神様登場!
今回は神様回です。
「――あれ? ここは?」
ふと気付くと、翔は沢山の色が溢れる空間に居た。
虹の七色よりも多く、東京のネオン街の光の色と強さを、数十倍にしたような強烈な光の空間だ。
先を見通そうにも、眩しくて把握が出来ない。
ただ、相当広い空間なのは確かのようだ。
あの爆発の巻き込まれ方からすると、絶命するか、運が良くても病院のベッドの上で管付きかと思ってたんだけど……。
翔が、直前の記憶を思い出しながら周りを観察していると、目の前の空間に一際眩しい光が集まりだした。
「なっ、なんだ!?」
思わず叫んでいた翔の目の前で、光が収束し人型に形成されていく。
「気が付いたようじゃな、翔」
人型――お爺さんの姿だ――の形成が終わると、翔はそう話し掛けられた。
「あ、あなたは誰ですか? 此処はどこですか? 何故、僕の名前を知っているんです?」
「そう急くな。まず、儂はおぬしらが神と呼ぶ存在で、名前はヴァルトロ・ディロスじゃ。そして、翔の名前を知っているのも神だからじゃな」
「神様……? ヴァルトロ・ディロス……?」
「そうじゃ、そして此処は儂のプライベート空間。分かりやすく言えばマイハウスじゃ!」
目の前のお爺さんは、そう言って踏ん反り返った。
どうやら、このプライベート空間が自慢らしい。
目の前の自称神様はとても胡散臭いが、圧倒的存在感がただ者ではない事を指し示す。
数十色に輝くようなゆったりとしたローブに、同じく数十色に輝くような高価そうな杖。
透き通る様な蒼の髪と髭を蓄えた顔は、メタリックレッドのサングラスに覆われている。
余りに発色が強く、目を逸らしたくなるくらいだ。
ヴァルトロ・ディロスなんて神様言ったっけな? と翔は思ったが、そもそも死んだ事がある人間が現代に居ない以上、神様の名前を知るなんて不可能だろうと思い、考えを振り払った。
「それで、その神様が何故僕の前に?」
「ふむ、とりあえずお主が死んだ事は分かっておるかの?」
「やっぱり、僕は死んだんですね……」
あの爆発に巻き込まれて助かるとは思ってなかったが、断言されるとショックが大きい。
「まだ作りたい花火も沢山あるし、父さんに追い付いてもなかったのに……」
「やはり未練が残るかの?」
「当たり前です!! 僕は、まだ世界一の花火師になってない!! まだ、一人前ですら無いのに……」
公言していた世界一の花火師になるどころか、一人前の花火師にすらなれなかった事が心を抉る。
「ならばやり直してみるか?」
「――え?」
「現状の記憶を持ったまま、もう一度花火師を目指さぬかと聞いておるのだ」
「花火師になる事が出来るんですか!?」
「出来るかどうかはお主の頑張り次第じゃがな。但し、本来記憶を持ったまま転生するの事は禁じられておる。じゃから、それに見合ったハンデを付けさせてもらう事になる。――前の人生よりも花火師になるのは困難になるじゃろう。それでも花火師になる事を諦めないかの?」
前世の記憶を持ったままの転生。
転生したとしても輝明と影子と言う最高の師には会えないだろうし、恐らく花火師の見習いになるのも前よりは大変になるだろう。
だけど――。
「それでも、頑張れば花火師になれる可能性はあるんですよね!?」
「そうじゃな、ハンデを乗り越える事が出来れば、世界一の花火師になる事も可能じゃろうて」
「なら、花火師をもう一度目指したいです! ――でも、何でそこまでしてくれるんですか?」
「儂はお主の父親の大ファンでの。毎年の花火大会では何度も楽しませて貰っておるのじゃ。それに何より、お主の真っ直ぐな生き様が気に入っておるんじゃ」
僕らの世界を見ていた神様は、父さんの花火を楽しんでいたらしい。
神様自身や彼のマイハウスの見た目通り、派手な物が好きらしく、父さんの花火に魅いられたとの事。
「但し、代価としてお主の技術を後世に伝えるてもらうぞ? そうすれば、お主が花火を出来なくなったとしても、儂は花火を楽しめるからの」
「後世に技術を伝えると言うと、父さんみたいに弟子を取るって事ですか?」
「他にも、技術書を書くなどのやり方もあり得るがの。じゃが今回は、最低条件として生涯に弟子を十人とって貰おうかの」
詳しく条件を聞くと、生涯を掛けて弟子を十人育てる事。老衰で大往生したのに十人育てれなかったら、次の輪廻であるペナルティが課せられる。
もし何かに巻き込まれて、死んだ場合はノーカウントとだがそこで花火師への道は閉ざされる、と言う契約内容との事。
後世に伝えるって言われても、父さんが既に伝えているから僕に課すものでも無い気がするんだけど……。
でも、そんなのは関係ない! 僕はまだ花火師の道を諦めたくは無いんだ!!
「さて、もう一度返事を聞こうかの? 代価を支払い儂の手を取って、花火師への道を再度歩むかどうかを」
そう言って、神様が手を差し伸べてきた。もう答えは決まってる!!
僕は神様の手を取りながら――。
「僕は――、それでも花火師になりたい!!」
「良い返事じゃ。それでは早速転生させるぞ? 詳しい説明は補佐役のミミに聞くと良い」
「え? まっ――」
神様の手を決意して取った感慨も無く、再び僕の意識は闇に沈んでいった――。
今回は、ヴァルトロ・ディロスの登場です。
このグラサン神様は、目がつぶれる程に眩しい物を着込んで居ます。
何十色にも見えるローブに、何十色にも見える杖の魔法使い風ですが、メタリックレッドのサングラスと透き通るような蒼の髪と髭を蓄えていると言う、歩く公害とでも言うべき存在です。
この神様自身と、神様の名前はまたちょくちょく出てきます。