん!? この人ヤバいんですけど!?

 俺等助ける気無くないですかねぇ!?

 助けてくれた意味が無くなりそうなんですけど!?


 そんな風にワグナーを始めとするメンバーが考えていると、ルガルドはしっかりと言い聞かせる様に話し始めた。


「良いか? テメエらクソ虫共はそこで見ていろ! あの程度の敵、俺様一人で十分だからな!! 良いか! 間違っても、近付くんじゃねえぞ!?」


 その言葉に、ワグナー達は疑問符を浮かべる。

 言葉使いこそ見下す様な言い方なのだが、彼等には別の意味に聴こえた。


 ――お前達は危ないから下がってろ。安心しろ、あの程度の敵は俺がすぐに倒して来るから。


 そして気付く。あれこの人チンピラみたいな口調と目付きの悪さだけど、悪い人じゃないんじゃと……。


「おい! クソ虫! このゴブリンは必要ねえよな?」

「えと……、はい。特に使い道は在りません」

「んじゃコイツにするか」


 ルガルドはそう言うと、原型が出来るだけ整っているゴブリンを片手で掴み上げた。

 そして、大きく振りかぶると――。


「おらぁ!! 死ねぇ!!」


 勢い良くぶん投げた。


「「「なっ……?」」」


 そのゴブリンは恐るべき速度でオークにぶつかると、衝突した衝撃でそのまま双方共爆散した。


「うし! ど真ん中! この調子でガンガン行くぜ!!」


 ルガルドかゴブリンを投げる度に、オークやゴブリンを巻き込んで爆散して行く。


「ん? 球が無くなっちまったな。おい! こっちのオークも問題ねえか?」

「え、ええ……」


 オークはゴブリンと違って、食材としての価値がある。

 だが、今の状況において、ルガルドの武器にする以上の価値は無かった。


 球を補充したルガルドは、オークを殺戮に掛かる。

 それは野球の豪速球と言うよりも、ライフルに依る精密射撃の様だった。


 だが、そんな攻撃も球が無くなってしまい、ルガルドの投擲が終了になってしまう。


「ちっ! 球切れかよ! なら、今度は取りに行くまでだ!」


 そこから先は、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 敵に突っ込んだルガルドは、手近の魔物を掴み上げるとそれを棍棒の様に振り回し敵を撲殺して行き、棍棒用の魔物の原型が無くなって来ると敵に投げ捨て爆散させる。

 その後は、新しい棍棒に持ち替えての連続だ。


「どうした、どうした!! ヌルい、ヌル過ぎるぞ!!」


 そしてその惨状の中ルガルドは、楽しそうに嗤っていた……。


『おい、ギルマス! やっぱアイツヤバいって!!』

『じゃ、じゃが、助けてくれてるのは確かじゃぞ? それに先程も分かりにくいが儂等の心配してくれていたじゃろうに』

『いやいや! それは俺等がそう思いたいだけだろ!? あんな嗤いを浮かべながら、敵を潰す奴が信じられるものか!!』

『先輩に同意っす……。あれは怖すぎっす!』


 それは、魔物を殺す事に慣れた冒険者にとってもキツイ光景だった。

 臓物は撒き散らされ、血は宙を舞い、その中で一人嗤いながら敵を(ほふ)り続けるルガルド。

 そんなルガルドの身体は返り血で真っ赤に染まり、どう見ても味方には思えなかったのだ……。


「ちっ! 面倒だな! どんだけ居るんだ!?」

「やっぱり、俺らも手伝った方が良いんじゃ……?」

「煩えクソ虫! そっから動くんじゃねぇぞ!? 面倒だから薙ぎ払うからよ!」


 そう言うとルガルドは、魔物と人間との間を大きく取る。

 そして、人化を解く事にするのだった。


「え……?」


 それは誰の言葉だったか……。

 彼が本来の姿を取り戻すと、怖いと言っていた者達がその姿に釘付けになった。


 彼の人化を解いた姿は、かなり大きかった。

 体長は二十ナレイ程だろうか。

 白銀の毛並みを所々紅く染め上げ、金色の瞳が爛々と敵を見据えていた。


「まさか、フェンリル……なのか……?」


 それはホーリードラゴンにも引けを取らない、伝説の聖獣であった。


「雑魚共は、さっさと退場してもらおうか!」


 ルガルドはその言葉を発した後、深呼吸するように口を上に向けると、そのすぐ後に口から眩いばかりのブレスが射出される。

 その攻撃は、一瞬にして辺りの敵を全て薙ぎ払った。


 そして、攻撃が終わると砂煙の向こうから、荒れ果てた姿へと変貌した地形が姿を現したのだった……。


「おい、終わったぞ」

「あ、あぁ……」

「ん? 何だ? これ位でビビってんのか? はっ! 情けねえな!!」


 そう彼等を鼻で笑った後、ルガルドは人の姿へと戻って他の方角を見つめる。


「さてと……。アイツ等は上手くやってかねぇ?」


 そう呟きならルガルドは、三方向に散った仲間の事を考えていた……。


 ◇ ◇ ◇


「ザランさん! もう保ちません!! 左翼が瓦解(がかい)、右翼も時間の問題です!!」

「クソっ!」


 ザランが指揮する西門は、もう限界だった。

 左翼は瓦解し多数の死傷者を出し、右翼の被害も甚大だった。

 その為、左翼が受け持っていた敵が本陣に攻めて来て二面対峙を余儀なくされていた。


「何か……、何か手は無いのか……?」


 ザランは、攻撃の手を緩める事無く考える。

 この戦況を引っ繰り返す一手を……。

 だが、何も思い付かない。当たり前だ。既に策でどうにかなる段階は過ぎているのだから……。


「クソ……。ここまでだって言うのかよ……。認めねえ! 認めねえぞ!!」

「良い気構えですね人間」


 ザランが歯を食い縛りながら叫んだ言葉に、少し後方からやや(あざけ)る様な返事があった。


「誰だ!?」


 ザランはその声の主を探して、素早く視線を巡らす。

 すると、城壁の上に黒い何かを見付けた。

 その何かは、城門から飛び降りてザランの横へと並ぶ。

 後ろに下がっていた為、しっかりとその姿を見た冒険者達が(にわ)かに騒ぎ出す。


「ウサギ……?」「ウサギの魔物か?」「いや、ウサギの魔物って喋れたか……?」

「黙れ人間共!」


 その鋭い言葉と共に、途方も無いプレッシャーが周囲を覆う。

 それは人間達だけで無く、攻めてきている魔物達も同様だった様で、プレッシャーが周囲を覆うと同時に魔物達の攻撃がピタリと止んでいた。


「お、お前は……?」

「私の名前はミミです。キーリ様と一緒に来たと言えば分かりやすいですか?」

「キーリだと!?」


 その言葉に驚いたザランは、ミミに少し近付きながら声を荒らげた。


「へぇ……。やはりそこの人間は面白いですね。私の威圧の中、動く事が出来ますか……」


 ミミは手加減していたとは言え、強力な威圧の中動く事が出来たザランの観察をする。


 一方のザランは、気が気じゃなかった。

 目の前のミミは、自分達の事を人間共と言った。

 見下しているのが明らかな態度で、人間の事が余り好きそうには見えなかった。

 その上、この威圧が可能な実力だ。

 もしもコイツが敵に回ったりすれば、自分達が完全に潰される事が簡単に予想出来たのだ。


「お前はキーリの何なんだ!?」

「そうですね……。キーリ様は私の主様の友人……でしょうか?」

「友人だと……? なら、此処には何しに来た!?」


 友人だとは言うが、飽くまでもミミの主と友人なのだ。

 ミミ自身は、キーリと友好的では無い可能性も十分にある。


 ザランはそれを警戒して聞いたのだが、返ってきた返答は良い方向へと裏切られた。


「勿論、貴方達人間を助けにですよ」

「は……? それは本当なのか!?」

「ええ、なので下がっていて貰えますか? 巻き込んでも面倒なので」


 ミミはそう言うと、ばら撒いていた威圧を消す。

 その威圧から解き放たれた冒険者や魔物は、その解放感から肩で息をしていた。


「おい! お前等下がれ!」

「ザランさん、こんな魔物の言う事を信用するのですか!?」

「完全に信用はしない。だが、ジリ貧なのは確かだ! それにそもそも、俺達ではミミを倒す事など不可能だ!」

「「「そんな……!?」」」


 ザランの言葉に対して、他の冒険者達から悲鳴の様な声が上がる。

 完全に敵対こそしないが、それは先程の威圧により恐怖が勝るからだ。


 勿論、ザランもその事は分かってはいるが、信じる以外道は無いのだ。もしミミが敵対すれば、確実に自分達の命は無いのだから……。


「人間、話は纏まりましたか? そろそろ魔物共も動き出すので、早くしてくれると助かるのですが。それとも、人間を巻き込んで潰しても宜しいですか?」

「おいお前達! 早くしろ! どちらにしろ、俺等に対処の方法は無い!!」


 ミミが急かし始めた事に焦りながら、ザランは再び冒険者達に命令した。

 その言葉に渋々ながら、冒険者達は後ろへと下がる。だが、数人戻って来ない者も居た。


「おい、何してる! 戻って来い!!」

「ザランさん、アンタは信用出来るがその魔物は別だ! 此処が抜けられたらどうなる!! 街に甚大な被害が出るんだぞ!? 俺達が踏ん張らないでどうするんだ!!」


 戻って来ない数人の内の一人が咆える。

 それは至極真っ当で、街を守ると言う正義感に溢れた言葉だった。


「へぇ……」

「おい、戻って来い! 巻き込まれるぞ!?」

「人間、それには及びません。少し気が変わりました」

「え? それはどう言う……」


 ミミの言葉に、ザランは恐怖を感じた。

 気が変わって皆殺しにするつもりなのでは? ()しくは、巻き込むでは無く邪魔者として排除するのではと……。


 そんな事を考えているザランを無視して、ミミは静かに動き出す。

 彼女が何かを唱えると、その小さな身体から無数の黒い手が生えてくる。

 その手はまるで、地獄に引きずり込む為の(おぞ)ましい物の様にザランには見えた。


「さて、やりますか……。そうそう。前に出ている人間共は、無闇に動かないで下さいね?」

「え……?」


 ミミの注意の声と共に、無数の黒い手が動き出す。


 高速で動く手の一つが、一番近くに居たオーガの心臓をいとも容易く貫いた。


「グギャッ……!?」


 何があったか分かってない様なオーガは、目を見開いたままに絶命する。


 他の手の一つが、ツインコブラに迫るとツインコブラの頭が二つ同時に斬り捨てられる。


 更に他の手がジャイアントグリズリーに迫ると、その巨体の首に手を掛けそのまま持ち上げた。


「グガッ……」


 ジャイアントグリズリーはバタバタと暴れるが、その手を一向に外す事が出来なかった。


 そして、ゴキッと言う音と共にジャイアントグリズリーは動かなくなった……。


 他の手の一つは、デススパイダーへと向かう。


 デススパイダーは他の光景を見ているからか、必死になって逃げ惑っていた。


 だが、それを長くは続かず、黒い手により真っ二つになって絶命する事となったのだった……。


 何なんだよ……。何なんだよアレは!!

 あんな化物見た事ねえよ!!


 先程まで吼えていた冒険者達は恐怖する。

 目の前の四種の魔物は、魔の森で最上位に位置する強力な魔物の筈だ。

 現に仲間の何人もがあの魔物達にやられており、弱い冒険者では数十人単位で犠牲を出しながらでないと対処出来ない。

 此処に居る冒険者はよりすぐりの為、もっと少ない数で対処可能ではあるがそれでも犠牲は出てしまっている。


 それが今はどうだ? そんな最上位の魔物達が、鎧袖一触で抵抗すら出来ずに潰されて行く。

 しかも、俺達の後ろからの攻撃だ。恐らく下手に動いたら串刺しになるだろう……。


 ザランさんは、あの黒ウサギが俺達の手に負えないと断言した。あの時は少し脅されただけで何を言ってるんだと思ったが、今ならしっかりと分かる。

 あれは、俺達で対処出来る次元じゃない。

 それどころか、この街を上げても対処出来ない可能性すらある本物の化物だ。


 俺達は、アレと敵対しちゃいけないんだ……。

 クソッ……。助けに来てくれたってのが、本当でありますようにと祈るしかねぇってかよ!?


 ミミの蹂躪を見ていたザランは、改めてミミの規格外さに恐怖していた。

 対峙していた魔物達は、最上位の存在なのは間違い無い。

 それを蹂躪出来る存在なんて、伝説上の存在だけだ。

 例えばキーリの種族であるホーリードラゴンなら、あの魔物を蹂躪する事も可能かも知れない。


 なら、ミミの種族は何なんだ……?

 見た目からして、ウサギ系の魔物なのは確かだ。

 後はあの色合いだから、可能性として高いのは闇ウサギの系列か?

 だとすれば、夕闇ウサギか下手したら宵闇(よいやみ)ウサギかも知れねえな……。

 それとも……。いや、まさかな……。

 流石にアレはねえよな?

 え? 無い……よな……?


 殆ど時間を掛けずして、ミミの蹂躪が完了する。

 辺りには血の臭いが充満し、大地は真っ赤に染まっていた。

 体毛を全く汚さずに蹂躪を終えたミミは、ザランに向かって言葉を発する。


「さて人間達、貴方達を襲っていた魔物は全て殺しました。この後にまだ数体向かって来ますが、それは任せても問題無いですね?」

「あ、あぁ……。数体なら、俺達でも何とかなる。任せて貰って問題は無いぞ……?」

「では、後は任せます」


 そう言ってミミは、街の方へと掛けて行った。


「助かった……のか……?」

「そうだな……。命拾いをした様だ……」


 誰と無く、安堵の声が漏れる。

 結果的にミミに助けてもらったのは確かなのだが、全く助けてもらった気がしなかった……。

 ミミが敵を殺す間は常に恐怖状態で、いつあの黒い手で串刺しにされるのか気が気じゃなかったのだ。


「ザランさん、あの魔物は何故助けてくれたのでしょうか……?」

「さぁな……。キーリの知り合いらしいから、アレでも友好的な態度なのかも知れんな……」


 ザラン自身も信じていない様な返答を、質問して来た冒険者へと返す。

 だが、助かった事は事実だ。


「それよりもお前等、次の魔物が来る前に身体を休めておけ! 次も助けが来ると思ってるんじゃねえぞ!!」


 ザランは次を見据えて、冒険者達に指示を出す。

 先程の疑問に蓋をして――。

ルガルドの正体はフェンリルでした。

浴衣の描写とかもあって、余り隠されてもいませんでしたが……。


今回の二人は人間側から見ると、善意で助けてくれたのが信じられないような面子です。

特にミミに助けてもらった冒険者達は、非常に恐怖が大きかったでしょう。

ルガルドの方は、彼のツンデレさえ見抜けば割と好意的だったりします。

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